《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

痩せることよりも大事なのは自分を肯定すること、肯定できる自分でいること。

ぽちゃまに 8 (花とゆめコミックス)
平間 要(ひらま かなめ)
ぽちゃまに
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

無事に仲直りできた紬と田上。恋人としても一歩進んで、高校最後の文化祭を楽しむけど、今度は檜山が思わぬ行動に…!?そして近づく卒業――…紬が選ぶ未来は…!?全女子に勇気を贈るほっこりラブコメ、遂に感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 終止符。長かった横恋慕に決着の時。敗戦処理なのでドキドキしない。
  • 不安。過食を強要する母に代わって料理をしたら痩せた。痩せてしまった。
  • 未来へ。卒業後は遠キョリ恋愛になる2人。でもこれは未来のための第一歩。

トレス痩せの心配も完結後にはなくなる 最終8巻。

表紙の主人公・紬(つむぎ)はマダム感ありますね。
実はこれが2人の10年後、いや20年後の姿だと言われても違和感がない。

本書の結末からいって、紬は良くも悪くも痩せないだろうから このままだろうし、
恋人の田上(たがみ)も ずっと体型が変わらないまま紬と添い遂げそうな気がする。

そんな確かな未来が約束される『8巻』です。


書の総合評価は実に難しい。
実に丁寧な物語だし、私の嫌いな少女漫画特有の俺様ヒーローは自己中心的なヒロインもいない。

私の評価は10点中5点と辛め。
欠点の少ない物語なので6点、いや7点でも良い気もするが、
長所もそれほど思い浮かばないのも正直なところ。

作者も登場人物たちも真面目なのだろう。
真面目すぎて漫画的な面白みを出せていない。
だから圧倒的に地味だ。
特に後半~最終盤は地味な上に超スローペース。
『8巻』なぞ2話か3話で描き切れる内容を、1巻分8話に伸ばした感じを受ける。
この希釈感が評価を下げた。

後述するが長編として零れ落ちたものが多いのも気になるところ。
読切短編からの長編化で、人の配置が後付けなこともあるだろうが、
横に広げた物語を放置したままなのが残念だ。

逆に言えば、それだけ続編や後日談の余地がたくさんある。
描き切れなかった物語を描くことをライフワークにしてくれてもいいんですよ☆


来は盛り上がる三角関係も、戦後処理って感じがする。

三角関係の成立(檜山(ひやま)の告白)を、
紬と田上2人の喧嘩の仲直りの後に持ってきたのは、
喧嘩と告白を別個の問題として紬に処理させるためだったのだろうか。

確かに これによって紬は少しも心が揺らいだりしなかった。
田上を愛し続け、そして田上から貰った愛で檜山に対する姿勢が固まった。

檜山の存在理由は、田上ではない他の男性を紬に見せるためだろうか。
恋愛どころか、男性と縁遠かった紬。
彼女のきょうだいが 三姉妹なのも、男性に耐性がないことの補強要素だろう。

紬は、田上と違って檜山の想いに鈍感で、彼を初めての男友達だと認識していた。
けど、今回その檜山に告白されたことで彼女の男友達はいなくなった。

恋人願望とは全く違うが、友達願望を持っていたのに、
相手はそうは思っていなかったことが紬にとってショックだったのではないか。

この件によって、紬は今後「ぽっちゃり」を全く恋愛対象としない男性にまで警戒しそうだ。
そして自意識過剰のデブ(敢えてこの言葉を使わせてもらう)として
男性たちに陰口を叩かれちゃいそうなだぁ。

逆に田上の親友・誠司(せいじ)くんは紬との接触機会が少なかったなぁ。
彼にこそ男友達1号になって欲しかった。
存在が希薄ですよね、誠司くん。


が気持ちには応えられないと言ったにもかかわらず、
「俺は お前が幸せなら それでいい」といった檜山は、
「俺は お前が近くにいて 名前が呼べれば それでいい」といっていた
『町でうわさの天狗の子』の瞬(しゅん)ちゃんを連想させますね。
特に檜山は自分を介さずに、ただただ紬の幸せを願っている。

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檜山の方が体型関係なく、紬の心根を好きになったと読み取れてしまうなぁ…。

どうしても檜山の方が田上よりも大きな愛に感じてしまうなぁ。
それを読者に感じさせないように、田上を先に成長させたのだろうけど、
檜山と田上の恋情に明確な差異がないような気がしてしまう。
紬の恋をゲットしたのは先着順?


は結局、愛されヒロインですね。
悪く言えば受動態のヒロインです。

田上くんに触りたいと思えば、あちらから触ってくれるし、
痩せる必要もないし、田上くんを「男」として見る視線さえあれば大概 許される。

最終巻にして意地の悪い言い方が続きますが、
もうちょっと彼女の方も田上に歩み寄るとか、
敢えて厳しいことを言うとか行動を見せて欲しかった。
特に後半は、田上が勝手に怒って勝手に許してデレデレするという展開が目につく。

菩薩という便利な言葉で彼女は縛られていた気がする。
もう、これを代名詞にしたらワガママの一つも言えなくなってしまう。


して最後まで体重の呪縛が彼女にまとわりついていた。

受験勉強の気分転換に、たまに家族の夕食を作るようになった紬。
栄養士を目指して勉強しているだけあって、彼女の料理は美味しくヘルシー。
そして受験勉強のストレスや、勉強のため生活スタイルを変えたために、ある現象が起こる。

