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少女漫画と小説の感想ブログです

トラウマというボトルネックが解消されて起こる恋愛イベントの大渋滞。

遙かなる時空の中で(12)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第12巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

四方の札(しほうのふだ)も「東の札」を残すのみ! 最後の使者を待ちわびる八葉(はちよう)たち。夢のお告げを届ける使者は、頼久(よりひさ)の亡き兄と分かるが、頼久は夢を見ない性質(たち)で逢うことが出来ない。そんな時、誤って眠り香を吸った あかね は…⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、第12巻。

簡潔完結感想文

  • 夢でもし逢えたら。人の夢に寄り道はするけど大事なことは話せない。
  • トラウマ回。白泉社漫画はトラウマの克服が義務付けられて おります。
  • 看病回。高熱による奇行と記憶の消失。どこかで見た気がするが…。

書が白泉社の漫画で、そして恋愛漫画だったことを思い出す 12巻。

この『12巻』で恋愛要素が全面的に解禁された印象を受けた。
ようやう恋愛の視点が八葉(はちよう)たち男性陣から、あかね の手に戻ってきた気がした。

内容が急に少女漫画になったのは、きっと ここしか恋愛要素が入る隙が無いからだと思われる。
この後にアクラムの企みが発動してしまってからでは、とある理由から恋愛要素が絶対に入れられない。

だから事が起きる前に、イベントを多発させて、
ある程度の進展と、ある程度の整理整頓を目的にしたのだろう。

でも なんだか駆け込み乗車っぽいなぁ。
これに乗り遅れたら大問題とばかりに、必死に描けるだけ描いたようにも見えてしまう。

いくら八葉の どの男性たちにも可能性を残すためとはいえ、
ここまで ゆっくりと八葉が あかね に惚れていく様子を描いていたのに、
急にテンポが変わってしまった印象を受けた。

あかね を巡る恋愛オーディションも不合格者や不参加者が続々と発表されていく。
結局、最終選考者は あの2人かな。
現代人と異世界人、年少者と年長者、その2つのカテゴリーの対決でもあります。

鬼との対決も、恋の選考も いよいよ最終決戦が近い…。


葉たちが参加する お札クエストも最後の1枚。
それが最後にして最大の難関であることが判明する。

これは白泉社お得意のトラウマ回とも言えますね。

夢を見てお札の在り処を使者から知らされるから、
現代人であり、この世界の異邦人である天真に使者が来る道理がない。
仮に天真の ご先祖様がきても縁遠すぎる。
お前、誰?と天真からも読者からも言われてしまう。

しかし肝心の頼久(よりひさ)心が拒絶していて夢を見ないという。

どうやら頼久は絶対に夢を見ないという意思が勝るほど眠りが浅いみたい。
寝不足と神経系統の過敏で、常人なら頭がおかしくなりそうだ。
これは肉体的だけでなく精神的な頼久の強さでしょうか。

トラウマ回と書いてものの、
その原因となった兄の存命中から夢を見ないらしいから体質なのだろうか。
この辺、ちょっと設定が安定していないように見えるが。


久より先に、夢の中で使者に逢うのは あかね。
夢は繋がっているけど、札の場所は八葉にしか教えられないという融通の効かない頼久の兄。
八葉は神子のために存在するんだし、上司に当たるのだから命令は絶対ではないのか。
読者にとっても 歯がゆいがトラウマ克服が恋愛の近道だし待つしかない。

元々、夢を見ない人に夢を見ろと強いることに加えて、
夢の使者が、彼の兄であることを告げて、頼久の心は一層 頑なになるばかり。

これを経験者の鷹通(たかみち)は「過去の自分と対面する試練」と言っているが、
これまでの4者が4者ともにそうではない。

鷹通は自省することがあったかもしれないが、
永泉(えいせん)は ただの夢のお告げで、寧ろ夢を見た後に現実に試練があった。
イノリも逢いたい人に逢えたという喜びの方が大きいだろう。
ここは統一して欲しかったところ(永泉が本当に難しいと思うが)


眠れない(のは前日までだったが)天真(てんま)をイノリと詩紋(しもん)が慰問する。

年少組の じゃれ合いは良いですね。
男子会による恋バナも楽しい。
何度も書きますが、どの八葉も あかね との交流にそれほど進展が見られない。
だから人と人とが仲良くなっていく場面を見ると それだけで嬉しくなる。
そして天真たちは元の世界に帰ってしまう友情の儚さもある。
戦いが終わって欲しいような欲しくないような…。

この会合から、あかね の恋人候補、年少組代表は天真という流れが出来る。
あとは永泉も年少組だと思うが、彼は秘めた初恋で終わりそうな予感。


の辺りから少女漫画が一気に加速。
水垢離をして自分の弱さを克服するはずの頼久が風邪を引く。

いわゆる看病回ですね。
高熱で倒れる者をヒロインが看病して、
そこでトラブルや恋愛イベントが巻き起こる胸キュン必至の展開。

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これまで11巻分の会話量・情報量を圧倒する頼久のための12巻。これで八葉の過去・トラウマも全放出?

