水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第05巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
ついに青人に告白した麻白!麻白の想いを知り、抱きしめる青人。そして・・・。人気爆発中の初恋ピュアラブ、ラブ度最高潮の第5巻!!初めての恋、初めての片想い、初めての告白、初めての両想い・・・・たくさんの初めてが積み重なる運命の恋は胸キュンすぎる!!
簡潔完結感想文
- 両想いだが、3作品連続で恋愛成就で物語を終わらせれば良かったのに、と思う稚拙な後半戦。
- 交際1日目で彼氏の態度が気に入らないから泣き出すヒロイン。泣けば助けられるヒロイン…。
- 幸福の絶頂なので「キミとの恋に不安になんてならない」無双状態。1日目で泣いていたのは誰?
これまでの反省を踏まえ、両想い後の蛇足感を脱却して欲しかった 5巻。
全9巻の物語の丁度 折り返し地点で、2人は両想いになり交際が始まる(作中の言葉では「彼カノ」になる)。私自身が、交際後の いざこざ が好きではないという面もありますが、作者の場合、両想い前後で作品の質に明らかに差があることが気になっていた。読書3作目である本書においても、蛇足感は変わらない。いや、この恋を「運命の恋」としている時点で本書は以前の作品よりも交際が破綻する危機はゼロと言えるので蛇足感は増すばかり。
作者は両想いまでは、様々な障害を用意し、早々に恋が上手くいかないようにペース配分を考えている。だが両想い後は、邪魔者が現れては消えるという短期的な小競り合いが続くばかりで意味を感じられない。
作家生活10周年を迎え、人気作家になった作者が、ここで両想い後の展開に工夫を見せれば、新しい試みをしている成長を感じられただろう。だが、それが一切感じられない後半戦だったから、私の本書に対する評価は低くなった。
交際直後の『5巻』は いざこざ前の幸福の絶頂期。好きだからこそ不安になるし、嫉妬もするという初めての交際に戸惑う2人の様子が描かれている。ヒロイン・麻白(ましろ)の純粋さは巻を増すごとに純度を高めているようで、簡単に不安になる一方、自分の愛を疑わない。ただ彼女を純粋な存在とする余り、麻白が自分から動くことが どんどん少なくなっているように思う。片想いから両想いになった青人(はると)から愛される姿を描くことで両想いの喜びを読者にも伝えようとしているのかもしれないが、青人に守られて、大切にされるだけの麻白の姿は つまらなくも感じた。序盤こそ青人を「運命の人」だと妄信して、彼にグイグイ迫り、告白は自分からした麻白だったが、一度 告白した後は典型的な愛されヒロインになり受動的な態度が続いてしまっている。唯一、青人の名誉を守るために青人のバスケ部の先輩に事情を説明するシーンはあったが、他は高校生とは思えない思考能力の低さで、年齢以上に幼く、か弱かった。麻白は頭の回転は鈍いが、運動神経は良いという設定が出てきたりで、私の中の麻白像は作者の中にあるものと一致しない。
また、麻白が恋の相談を、同じく青人が好きだった姫乃(ひめの)に躊躇なくしているのも私には納得がいかない。作者としては、恋で友情は破綻しないということを『4巻』で描いたから、忌憚のない関係が続いているということにしているのかもしれないが、交際1日目で楽しくなさそうな姿で姫乃に気を遣わせたり、初デートの相談をしたりとデリカシーのない行動が続く。自分が姫乃だったら嫌な気持ちになると思うが、ヒロイン至上主義の低年齢向け作品&作者は そんなことを気にしない。青人への告白前は姫乃に あれだけ遠慮していたのに、喉元過ぎれば熱さを忘れて、姫乃を頼る麻白には堅牢な友情よりも、やはり視野の狭い幼さを感じてしまう。
交際編の楽しさは、読者が応援してきた2人の幸せな姿を見られることだと思うが、大して応援していない2人の両想い後の姿では、長所よりも欠点ばかりに目がいってしまう。そこに雑な展開が加わるから、前半の楽しさが帳消しになっていくのであった…。
とうとう態度でも伝聞でもなく、直接 好きだという気持ちを伝えあった2人。世界一幸せな2人の頭上には、夜空をカラフルに花火が満開の花を咲かせていた。この時は文化祭の時と違って(『3巻』)、最後の花火を2人で見られたのだろうか。文化祭で出来なかったことを全てするような展開だったら良かったが、微妙な内容になってしまった。
また、両想いの舞台を麻白の育った島にしたのだから、告白の場所も4年前にキスをした海岸でも良かったのではないか。また、両想いになった後でキスをしないのも腑に落ちない。互いに好きと言わない内にキスをして、想いが伝わった後でキスしないのはバランスが悪い。私がそうなって欲しい展開にならないのは、作者と感性が違うからだろうか。作家さんとの相性も あって、いわゆる「好きな作家さん」は感性が合っていたり、尊敬する部分があったりするものである。
この日以降、青人は彼氏モードになり、島を出発する前に麻白の両親に交際の報告をする。誠実な青人の姿を見て、泥沼の四角関係になったはずの友人たちも祝福し、2人の交際は素晴らしい門出を迎える。両親の挨拶に済ませることは少女漫画的には結婚が確約されたも同然です。交際直後に婚約状態となることも、この後の展開で何が起きても結末が見える一因となる。
けど私が普段使いしないからだろうけど「彼カノ」という言葉を連発する麻白に違和感がある。
けれど新学期1日目で青人が冷たいと、早速 落ち込む麻白。けれど泣いてたり、理不尽なことを お願いされると助けてもらうのがヒロイン。落ち込んだ麻白を助けるナイト・青人が登場し、そこに胸キュンが生まれる。ただ多少は狙ってやっているのだろうが、以前と同じ青人のヒーロー行動でアイデアの枯渇を感じた。
恥ずかしさを感じるとツンケンしてしまう、というのは『1巻』で麻白冷たくしていた青人と同じ。何だかんだ この人も純情なのである。
2人の仲は学校でも公認の彼女になり、麻白が体育祭の応援団員に青人を推薦するなど、彼女様のステータスを大いに利用する。そんな麻白の彼女面(づら)にも周囲は大らか。青人の彼女になりたい女生徒の立候補が多くなるが、その女性たちが麻白に嫌がらせをしたりはしない。
独占欲の強い青人は麻白を あまり他の男子生徒に近づかせたくないが、麻白は青人と一緒にいるために体育祭でのチアリーダーを始めてしまう。ここで青人の独占欲と、麻白の奮闘がすれ違うのだが、無敵状態の恋愛に心配事など無い。
純粋な麻白は人を疑わず、先輩に2人きりでカラオケに連れてこられてしまう。当然、そこに青人が麻白を救出に来るのだが、ヒーローの登場シーンがワンパターンで飽きる。青人の嫉妬シーンを連発させ、愛されている実感を読者も味わえるのだが、こちらも分かり切った展開ばかりで退屈を感じる
逆に麻白は青人から好かれている自信があるから「キミとの恋に不安になんてならない」らしい。うん、じゃあ終わりで良いよね。この話。でも この言葉が簡単に裏返るから、ここから4巻も続くわけだし。交際直後って何も事件を起こしちゃいけないから、ファン以外は内容を楽しめない。
学校イベント・体育祭が一段落して、いよいよ交際後の初デートの日時が決められる。それに向けて男女それぞれに相手のために悩む、という甘酸っぱい話で『5巻』は終了。デートの本番は次巻に持ち越される。青人が麻白を好きだということばかりが描かれた『5巻』であった。