痩せるのである。
痩せてしまうのである。

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痩せることで存在理由の危機に瀕する紬。そして自分も痩せられることを証明してしまった紬。

痩せることで不安になる。
これは紬ならではの不安で、本書オリジナルの展開ですね。
ぽっちゃりマニアの彼氏が幻滅することを恐れるのだ。
まるで痩せることは悪で、暗い未来が待ち受けているかのように思う紬。

もちろんこれは成績が振るわなかった不安から彼女が囚われる幻想なのだが、
でも、田上が体重で紬を縛っていることの表れのようにも思う。

大量に料理を作り過食を勧める母同様、
田上も婉曲に紬に過食を進めてはいないか。
開放されたはずの、見た目に囚われるルッキズムなのに、
田上によって違う種のルッキズムが生まれてはいないか。


ここは『私がモテてどうすんだ』の1話と同じく、
漫画のように痩せてみて、田上の反応を窺いたかったところだ。

田上はどう反応するだろうか。
なくなった揉み心地に執着するだろうか。
それとも、どんな姿をしていても紬が好きだと田上に言ってくれるだろうか。

ここまできて田上を疑うことはしないが、
田上なら否定しかねない、という気持ちも払拭できない。


しかし紬の新生活様式って、母の子育ての否定の気もするなぁ。
作り過ぎる食事、それの半強制など、母は反省すべきところが多い。

きっと近所でも評判の美人妻である母と、
その娘なのに、悪評ばかりが漏れ聞こえてくる紬。
ここにもコンプレックスや反感・反発はあってしかるべき。

本書では母は永遠の少女、悪意ゼロなので そんな展開はないし、
母は1ミリも反省していないが、私は この母親だけは許さない。


角関係を経た2人が到達するのは、結婚の約束である。

田上の性格を考えれば、さもありなんという展開だ。
ただ肉体関係も遠距離恋愛も経験しない内から先走るのは若さが漲り過ぎている。

そして意地悪く言えばこれも田上による呪縛である。
田上から、そして作品から菩薩で聖女と定義されてしまった紬。
彼女に断るとか戸惑いの選択肢は与えられない。

ハッピーエンドなんだけど、妙にモヤモヤが残る。
私の中では後半に物語を覆った雲が厚すぎて、
最後までスッキリ晴れ渡らなかった感じだ。

単純に2人の恋愛が、あんまり楽しそうに見えないのが原因か。

そういえば檜山の告白の返事も、田上の求婚の返事も立入禁止の屋上だったけど、
これは開放感や、お天道様に誓って、という演出なのだろうか。
両日とも天気がいいのは紬の心情を投影しているからだろうか。

紬が次の夢の舞台へとステージに進んだことから、
田上の求婚への返答をして物語は幕を閉じる…。


終回は全員集合の卒業式。

仲良し4人組の中で1人だけ浪人するという現実感が良いですね。
少女漫画にありがちな、主人公の周囲の人がみんな恋人が出来て、
みんな幸せな未来へ進むというよりは、幸不幸の配合が絶妙だと思います。

『4巻』からダイエットを続けてきた茜ちゃんも完成形へ。
ほぼ1年をかけた長期企画は大成功に終わった模様。

背も高いしモデルさんのようである。
彼女は ますます素敵な大人っぽい女性になっていく予感がする。

ずっと気になっていましたけど、本書の女性たちって胸だけが豊満ですよね。
紬はともかく、友人も痩せた茜ちゃんも胸の存在感が他の漫画に比べて一回り大きい。

どちらかというと女性の生態や体型を描くのが好きそうな作者の趣味だろうか。


そういえば男性の ぽっちゃりは父親以外は登場しませんでしたね。
彼も悪魔の妻(しつこい)の餌付けによって太らされた被害者だろうから、
学生時代などは痩せていたのだろう。

ぽっちゃり男が同士の ぽっちゃり女の紬なら
狙えると勘違いしてアタックする話も読みたかったかも。

まぁ、男性の逆ギレによる悪口が酷くて読むに堪えない話になりそうですが…。
それに三角関係は檜山で最初で最後だろうから、この展開は難しいか。


書への不満点、というか好きだからこその願望も多い。

まず、田上の母を登場させて欲しかった。
紬が彼女と対面して、交流して、帰り際に
田上くんを産んでくれてありがとう、というベタな展開でいいから見てみたかった。
強烈な個性を持つ姉との交流も思った以上に少なかったし。
もっと、広がった人との繋がりを感じられる場面が欲しい。


そして茜ちゃんの恋。
こちらも上手くいけばいいというものでもないが、
茜ちゃん回となった『4巻』からフラグばかり立てていた気がするが、見事にスルー。

この辺に回す余力が作者に残っていなかったのか。
万全な状態で描き切った時の物語がどうなったか、をどうしても考えてしまう。


誠司も失恋から逃げ回っているだけだったなぁ。
次の恋に進まなくていいから。
最終回までに、彼なりの向き合い方を描いて欲しかった。

紬の親友・まみちゃん の彼氏といい、描いてそれっきりの話が多い。
この辺も、長編としての総合評価を下げるところである。