《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

続々とカップルを成立させすぎて、主役カップルまでも one of them になってしまった。

S・A(スペシャル・エー) 10 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第10巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

桜の別荘で二人きりになった光と彗。彗の決死の告白でついに彗の気持ちに気付いた光は、何とかして自分の気持ちを伝えようと、二人でお化け屋敷に入るが!? クリスマスが近づき彗の母・碧さんに出会った光は、碧さんの夢を叶えるため碧ママにおねだり!?

簡潔完結感想文

  • 10巻かけて両想いになりましたが、これまでと変わらない日常が宣言される。
  • 告白より別れの場面の方が好き。ヒロインは この世界の宝!という結論…。
  • 滝島の母登場。ヒロインは世界の宝なので息子の恋人でも温かく迎えられる。

際の喜びよりも、人と距離を取る描写が胸に迫る 10巻。

少女漫画を読んでいると、たまに、
恋愛が強制的になっていて、無理矢理 恋をしているように思うことがある。
本書のヒロイン・光(ひかり)が まさにそれ。

私はずっと光を精神年齢6歳として読んでますが、6歳児に恋愛は難しい。
人を好きだという感情はあるだろうが、男女交際をする意味は分かっていない。
少女漫画特有の恋愛脳にも辟易するが、ここまで恋愛に淡白だと共感できないからキュンも生まれない。

しかし本書(と滝島・たきしま)は、そんな光を全面的に肯定する。
10巻かけた交際後も、これまでと変わらない関係と作風が、交際後すぐに約束される。
作者自身が恋愛描写苦手そうなので、なるべく現状維持を望んだのだろうが、
交際直後の初々しさや、世界が輝き出すような充足感もまるでなかった。

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交際後も引き続き繰り返されるのは、無理をしない ありのままの光が愛されるということ。

まだ読切の段階だった2話目から恋愛要素を取り入れたにもかかわらず、
その成就も いつもと同じような展開の中で淡白に描いて、読者に肩透かしを食らわせた。

両想いは少女漫画で一番 読者が待ち望んでいる展開なのだから、
これでもか、というぐらいに過剰な演出をしても良かったのに。

しかも交際後すぐに別れを予感させたり、同じ問題(滝島の祖父の件)を繰り返したりと、
恋愛と同じように、引っ張れるだけ話を引っ張る感じの未来が待ち受けていそうで、早くも気持ちが暗くなる。
ここからは明確な目標や目的も無しに、ダラダラと続いていくような印象を受けるから、
この辺で物語を畳んだ方が良かったのではないかと思わざるを得ない。

そしてタイトルにも書いたが、主役の2人のカップル成立が、
他のSAのカップル乱立の中に埋もれた印象を受けるのが大変 残念だ。

ヒロインの光を本書における宝物にするのであれば、
彼女に相応しい舞台を用意してあげるべきだった。
こんな中途半端なことをするぐらいなら、最後の最後で華々しくカップル成立で良かったのに。

物語の中盤は、どんどんカップルが誕生するだけの印象しかない。
滝島が今回 告白する必要性も、そして光が今回ばかりは鈍感ではない必然性も まるでなかった。

ここまで付いてきた読者の一番の楽しみを、
日常回の中の一部のように扱った演出には大いに疑問が残る。


カップル成立の その瞬間より、その成立によって悲しむ人の描写の方が好きだ。
今回で言えば明(あきら)の最後の抵抗と降参は胸に迫ったし、
八尋(やひろ)の言い訳をしないままの告白と別れも好き。
自分に懐いていた芽(めぐみ)と純(じゅん)との関係性の変化を描いた竜(りゅう)の話も良かった。

相手が幸せになることによって変化する関係性は ちゃんと描けるのに、
相手と幸せになることは描けていないように思う。

カップルが成立したはいいが、どの組も これまでと変わらない雰囲気である。
この辺も作者がSAを「つがい」にさせることだけに一生懸命で、
恋愛は幸せの道具でしかないことの証明のような気がする。

1巻に1組のペースのカップル成立も終了し、ここからの残り数巻は何を描くつもりなのだろうか。


想外の滝島からの告白。
だが光は、その言葉に上手く返事が出来なかったことを悔やむ。
その翌日の肝試しで、自分もどれだけ滝島を想っているか告げようとする光だが…。

「キスは好きな奴としかしない」
という言葉は宙(ただし)の言葉なのに、いつの間にか光の信念になっている。
光自身は宙との偽装交際を証明するためにキスしようとしていたくせに…。
いつの間にか作中で光が美化されているのが気になる。


