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少女漫画と小説の感想ブログです

きょうも お隣さんの キラきゅん と 胸きゅん な日々が 待ってるでー。

きょうのキラ君(1) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
きょうのキラ君(きょうのきらくん)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

これは、人生でもっとも輝く365日の恋の話。『近キョリ恋愛みきもと凜が一番描きたかった物語。――365日、瞬きするのもおしいくらい、あなたを見つめていくから。――肩にインコ(先生)を乗せた変わり者のニノと無意味な毎日を過ごす遊び人のキラ。家が隣同士なのに話したことすらなかった……。けれど、ニノがキラの秘密を知ったことから運命は交錯し、煌めく生の時を刻みはじめる――!!

簡潔完結感想文

  • 生き直す。憐れみや悲しみから解放され、顔を上げて前だけを見るために。
  • 誰と生きるか。同病相憐れむ ではない、自分が一緒にいたい人は誰ですか。
  • 生きられない。余命の限られたキラ君は恋も出来ないのか? シビアな現実。

て馬は鳥だった。紛れもなく鳥だった、の 1巻。

オカメインコ、喋ります。
そういう世界なので、以後よろしく。

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逆を言えば、先生が世界の障壁になっているとも読める ニノンのモノローグ。

名前は先生(センセー)です。
彼は主人公・岡村(おかむら)ニノンの唯一最大の理解者である。

学校では鳥の剥製に化けた先生を肩に乗せていることから、あだ名は「鳥女」。
それ故に周囲から距離を置かれ、「教室の隅にいるような存在の薄い人間」。

そんな彼女が、家が お隣さん同士のクラスメイト・吉良(きら)ゆいじ に先生の秘密を知られ、
そしてニノンは彼の身体に関する重大な秘密を知って、
本当の彼の姿を知っていくことで、自分は彼の隣で生きていこうと決めるまでが第1話である。


生の存在は異質だが、先生がいない本書の内容は考えるだけで恐ろしい。
きっと展開がダラダラした暗い話になってしまっただろう。

先生がいることで、ニノンはいつも動いている。
彼女が悩んでいる時、足を止めてしまいそうな時に、
いつも叱咤の言葉をくれるのは先生なのである。

はじめは、先生は本当に剥製で、
生きているとか、喋るとか、その全てがニノンの頭の中で起こる、
自己との対話なのかな、と思いましたが、
キラ君をはじめ 目撃者がいて、会話が成立しているので、現実だと分かる。
(もちろん、最後まで喋る設定の どんでん返し などない)。


瞰してみると、先生は狂言回しだろう。

彼のお陰で物語は二倍速になっている。
全9巻で過不足なくまとめられたのも彼の功績が大きい。

独りでいたら何を考えているか分からなくなる、後ろ向きなニノンの思考を
しっかり理解してくれて、言語化、対話することでニノンと読者を繋いでくれている。

ニノンの精神状態を逐一 理解してくれているから、
彼女が最底辺まで気持ちを落ち込ますことがないセーフティーネットでもある。

ニノンは先生に支えられているとはいえ、
一人ぼっちの学校に休まず通う強い子である。
依存するだけでなく彼女の強さも感じられる1話目だ。


生は間違いなく主役の一人。
前述の通り、彼がいない作品世界は薄暗かったことだろう。
読む人を選ぶ彼の設定だと思うが、彼がいるのがこの作品世界なのである。


そして最終的には奇跡の中和剤かな。
先生という存在がファンタジーが前提だというエクスキューズとなる気がする。
こういうことも あるかもしれないでしょ、という
この世界をキラキラにしてくれる魔法のような存在だと思う。


また探偵としても優秀である。
ニノン一人では知り得ない情報も、鳥である先生なら知り得る。
これも物語の速度を速めるのに役に立っている。

誤解や すれ違いが即座に解決できる状況になるので、
無駄な引き延ばしや精神の摩耗が最小限で済んでいる。

それは時にあっけないほどで、もう少し情を感じさせてほしいと思うぐらいである。

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先生の探偵業のお陰で無駄なページを削減出来ている。ニノンは情報強者かもしれない。

して本書(の序盤)は先生を含めた、ニノンとキラ君との三角関係と言えなくもない。

男女の垣根を超えた友情があったニノンと先生の前に、
キラ君という人間の異性が登場する。

先生はキラ君を威嚇し、敵対するが、
ニノンに同じ種族の友達を得させるために協力者としても動く。

口では色々と文句を言いながらも、
ニノンとキラ君を繋ぐ架け橋となってくれる先生。

鳥だけど最高の当て馬で、そして2人を繋ぐ虹のような存在である。
ニノンの親友で兄弟で親で恋人で家族で同士で恩人という七色の光を持つ先生。

その7つの光をキラ君に橋渡しするのが先生の役割でもある。

その意味では先生は最高の当て馬です。
鳥だけど。


者の前作、第1長編『近キョリ恋愛』は短期連載(4回分)から長期連載へと移行したが、
本書は当初から長期連載を想定した作品である。
その意味で初の長期連載ともいえる。

1回1回で どれだけ読者を楽しませられるかが至上命題だった
短編集的性格を持った『近キョリ』とは違い、
本書は作者のストーリーテラーの能力が試されている。

その上、ヒーローのキラ君は余命がある。
当初から用意されている365日という限られた時間があるので、
そのニノンたちの日々を どれだけ輝かせられるかが、作者の力量となる。
また、それは読者たちの作品への緊張感にも繋がる。


