紺野 りさ（こんの りさ）
胸が鳴るのは君のせい（むねがなるのはきみのせい）
第02巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★（6点）
3歩進んで2歩下がるつかさの片想い…。
有馬の元カノ・麻友のことでぎくしゃくしちゃってたつかさの心に、有馬の優しさがしみる急速展開！
そして夏休みのクラスイベント時に夜の教室で二人は…！！
思わず悲鳴がでちゃうドキドキ展開です。
簡潔完結感想文
- 正直は美徳。嘘をついた2人の恋愛は破れ、相手を信じた2人は成就する。
- 恋のライバルからは逃げないが、恋の相手本人から逃げ続けるヒロイン。
- 2巻の3/5は番外編と読切短編。両想いは先延ばし、暗雲到来が予告される。
片想いのヒロインは無敵だけど、両想いのヒロインは弱気、の 2巻。
恋の障害がヒロインを輝かせる。
逆に言えば、障害がなくなった時点でヒロインは それほど輝かない。
『2巻』では最初に収録されている第6話が好きですね。
ヒロイン・つかさ とヒーロー・有馬（ありま）が どちらも相手を心から信じているから。
逆境に立ち向かうだけでなく、心持ちが正しいこともヒロインを応援したくなる要素になります。
ただし少女漫画特有のヒロインの逃亡癖は この頃から見られて、
相手に話さなくてはならないことから逃げ続けて話数を稼いでいるようにも見えてしまう。
ヒロインが勇気を出すのが もう1テンポ早くなって、
読者の予想を裏切ると より一層カタルシスを感じることが出来ると思う。
本書は、しっかりとエピソードが重ねられており、
その構成に舌を巻くことが何回もあった。
ただ丁寧なんだけど、全ての話が読者の予想内のことで驚きのないままに進んでしまう。
例えば、元カノ・麻友（まゆ）が有馬にフラれるという事実を、
彼女が有馬に迫った『1巻』ですぐに有馬の反応を描いてしまうのではなく、
『2巻』で つかさ と麻友が2人きりで話している時に、
過去の回想を挟み、読者も初めてその事実を知る、という形式にした方が良かったのではないか。
これなら しばらく読者も有馬の真意が分からなくて つかさ同様にモヤモヤするし、
後に有馬のキッパリとした態度を知れば、一層 心が晴れわたる気がすると思われる。
自分の心の中にいる相手のことは ちゃんとと信じられるのに、
目の前にいる相手とは しっかりと話せない悪癖は ずっと続いてしまう。
ライバルや元カノはヒロインを動かす原動力で、対比効果を生むことが よく分かる。
何といっても6話が好きですね。
2人の恋愛にとって一番大事な回ではないだろうか。
有馬の過去を知る同級生・長谷部（はせべ）から、
麻友との過去を つかさ に話したと嘘をつかれる有馬。
だが有馬はそれを信じない。
「つかさ は他人の過去を人づてに詮索するようなヤツじゃねぇから」
男女の前に人として信頼が置ける人だという2人の関係が良いですね。
にしても、長谷部は どうして こんなしょうもない ちょっかいを出すのでしょうか。
この性格の悪さがあるから、後々 当て馬になっても応援できないなー。
ここで有馬が長谷部を殴ってたら人生2度目の停学だったのかな。
まぁ 今回は殴るようなことではなかったけど。
そして 有馬が つかさを信じる態度は、
『1巻』1話の中学卒業間際、つかさ からの告白を有馬が誰からかまわず言いふらしたというデマに対し、
「……違う 有馬はそんなことしない！！」
と自分が好きになった有馬を信じた つかさ と鏡写しの構造になっている。
これは好きだから盲目的に信じた訳ではなくて、
そういうことをしないと心から思える人だから好きになった部分が大きいだろう。
一方で麻友は、有馬の学校で倒れたふりをして、保健室に運んでもらう嘘をついた。
彼女はそこで制服のリボンタイを忘れてしまう。
これは『1巻』で有馬を誘惑するために使ったもの。
それでも有馬は肉体の誘惑も振り切って、麻友の想いに応えられないと毅然とした態度を取った。
そんな惨めな自分の分身であるリボンタイを つかさ が麻友に渡すのは、麻友にとっては屈辱的なものだろう。
麻友は、これが つかさ と有馬の嫌がらせだと受け取る。
彼女にとって有馬は そういうことをする人だという認識なのだ。
この対比も素晴らしいですね。
もしかしたら麻友にとっては見栄えのいい有馬が彼氏であることがステイタスなだけだったかもしれない。
…と思ったが、そういう自己満足の恋愛なら、
その学校で次に格好いい人と付き合えばいいだけか。
