《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

過激な思想に呑み込まれて、元には戻らない貴方と共に歩くことは出来ない。

遙かなる時空の中で(16)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第16巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

崩壊した八葉(はちよう)との絆を取り戻すため、呪詛(じゅそ)解除を目指す あかね! 泰明(やすあき)の式神の助けでアクラムから逃げ延びるが、鬼の放った怨霊に襲われ頼久(よりひさ)は重傷を負ってしまう!! 鬼の洞くつで あかね の命運は…⁉ 「遙か3」特別読切りも同時収録、緊迫の第16巻登場。

簡潔完結感想文

  • 浄化。誰も失いたくない気持ちが、誰かを傷つける結果を招いてないか?
  • 強さ。八葉の力も これまでの記憶も失っても頼久は一人の人間として強い。
  • 決別。心は永遠に通わない。貴方の浄化は諦めて、京の町を優先します。

いたいのは京の穢れだけでなく、アクラムの思想、の 16巻。

全17巻の16巻目になっても、恋愛フラグは それほど明確にならず、
むしろ折られた数々のフラグばかりが目立つ本書。

今回は『1巻』では急接近していた
鬼の首領・アクラムとのフラグが完全に折られる様子が描かれている(ように思えた)。

これまでの物語で八葉の中では天真(てんま)、
そして頼久(よりひさ)が ややリードしているように感じられる。
(どちらにしても「やや」であり、本書の恋愛イベントは本当に少ない)

そう思っていたところでのアクラムとの再会。
これによってアクラムがトップグループに再度 名乗り出て、
アクラムと頼久が最後のトップ争いをしている。

そして『16巻』はアクラムとの再度の別れを意味しているのではないか。

『1巻』でも思想の違いからアクラムへの好意が反転し、
彼との対決を決意した経緯のある あかね。

今回は、その彼女が京での体験を経て、再びアクラムに向き合う。

本書がアクラムエンドであるならば、ここで解かれるのは、
呪詛の種ではなく、アクラム自身の呪いだったのではないか。

だがアクラムの偏った思想は、
彼が身に付ける鬼の仮面が呪具(じゅぐ)となり染め上げたのではなく、
もはや彼自身の思想であることが判明し、あかね は彼との決別を決意する。

一度は惹かれたが、別れた彼に再び会うが、やっぱり何かが違う。
元の鞘に収まりそうな あかね が、彼の檻から解き放たれる『16巻』でした。

ということは、『17巻』は あの人の巻になるということかな⁉

んーーー、でも恋愛フラグ的には不十分だなぁ。
八葉から総モテではあるものの、積極的アプローチに乏しい。
なので勝ち上がり方式というよりは、消去法で最後に残ったという印象ばかりが残る。

『16巻』でも選ばれた理由らしきものは描かれているが、
やはりドキドキ恋愛イベントを見たかったなぁ…。


を蝕む呪詛の種を見つけるのが鬼の洞窟に潜入した本来の目的。
しかし その種は ここにはなく、別の場所にあることが判明。

一刻も早く洞窟から脱出し、京へ還るのが次の目標になったが、
それを鬼の首領・アクラムは許さない。

京では穢(けが)れが広がり、
遂に、京の太陽である主上(おかみ)までが伏せられる事態に。


アクラムが今回 激怒したのは、
自分を弱いと言った あかね が、頼久を強き者と認めたことにあった。

泰明(やすあき)の式神が怨霊に支配された際、あかね は その救出を願う。

相変わらずの非合理的な博愛主義を頼久は諫めるが、
彼女の望む未来を実現するために、自分の身を捧げる覚悟を示す。

式神が どのような位置づけなのかは分からないが、
擬似生命体の式神を救うために、生身の頼久の重傷を招く事態は疑問である。

毎度、あかね の理想論で動き、
自分の軽率な行動が起こしてしまった結果に対してだけ反省する。

どんな犠牲を払っても自分が五体満足で京に帰ることを最優先に しません。
大局が見れないのは最初から最後まで変わってませんね。

ただ、式神に あかね の浄化の力を使う意味が用意されているのが救い。
この力を使うことによって、あかね は穢れの源泉が この洞窟にないことを理解する。
あかね の行動は疑問に感じるが、
物事が連鎖的に関連していく構成は上手いと舌を巻くばかり。

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あかね の望むことを叶えてあげるし、彼女の悪い所は しっかりと諫める。これって最強彼氏⁉

久に困難が降りかかることは、彼の強さの証明となった。

また、神子として あかねが、
神力を失った八葉の頼久を、弱き者として下に見て、無自覚に上から物を言っていたことが、
カウンターパンチのように あかね の気持ちを揺さぶる。

弱いと思っていた人が強い。
そんなギャップ萌えが彼女の中で生まれたのかもしれない。
一人の人間として頼久は強い。

これまでのような、最初から絆が運命づけられていた
神子と八葉の関係ではなく、人として彼を見直す契機となった。

恋愛イベントは少なすぎますが、
人を好きになるまでの工程は そこそこ踏んでいると思う。

神力を失い、ダンジョン探索で戦力にならず、
役立たずとギャグ要因にされていた頼久に こんな意味があったとは…。


クラムとの決別は、
自分には理解できない宗教に彼氏がハマってしまった場合にも読める。
陰謀論とか過激な思想とか、いつの間にかに染まってしまった人、アクラム。
他にも2020年からで言えば新型コロナに対する意識の違いとかも その一種か。

見た目で惹かれたが、価値観が違うと分かってしまった人との お別れの様子である。

彼の考え方を救うことが難しいなら離れることも大事だよ、身を守るためにも、という教訓か。

恋に恋するように、鬼エリートに恋した あかね だったが、
それは幻想で、2つ目に見つけた恋が本物になる。
アクラムは、本物の強さを持つ人を知るための踏み台であった…。


アクラムが自分の計略のために召喚した あかね。
順調な計画とは裏腹に、要である彼女だけが その手からすり抜けるばかり。

召喚した彼女が、自分の元から旅立つシーンは印象的だ。
この世界に来るのは強制的で、アクラムから離れるのは彼女の意思。

これも男社会(または男社長・男会社)のコマとして呼ばれた彼女が、
自分の意思をもって独り立ちしていく風にも読める。

容姿と権力だけで女性は なびかない。

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あかね の恋模様、というよりは、アクラムの失恋日記に読める本書。彼はストーカー予備軍だろう。

さて、次巻が最終回。
京も恋愛も現実への帰還 or 定住問題も扱わなければいけないが、
全てを語る余裕はあるのだろうか…。


そして読み返すと、泰明には ちょっとずつ違和感を忍ばせていることが分かる。
(僅かに見える永泉への親しさなど)

本書で一番の嘘つきは赤ちゃんロボットの彼であった。
2歳児は魔のイヤイヤ期。
師匠・安倍晴明が「甘えるのも程々に」というのも分かる気がする。
自我が目覚めると面倒くさいことも起きるというもの。


遙かなる時空の中で3」…
もはやプリンの話。

24ページの中に20~30人の人物が入り乱れるので、
自己紹介などは一切なく、
ゲーム未体験の者にとってはフィーリングで読むしかない。

伝言ゲームみたいである。
でも物事の価値や、怖い話など、
こうやって尾ひれがついて広がっていくような気がする。