平間 要（ひらま かなめ）
ぽちゃまに
第05巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★☆（5点）
ヤキモチを妬いたり、妬かれたり… 田上くんとの恋でいろんな気持ちを知っていく紬。夏休み中、委員の当番で紬は檜山くんと一緒になるが、そこで彼のドジっ子スキルが発動!?そして、田上くんを安心させてあげたい…と思う紬は…？ほっこりラブコメ第5巻☆
簡潔完結感想文
- 裸祭り。君の下着を脱がすのも隠すのも俺だけに許された役割。
- 家族のいない家で。身体が熱いのは風邪のせい？ それとも火照り？
- 暗いところで待ちぼうけ。このイベントを田上くんと出来たら…。
ヒロインが、ちゃんとヒロインしている 5巻。
2人の男性がヒロインの紬（つむぎ）を巡って暗闘したり、
恋愛イベントが多発したりと、少女漫画の主人公らしい働きをしている。
ここまでくると読者にも、紬の体型も物珍しくないからか、
あまり触れられず、1人の女性の恋する気持ちが丁寧に描かれていきます。
初読の印象が地味だな、という印象しかなかったが、
こちらがきちんと読もうとすると、作品側がしっかりと答えを返してくれた。
まぁ、受験まであと半年を切って恋愛イベントがより少なくなる中、
三角関係一本で、あと3巻お送りするのだから、やっぱり地味なんですが…。
男性側の気持ちに全く気付かず、男友達だと思っている典型的なヒロイン像も、
自分に自信のなかった、本当に恋愛と縁のなかった紬なら不自然さもない。
人生で初めてのモテ期に、彼女はどう対応するのだろうか。
ヒロインらしい といえば、三角関係の当て馬・檜山（ひやま）もヒロインっぽい。
かつて こんなにも男子高生が恋に落ちていく瞬間を捉えた少女漫画があっただろうか。
ぼんやりと感じていた自分の想いが、
恋として鮮明に現れるまでを贅沢に紙面を使って描いている。
それは本来の主役の紬よりも、その恋人・田上（たがみ）くんよりも繊細な描写だ。
これは少女漫画における三角関係の構造的欠陥ですよね。
当て馬役が弱すぎると話が盛り上がらないし。
強すぎるとヒーローを食ってしまう。
特に本書の場合は読切短編で両想いになったので、
想いの強さの描写の少ない田上くんに不利。
そうして、恋人の田上くん、紬の親友の まきちゃん に続いて、
紬の僅かな表情を見抜ける人が誕生しました。
自分を「男」として見てもらえるように檜山の戦いが始まる。
それだけが1巻分の進みです（恋人関係の深化もあるけど）。
紬が高校3年生ということもあり、季節の移ろいは緩やかです。
しばらくは、まだ夏休み中の話。
最初の話は、男たちが無駄に裸になる裸祭り。
夏祭り（『4巻』）で嫉妬という感情を知った紬は、
田上を安心させるためにも檜山と物理的な距離を置く。
でも檜山に気取られるほど、あからさまに距離を置くのは防御が過剰ではないか。
紬は不器用なところもあるから仕方がないが、
恋人が嫉妬するから～♥、という理由で避けられたら気分が悪い。
しかも紬は無自覚で、根拠は田上の勘だけである。
田上はマニア＝マイノリティな訳で、
多くの男性にとって、紬は異性として無視される存在だったのに。
こうも自意識過剰にされると、
もし好きでもない場合、相手の方が無駄に傷つく。
相手の機嫌が悪かったり、器が小さければ「お前なんか眼中にねーよ、デブ」と言われかねない。
ただし檜山は明らかに紬を女性として扱っている。
檜山のドジが炸裂して紬がずぶ濡れになり下着が透けた時に檜山は明らかに反応していた。
女性の下着を見たことがない訳ではないらしいが、動揺が見て取れた。
顔は強面（こわもて）だが、檜山は田上と同じ「察しのいい人間」だと思われる。
男たちは似た者同士だから、紬に惹かれるのも同じなのだろうか。
真面目過ぎる面もあるが、嫉妬したり、
相手の気持ちが揺るがないことを確かめたりと、恋愛が やや後ろ向きである。
