《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

俺が離れている間に奪われた席と、ずっと場所を確保してくれていた友情。

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岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第06巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

ようやく瞬(しゅん)ちゃんが京都修行から戻ってきた。だが、瞬ちゃんのいない間に、石鎚山(いしづちやま)五郎坊(栄介くん)のいる四国へ初詣に行く約束をしてしまった秋姫(あきひめ)はちょっぴり気まずい雰囲気に…。一方、クリスマスに、初詣に、バレンタインと“冬の3大イベント”を控えた女子たちは、“ほんとの恋”さがしに夢中で――!?

簡潔完結感想文

  • 11月に入って瞬ちゃん帰還。そして冬の3大イベント開始。少女漫画の王道にファンタジーを添えて。
  • 恋愛は位置取りが命。虎視眈々と好きな人の隣を狙う肉食女子たちと、彼の隣を歩く私ではない彼女。
  • 3大イベント中も恋愛を必要としていない秋姫に代わって、同級生たちが恋を一歩踏み出してみる。

分の不在の間に、空席が埋まっていくような感覚を覚える焦燥の 6巻。

『6巻』は引き続き、すれ違い回といった感じです。
そして瞬(しゅん)ちゃんの嫉妬で不機嫌になる瞬ちゃんのオンパレード回ですね。

物語の構造的にはどんどん少女漫画に特化していってます。

『5巻』の遠距離イベントに続いて、
今回は「クリスマスに、初詣に、バレンタインと“冬の3大イベント”」が全部 実施される(バレンタインは『7巻』に続く)。

また他にも、天狗ではあるもののヒロインにちょっかいを出す当て馬が登場したり、
それを牽制するために偽装交際をしてみたり、
またヒーローに ずっと付き添う女性の存在があったり、と
要素だけ抽出すると紛れもなく少女漫画の構造になっている。

そんな展開でも既視感がないのは、
基本構造の上に、ファンタジー世界とギャグが絶妙なバランスで配置され、
そして幾人もの人の恋愛まで織り込んでいるからだろう。
改めて俯瞰で見ないと、少女漫画的構造は気づきにくい。
そして とにかく情報量が凄い。

初読は秋姫(あきひめ)中心に読み、2回目以降は ちょっと視点を広げて、
各登場人物の細かな描写を読み込む楽しみがある。

以前も書きましたが、私は学校に居つく妖(あやかし)3人組(あれっ、前は4人いなかったか?)の、
顔を布で覆っている人(?)の、布に描かれた文字を読むのが好きです。

今回は、1か月以上ぶりに再会した瞬ちゃんに対しての「次郎坊お久し(ぶり?)」に笑いました。


う、物語は11月に突入し、10月は地元を離れていた瞬ちゃんが帰還した。

だが、再会した瞬ちゃんはご機嫌斜めの時が多い。

というのも自分の忠告を結果的に無視して、「知らない天狗」=栄介(えいすけ)からの誘いを受け、
四国のお山に行くことになった秋姫に対し、瞬ちゃんは苛立ちを隠さない。

そして秋姫は自分が、神クラスの眷属神・福山(ふくやま)様の巧緻な企みにハマっていることに気づいていない。
四国のお山に行くことは帰れなくなるかもしれない危険を伴っていることに無自覚。

どうやら注意すべきは恋愛に積極的なだけのお坊ちゃまの栄介ではなく、福山様らしい。


そんな瞬ちゃんに対して秋姫は瞬ちゃんが「イジワルになった」と考える。

秋姫が願うのは、瞬ちゃんと子供の頃のような関係に戻ること。

でも瞬ちゃんは無邪気な関係ではいられない自分の心を自覚している。
だから無邪気なまま自分に接する秋姫に苛立ちを覚えてしまうのだ。

そしてポーカーフェイスではあるものの、結構 緊張しい なのが瞬ちゃん である。

秋姫に素っ気ない時は、彼が余裕をなくしているという証拠でもある。

そんな彼の変化に秋姫は鈍感で気づかないから、
瞬ちゃんが絶対のヒーローでい続けられているという面もあるかもしれない。

秋姫のためなら努力の人なんですね、瞬ちゃんは。

万能ヒーローなのではなく、
「普段は無口で不良っぽいけど、彼女が辛いときはいつも側にいてくれる」
「いつも彼女のことを考えてんのよね」
そんな「ほんとの恋」が載っている女子高生の恋愛バイブル『虹空』の主人公みたいな人なのだ。

ちなみに この『虹空』、最終盤は主人公の男女が立て続けに亡くなる話のようだ。
まさか、こんなところまでシンクロしません、よね…?


