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少女漫画と小説の感想ブログです

あした の君が、きょうより もっと幸せになる覚悟は出来ているかい?

きょうのキラ君(3) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
きょうのキラ君(きょうのきらくん)
第03巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

学祭の準備をきっかけに、またひとつ心を通わせたニノとキラ。しかも、二人の誕生日が一緒だと知って喜ぶキラに、ニノの恋する想いは高まるばかり。でも、キラと養護教諭の設楽(したら)の関係が気になるニノは不安を抑えられなくて……。なにげない日常に二人が紡ぐ、天国に一番近い恋。

簡潔完結感想文

  • 誕生日。生年月日が全く同じことが判明したニノンとキラ君。誕生会を計画。
  • 好きな人と過ごしたい。その思いは自分も相手も一緒。ワガママは言えない。
  • 初恋。これから自分が一緒にいたい人は誰か、それが分かった16歳の初恋。

前の計画が上手くいかなくても決して無駄ではない 3巻。

大まかに区切れば『3巻』までが「初恋編」だろう。

これまで恋どころか、友人さえいなかったニノンが、
お隣に住むキラ君の事情を知り、彼に寄り添うことで、
友情と、そして恋のトキメキが毎日を彩ることを知っていく。

逆に友人に囲まれて学校生活をしていたキラ君は、
自身の病が無視できない程に自覚された時、
真なる人との交流を望み始めていた。
そこに現れたのがニノン。

死ぬまでの間、生き直そうとするキラ君は、
やがて自分の中にあるニノンへの気持ちを痛感する。

2人の初恋物語は、これから始まっていく…。


当に本書は登場人物の心理描写が細かく、そして丁寧である。
これは、『1巻』の感想文でも少し書いたが、
当初からラストまでの構想がしっかり立てられているからだろう。

特に この『3巻』では主人公のニノンの世界が確実に広がっていることが分かる。

冒頭では学校の下駄箱でキラ君と共にクラスメイトたちから声を掛けられた。
これは『2巻』における学園祭準備での彼女の奮闘の結果だろう。

キラ君のためにと勇気を奮い立たせた行動が、自分にも返ってきた。
情けは人の為ならず。
きっと自分から動けば相手もそれに応えてくれる。

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あの日、東京タワーでキラ君に手を差し伸べた日から、繋がる手が増えていく。

そして今回、いつもと違う展開が起こる。

それが起こるのが、キラ君に告白をして気まずい雰囲気になった時。
合わす顔がなく2日間キラ君を避けているニノン。

たった2日ではあるが、キラ君の命の分母が365日と考えると、それはとても長い時間だ。

彼女をキラ君の元に走らせたのは、インコの先生(センセー)、ではなくてクラスメイト。
学園祭出店準備を通じて顔見知りになった女子生徒が、ニノンの背中を押す。

これが先生が口を出さなくても、物事が好転していく最初の一例となる。

これまでベッタリと一緒にいて、何事も相談していたニノンと先生。
これは学校に不慣れな子や不登校の子が親と一緒に登下校していたのに、
段々と環境に慣れるに従って、親の介入が減少していくのに似ているかな。

いつかニノンも肩に先生を乗せなくても学校に登校する日がくるのだろうか。
その日がくるのが楽しみのような、寂しいような気もする…。


れも『1巻』の感想で少し触れたが、
キラ君の病気は、少女漫画の典型的なヒーローの不自然な矛盾を上手く解消しているように思う。

この場合の「典型的ヒーロー」とは、
学年、または学校一のイケメンであること、
そして高校生にして飽きるほど女性を抱いていること、
そして性格にやや難がある、の3つの条件である。

初登場時のキラ君は この3つをクリアした、ヒーローとしては個性のない人間だった。

だが、そこに病気の設定があり、キラ君から攻撃的な性格が排除されて丸くなったことで、
少女漫画のヒーローたちが物語の後半で辿る 典型的なコースを早めに消費していった。

その「典型的なコース」とは、ヒーロー3条件に変化が訪れること。

イケメンであることには変わりはないが、
飽きるほど性経験豊富だが、主人公との恋が本物の恋になる、
当初の性格設定がリセットされたかのように個性が失われていく、というもの。


ドSとかイジワルとか、初登場時に読者の興味を惹くためだけの道具立てに過ぎない。
どうせ後半に性格がリセットされるなら、
その理由を含めてリセットしてしまおうという本書の姿勢が清々しい。

このリセットがキラ君の人生が大きく変わった病気にも繋がっており、
彼の変化に説得力を増す効果もある。

私が思う少女漫画(特に長編作品)のヒーロー造形の疑問点を上手に解消してくれた作品だ。


ちらは いまいち分からない、ニノンの口調。

キャラに反してイラストが得意なクラスメイト・矢部(やべ)に対して
「あなたは絵が とても上手なんだな」と言っているが、
この「だな」というのが、しっくりこない。

ニノンが本当に矢部のことを、フンと見下している証拠なのか?