完読して分かるのは、全ての設定を連載開始前に取り決めていたこと。
あからさまな後付けの設定や、引き延ばしは一切なかった。
これは気持ちのいい事前準備だった。

後から後から新キャラが続々と登場するとか、
サブキャラの恋愛話にページを割くということが ほとんどない。
全9巻が最適な長さのように思える。


ややデフォルメされた第1話における主人公たちの性格にも、
しっかりと背景が用意されているのが分かる。

それは時に重いものなのだが(特にキラ君)、
必要以上に重く描かないという作者のエンタメ精神を感じた。

先生はそのムードメイカー、バランサーとしての役割もあるだろう。
時に感情に引きずりられやすい人間たちに、
空気を読まずにギャグを投じてくれるから作品内の湿度はいつも快適になる。

そういえばクラスメイトで、更に家がお隣同士ということで彼らもまた『近キョリ恋愛』なんですよね。


よりも私が感心したのは、キラ君の性格設定である。

初登場時こそ少女漫画に散見される根拠のない自信の上に立つ俺様キャラなのだが、
その謎の俺様行動にも しっかりと理由があることが明らかになっていく。

ビジュアルといい言動といい、いかにもモテ男子を好きな「別フレ」の匂いをプンプンさせていたが、
持病があり、余命まで言い渡されている彼の、
精一杯の虚勢だということが1話から明かされることで納得が出来た。

そして その虚勢からのギャップこそが彼の最大の魅力だろう。
他の俺様たちが10巻ぐらいかけて普通になっていくところを、
キラ君は1話から弱さとのギャップと、ピュアであることを武器にしている。

本書においても『近キョリ』の時と同じく、
わざとらしい「胸キュン見本市」もなくはないのだが、
自分の弱さを認識している彼だと許せてしまう。

少女漫画のヒーローたちは どうせ徐々に弱さを垣間見せるのだから、
最初っからセンチメンタルなヒーローも理にかなっている。


これはもしかしたら、少女漫画における「俺様ヒーロー」へのアンチテーゼなのだろうか。

キラ君は病気によって人生に懊悩し、精神的に成熟・老成していく。
要するに少し大人になるのだ。

大人になって分かるのは、かつての粋っていた自分の行動の羞恥と反省。
となると、少女漫画の「俺様ヒーロー」という存在は幼稚で未熟だとも考えられる。

長編化にすら耐えられないワザとらしいキャラ付けは、
思春期の彼らの、万能感に支配された中二病的な黒歴史だろう。

キラ君という存在は、一時期の少女漫画に対して、なかなかの毒を含んでいるように思える。


なので先生が彼のことを認めていくように、
私も早い段階でキラ君のことを好きになっていた。

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虚勢を張るキラ君も、センチメンタルなキラ君も どちらもキラ君。そんな彼との365日。

作からの技術の向上も格段に認められる。
絵は一層、上手くなっている。

できれば、ニノンが前髪を切ったタイミングで、
キラ君も髪を切って欲しかったが…。
どうして『近キョリ』の櫻井(さくらい)先生といい、ワカメヘアーなのか。
作者の好みなのだろうか。

作者の好みが最も現れているのは、実は女性たちであろう。

少女たちはとことん可愛く描くのが至上の命題のような気がしてならない。
ちょっと天然で、ピュアでキュートな子が好きなのだろう。
当初こそ違いがあったニノンと ゆにちゃん(『近キョリ』主人公)に、段々と違いが見当たらなくなる。

主人公や女性を悪く描けない性格が、作品の幅を狭めないか心配。
良くも悪くも夢物語みたいに思えてしまう。
「死」を扱った本書のような内容でも、
こういうテイストになるのは強みでもあり弱みでもある。

私は もうちょっと毒っ気やスパイスが欲しいかな。

また主人公の両親を変人に仕立て上げるのもルールなのだろうか。
ギャグを我慢できない作者の性格がそういう人たちを誕生させるのか?

そういえば、ニノン母と キラ父が仲良しと聞いて、
怪しい関係を想像したのは初読時の話。

再読の際は、ビジュアルが浮かんでいるので、
うん、まぁ、仲良しになりそうだね、と納得してしまった。
それはまた、別のお話。


編作品として本書では確かな成長を感じる。

ただ一話一話が「胸キュン見本市」で、わざとらしさが否めない。
(『2巻』以降、恋愛メインになってくると)

良く言えば構成が、真面目で しっかりしているのだ。
悪く言えば、胸キュンシーンの前振りが分かりやすすぎる。

ミステリで言うならば、伏線や犯人が完全に浮かび上がっているみたいな感じだ。
もうちょっと上手に物語の中に隠して欲しい。
胸キュンシーンの前振りを毎回、主人公が聞いていなくてもいいだろう。

もっと流れるように、話の中でキュンキュンできれば最高である。
ここぞ、という決めシーンが無くても、
話が面白ければ人気は維持できるはず。

別フレ」は分かりやすい胸キュンを狙いすぎて、
作品に お仕事感が出てしまって本末転倒である。

ちなみに、ニノンとキラ君はいつからお隣同士なのかは最後まで分からなかったなぁ…。

近キョリ恋愛 ~Good morning love!~」…
『近キョリ』の ゆに と櫻井先生の初めて迎える朝の お話。

正真正銘のファンサービス。
このシーンを描いてくれるとは嬉しい限りである。

にしても8ページの短編でも胸キュンシーンを用意するとは…。
別フレ」に立派に調教されているのか…?