平間 要(ひらま かなめ)
ぽちゃまに
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
むぎと田上が付き合いだして、はじめての冬!クリスマス、お正月、バレンタインと胸キュンイベント目白押しでさらに急接近☆ のはずが、 ライバル登場で…!? 超話題ぽっちゃりラブコメ第2巻!
簡潔完結感想文
- 距離を置く。ラブラブな2人であまりに事件が起きないから邪魔者を配置。
- 冬の3大イベント開催。本書では珍しい季節のピッタリ連載。これ以降はない。
- ライバル出現。自分が愛される理由は太っている一点だけなのか悩む紬。
作中時間と現実時間がシンクロする 2巻。
『2巻』は本書ではレアな事象となる、連載の月に合わせた季節のイベントが作中でも起こる。
それが主に「冬の3大イベント©『町でうわさの天狗の子』」である。
クリスマス・初詣・バレンタインの3つがそれにあたる。
この後は作中の1年強が、現実世界の6年に相当し、
時計の長針と短針が重なるように、季節が一致するのは偶然一致した場合だけである。
恐らく作者が狙ってイベントを意識したのは『2巻』だけじゃないだろうか。
(最終『8巻』の最終回付近も狙っているかもしれない)
ここから『5巻』ぐらいまでが連載安定期だろうか。
それ以降は不定期連載のようになっていきます。
ただし それが急がず、着実に歩みを進める
主人公・紬(つむぎ)たちの恋愛観にマッチしているように思えるのは、怪我の功名か。
恋愛漫画のセオリー通り、順調な2人を待ち受けるのは邪魔者である。
『2巻』では物理的に心理的に近づくことを阻害される紬たち。
風紀委員や部活、ライバルからの一言で
一緒にいる時間や自信を奪われることになる。
『1巻』ラストが水着回だと思ったら、季節はあっという間に移ろい秋。
校内で有数の有名カップルとなった紬たちの前に風紀委員が現れる。
神聖な学び舎の風紀を正すのが風紀委員の役割。
そこで田上(たがみ)は度を越した肉体的接触(二の腕の揉みしだき)を禁止される。
愛撫のような接触は控えることになったが心は近づいた、という王道の展開になる。
これは学校内では、田上がこれ以上は破廉恥なことはしないという作者が出した安全宣言でしょうか。
じゃないと、田上が欲望のままに揉んでいる変態男になってしまいますもんね(時すでに遅し、か?)。
風紀委員が身だしなみではなく、生徒の いちゃつき にまで口を出すのかは疑問だが、
彼らの役割を教師が代行してしまうと、事が大きくなりすぎるのだろう。
そうなると教師から注意を受けたことがないであろう紬が委縮してしまう可能性がありそうだ。
ここは同じ生徒同士の方が角が立たないのだろう。
続いては早くもクリスマス回。
この回の田上くんは少し不遜だよね。
紬は「ぽっちゃり」が原因で恋愛沙汰と縁が無かったから、
クリスマスイベントを自分が経験させてやりたい、という。
なんというか上から目線というか。
ぽっちゃり体型だから何も上手くいかないと言っているようだし、
普通の体型ならクリスマスに縁がない人などいないとも聞こえる(被害妄想?)。
そして、まるで田上は好きな人とクリスマスを過ごしたことのあるような言い分である。
そんな描写はないし、元カノ問題も一切、出てこない。
この辺りは、ぽっちゃり というテーマを活用しなければ、という作者の義務感が見える。
もう この時点でも彼女が ぽっちゃり体型の普通のカップルなのだから、
田上は体型云々言わないで、紬と過ごす初めてのクリスマスに浮かれてればいいのに。
初交際の初々しさを素直に描けばいいのに、体型を絡めるからストレートに響いてこない。
そんなクリスマスを邪魔するのは部活動の試合。
田上は弓道部という設定です。
田上は拘束から一時逃れて、約束なくツグミに会いに彼女の家に赴く。
ファーの付いた帽子をかぶる田上は、まるでサンタクロースであった。
恋人がサンタクロースなので、紬はサンタにキスをした⁉
自宅への不法侵入が見つかって、田上が出頭するのが年始。
出頭場所は紬の家。尋問するのは紬の家族たちである。
ここで初めて彼女の両親と対面になります。
私の中の「少女漫画あるある」では両親と対面したカップルは結婚する確率大なので、
これで2人の将来は安泰だというフラグが立ちましたね。
クリスマス回で田上もそんなようなことを言ってましたし。
この回で、紬の家族が全員登場。
母は若作りの少女のような人。
だが自分の都合で家族を太らせる悪魔である(『1巻』の感想参照)。
母以外は家族全員がぽっちゃりである。
ちなみに母親が太らないのは「胃下垂」だからだという。
家族が太ったのは母親のせいだけど(怒)!