注意深く読んでいると、ニノンがテンパると、
男言葉、というか語尾や口調がおかしくなる傾向が窺える。

彼女の嘘は結構わかりやすいかもしれない。


さて、キラ君に続いて、ニノンまでも自分の素(漫画が好きな部分)を
褒めてくれたから、矢部はニノンが気になって仕方がない。

自分を認めてくれる人を好きになるタイプですかね。
承認欲求というか自己愛が強いタイプでしょうか。

そんな矢部が、キラ君に叶わない恋をして涙を流すニノンを見て、キス!

お前、キラ君のことが好きだったんじゃねーのか、二股じゃねーか、と思う私。

さすが男女ともに当て馬になるニュータイプである。
友情でも愛情でも感情を拗らせ過ぎていて、むしろ可愛く見えるから不思議だ。

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憎まれ口でも会話には変わりない。矢部ごときには握手じゃ過剰なので指一本で。

んな矢部はキスを気に病んで1日学校を休んだ模様。
彼の気の小ささが露呈してますね。

それがバレないよう虚勢を張って、ニノンに傷つけるような言葉を言っても当のニノンは柳に風。
なぜなら どんな理由でも自分と話してくれる人はいなかったから。
だから矢部を、彼の心根の優しさをニノンは認める。

イラストに続いて心までニノンに認められたから、もう大変。
矢部はキラ君に宣戦布告をかます

また、面倒なことをする奴め、と思ったが、
ニノンにとっては、この矢部の行動は思わぬ副産物をもたらす。

それがキラ君の心境の変化(の始まり)。

キラ君は設楽(したら)先生が好きでいるが、
ニノンを矢部が好きだと知って、
友情でしかなかったキラ君の心が少しずつ意識が変わる。


園祭出店準備に続いて2人が準備するのは誕生会。
誕生日が同じことが発覚し、2人だけで美味しいものを食べようと計画する。

だが今回も、2人が進める計画は上手くいかない…。

そこにはいつもキラ君が好きな養護教諭・設楽先生がいるから。

キラ君の口から好きな人の名前が実名で公表され、
自分がキラ君のことを好きなだけでなく、
恋人になりたいと思っていることを自覚したニノン。

キラ君が誰を好きでも、誕生日を一緒に過ごせることを楽しみにするニノン。
だが、期待は膨らめば膨らむほど、破裂した時の悲しみは大きい。

しかし2人の誕生会をドタキャンしたのは紛れもなくニノンだった…。


楽先生の嫌がらせは、いつも的確。

最も感心したのは、
キラ君の「最後かもしれない誕生日を(彼が)だれと過ごすのか幸せか」を問うた場面。

これはニノンは手痛いところ。
彼女の心に浮かれている気持ち、自分の気持ちを優先した反省があるから、
譲歩することが正しいと思ってしまう。
そう誘導した設楽先生の頭脳プレーである。


そうして誕生日は設楽先生と過ごすことにしたキラ君。
回想では、設楽先生との出会いが語られる。

きっかけは死に対してドライな設楽先生への復讐だろうか。
だが先生はキラ君の事情を知っており、罠にはめるはずが、彼の方が はまった。

設楽先生は典型的な年上のセクシー美女という設定ではない。
いわゆる恋の邪魔者として存在する訳ではない。
彼女の方もキラ君を求めて話さない理由があった(後に判明)。

まぁ ニノンには嫌がらせのような発言を繰り返していたが、
その行動を含めて、設楽先生にも行動原理があった。

どの登場人物の誰もが強さと弱さを持っていて、
弱いからこそ、人を傷つけるという理由がしっかりとある。
病弱なキラ君に反して、骨太な物語が用意されている。


生とキラ君は、時々「男同士」の話をする。
これが私は好きですね。

誕生会の際に着る服を買いにいった時も、
ニノンが選んだ服に対するリアクションが薄いキラ君。
先生が文句を言うと実は見惚れていたからと素直な返答。

先生の前では誰でも素直になって心情を言うから読み間違えがない。
そして先生のお陰で、物語のスピード感は常に早くなる。
非常に便利な存在です。

更にその服のチョイスが矢部によるものだと経緯を語る先生。

そうしてニノンの矢部に対する気持ちが気になっていくキラ君。
ニノンに対する設楽先生といい同性の存在が、自分の彼/彼女に対する意識を明確にしていきます。

ここも先生が知り得る情報の多さのお陰で、
次への展開の橋渡しが非常にスムーズである。


そして胸キュンシーンも1話に1回必ず登場。

男子から料理(お弁当)を作ってもらうとか、
寝顔を見るとか、一緒に横に並んで寝るとか、
頬についた食べ物をとってくれるとか、夢見たいなことがいっぱい起こります。