一方で秋姫には、初めて学校に通う瞬ちゃんには世界を広げて欲しいという姉のような視点もある。
自分のそばにいて欲しい、けれどそれは瞬ちゃんの世界を限定してしまう。
生まれてこの方、一緒に育ってきた人に対する様々な想いが交錯していきます。

ただ無意識に頼るのは瞬ちゃんなのは、
タケル君と付き合っていた頃も変わらなかった秋姫の真理である。

いつも側にいてくれるから、服の裾も、差し出された手も握れるのだ。

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不安に駆られた時にすがりつく人。意外にも予想外の事態には固まる人。

そういえば秋姫の好みは髪長めの男子なのか?
元カレ・タケル君に惹かれたのも、カツラを被った海賊・瞬ちゃんのビジュアルが好みなのも同じ理由なのだろうか。
ちなみに父の康徳(こうとく)様も かなり髪が長いが、
もしかして秋姫はファザコン気味なのかもしれない。


そういえば瞬ちゃんが修行から帰ってきても2人の天狗としての力関係に変化はありませんでしたね。
どうやって力の優劣を見極めるのでしょうね。
康徳坊様の神通力をもってすれば、数値化されるのでしょうか。

あと三郎坊が不在の瞬ちゃんに代わって受けた中間テストはどのくらいの成績だったのだろうか。


が明けての初詣回は、お山の内情が面白いですね。

参拝客の祈願の内容を精査している康徳様と眷属神たち。
社務所では、こんなことが起きていると思うと初詣も楽しくなりますね。


そして秋姫と瞬ちゃんは、四国で約束していた栄介との初詣を果たす。

この回はいわゆる偽装交際回なのですが、
「この地において太郎坊(=秋姫)の彼氏として振る舞うように」と
康徳様からの命が下っている、と最初から正直に言ってしまう瞬ちゃん。

交際のノウハウをタケル君に聞いたという瞬ちゃんだが、関係は小さい頃と変わらないまま。

そういえば秋姫は高校入試まで電車に乗ったこともなかったから、
今回の四国への初詣は人生最長の旅になったのか。
どうせなら お泊りイベントも一緒に起きて欲しかったような…。

初詣回で重要なのは偽装交際ではなく、
瞬ちゃんが昔から見る夢が現実になりつつあることが判明する点。
少女漫画っぽいイベントの裏で少しずつお話が動いています。
この恋愛と天狗 分野での同時進行の二重構造が良いですよね。


愛の自覚が足りない主人公に代わって、恋愛イベントを行うのは同級生たち。

冬のスポーツ・スケート場では、
親友・ミドリちゃんが眷属見習いの四郎坊にいつもは人に言わない、恋愛相談を語っている。

なぜ四郎坊に? これは恋愛フラグ? と思いましたが、
四郎坊が「夫婦円満の神」を目指しているからでしょうか。

恋愛系の神様見習いに恋の橋渡しを頼むなんて、ミドリちゃん は策士だね。


バレンタイン目前の夜道では赤沢ちゃんと三郎坊のある一幕が描かれる。
見習いである三郎坊が、眷属神様にも譲れないものを示す場面はキュンとしちゃいます。

ここではミドリちゃんと同じく好意を自覚している人の恋情が描かれます。

秋姫は再び「ほんとの恋」を見つける恋に恋している状態に戻っていますから、
恋に悩む彼女たちに切なさは託されている状態です。


そういえばスケート回では、
秋姫の手に手を取って滑るモミジちゃんに、瞬ちゃんが少なからぬ嫉妬している。

そんな彼の様子を見て「ボヤボヤしとったら お前のポジション モミジ殿にとられるぞ」
という言葉を掛ける五郎坊。

これは秋姫が瞬ちゃんとモミジちゃんに感じている危機と同じですね。
モミジちゃんがどんどんと面白い立ち位置になっています。

人格が成熟しているのでモミジちゃんの本心が分からないところが、
少し不気味であるところも良い味を出しています。

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意外と目を丸くする瞬ちゃん。この世界は あなたの知らない面白いことで満ち満ちている。

そういえば瞬ちゃんの不在でも変わらなかったのが男たちの友情。
秋姫だけでなく瞬ちゃんの世界や友情が広がっていることをちゃんと描いてくれているのは嬉しい。