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少女漫画と小説の感想ブログです

機嫌悪そうだけど本音で話す人と、本音を言わないと機嫌が悪くなる人。

ぽちゃまに 6 (花とゆめコミックス)
平間 要(ひらま かなめ)
ぽちゃまに
第06巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

美化委員の仕事中、用具室に檜山くんと一緒に閉じ込められてしまった紬。後日、それを聞いてヤキモチを妬いた田上くんが紬に対して尋ねたのは…?そしてすれ違いを残したまま、紬と田上は勉強合宿で離れ離れに…?ほっこりラブコメ第6巻!

簡潔完結感想文

  • 喧嘩。彼女の心の持ちようまで厳しくチェックする束縛彼氏・田上。
  • プチ遠距離恋愛。心が離れたまま距離まで離れて考えるのは君のこと。
  • 結論。現実時間で1年間かけた1週間程度の喧嘩は、まだまだ続くぜ!

の喧嘩回が現実時間で1年以上続くとは思わなかった 6巻。

『5巻』で人を好きになる気持ちを丁寧に描いた作者。
その作者が今度は喧嘩を丁寧に描いてみた。

そしたら作者と登場人物たちの真面目さゆえに、
思った以上に陰湿な喧嘩になっていった『6巻』です。

しかも作者の都合で、ここら辺から連載が不定期になったり、
掲載誌が変更されたりと、話が継続的に繋がらない。

この喧嘩や展開が後々に重要な意味を持つとか、
2人の恋愛がより深化するエピソードだったら問題ないのですが、
全巻読んでも、さほど重要だと私には思えない。
ずーーーーっと暗い喧嘩をしてるな、と思うぐらい。

私の中では、登場人物、特に田上(たがみ)の気持ちが繋がらなかった。

『5巻』までは丁寧に描いていたのに、
『6巻』で急に田上の気持ちをトレース出来なくなった。

前日、普通に送り出したのに、
翌日、彼女を疑って尋問して、追い詰める。

紬の身体に残ったのは痣でキスマークじゃないんだから。
好き過ぎて相手を追い詰めたり、縛ったり、
そんな田上の危うさを描いたのだろうけど、
彼女が欲しい「答え」をくれなかったから、駄々をこねる性格は少し怖い。

この件が きっかけで紬が別れの意向を示しても田上は絶対 応じないだろう。
紬は とんだ地雷男とお近づきになってしまったかもしれない。


っと交際のの良い時も悪い時も描きたかったのだろう。

それが田上くんとの初喧嘩となる。

が、それは喧嘩にならない喧嘩で、
どうしても私には田上が一方的に不機嫌をまき散らしただけに思える。

実に男性らしい怒り方で、
鬱屈した気持ちを勝手に堆積して、それが爆発して彼女に八つ当たりのような言葉を投げている。

自分が異性には好かれないと思っている紬に苛立ち、
自分が彼女に自信を与えられない自分に苛立つ。

紬が田上以外に自分を好きになる男はいないと思い込んでいることに苛立ち。
そして自分の問いに即答しない、自分の欲しい答えを発さない彼女に苛立った。
田上は彼女を独り残して、一方的に距離を置く。

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例え錯覚でも有頂天になるほどの恋愛の喜びを彼女に与えられない自分が悔しい。

これが全部、田上の未熟さの表れなのだろう。
彼自身も反省して、一度出来た距離を2人ならどう埋めていくかを描くのが目的。

ただ時期が悪い。
何と言っても田上のライバルである檜山(ひやま)が、
純朴な恋に目覚めているところなのだから。

檜山が紬の良さを引き出す会話や関係性を築いている時に、
田上は自分の悪いところを引き出してしまった。

これは読者の受けが悪くなる。
作者もバランス調整のためか、『1巻』1話より前の
秘蔵のエピソードゼロを用意するが、檜山ほど好きが積もらない。
田上のフォローにも、想いの補強と補完にもならなかった。


持ちが離れたまま、プチ遠距離恋愛となる3年生の勉強合宿が始まってしまう。

離れていても想うのは相手のこと。
そして深く探る自分という存在。
2人の不器用さだけが目立ちます。

紬は、田上と交際後も他生徒たちが自分の体型への嘲笑の言葉を聞いていたことが分かる。
過去の経験の蓄積と、現在進行形での揶揄があるのなら自信を持つのは難しい。

ずっと消えることのないトラウマを、自分との恋愛で消せると思っているのは田上の傲慢だ。

そんな田上は、紬のことが好き過ぎて、
「どんな場合(コト)でも 他の男に触られるのは嫌だ…っ」と思うほど。

檜山は結果的に紬を好きになったけど、
これはどんな男にも適応される理屈なのだろうか。
紬に社会的活動をするな、と言っているのか?

そういえば紬の母は専業主婦(多分)で、夫一筋だ。
裏っ返せば、夫は妻を家に縛っているのかもしれない。
そして田上の母は、亡き夫(田上の父)のことが今でも好きで、
夫の蔵書を勝手に持ち出されることすら嫌う。

本書の中では恋愛は全て重めに設定されている。


ただし、こうなると疑問なのが田上は、
自分から異性(ダイエット中の茜・あかね)に触っていること。
ちょっとダブルスタンダード過ぎやしませんか?

そういえば『6巻』では田上の親友・誠司(せいじ)も女性に頭ポンをしていた。

類は友を呼ぶのか、作者の趣味や好みなのか、似たような行動や言動が多い。
田上の姉と紬の親友・まみちゃん も似ている部分が多い。
根底の格好良い女性像が同じなのだろう。

似ているといえば、田上がどんどん檜山に似てきている気がする。
髪型と髪色で見分けがつくが、ここでもヒーローが当て馬に食われだしている。

エピソードゼロの髪が短めの田上はサッパリしていて良かった。
今は髪型さえも性格の陰湿さの表れに見えてしまう。


女漫画で森が出てきたら遭難するフラグです。

勉強合宿中に紬は少しばかり遭難します。
そして、ずっと避けていた人に遭遇してしまう。
前回に引き続き、暗いところで檜山と一緒にいます。

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2人で逢引きする『暗いところで待ち合わせ ©乙一』作戦だったのではないか(嘘)

この檜山との遭遇も、仔細に報告しないと田上の機嫌は悪くなるのだろうか。

檜山のように歯に衣着せぬ発言で やや乱暴に会話してくれた方がストレスが少なそうだ。
田上の愛は重すぎて、応えるだけで大変そうだ。


森の中の暗闇で紬が見た星々が、愛ってことなのかな。

ずっと目を開けていると見えないが、
一度、視界を閉じて、目の前に何もないまっさらな状態で目を開けると見えてくるもの。

今回のように、一緒にいるのが当たり前なのではなく、
距離を置いてから、改めて その人を見れば、そこにある確かな愛を確認できる、という教訓か。

なんだか勉強合宿というよりも恋愛合宿ですね。
友人たちの事例など色々な意見を聞いて、色々なことを考えて基本に立ち返っています。

ただ問題は、合宿が終わっても、紬の目の前に天の川が広がらないということ。
次の『7巻』でも微妙な関係が続いています。
物語が湿っぽいなー。


この喧嘩回も1巻丸々使うような話でもない。
しかも1年ぶりの新刊だというのに。

喧嘩を経て仲直り。前より良好な関係です、で良かったのに。
丁寧に描き過ぎてスピード感が失われていく。

受験の3年生を描くだけでも重苦しくなりがちなのに、
恋愛まで上手くいかないとなると、息苦しくなるばかり。

紬の放つ大らかな優しいオーラを作品と作者が打ち消していくように思う。
みんな、真面目過ぎなんだよ…。