高熱の頼久は常時より饒舌になる。

彼が語るには兄の死の瞬間を何度も思い出すのではなかった。

寧ろ兄を喪ってからは兄と居た時間を思い出すようになった。
それが目覚めた時に一層の喪失感に襲われるようだ。
自分は こんなにも大切な人を喪ってしまったのだ、という後悔。
それが彼が夢を遠ざける一因となった。

更に熱に うなされた頼久は、夢の中で あかねを求め、
現実の中で彼女にキスをしてしまう!

ちなみに私の研究「少女漫画分析」では、これはノーカウントとします。
事故です。事故。

高熱で男性側が思わぬ行動(キス)をして、
でも男性の記憶がないというのは、少女漫画あるある と言ってもいい現象ですが、
ここで面白い偶然が一つ。

この場面で私が連想したのが、今年 読んだ葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』

同じ白泉社漫画である。
そして調べてみると どちらも当該の巻は2006年(7月『遙か』と9月『ホスト部』)の出版だということが判明。
雑誌の発表は本書の方が早いが、
当時の白泉社漫画好きの人は、
内容が被ってる!と大いに湧きたったのではないか。
せめて時期が1年ぐらいは ずれていれば良かったのにね。
そして私も それから15年後の2021年になって 間を開けずに読むという偶然となったのです。

閑話休題
しかし頼久がキスをし慣れているように、流れるような所作なのが気になるところです。


意識の行動の頼久に比べて、あかねは大変に動揺する。
初めてであって、八葉たちが異性であることを意識し始める。
そして その動揺が八葉たち全員に流れ込んでしまい、彼女の恥ずかしさはMAXに。

キスは彼女の恋愛スイッチをオンにする意味があったのかな。
ということは、逆に考えると、
それまでの八葉たちのアプローチは暖簾に腕押し、柳に風、彼女には響いてなかったということか。
天真など告白までしているのに。


あかね の胸の高鳴りを共有し、自分のものと勘違いしたのは友雅。
友雅は女性との交情だけは群を抜いているが、その胸が高鳴ったことがない。

彼は、ある意味では特殊な初恋組かもしれない。
これは少女漫画によく見られる、豊富な性経験を持つヒーローが、
ヒロインと出会って考え方が変わる男性と同じなのかもしれない。
友雅ルートは齢(よわい)31歳にして知る、ほんとの恋だろうか。

でも彼は人生経験を重ねた大人で、男子高生ではないから、
いまさら本気になれない自分を嫌というほど知っている。

本当の友雅は冷徹で冷淡で冷酷。

そんな本性を まざまざを思い出させられた安倍晴明との会見の後で、天真の妹・蘭(らん)と出会う。
自分に告白する蘭に、大人げなく、本当の自分で対応してしまう友雅。
大人組かと思いきや、天真と同じぐらい気性が荒いのかもしれません。

気になるのが、この場面、
「昨日 晴明殿に言われたこと…(略)」という友雅のモノローグがあるが、
これが なんで昨日なのかが分からない。
安倍晴明邸での出来事で、1日の時間経過があるようには思えないが…。


もう一つ気になったのが、蘭の行動。
友雅に突き放された蘭の中の絶望に黒龍が反応する。
そして蘭はシリンの失った力を回復させるのだが、
鬼の力を失って隠居しているシリンを蘭はどうやって見つけられたのかが謎です。

黒龍の力は万能なのか。
本書は龍たちが何でもしてしまうことが、全てを有耶無耶にしてしまうのが問題があります。
何でも出来てしまうのは詰まらない。

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ライバルであり親友であり八葉である2人。この相手になら あかねを託すことが出来るだろうか。

久の次は あかねが熱を出す。

これは風邪の菌が口移しで媒介したのか、
それとも頭が沸騰して熱を出したのか。

頼久を意識するあまり、かえって距離を作ってしまう あかね。
この辺はラブコメチックですね。

あかね は八葉を異性として見るセンサーを身に付けた。

しかし どうやら詩紋には無反応のようだ。
これで本命の最終候補者が絞られるのだろうか。
詩紋は不参戦で終戦かな。イノリも同じ。

鷹通が告白めいたことをして動き出したと思ったら、別問題に気を取られ水に流されてしまった。
勇気ある告白組にはなれたけど、不憫な結末です。

あかね にとって、頭を悩ますほどの存在でもないということか??
白龍の神子(みこ)も残酷です。