この考えは麻友に対して失礼か。
だが事情を知らないつかさはポカンとするばかり。
この日、有馬と一言も喋っていないのも、つかさの潔白の証明になるのも いいですね。
つかさが有馬を避けまくっていることにも意味が出てきている。
この回までで、他者に対して嘘をついた長谷部と麻友2人の それぞれの恋愛が成就しないのは必然かな。
そして麻友は、自分が好きになった相手すらも信じられていないし。
こういう正々堂々とした恋愛と彼らの性格が読者のカタルシスに繋がっている。
麻友の厭味な言葉に対しても つかさは屈しない。
好きという純粋な気持ちを持ち、自分が好きになった相手を信じて進むことを宣言する。
臆病になることもあるけど、自分への勇気の種にもなる恋心。
つかさ は芯のある人になりました。
ただしライバル限定の外弁慶タイプかもしれないが…。
有馬に対しては臆病であり続けるのが残念である。
一つ疑問なのが、電車で2時間ぐらいかかるらしい有馬の地元（『番外編』情報）。
おそらく その近辺にあるであろう麻友の通う高校に、
つかさ が到着したのは彼女の学校が終わった直後の下校ラッシュ時。
経過時間を勘案すると つかさ がワープしているような気がしてならないが、作者のミスか。
それとも つかさ は学校をさぼったのだろうか…。
麻友が既に有馬にフラれていることを知った つかさ。
自分の臆病さから逃亡し続けたことを有馬に謝ろうとしても まだ腰が引ける。
そんな時、夏休み中に肝だめし&花火大会がクラスで企画される。
つかさ は準備の日に一歩を踏み出し、そして本番当日。
肝だめし中に、教室で2人きりになったつかさは、有馬に これまでの態度を謝罪する。
そうして自分に正直になった つかさを見て、有馬も自分のトラウマを語り始める。
つかさ に対して話すべきだと思ったし、話せるだけの覚悟が有馬に出来たということなのだろう。
男のトラウマの解消で、いよいよ本格的に恋愛解禁です。
しかし、ここで麻友の恋愛を徹底的に表層的なものに貶めているのが気になる。
有馬にとって初彼女は つかさ ではないが、つかさ こそが本物だという流れだろう。
麻友に関しての冷遇が酷い。
ただ もしかしたら中学時代は有馬の方が、麻友のような可愛い子と付き合えることに舞い上がって、
承認欲求やプライドを満たしていたのかもしれない。
何だか現在の愛を本物にするために、
色々なもの（有馬の誠実さなど）を犠牲にしている気がしてならない。
ちなみに この会話中で、つかさ の ここ最近の悩みは全て解消される。
有馬がナイトになって、麻友と自分とどちらを飛んでくるボールから守るかという
二者択一も有馬には答えが一つしかないことも分かる。
男性側のトラウマの解消、女性側が気にする元カノ問題の解決、
もはや両想いになるしかない。
当初は『1巻』相当の全5話で終わるはずの物語だったが、
この肝試し回の全8話で終わっていても何の問題もない。
だけど告白は打ち消されて物語は（半ば無理矢理に）続く。
作者もそれが分かっているから、ラストに
「この時 あたしはまだ気づかなかった
近くて遠い あたしたちの微妙な距離が あんなふうに変わっていくことになるなんて」
という大袈裟な煽り文を入れたのではないかと邪推してしまう。
こう手法は同じ「ベツコミ」連載だった 藤原志月さん『キミのとなりで青春中。』を思い出します。
「番外編 side 有馬」…
『1巻』で長谷部・麻友を含めた4人で遊園地に行った翌日の話。
遊園地で無意識に有馬のトラウマを払拭した つかさ に、有馬の心に恋愛の萌芽が生まれた。
やはり あの日が転換点だったことが分かる。
「バイバイregret」…
読切短編。
中学校の時、好きな男の子（結城・ゆうき）が、転校してしまう女生徒の下駄箱に入れた呼び出しの手紙を発見した紗綾（さあや）。
彼女はそれを盗み取ってしまったことを結城と一緒の高校に入学してからも後悔していた。
紗綾は過去に一度だけ戻れる逸品を持ったことで、中学時代に戻るが…。
この作品では、中学時代に戻っても、中学生の紗綾は別にいて、
高校時代の彼女が、結城と出会う。
数年で顔が変わる訳もないが、
結城にとって紗綾は顔さえ覚えられていない存在だということなのだろう。
しかし結城くんは、継続した記憶を持つ紗綾と恋愛をするために2年間、
彼女への想いを持ち続けていたのか。
これも両想いは確定しているのに、
事情を知らないタイムスリップ前の紗綾に告白すると未来が変わるからか。
しかし人のものを盗んだ紗綾の経歴は全く問題がないのだろうか。