そして、作品の後半は交際編がスタートする。
ただし その交際は手探り。
光は滝島の「彼女」役を全うしようと頑張り過ぎてしまうのだが、
両想いになっても滝島は全てお見通しで、彼女をセーブする。

2人の関係性がこれまでと変わらず、
そして滝島自身も光に変化を求めていない。
これは作品も これまで通りでいきますよ、という宣言なのだろう。


2人の交際を快く思わない明(とフィン)が勝負を申し込む。
本書らしい勝負マンガに原点回帰といったところか。

随分前から明にとって光は特別だという話は出ていたが、
ここで初めて具体的なエピソードが紹介される。
明にとっての光、そして その前から仲の良かった滝島と八尋との過去まで明かされる。
八尋が登場した時から ほのめかされていた過去ですが、ようやく日の目を見ました。

きっと光はSAだけでなく、彼女と関わった全員にとっての触媒なんでしょう。
彼女と出会うことで、これまでの固まってしまった関係も変わっていく。

そういう意味では光が「私達共通の宝物」というのは分かるが、
6歳児の自然体の光が恋愛をし、友情を深め、そして愛されるというヒロイン賛辞が やや鼻につく。
寧ろ彼女だけが成長していないように見えてしまうのは、私が光を好まないからか。


そして これは光と滝島を別れさせるのではなく、明の別れの儀式であった。
こうして滝島に コテンパンに敗北することで祝福が出来る。
かつての八尋と同じように、勝てない戦であっても、勝負をしない訳にはいかないのだ。

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この巻で強調されるのは光の絶対的な存在感。物語の中盤でヒロインの特別性を再演出。

うして交際や光の二位も含めた日常が動き出そうとしている時に、
滝島の祖父に近い蒼(あおい)が、滝島の春からのロンドン行きをほのめかす発言をする。

交際が始まった所で、暗雲を呼び込む。
これが終われば、いよいよ最終回か⁉と思った時もあったが、先は長い。

そういえば光って蒼との年齢差を知ってもタメ口なんですね。
(20代後半だと思っていた蒼が予想より若く、19歳だったから直すキッカケでもないんですが)
誰に対しても敬語もなく話しかけ、何となく許されるのは、さすが6歳児ですね☆

物語的にはSAも全員パートナーが見つかったので、蒼だけが独り身ということになるのかな。
これ以後に蒼に「つがい」が現れても嫌だし。


際後に初めて迎えるクリスマスが近づく。
新キャラは続々と参戦し、滝島と姿形が同じ、滝島の母親が登場する。
作者の場合、若い人しか描けないという訳ではないので(オジさんキャラは多い)、敢えてこのデザインにしたのだろう。

滝島の母の夢を叶えるため、2人きりのデートが3人でお買い物になる。
滝島の母は息子の彼女に何かをねだられたいらしく、光の要望を聞きたがる。
この回は光に萌えるツボが親子一緒なのが笑えた。

光は これで滝島の両親と顔を合わせて、少女漫画的には結婚の準備が整いましたね。
残るは未だ顔を合わせることすら出来ていない滝島の祖父だろうか。
光の場合、正攻法の力説で相手を懐柔してしまうのが見えているから、
特に展開的な楽しみは ないが…。

そんな一日だが、恋愛と自分のこと以外には察しが良い光は、物事の本質を見通す。
それが滝島から母への要望がないことを、母は悩んでいるのではないか、ということだった。

そんな中、仕事が舞い込んだ母に代わって滝島が親孝行を申し出る。
滝島だけが海外へと飛び立つはずが、母は光を同行させる。
不器用ながら、家族の役に立ちたい母子の交流に心が温まる。

基本的に脇役の恋に興味はないけど滝島の両親の出会いは読みたいかな。
滝島の童顔父は20歳前後で どうやってこの母親と恋愛して、早くに子供を授かったのか。
そして その時に義理の親である滝島の祖父は口を出さなかったか、など疑問も多い。


うして2人はオーストラリアへ。
光は今年だけでハワイ1回、ロンドン2回、オーストラリア1回と 早くも滝島夫人のような海外渡航歴である。
ハワイの時は自分で渡航費を稼ぐと言っていたが、後は滝島家のお金である。
こうやって人は贅沢に慣れて感覚が麻痺していくのだろうか。

今回は交際後初の2人きりでのお泊り回。
だが、6歳児の光は性教育も受けてないようで、滝島と一つ屋根の下であっても何も意識しない。

そうしてクリスマス回。
光は滝島も遊んだという庭のブランコを修理しようと奮闘するが上手くいかない。
この辺は誕生回の時と同じような流れですね。

光は滝島が何を一番 喜ぶか分かっておらず、
それを半ば無意識でやってしまうヒロイン適正があるという お話です。