《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

潔く完結させたはずの物語が復活したのは、本編で言わなかった あの一言のせい。

胸が鳴るのは君のせい 番外編 (フラワーコミックス)
紺野 りさ(こんの りさ)
胸が鳴るのは君のせい(むねがなるのはきみのせい)
番外編評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

昨日よりも今日、そして今日よりも明日――
『きっともっとずっと、君のことを好きになる。』
つかさに失恋してチャラ男を卒業した長谷部。
そんな長谷部の前に“チャラ男”大キライ女子が現れて!?
一方、本格的につき合い始めたつかさと有馬は、順調に互いの想いを深めていくけど…。
Contents
「胸が鳴るのは君のせい 番外編」「君に焦がれる」「春風と、初恋」「夏の匂い、ふわり」「触れたい、秋」「雪、時々すき」

簡潔完結感想文

  • メインキャストの当て馬にも救済の手。麻友以外は幸せになる準備が整った。
  • 重要な場面を描き忘れたから描き足したのか、後で描くから描かなかったのか。
  • 読切短編は下駄箱のすれ違い。「胸君」収録の別短編でも下駄箱使ってたなぁ…。

熟な自分の自己フォロー・事後フォロー の、番外編(または最終6巻)。

この番外編は、新装版だとナンバリング扱いで 6巻として表記されている。

そうなると旧装版『5巻』での、

「(作品は)もう少し続けさせて頂く選択肢も もらっていた」いた、
「でも この作品のテーマは つかさ の『片想い奮闘記』で、
 両想いになってからの お話となると軸がぶれてしまいそうになり」
「(略)一番良いタイミングで潔く完結させたい」

という作者の思いが踏みにじられた気がしてならない。
まぁ 単純に商売としてナンバリングにした方が全巻 売れるからなんだろうけど。

そして残念ながら、本編の解決は「一番良いタイミング」ではなかった。
作者自身も「最終回の方は なんだか寂しい展開になっちゃったから」と言うように、
暗い雰囲気が続いて、急ぎ足で仲直りして、
残り時間ギリギリで、キスして強引に幕を下ろした印象ばかり残してしまった。

何よりも、交際しているんだか していないんだか宙ぶらりんの状況が、
ヒロイン・つかさ を不安にさせ、ヒーロー・有馬(ありま)との仲を険悪にしたのに、
最終回に至っても、交際の言葉が出ないで完結させたのは、大きな失敗だと思った。

本編終了が雑誌では2014年09月号の掲載で、
有馬が やっと「つき合ってください」と言ったのが2015年01月号。
この間に世間の反応などを見て、作者本人も、交際を明確に描かなかったことを後悔したのだろうか。

準備万端で連載を始めて、細かいエピソードが重ね方などが着実な評価に繋がり、
それにより全5回の短期連載が20話以上の長期連載になった。
だが連載が上手く閉じられなかったのは、準備と物語の制御力が不足していたからか。

最終回で「つき合おう」の一言があれば、随分違った印象を持ったはずだが、それを描かなかった。
そんな失地回復の機会は、読者からの支持と好調な売り上げによって もたらされた。
これは序盤の作者の頑張りが もたらした事象だろう。

続けて本編や読切短編を読むと、引き出しの少なさが心配になる部分もある。
本書の序盤のような準備の苦労が見える丁寧なエピソードを積んだ お話が読めるのを楽しみにしています。


「番外編 長谷部くんの場合」…
文化祭の告白で つかさ にフラれてから1年以上後の高校2年生のクリスマス前、
長谷部(はせべ)は最悪の印象を残す女生徒と出会うのだが…。

長谷部の次の恋を本物にするためか、
「今 思えば 俺が つかさちゃんに惚れたのって
 人のものが欲しくなる性分から来てるっていうか…
 ないものねだりだった気がする」という位置づけにしている。
こうやって本編の恋心を貶めるような表現を作者自身にして欲しくないなぁ。

学校一のモテ男と、イジメられてるぐらい陰気な女性の組み合わせは、
葉月かなえ さん『好きっていいなよ。』感が あるなぁ。

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攻撃的で口が悪いのも『好きっていいなよ。』感。彼女も幸福になると説教を垂れるのかな…。

