《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

行きは少人数、帰りは大人数 なーんだ? 答えは守られヒロインの龍神の神子。

遙かなる時空の中で (3)   (花とゆめCOMICS)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第03巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

異世界「京(きょう)」に召喚された現代の女子高生あかね。龍神の力にとまどいながらも、鬼の首領アクラムに惹かれる あかねと、彼女を守る八葉(はちよう)達。そんな時、もう一人”龍神の神子(みこ)”を名乗る少女が現れて…⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミックス)、待望の第3巻ついに登場。

簡潔完結感想文

  • もう一人の”龍神の神子”。取り敢えずお友達になろうと接触を試みる。
  • 屋敷を抜け出してはピンチ、抜け出してはピンチ。守られヒロインです。
  • 現時点での総力戦。攻撃は物理攻撃。相性の良い武器なども関係ない。

されヒロインならぬ 守られヒロインの 3巻。

3巻目にしてようやく本書の体裁が整い、長編化が始まる。
掲載誌での毎月の連載も始まり、回を またいでの話も可能となった。

しつこいようだが、ここで連載をリセットして欲しかった。
話が中途半端に動き出してしまっているが故、
宙ぶらりんになった設定があったり、
描き込めなかった現代と平安との戸惑いなどが割愛されてしまった。

もちろん、定期連載ならではの楽しみも増えた。
物語が前に進む感じがするし、
主人公を守る八葉(はちよう)の多くが集まって行動する、という
今までは読切の構成とページの関係で描けなかった話も読める。
これまでは小競り合いという印象だったので、
大きな物語が動き出したという高揚感が生まれた。

しかし物語前半で八葉は全員 揃っておらず、
彼らも八葉本来の力を使いこなしている訳ではないので、
敵対する鬼との対決場面が物理攻撃だったのは締まらなかった。

霊力と霊力の戦いならいざ知らず、
物理攻撃だと、こちら側が多勢に無勢だということが鮮明になって、大人げなく映ってしまった。

今後はバトルものとして彼らのレベルアップが楽しみである。
乙女ゲームではなく、格闘ゲーム出してくれないかな。


編化となっても一本調子だったのは、ヒロインあかねの行動。

この世界にとって一番大事な人なのに、
危ない場所に行ってはピンチになり、男に助け出されて帰ってくる、の繰り返し。

毎度毎度、物語の後ろでは怒られているはずなのに、
現代の女子高生は反省しない若者で、同じ行動をしてしまう。

問題が勃発しても座して待っていては何も起きないし、
防戦一方の退屈な展開になることは自明ではあるが、
あかね の短慮ばかりが悪目立ちする結果になっている。

恋愛においても鬼との争いにおいても無自覚な鈍感で、
成長が感じられないのが あかねの欠点。

思想的にも平和ボケした お花畑の考えで、
芯の強さがしっかりと描けていないのが気になる。

読者に あかねのファンっていないのではないか。
ゲームでは無個性なほど良かったかもしれないが、
漫画では主人公に共感できない点が多いのは欠点だろう。


んな あかね の鈍感力が発揮されるのが1話目。

『3巻』は八葉の一人で、現代から召喚された男子高校生・天真(てんま)の巻である。

天真は あかね の身を案じて、彼女を神子として保護しているが、
利用もしている藤姫(ふじひめ)や友雅(ともまさ)を強く詰問する。
天真は男として、好きな女性を危険に晒すことを許せないのだ。

だが 当の あかね は、自分に告白した天真の前で他の人への恋心を話す始末。
救われません。
鈍感だから一度告白されても普通に話が出来るのだろうけど、天真にとっては暖簾に腕押し。
一時でも彼女が好きになったアクラムの話を聞かされるなんて同情を禁じえない。

天真にとってアクラムは鬼という以上に男としてライバルなのでしょう。
本書のラストでは、天真の好感度がピロリーンと上がっただろうか。


前、もう一人の現代人・詩紋(しもん)と あかね の出会いが語られていたが、
今回は天真と あかねの初対面が語られる。

天真の妹は行方不明になり、荒れた彼は留年し、
そんな環境がまた天真を孤絶に追いやっていた。

そんな中で、天真の良くない噂を気にかけないで話しかけてきたのが あかね。
といっても食欲優先で、彼のことなど眼中にない行動っぽく見えるが。

学校の購買部の商品を恵んでもらったお礼から彼らの交流が深まったらしい。

それが天真の生活や人生の救いになったから彼は あかね に恩義を感じている。
詩紋と同じく、京の命運とは本来 無関係の現代人たちが、
八葉の務めを果たすのは、あかね への個人的な恩義からだろう。


ちなみに あかね の食へのこだわりの描写は この場面のみ。
甘い物などスイーツ系は喜ぶ描写はあるが。
(それが この時代では相当な贅沢だということを分かっているのだろうか)

