《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

またも3巻で始まる三角関係。私の当て馬は凶暴(だと誤解されがち)です。

ぽちゃまに 3 (花とゆめコミックス)
平間 要(ひらま かなめ)
ぽちゃまに
第03巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ぽちゃまにカップルの春休み。家族が不在で、しばらく家にひとりぼっち…という田上くんに、ちゃんとごはんを食べてほしい紬。そこで、田上くんちで料理をふるまうことに!な、なんか…これって、甘い雰囲気!? ぽっちゃり女子に癒される、ほっこりラブコメ第3巻!

簡潔完結感想文

  • 田上家の事情と情事。紬の家に続いて田上家を家庭訪問。そこで…。
  • 進級。田上くんを新しいクラスに馴染ませるための お触り禁止令。
  • 顔見せ。ここから現実時間で4年に亘る三角関係は静かに始まった。

3年生の始まりは3角関係の始まり、の 3巻。

私の持説である「少女漫画あるある」3巻は三角関係の始まり説、が本書でも成立しました。
といっても、本書の場合は結果的三角関係の始まりです。

三角関係になる、1人の人物が新たに登場しますが、今回は顔見せだけ。
『3巻』終了の時点では三角関係になっておりません。

この関係性の進展や気持ちの遷移は、実に丁寧に描かれていく。
…というか、まさか後半は最終巻まで この問題一本で行くとは思いませんでした。
『3巻』にして最終章の幕が上がりました。

ここから最終回までの展開を作者は、この時点で決めていたのでしょうか。
それとも連載が不定期になっていって、
いつ最終回を迎えてもいいように、新しい展開を用意する訳にもいかず、
ズルズルと三角関係が継続してしまったのでしょうか。
連載が安定して続いていれば、もっと違う展開もあったのかな、と考えてしまう。

『3巻』で登場する、紬(つむぎ)の恋人・田上(たがみ)くんの母親や、
親友・まみちゃんの彼氏など、後々に出てくるかなと思っていた人物が、
最後まで登場しないのも、その影響なのだろうか。

後者はともかく、前者は最終回の展開を踏まえると、
是非、登場して欲しかったものだ。

物語を、きちんと完結してくれた作者に感謝の意を表すとともに、
悔いが残ってなければいいのだが、と余計なお節介の気持ちが湧く。


頭は彼氏の家庭の事情から。

家族が不在で食生活が乱れている田上くんが気になる紬。
そこで紬は田上に、ご飯を作りに行きたいと提案するのだが、
家族がいない家に上がり込むということは…。

田上家は純和風な造りの一軒家。
人の後方に ふすまが何枚も見える、つまりは続きになる部屋が幾つもある広い家。

田上くんは、そこそこ お坊っちゃんなのだろうか。
そういえば本書は少女漫画には珍しく、ヒーロー側に設定が盛り込まれていない。

外見的には、モデル体型で整った顔立ちと恵まれている田上だが、
残念な変態的性癖(ぽっちゃりマニア)も相まって、女子生徒の注目度は高くない。

成績なども特に優秀という訳でもなさそうだ(理系の人らしい)。
母親が医師で、姉も医学生ということで、育ちは良さそう。
田上くんの将来設計は全く出てこないが、医者になることもあり得るのか?

そして父親は4年前に他界したことが ほのめかされる。
この場面、直接言わないのが余計に悲しい。
例の母親がいるとはいえ、恵まれて育った紬が二の句を継げないのも自然な描写だ。

それと似たようなことでは、紬の言葉遣いが素敵だ。
紬は田上といる時の会話よりも、田上姉など目上の人と話す時の言葉遣いが素晴らしい。
どこに出しても恥ずかしくないお嬢さんだ。

まぁ「おさんどん」と言う女子高生が存在するのかは謎だが。
もはや、おかん感や女将感が出ている。

もし田上が父ではなく母を亡くしていたら、
紬に亡き母の面影や母性を求めているのかな、と分析しただろう。


して初登場の田上姉。

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家庭内の風紀委員の お姉さん。田上くんが ぽっちゃり道を極めるのはいつだろうか。

紬の親友・まみちゃんと同質の男前な女性。
剣道経験者らしく、竹刀を振り回す人。
まみちゃんと似ているのは、きっと作者が好きなタイプの女性だからでしょう。

田上とは同じ喪失感を共有する者として、
適切な距離を保持しながら支え合っている様子が分かる。

彼女も田上も料理がさっぱりできないようだが、
今は仕事で北海道に行っているという母親が作ってくれているのだろうか。
この過去と環境ならば姉弟のどちらかが料理を担うような気もするが。

