《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

バラバラの時系列の中で、時空(とき)の間(はざま)に読者が落とされる。

遙かなる時空の中で (2) (花とゆめCOMICS)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第02巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★★(6点)
 

異世界「京」に召喚された現代の女子高生あかね。龍神の神子(みこ)として鬼の手から京を救って欲しい、八葉(はちよう)が貴女を守護すると告げられるが…⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミックス)、シリーズ「鵼(ぬえ)の哭(な)く夜(よる)」「藤(ふじ)めでる少将」他に、読みきり「LOVE-X(ラブ・エックス)」収録の第2巻。

簡潔完結感想文

  • 短編集。5話連続だった『1巻』より後退し、4話から成るオムニバス形式。
  • 収録の短編を正史として捉えると総モテ状態とはならなくなってしまう。
  • 相変わらず ゲーム知識がない人には不親切な設計。朱雀編って何だよ!

登場が短編集だった人は本命から脱落です、の 2巻。

作品は『2巻』に突入しても、長編化しない。
誌面や掲載時期もバラバラで、まだ安定した連載には至らない段階である。

『2巻』は4つのオムニバス短編が収録されているが、
これら短編が時系列順に起こっているかは分からない。

例えば『1巻』のラストで八葉(はちよう)の一人、
頼久(よりひさ)が肩に大怪我を負ったが、
『2巻』1話目では その形跡はなく、『2巻』3話目では怪我を負っている設定なのだ。

ただでさえゲーム前提で、ゲームに準拠した世界観に漫画だけの読者は戸惑っているのに、
漫画で不親切な構成が続くと大きな物語の中に入り込めないという弊害が生まれる。


そして時系列の問題だけではなく、
『2巻』の内容を漫画における正史として扱っていいのかという問題もある。

特に2話目、藤姫(ふじひめ)と友雅(ともまさ)の、
光源氏っぽい話は どう扱ってよいのか分からない。

読切漫画ならではの こんなこともあるかもね、という
「if…」の物語でゲームのプレイヤーへサービスしているのか、
藤姫の友雅への想いは継続的にあると思っていいのか判別が付かない。


漫画読者としては内輪受けを見せつけられているような疎外感と苛立ちを覚えずにはいられない。
これは同人誌じゃなくて商売誌なんだよ、と編集側に文句を言いたい気分。

知識のない漫画読者を最優先にして、
ところどころでゲームのプレイヤーへのサービスを織り込むぐらいで良いのに。

1、2巻で挫折する人も多いだろうな、と思わざるを得ない。


遙かなる時空の中で ー鵼の哭く夜ー」…
八葉が一人、源 頼久(みなもとの よりひさ)が8歳の時に出会った鵼(ぬえ)との10余年に亘る交流。

あかねが召喚された後に、再度まみえ、悲しい決着が訪れる。
頼久には悲劇が似合いますね。
それに耐えるだけの心の強さを持っているからでしょうか。

しかし鬼は京全体を転覆するような計画を立てながら、
八葉に個人攻撃、しかも精神的ダメージを与えるようなことをしてくる。
案外、姑息なのだろうか。

神子(みこ)である あかね はともかく、
八葉は一人でも欠けたら、八葉が意味を失ってしまうのだから、
全力で叩けばいいのに、と思わざるを得ない。

この辺、戦隊ヒーローなどにおける敵幹部のチマチマした攻撃に似ている。
生かさず殺さず、クライマックスまで物語を続けなければならない商業主義に鬼も負けたか…。

遙かなる時空の中で ー藤めでる少将ー」…
藤姫(ふじひめ)と橘 友雅(たちばなの ともまさ)との初対面。

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源氏物語』の一幕かな、と思う場面。プレイボーイはロリコンだと刷り込まれてしまった…。

友雅は八葉の中ではプレイボーイ枠ですね。
プレイボーイというよりはアウトロー
最終的に嫌味な人間になってしまったような気もするが…。

平安時代ということもあり『源氏物語』っぽい雰囲気を漂わす短編。
蝶よ花よと時間を共にした少女に、ある日、突然 手を出しそうな友雅である。
まさかロリコン枠か⁉
この短編のせいで あかねに手を出す気配を感じなかったのも確か。
作品全体からしてみれば描かなければ良かったかもしれない。