私が長谷部のことを好きになれないのは、
チャラ男であることもだが、つかさ へのキス(性的暴行)、
有馬への しょうもない嘘(有馬と麻友の過去を つかさに話した『2巻』)などが原因か。

本来の当て馬の一途さとか健気さとかが全くなく、自分の欲望のままに行動しているだけに見えた。
長谷部が主人公の少女漫画なら、少しは彼に肩入れしたかもしれないが。

「番外編 スイート ウィンター ラバーズ」…
つかさ と有馬の本編終了のすぐ後の話。
昨年末のゴタゴタで反省した2人は何でも言いあえる仲を目指す。

本編の最終回前の膠着状態を文字で説明してくれているので、ありがたい。
作者が描きたかった閉塞性は こういう状態だったことが分かる。

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1巻分のすれ違いも仲直りは6ページで(『5巻』)、状況説明は1コマで終わってしまう。

貸し出し担当の女性は、有馬がイケメンだから覚えていたのだろうか。
そして他の女性を連れ立っていると分かっているのに、デリカシーのない発言を連発。

せっかく元カノ・麻友(まゆ)のテリトリーに入ったのだから、
ここで彼女を登場させても良かったと思うが、登場せず。
本編でも番外編でも彼女だけアフターフォローが何もない。
主要キャラが4人しかいない漫画だから、放置すると目立つ。

ここでようやく、交際宣言が飛び出す。
出来れば本編最終回に思いついて欲しかった言葉である(有馬・作者ともに)。

相変わらず有馬の元カノのことは ずっと気になって泣き出すほどなのに、
自分は のん気に長谷部に手を振り返したり、友人付き合いを続ける(最初の番外編)
つかさ の無神経っぷりにイラっとくるが…。

「番外編 変わること変わらないこと」…
高校2年生に進級して、中学2年以来の有馬と同じクラスになるという記録が途絶えた。
未知の距離に不安を覚える つかさ だったが…。

学校で一緒に入れない分、校外で会う機会を増やす2人。
そこで有馬の自宅に初めて訪問することになるが…。

少女漫画あるある としては、弟がいる姉は口が悪い、が実証されています。

この後、つかさ は有馬の母とも初対面するのだろうか。
少女漫画あるある では、親と対面したら結婚するしかありませんから(笑)、今後も安泰ですね。

内容は交際が順調すぎて何も事件が起きません。
確かに 交際以後も連載を続けていたら、あんまり面白くなかっただろうなぁ、と推察される。
また すれ違って、取り戻せないぐらい雰囲気が暗くなるのが目に見えている。

「君に焦がれる」…
人数合わせで参加した合コンで8か月ぶりに再会した、ずっと好きだった中学の同級生。
自分の小さなことを覚えてていてくれる彼に またトキめくが…。

『2巻』収録の読切短編と同じく、中学校の下駄箱のジンクスが使われている。
引き出し 少なくないか?と心配になる。

ただ時間を超えて、中学校の裏庭で告白するなど
ジンクスの成立のさせ方、そこへの話の運びかたが上手い。
まぁ、彼らが使っていた下駄箱が8か月以上学校内に放置されているなど不自然な点もあるが。

そして別の学校に進学した彼に会いに行く勇気があれば何でも出来そうな気もする。
そんなことをする時点で、彼に好意はバレバレである。

「春風と、初恋」…
四季の移ろいと感情・関係の変化を6~8ページで描く。
これだけでも ちゃんと胸がときめく内容を成立させていて感心する。
一方で、少女漫画って、この8ページを数倍以上に引き延ばしてるだけだよね、とも思ってしまうが…。

このカップルのこと好きになれそうなので、長編化して欲しいなぁ。
「夏の匂い、ふわり」…
プールの授業と乙女心と、男の変態性を混ぜ込んだ匂いがする短編(笑)
告白シーンがなくても、両想いは成立している。
「触れたい、秋」…
交際後の秋。展開が早くて助かる。
2人でいるだけで楽しかった夏から、他人の温もりを感じたい秋へ移る。
「雪、時々すき」…
クリスマスに奮闘する男性は可愛い。
だけど少女漫画や女性誌が男性からのプレゼントを常態化させている気もする。
正直、このプレゼントはどうかと思うが、初交際の初々しさということで。

キスすりゃ終わるのが少女漫画です(「胸君」本編も)。