平間 要(ひらま かなめ)
ぽちゃまに
第04巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★☆(5点)
紬にぽちゃ弟子が誕生!? ぽっちゃりだけど彼氏がいる紬に憧れ、後輩ぽっちゃり・茜が弟子入り!? だけど、実は『ぽっちゃり』を受け入れられない茜に気付いた紬。田上くんと一緒に茜のダイエットに協力を!? 一方、強面・檜山くんと同じ委員の当番になったことを田上に言えてなかった紬は? ほっこりラブコメ第4巻!
簡潔完結感想文
- 紬の分身。痩せられない宿命にある紬に代わってダイエット企画発動。
- 交際は安定期。勉強回・夏祭りデート回を収録。早くも高校3年生の夏。
- もう1つの長期企画・三角関係編。誰かに見られると興奮する田上くん⁉
約10ヵ月に及ぶ(推定)、長期企画が始動する 4巻。
それがダイエット企画。
ぽっちゃり の日常と恋愛を描いているがゆえに禁じられていた企画が今、始まります。
ヒーローである田上(たがみ)くんは、ぽっちゃりマニアで、
その延長でヒロインの紬(つむぎ)を好きになった。
なので痩せてしまって、彼のストライクゾーンを外れるということは、
交際して半年以上が経過したのに2人が別れるということである。
また悪魔のように娘に大量の食事を なかば強要する母親の存在もあって、
主人公は痩せることが許されない。
ぽっちゃり を扱いながらもダイエットが出来ない現状を打破したのが、
新キャラの登場です。
その人の名前は伊藤 茜(いとう あかね)。
1年生なので学校内では最年少キャラである。
彼女もまた ぽっちゃり さんである。
一見、紬サイドの人だけど、紬とは違う人。
彼女には、紬では出来ないことを全てやってもらうという役割がある。
良くも悪くも呪縛がある紬に代わって、変化を体現する。
茜の口を通して本書で初めて「デブ」という言葉が使われた(多分)。
どんなに口の悪い男性キャラでも言わなかった禁句を、茜自身が使った。
他者から揶揄が入っていなければ自分で言う分には良いのだろう。
現実的には、ぽっちゃりよりもデブと言われてしまうことの方が多いだろうが。
茜は、かつて好きな男子生徒に告白して振られた過去があった。
「つきあうなら痩せてる女がいい」という相手の返答は、人間性に欠けるし、
ちょっと作為的なセリフに思うが、この経験もあって茜自身は痩せたい。
茜は痩せたいと思っているが、痩せられずに苦悩する人なのだ。
これは痩せられなかった時に、自分を好きになるよう努めた紬とはちょっと違う。
そして1話で両想いになった紬に代わって、
まだ恋が成就したことのない 不安を抱える ぽっちゃりとしての役割も担う。
茜は本書の中で一番、考えられた配置だと思う。
役割とか動機付けとか、彼女でしか描けないものが たくさんある。
様々な面で痩せることから解放されている紬に代わって、
痩せることの難しさを体験談と共に綴る。
茜の登場は、連載の継続が約束されたからなのだろうか。
でないと、こんなに長期間を要する企画は始められない。
そして檜山(ひやま)と紬カップルの三角関係も長期企画なので、2つの企画が同時進行することになる。
恋人がいることも含めて人生の先輩である紬を、茜は師匠と呼び付き添う。
かつて同じ悩みを持った者として助言をする紬。
まずは彼女と友達になることから始める。
それはきっと自分を見てくれた人(親友となる まみちゃん)がいたことが彼女の救いになったからだろう。
そこで紬は茜を自宅に招待し、夕食を共にするのだが…。
紬の家族って、羽海野チカさん感ありますよね。
(作者や紬の母としては『若草物語』らしい。
教養のない私は未読なので、比較できないけど)
私が見た、作者のネットのインタビューでは羽海野チカさんの漫画が好きだと仰ってたので
完全なる偶然という訳ではないだろう。
特に母親。少女趣味でテンション高くて母性に溢れてて、
『3月のライオン』の長女を連想させます。
母が長女で、あとは年齢的なことも含めて次女は次女、三女は三女という感じ。
ただし、食事の件は許すまじ(しつこい…)。
そして母はやっぱり「ぽちゃまに」ですね。
茜は紬と出会って幸せですね。
自分のことをここまで分かってくれる人はいなかったのではないか。
私などは努力すれば痩せると根性論を言いたくなってしまうが、
