《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君に長く片想いさせたのは俺のせい。両想いが順調に続かないのは君のせい。

胸が鳴るのは君のせい(4) (フラワーコミックス)
紺野 りさ(こんの りさ)
胸が鳴るのは君のせい(むねがなるのはきみのせい)
第04巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

ずっとずっと大好きで片想いしていた有馬から、まさかの告白をされたのにすぐ返事をすることができなかったつかさ。そんな時、長谷部に「俺の話を聞いてくれるまでここから出さない」と閉じ込められてしまって!?
切なくて泣きたくなるような状況に、さらに非常事態発生!?の第4巻!!
文化祭でのコスプレ(!)デートや有馬VS長谷部のガチバトル発生!?などイベントいっぱいです。そして―――怒濤の急展開へ!読み逃し厳禁のきゅんきゅんMAX巻です☆

簡潔完結感想文

  • 文化祭回。ハレの日の学校を いつもと違う服装で好きな人と歩く非日常感。
  • 当て馬 覚醒。数週間で学校1,2のイケメンから連続告白。よっ、少女漫画!
  • 文化祭のジンクス成立。交際は永遠に続くけど、波乱も永遠に続く少女漫画。

別扱いして欲しいわりに、彼を特別扱いしないヒロイン、の 4巻。

少女漫画においては、両想いになった その巻ぐらいは、曇りのない幸せを継続させて欲しいと私は願っている。
本書は巻数が短いから仕方がないとはいえ、
最後に嫌な予感を残して終わるのは後味が悪い。

『3巻』以降の本書の生命維持装置は長谷部(はせべ)という男である。
彼がいなければ『3巻』で物語は完結していただろう。

長谷部がいるからネタには困らない。
両想いの成就を遅らせることが出来るし、
たとえ両想いになっても、彼がいるとカップルに不和を起こさせることも出来る。

通常なら恋の敗者となった長谷部は物語からフェードアウトするものだが、
本書においては長谷部がいないと波乱が生まれないので ヒロインに関わり続ける。


れを可能にするのがヒロイン・つかさ の全方向にお人好しという設定。
つかさ の この性格は『1巻』1話から ずっと描かれていたことなので、
彼女が自分に手酷いことをした長谷部に対して、冷淡な態度を取れないのも納得できる。

しかし多くの少女漫画ヒロインは、
自分がされたら嫌なこと、を無意識でやっているから性質(たち)が悪い。

例えば自分の彼氏や片想いの人に女性が近づくだけでも疑心暗鬼になり、嫉妬の炎を燃やすのに、
自分は簡単に男性に話し掛ける。

つかさ に関しては初めての両想いなので男女交際のマナーが分かっていないと推測されるが、
もし有馬(ありま)が他の女性と喋ったら、彼女は1日中 不機嫌になるに違いない。

更に本書の場合、『4巻』収録の読切短編が、つかさ と有馬のことと混同しやすく、
まるで彼らの交際後の未来日記のように読めてしまう。
この短編の配置は あまり良くないように思う。

両片想いのすれ違い、両想いのすれ違いを用意しているようだが、
その原因は、つかさ の自覚の低さにもある。

このカップルは、どんなことでも笑いあえる仲なのに、
恋愛のことになると お互い不平や不満・秘密を胸に秘してしまうから問題が長引く。

せっかく両想いの幸せの巻なのに、早くも暗雲と下り坂の天気が予報されるのが残念で仕方ない。


白してくれた有馬に、自分の内心を語ろうとするけど語れないまま 文化祭準備に突入する。
つかさ をフォローするとしたら、こういう自分のマイナス面は言い出しにくいだろう。
無防備だった自分、汚された自分、
話したら嫌われてしまうかもしれない恐怖心が一層 身を固くさせるのは よく分かる。

準備期間中、有馬は上級生からミスコンの出場を打診されるが、断固 拒否する。
これは学校中の不特定な人物たちに評価されることよりも、
たった一人の つかさ の支持を得たいという気持ちが強いのだろう。