関係性からすると両親を亡くした姉弟に見える。
両親を他界させると、あまりに悲劇性が前に出過ぎるから止めたのかな。
でも一時、田上くんの食生活が乱れるという お話なので、母は必要か。

田上くんは普段は何を食べて生きているのだろう。
そういえば以前から、お昼はパンなど出来合いの物ばかりだった気がする。

紬が作る食事は純和食っぽい。
この献立は田上の好みに合わせたのだろうか。
それとも栄養のバランスを考えたのだろうか。

しかし紬が田上の食生活を心配すると、
人の心配もいいけど、自分の食生活のバランスを再考せよ、と思ってしまう。

紬がこれだけ料理が出来て、栄養のことも考えていて、
自分を信じる強さを持っているのならば、
母の一方的な押し付け料理を拒絶して欲しいと思ってしまう。

物語の根幹に関わるから改変は難しいだろうが、
長編化によって、紬が太っている理由が どんどんと説得力を失い、嫌になってくる。


して『3巻』から少女漫画では描くのが難しい受験生の3年生になります。

しかし そもそもが派手な作品ではないので、
イベントを自制して物語に動きが無くなるなど影響はそれほどない。
真面目な紬の性格と合っていて、受験生の1年がしっかり描かれている。

進級はちょっとしたリセット機能を持つ。

1つが田上くんとの距離感。
クラス替えのある田上くんをクラスに馴染ませるために、
お昼を一緒に食べないと決め、紬は物理的に距離を置く。
クラス替えも1つの恋愛イベントに転化させます。

互いへの渇望感は頂点に達し、そして…という話の流れが上手い。
弓道でいえば強く弓を引いた分だけ、矢に勢いが出る感じだろうか。

自分の我慢を隠し、紬に言葉を引き出させる田上は、紬を調教しているようにも見える(笑)
駆け引きが、ちょっとエロいですよね。

しかし田上は暴走。
紬の身体をまさぐり始める…。

…というのは、次号への引っ張りで、田上は簡単に引き下がる。
一度距離が出来た方が、深くつながっていくのは、本書の、少女漫画の王道展開ですね。

でも、もう この2人の場合、性行為に及ばない理由が見つからないんですよね。
この後、2人で田上の家に行っても何の不思議もない。
田上にそれだけの熱量があることを描いているんだから、
描写は匂わす程度でも、関係性を進めればいいのに。

そうでもしないと、これ以上2人の間で描くことが無くなる。


いうことで、登場人物を追加するのが次の話。

ミスタードジっ子・檜山 徹(ひやま とおる)の登場。
紬の隣のクラスの3年生という設定です。

いつも眉間にしわが寄っているので、
周囲の生徒から怖がられているが、心根は優しい人である。

紬に対しても、体型を含めて、言葉に遠慮がない。
でも、悪意もない。
だから紬は、よく知らない男子生徒であっても自然に対応できる。

『3巻』の段階では、檜山は紬が気兼ねなく喋れる同級生でしかない。
これから時間をかけて、この2人が接近していく様子を描く。

最初から当て馬っぽいなと思っていたのに、今回は肩透かしに退場する檜山。
しかし結局、当て馬になるという変則的な存在です。

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顔は恐いが心は優しい檜山くん。田上より紬の長所を引き出してくれる優秀な人。

の長期戦が、田上の旗色を悪くしているような気がする。

「ぽっちゃりマニア」だからという単純な理由で読切短編1回分で紬をすきになった田上に対して、
檜山の方は、じっくりゆっくり紬を好きになっていく。

ここら辺は田上に分が悪い。
1話で手早くカップルになった彼よりも、
焦らず着実に距離を縮めていく檜山の方が共感を得やすい。

恋愛フラグが立つイベントも彼の方が多いぐらいではないか。

そして阿修羅みたいな顔をした檜山と、菩薩フェイスの紬、
こちらの方が収まりが良く感じる2人だ。

それに紬の良さを引き出しているのも檜山だと思う。

頼まれごとを断れないとか、物事を性善説で考えているとか、
自分よりも相手をまず心配するとか、彼女の性格を次々に伝わってくる。

田上といると遠慮やお姉さん感が先に出て恋人同士という感じが薄れるのだが、
檜山といる紬は、思っている素直な言葉を口に出来ている印象を受ける。


これまでの件でも、田上は相手を信じてるとか、相手に委ねるとか、
口では言っておきながら、悶々とすることが多かった。

田上らしいといえば田上らしいのだが、
これ以降、同じように会話のないまま誤解を重ねていくから信じられない。

当て馬の存在で見えてきたのは、2人の言葉足らずの関係かもしれない。