ダイエットに失敗した経験がある紬は、その苦労が痛いほど分かる。
ここからダイエット体験記が始まります。
ぽっちゃりの人も、そうでない人も、
体重を気にする読者は多いから、ためになる蘊蓄が満載である。
痩せたいのに簡単に痩せられないことがよく分かった。
紬に助言を貰いながら懸命にダイエットに励む茜。
しかし紬は失敗した者。
そして痩せる気がない者。
そんな彼女が、真剣に取り組んでいる茜を助けられるのか悩む。
過去の経験は同じでも、現在、そして未来はは違っていく。
でも紬が協力者で理解者で観察者だからこそ、茜は歩みを止めない。
明確な目標がある訳ではないが、見てくれている人がいる。
それがこれまでとの違いとなるのではないか。
ダイエット蘊蓄を語るのは、茜のクラスメイトの大西(おおにし)くん。
彼はダイエットをした姉に付き合わされていたから、その大変さが分かるらしい。
彼も田上と同じで、姉がいる弟だ。
そして彼もまた理系らしく数学が大得意の大五郎(だいごろう。大西の名前)。
姉弟の関係や数学の出来る男は作者の好みなのだろうか。
ビジュアルこそ違うが、背景が田上と似すぎている。
そして、餌で集めているとはいえ、動物(鳩)に埋もれる黒髪メガネの図は
赤瓦もどむさんの『兄友』の当て馬、加賀(かが)くんを連想させた。
脇役キャラの安易なカップリングは好きではないですが、
この大西くんと茜との恋愛はもう少し先まで見たかった。
フラグばかり立ててる気がしたが、最終回までに恋の結末は描かれず。
この辺も後半の不定期連載の影響なのだろうか。
一定の効果が出たところで茜のメインの話は終了。
しかし茜のダイエットは最終回まで続きます。
急激に劇的に痩せるのではなく、着実に痩せていく様子が良い。
その後は定期報告となる。
この余裕を持った構成も、人気を得て長期連載の見通しが立ったからだろうか。
『1巻』・『2巻』の売り上げが良かったからとか、そういう商業的な理由が背景にあるのだろうか。
今回、田上は茜に歯に衣着せぬ発言をして、彼女を傷つけてしまう。
ここで田上が心無いことを言うのは、
ただダイエットに付き合うだけじゃ、何も起きない紬との関係性に波を起こすためと、
田上がダイエット企画に積極的に参加する動機付けだろう。
しかし田上の茜の頭ポンは何なのだろう。
弟妹がいるから癖でとかなら分かるが、彼女の前でやるのは無配慮じゃないか。
それとも触りたくなった物には触るという彼の癖でしょうか。
それだけ茜のことを認めている、
感情が動かされた、と好意的に解釈することも出来ますが。
頭ポンなんてされたら簡単に少女漫画のキャラは好きになっちゃう。
ずっと一緒にいることもあって、茜の田上への恋愛フラグが成立しかねなかった。
もしかして大西の存在は、絶対に茜が田上を好きにならないという抑止力のためにあったのか。
それなら、茜のメイン回が終わっても、
大西との関係も進まないのも理解できる。
必要だったのは、茜が田上を好きにならない理由だけだもの。
ダイエット企画の次は、『3巻』から始まった三角関係編。
カップルと、檜山(ひやま)を加えて微妙な三角関係が始まります。
こちらも長期戦の様相。
檜山の影がちらつきながらも、順調に交際している2人。
『4巻』では勉強回と夏祭りデート回があります。
一緒に勉強するために紬の家にやってきた田上。
部屋で2人っきりになる彼らに母は、
娘と彼氏の前で肉体関係の禁止を宣言して釘を刺す。
母は天真爛漫の設定なんだろうけど、やっぱり本書の中で一番嫌いかも。
デリカシーがない。
紬と違って、自分が他者から嫌悪されるなんて思ったことのない人生なのだろう。
田上は男の勘で、檜山を忌み嫌う。
親友の誠司(せいじ)はいいが、檜山と2人きりになるのはダメだという田上。
ちょっと醜いぐらいの嫉妬心ですね。
基本的に物語の後半はヤキモチで進行している気がする。
しかも人を試すようなヤキモチで、
一人で熟成していくから湿度が高め。
田上って意地が悪いのだろうか。
檜山に紬とのラブラブを見せつけることで彼を牽制している。
男たちの水面下の争いが始まります。
現時点では紬は始まっていることすら気が付かない。
無意識に田上の機嫌を損ねることがなければいいが。
ちなみに受験生の紬は塾や講習などに参加せず、
自宅で独力で勉強するみたいだ。
1人で問題を解決してきた紬には合っている気がする。