有馬が学校でも有数のイケメンだという事実を描きながら、
硬派で一途な彼は自己承認欲求に溺れたりしないという性格も同時に描けている。
これは つかさ というよりも、読者への胸キュンになりますね。

そして文化祭当日。
少女漫画における文化祭はコスプレ大会になるのも お決まりの展開。
有馬はヴァンパイアです。
つかさ も最初は覆面だったが、有馬と学校内を歩く時はマスクオフして、
可愛い中国服(?)で歩けており、非日常空間を演出している。

f:id:best_lilium222:20220104191923p:plainf:id:best_lilium222:20220104191919p:plain
他者に何を言われてもブレない恋心。限界突破しているので この日に想いが成就するのは必然。

かし文化祭終盤、つかさ は長谷部によって軟禁されてしまう。

『3巻』の秋祭りでのキス事件 以来、お互い顔を合せないようにしていたが、
長谷部の我慢も限界に達したらしい。

長谷部はキスのことを謝るどころか、逆ギレ。
「(無断でキスをしたのは)好きだからに決まってんだろ!!」

全くもって格好良くない…。
こんななのにイケメン無罪にしちゃうのも、少女漫画の悪癖である。

勿論、つかさ は長谷部の告白に際してもブレない。
「あたしの中心に こんなに有馬がいる以上
 ほかの誰かを好きになることは絶対にないよ」と言い切れる。

同じ頃、有馬が つかさ じゃなくて もっと高望みしろ、という級友に対して、
「オレが あいつじゃないと だめなんだ」

素晴らしい信頼感。
この2人は遠恋が向いているかもしれない。
お互い 相手が傍に いない方が、強さを発揮している
『2巻』の元カノ・麻友(まゆ)との対決時など)。


かさ が失敗したのは、この後の対応だと思う。
長谷部をフッた後、彼からの「もう少し ここにいてくれない?」という要請に、
彼女は応えてしまった。

f:id:best_lilium222:20220104192051p:plainf:id:best_lilium222:20220104192048p:plain
相手への中途半端な優しさが いつか自分を苦しめるということを、つかさ は まだ知らない。

ここはフッた側の毅然とした態度で、また有馬への誠意を見せるためにも、
この教室から立ち去らなければならなかったのではないか。

そうすれば つかさ を探していた有馬が、
好きな女性が他の男性と密室から2人で出てくる場面なんて見せないで済んだ。
つかさが行動に出ていれば、彼らは学校内のどこかで何事もなく再会できたはずだ。

勿論これは、一度 落としてから上げるための演出なのだろうが、
つかさ に こういう隙があることを有馬が認識したからこそ、
『4巻』ラストの1シーンに繋がり、彼の表情が曇ってしまうのだ。

しかも この失敗を しているというのに、
つかさ は有馬との両想い後も、長谷部と話す間柄に戻っている。

「これ以上 あたしの都合で有馬を くるしめたくない―――……」という割には、
つかさ は自分の立場を全くわきまえない人であり続けてしまう。

つかさ は もうちょっと周囲を見渡せる視野の広さを持っていると思っていただけに残念である。
2年以上の片想いの末に自分が獲得した幸せを もっと大事にして欲しかった。


最終ページの、学校外から有馬が策越しに、
つかさ と長谷部の2人を見るのは『1巻』の中でも見られた構図ですね。
柵は文字通り境界線で、2人の世界に入れない自分を自覚するのだろう。
両想いの翌日にこれだよ…。

これまでも密度の濃い作品であったが、余韻すら打ち消す内容に唖然とする。

「恋する嘘つき」…
交際1か月のカップルだが、彼を信頼しきれない自分がいて…。

作者の別の単行本収録の作品の続編らしい。
単体でも読めるが、彼らの関係性や性格が描き切れていない欠点はある。

両想いになっても幸せになりきれない、というのは本編との共通項。

彼の方も言葉は足りないし、言葉選びも間違ているが、
少女漫画ヒロインと交際すると、身も心も疲弊するなぁ、というのが
三者の客観的感想です。

この作品で男性との距離感を間違えているのは、
彼氏の兄と交際している同級生の女性だろう。
こういう接点は誰も得しない。