友雅は自分が年を取っても いつまでも若いと勘違いして、
若い女性に手を出し続ける雰囲気がある。

そして陰陽師ロボットの泰明(やすあき)以上に空っぽな人間になってしまっている。

八葉も8人もいると それぞれ少しずつ似ているところがあるから、
個性が出しずらい人がいるのも確かです。

アイドルユニットのように強烈なキャラ付けと前へ出る人気と精神力がないと埋もれてしまいます。

遙かなる時空の中で ー治部少丞と内裏の鬼ー」…
藤原 鷹通(ふじわらの たかみち)初登場。

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神子が困れば八葉に当たる。警備体制が甘いのも出会いのための演出です。

彼はインテリメガネ枠ですね。
しかし平安時代に この眼鏡を作る技術があったとは思えない。
そこはファンタジーか。

穏やか枠としては永泉(えいせん)と競合している。
鷹通は あかね総モテ状態から外れても面白かったかなぁ、と思う一人。
冷静に全体の人間関係を把握していても良かったのでは。

初登場から鬼の女性・シリンと因縁がある鷹通。
こちらも あかね よりもシリンとの繋がりを色濃く覚えてしまい、
あかね と幸せになる未来が見えなくなってしまった。

このシリン、男装の舞姫として内裏に侵入した割に、へそ出しで露出が多い。

そんなシリンの色香にも動じない鷹通。
どうしても鷹通は女性に興味ない人っぽく見えてしまう。

今回、シリンに騙されて一人で御所に出向く あかね。
頼久は傷が治っていないという設定である(多分『1巻』ラストの傷)。

変なところで物語に連続性があるが、神子が一人で行動する不自然さは無視。
鷹通と出会い、彼と行動を共にする必要があるんだろうが。

内裏だけど結界がないのも不自然だが、
これも あかね のピンチに今回のヒーロー・鷹通を登場させるため。

今回、あかねが物理攻撃を受けて初めて(?)傷つくのだが、
これは女性 対 女性だから出来ることだろうか。
もしくは子供か。
大人で男性の鬼が あかねを打擲するのは控えているのだろう。

鷹通は戦闘力も そこそこで、シリンと渡り合う。
(傷を負った描写はないが)傷を負ったシリンにも優しい気遣いを見せる鷹通だが、
あかね への恋心を自覚した途端に、
シリンを年増扱いしたり、冷淡に対応したら
前後の違いが明確になって、面白かっただろう。

鬼や あかねを快く思わない者の存在によって、
彼女の総モテに批判をする機会が生まれ、物語にバランスを取っている。
あかね への批判に胸がすいてしまう、鬼のような心を持つ私です。

遙かなる時空の中で ー朱雀編ー」…
現代の京都で詩紋(しもん)が あかね や天真(てんま)と出会った日のお話。

詩紋が八葉の自覚に目覚め、強くなっていく様を見られたら目を細めてしまうでしょうね。
詩紋ルートの楽しさはその辺にあるのだろうか。

一方でイノリのお話。
姉が鬼と恋仲になってからというもの村八分に遭うイノリ姉弟

イノリの鍛冶師見習いという設定は この後でてきませんね。
彼の師匠が頼久の刀を作るとか そういうエピソードがあれば良かったのに。

どちらかというと物語のキーになる有名な姉の弟という感じです。

初登場なのに あかね との絡みもなく、
勝手に盛り上がって話が終わるだけ。

絶対に恋の本命にならないことが この時点で明白だ。
早くも脱落者がいるんだから、
作品は、本命を2人(多分、天真と頼久)に絞って、
他の6人は日常回で あかね と恋愛抜きの交流をすればよかったのに。
全員に変な希望を持たせる展開だから、焦点が絞れず ぼやけてしまった。

この話が「朱雀編」というサブタイトルなのは、
詩紋とイノリが八葉の中で四神(ししん)・朱雀の加護を受けた2人だから。

漫画のみの読者が、そのことを分かるのは随分後なのだが、
ゲーム知識があって当然の前提で話は進む。

その知識がないと、ただの まとまりきらない話である(実際そうなのだが)。

「LOVE-X」…
居眠り運転で学校に激突した宇宙船。
学校の生徒たちはそれを知らずに過ごすが、怪現象が頻発し…。

20世紀の白泉社漫画っぽい、作者の空想力が全開のドタバタSF恋愛漫画

情報力が多すぎて何が起きているのか いまいち分からないけど。
21世紀はこの手の漫画は流行らないのだろうか。
良くも悪くも、内容もコマ割りも分かりやすいものが増えている。

後に収録されている作者の短編も、
超常現象が その人の心の純真さを表す、といったテーマがあった。

ピュアなものへの憧れが作者の中に潜んでいることが、
漫画を通して投影されている気がする。