もしかして母は ぽっちゃりマニアなのだろうか⁉
最近、娘の笑顔の質が変わったという紬の父親の指摘に対して、田上は
「紬さんは自分で自分を笑顔にする力を持ってます
いつも笑顔にさせてもらってるのは僕の方です」と答える。
一見、良い受け答えに思えるが、田上の責任放棄にも読める。
後半のバレンタイン回でも田上は、紬の問題は紬自身で解決するのを待っていた。
それは信頼感のなせる業かもしれない。
ただ、同時に少し卑怯な気もする。
自分は紬に笑顔を与えられないと言い切ってはいないか。
1学年違うこともあって、少し遠慮が残る2人の関係。
思えば最終回まで自立した関係だったと言える。
ちょっと目指すところが大人すぎて共感しにくかったかな。
この回はラストで初詣回となる。
紬は着物が似合うなぁ。
続いてのバレンタイン回は、田上くんを好きな女性が登場。
本書初のライバル回となっている。
本書は幸せが高止まりしているので、良くも悪くもどこでも最終回を迎えられる構造である。
私は全2巻で終わっても良かったぐらいである。
紬と田上くんの2人の姿はずっと見ていられるけど、
これ以上の問題を作者が掘り下げられるような気もしない。
そう思う一因となったのは、
恋のライバルに心無い一言を言われた紬が、彼女と話し合うシーン。
ここでの紬の言い分は『1巻』1話で田上に語った話と全く同じなのである。
奥ゆかしい紬だから、田上を選んだ/選ばれた理由など語らないだろうけど、
自分語りに終始して、田上への恋心が感じられない。
交際後のことなのだから、ここは恋愛経験を通して変わった自分に言及して欲しかった。
紬が他者を悪く言わないことは分かるのだが、
綺麗事が過ぎると、作り事に思えてしまって共感ポイントを失う。
そして紬の言うことは宗教体験のようにも感じられた。
この神様を信じたら友人も出来たし、恋人も出来ました、
心の持ちようで物事は好転するんです、という奇跡体験のようであった。
これが「心を磨く」ことなのかなぁ、と疑問に思ってしまう。
また、紬の田上への執着が無さすぎて、少し田上が可哀想に思えるぐらいだ。
恋愛ってもっとエゴイスティックなものでもあると思う。
田上は「ぽっちゃり してる女性しか愛せない」と言い切る。
これは性癖で性的嗜好だろう。
紬は愛される資格を最初から持っていて、
田上に告白した子は、太った自分を許容できない時点で資格がなかった。
もしかして、これと近い状況は、同性愛者に告白した場合じゃないだろうか。
限られた人間しか愛せない、そんな彼を好きになってしまった。
彼女の場合は、太るという選択肢はあるものの、
どうしてもそちら側に行けない自分がもどかしくて、
最初からそちら側にいる紬を逆恨みした。
田上に彼特有の性癖がなくて、紬でない他の女性が田上の彼女になった時には、
この彼女は何かしらの欠点を見つけて、その人を批判するに違いない。
結局は自分が選ばれないことが悔しいのだ。
でも、そんな彼女は とても人間らしいと思う。
ちなみに紬の笑顔の真偽を見抜ける資格を持つのは田上と まみちゃん。
紬の友達としてクラスメイト仲良し4人組を描いていながら、
他の2人は紬の変化に気づきもしないというのが、なかなかシビアである。
田上も まみ も、ちょっと格好つけすぎている感じがあるが。
「アナタじかん」…
家庭教師だった男性を追って、彼が教師として働く学校に転校した高瀬 直(たかせ なお)。
だが家庭教師だった彼と、先生になった彼のギャップが直は気に入らない…。
子供! ガキ! と言いたくなるほどの自己中な理論である。
才女設定だがモラトリアムが過ぎる。
お葬式で はしゃいじゃう子供ぐらい周囲の空気が見えていない。
ある意味では本編の紬と母親の関係もそうだが、
この短編の直は常に母親の顔色を窺って生きていた。
だから自分が自分でいられた 家庭教師中の時間を宝石のように仕舞っていたのだろう。
こういう母親からの抑圧は作者の心にそういう問題が潜んでいるからなのか。
あと一日中、家人がいない家なのに、娘につけた家庭教師が男性なのも配慮が足りない。
直の母親は、人を無能と言う人ほど、あまり有能ではないという法則の通りなのかもしれない。