続いても夏休み中の話で、少女漫画の定番・看病回です。
受験生の彼女を置いて、家族が里帰りしている最中に紬が熱を出す。
その原因は犬の散歩中に突然の豪雨に打たれ、
自分の身体よりも飼い犬を優先して乾かして、冷えてしまったから。
これは実に紬らしい描写ですね。優しさが溢れています。
『4巻』の感想文で、紬一家の描写が羽海野チカさんっぽいと描きましたが、
飼い犬のわたあめなど、まさに羽海野さんチックです。
少女漫画のペット、喋りがち。
1人で家に寝込む彼女のもとに現れるのは、当然ヒーロー。
禁断の一夜の始まりです。
檜山から遠ざかるのではなく、田上に近づくことで彼を安心させたい紬。
もう性行為フラグが成立している。
後述の理由により、田上の最大最後のチャンスだったかも⁉
（紬が弱っている時だけど）。
田上は看病慣れしている。
姉は無茶して倒れるし、亡き父は身体が弱かったから。
そういえば亡き父は主夫だったらしいが、蔵書の量が凄かった。
難解そうな本をたくさん持っていて、賢い人だったのだろう。
もしかしたら田上の親友・誠司（せいじ）は父親と似ているのかもしれない。
田上が彼を気遣う理由の一つに、亡き父の影があるのかもしれない。
そんな誠司の恋愛話も『5巻』には収められている。
しかし少女漫画における男兄弟の弟は、兄の恋人や義姉に恋しがちですよね。
これも少女漫画あるある、でしょうか。
田上との性行為に待ったがかかるのが次の話。
夏休み明けに担任教師との面談があり、
合否判定のテストの結果が思わしくなかったことが告げられる。
成績が振るわない理由を彼氏じゃないかと推察する男性の担任。
生徒のみならず、先生にまでカップルだと認識されているんですね。
（田上が紬のクラスに入り浸ったことが原因だが）
成績不振は自分の問題だと理解している紬。
自分が受験生だから実際に会うのも、連絡すらも自制してくれている田上に申し訳なく思う。
2人とも真面目過ぎる。
このまま、力の抜き方を知らないと息苦しい関係になりそうだ。
この回で、紬の進路が決定。栄養士です。
夢に向かって邁進するこの時期に、田上と肉体関係を持ったら彼で頭がいっぱいになり、
受験に差し障ると考える紬は、田上とも一定の距離を保つことを宣言する。
これで在学中はお預け状態が決定されました。
こんなことなら昨年度中に…、とか田上は思っているのでしょうか。
しかも来年は田上が受験生で、色恋に溺れている場合じゃないし。
お預けをくらっても、約束を貰った田上はご機嫌。
田上は檜山の言葉で、紬が自分を「男」として見ていることを知った。
自分だけに見せてくれる顔があるから生きていける。
そんなご機嫌な田上とは反対に、檜山は不機嫌。
田上を悩ませていた、紬と檜山の美化委員の当番も今回で終わる。
檜山は田上といる時の紬の目を知っている。
だから、それとの比較で自分が彼女に「男」として見られていないこと知っている。
それが不機嫌に繋がる。
今回も、檜山のドジっ子体質で部屋に閉じ込められたり、
紬が檜山を下敷きにしてしまったりと色々起きますが、
その中で分かるのは、檜山も紬も相手の心配を先に出来る人だということ。
まぁ、内省的と言えるけど。
題材として不良と温和なぽっちゃりが距離を詰めていく方が楽しく思えてしまう。
閉じ込められた部屋の闇から出た時に、
檜山は紬が自分を見る目が変わっていることを期待したのだろう。
でも変わっていなかった。
そこで分かったのは、変わっていてほしいと期待した自分の心。
既に紬を女性とみていた檜山ではあるが、
かつて田上がぽっちゃりマニアになった時と同じように、
檜山は、今回ぽっちゃりの下敷きになった。
視界以外の感覚が研ぎ澄まされた暗闇の中で、
何かが目覚めちゃったのかもしれません。
皆さんも一度、ぽっちゃりの下敷きになってみませんか？
しかし相変わらず、ダイエット中の茜（あかね）に頭ポンをする田上でしたね。
紬から嫉妬を引き出すための技なのでしょうか。