衣食住、どれも現代とは比べ物にならないほどの不便さだと思うが、
そんな描写は一切なく、清潔に贅沢に暮らしている。

やはり、龍神の神子として召喚されて、贅沢にイケメンパラダイスで暮らしているだけに見えるのは本書の欠点。
藤姫に囲われるまでに苦労の描写が欲しかったところ。


そして描写が不足しているな、と思ったのは場面転換。
この回、屋敷で話していると思っていた あかね と天真が いつの間にか橋の上に立っていて驚いた。
その後に あかね は位置関係が分からないまま川に落ちてるし。

読み返すと川の描写があるのだが、彼らが歩きながら会話をしていると読むには読解力が要る。
作者の脳内進行ばかりが先んじて、それを補足する場面転換や状況説明が足りないのが、本書前半の欠点。

f:id:best_lilium222:20210814193627p:plainf:id:best_lilium222:20210814193624p:plain
一人で召喚されて 望む能力は得られなかった蘭。彼女の苦悩こそ少女漫画的である。

よいよ長編化の兆しを見せるのが、もう一人の”龍神の神子”騒ぎ。
そして この件にも天真は深く関わっている重要人物であった。

その人と対面し、対話しようと天真だけを連れて館を出る あかね。
もはや定番のパターンです。

近くで見た”龍神の神子”はケガレをまき散らしていた。
更には その人が3年前に現代で行方不明になっていた天真の妹だと天真は言う…。

その騒動の最中、あかね の周辺に呪詛が掛けられていたため、
八葉の中の陰陽師・泰明(やすあき)が呼ばれる。

鬼の攻撃が遠隔攻撃であることが多いので、必然的に泰明の出番と重要性ばかりが増える。

基本的に彼らは京から動かないし、防戦がメインなので、
どうしても攻撃側の人間の活躍が少ないのが最後までアンバランスだった点である。
ハッキリ言って、泰明以外いらない感じである…。

そんな泰明は心を持たないロボットのような存在。
彼は神子を守るためだけに呪詛を返したが、
その呪詛返しが天真の妹・蘭(らん)の身を危険に晒すことに あかねは苦しむ。

指名を最優先にする泰明と、人道主義のあかね、
その相容れない考えの中に自分の龍神の神子の使命があることに悩まされる。

人の形をした人ではないものだから、
八葉の中で誰が死にそうかと考えると、泰明が浮かんでしまうなぁ。


を奪還するための方法を思案する八葉の前に、鬼の首領アクラムが久々の登場。

アクラムの口から語られる天真の妹・蘭の召喚。
彼女は第一の召喚されし者。あかねは第二だったのだ。

あかね召喚の理由は、蘭には龍神の神子としての素質、宝珠が無かったから。

なぜ前回から3年も時を経たのか、そしてアクラムが1回目で失敗した理由は何か、などの答えは出ない。
後者は、蘭はアクラムの呼びかけに応える力はあったが不十分、ということなのだろうか。
アクラムもくじ引きのように現代人を呼ぶしかないのか?

だが天真兄妹の別れは物語を劇的にした。

蘭を助けようと はやる あかね や天真だったが、
頼久(よりひさ)は彼らの猪突猛進を たしなめる。
これは彼が年長であるだけでなく、彼に苦い過去があるかららしい。
こういう伏線を張れるのも長編化の恩恵だろうか。


題の地や敵陣にあかねが乗り込む、という またもやワンパターンの展開。

ただし、今回は天馬の妹と あかねの救出劇で、現時点での総力戦の様相を呈し、期待が高まる。

ちなみにイノリと友雅はまだ正式な八葉ではない。
なのでイノリは野生児に近いのか、直感に優れ、総力戦で敵陣に向かう彼らに同行する。
この際、彼の刀鍛冶師見習いという設定が活き、師匠の一振りを借用している。
イノリの見習い設定が活きた数少ない(唯一の?)場面である。

そういえば友雅たちはどうやって敵地に乗り込んだのでしょう。
彼らの方から鬼の居場所に行く手段が生まれたってことなのか?
でも色々と雑に物事が動くので、細かく考えないようにしよう…。

f:id:best_lilium222:20210814193520p:plainf:id:best_lilium222:20210814193517p:plain
八葉の内 7人での総力戦。でも宝珠と陰陽術以外の能力はないので、タコ殴り。

実は あかね と一緒に鬼の本拠地に来ていた詩紋。

詩紋は平安の人々からは鬼と恐れられているが、
鬼から親和性をもって近づかれるということはないんですよね。
アクラムなど鬼に勧誘しそうな気もするが。

のちのち彼の外見的特徴から話が派生することはあるが、
アクラムが詩紋に精神攻撃をしてきたりはしなかった(はず)。


今回、アクラムに初めて傷を負わせたのは天馬。
これは蘭の救出劇だからだろう。
本来、刀を武器としている頼久ではないのが残念にも思うが。

蘭の救出後、イノリは同行していただけで八葉に選ばれた。
選出の場面はもうちょっと劇的にしてほしかった。


大きな物語としては どんどん総力戦などのバトルが見たいが、
そうすると恋愛漫画としての要素が少なくなり、
感想文を書くようなイベントも無くなってしまうのが痛し痒しである。