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少女漫画と小説の感想ブログです

傷つきたくないから嘘を重ねる自分が キライだ × キレイだ 初めて会った時から君はずっと。

ライアー×ライアー(8) (デザートコミックス)
金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第08巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

高槻湊(たかつき・みなと)22歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透に別人として惚れられてしまいつきあっていたが、真相を話そうとした矢先「姉を愛している」と告白され、結局カミングアウトできないまま別れてしまう。お互いに「好き」なのに、きょうだいだからこそすれ違ってばかりで…!? 話題沸騰! 二重恋愛コメディー!

簡潔完結感想文

  • 告白が相手を困らせるなら嘘にすればいい。後腐れの無い関係継続のために。
  • 嘘から真実への反転。透の回想を通して語られる 彼の彼女の見守り方とは…。
  • 好きが発動する科学。もう一度 君に触れて、最初の日から 始めてみよう。

れい は汚い、汚いは きれい、の 8巻。

本書の主人公、同じ年の義理の姉弟・湊(みなと)と透(とおる)。
中学生の あの夏の日から こじれてしまった2人の関係。

見たくなかった/見られたくなかった姿で対面したことで、
一方は きれいを追求し、他方は汚いを甘受した。

そうして潔癖症をこじらせた湊が、架空の女子高生・みな として透と交際をする。

その過程の中で見えてきたのは、最初に出会った頃と変わらない透の優しさ。
そして嘘に頼る自分の弱さ、嘘を続ける自分の汚さ。

彼女の嘘は自分を守るために行使される。


一方、あの夏の日以降、女性関係が乱れに乱れ、湊から蛇蝎の如く嫌悪されていた透。

だが今回、そんな彼の心境が初めて語られ、彼の中にある純真な部分が明かされる。
それは自分がどんなに汚れても、変わらなかった彼の本願。

自分をも騙す彼の嘘は全て彼女を守るためのもの。


いつの間にかコスプレしていた自分のキャラクタ。
嘘をついたことで見えてきた自分と他者の本質。
今回、湊は清濁併せ呑む 素の湊として、透に向き合うのだが…。


世一代の透への告白は、まさかのスルー。

これには『7巻』ラストから楽しみにしていた読者も肩透かしを食らっただろう。

でも これは、無駄な先延ばしなんかではなくて、
後半を読むと 透なりの理由があることが分かる。

それが湊の「物語の無さ」だろう。

「透の中では わたしとして(みな ではなく湊)
 透を好きになった流れが全然見えない」というのはもっともな指摘。

読者は二重恋愛も、湊の心の推移もずっと追ってきているが、
透としては、一足飛びに距離を詰めてきた姉に困惑するしかないだろう。

透の不信は彼らの変遷にも原因が あった。
あの夏の日、いや それ以前から絶望の中に生きていた透にとって、
自分が永く望んでいた言葉を姉が発するなど非現実的なことだったのだろう。

透は甘い言葉に乗りそうになる自分を自制している。
姉の告白を信じて、暴走した自分が姉を傷つけてしまうのが怖い。

もはや透にとって姉との距離は つかず離れず が適切な距離になってしまっていた。


が、みな として透の本心を聞いていた湊としては まさかの結末。

この勝負の勝算は高いと判断したのに、まさかの敬遠。
告白する前よりも希薄な関係になるとは思いもしなかっただろう。

やっと本当のことを話しても信じてもらえないのは、まさに「おおかみ少年」のよう。
大体が自業自得だから、一層 悲しい。

2人きりの空間を徹底的に避け、家に帰らなくなった透に対して、
湊は 彼の困惑を除去するために、また嘘をつく。

でも これは後ろ向きの嘘ではなくて、
塚口先輩が湊に告白した際(『6巻』)、彼女の困った態度で望みのないことを悟り、
咄嗟に誤魔化したのと同じ、優しい嘘だと思う。

その嘘は自分の都合よりも、相手の心の平穏を望んでいる自分が つかせる。

これまで嘘を逃げ道として使用してきた湊も、
他者を思って嘘がつけるようになったという成長の証でもあるのではないか。


まぁ、この嘘のせいで更に透は混乱することになるのだが…。


の回想編が2話分続く。

「小学生の時に初めて会った その時から 多分ずっと好きだった
 初恋だったのかもしれない」

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同じ年の あの子は僕を その手で世界一にしてくれた。だから僕は世界一でいなければ いけないんだ。

湊と初めて出会ったのは小学校低学年~中学年の頃。
妻と死別した透の父親と、夫と離婚した湊の母親が「お友達」になった頃から。

けれど無知が透の人生を狂わせたともいえる。

まさか自分の父親が再婚を前提に湊たち母娘と会っているとは思っていなかった。

仲良くなった優しい湊と結婚するいう夢は、姉弟になってしまっては果たせない。

子供だったから、子供で純粋だったからこそ、深く傷ついた透。
そこから絶望が襲った。

思えば、女子高生の みな と交際時に、時期尚早で独り善がりな家族計画を話していたのも、
かつて潰えた夢のリベンジだったのかもしれない。

そう考えると透と みな の交際って悲しいものがありますね。
彼にとって みな は諦めていた自分の気持ちや夢を再生する装置でしかなかったとも考えられる。
みな が実在していたら透の嘘は、湊のそれと同等か、それ以上に罪深い。

透にとって湊は、自分が知らない母の優しさを与えてくれる人で、
自分が言い出せない父への甘えを補完してくれる人で、
世界一という自己肯定感と目標をくれた人で
きっと初めて好きになった異性で、
つまりはそれは世界そのもの。

こりゃあ、湊が神になっても おかしくありませんわ。


しかし中学校入学前から なかば投げやりな人生だから、
家族とは適切な距離を保ち、他者(特に女性)とは刹那的な関係を築く。

あの夏の日、透の部屋で裸の彼を湊が見た時、
自分が「世界一最低な弟」になったことを痛感した。

悪循環ですね。
また湊に頭を撫でて欲しくて演じていた役は最低の評価を受ける。
彼女のために「世界一」を目指していたのに皮肉な結果だ。

ただ悪いことばかりではなく、
自分の素行の悪さ(主に女性面)が評判となることで、
湊の男性不信が募り、彼女に「好きな人」が出来ることは遠ざかった。

透は自分の行動が間接的に彼女を傷つけることを知りながらも、
それが彼女を守っているとも信じていた。

ヒールになることでナイトになる、か。
まさか、彼女に嫌われることが快感に変換されたりしてないよね⁉
無表情を取り繕いながら、内心では ドM心がMAXとか 割と気持ち悪いです。


でも、透は本当に「女関係なかったら悪い子じゃない(『1巻』湊 談)」。
家族関係を何よりも尊重し、波風を立てない。
両親の前では昔の様な関係を演じる嘘つき兄弟たちは優しい。

湊に嫌われても言い訳もしないし、追い縋ったりしない。
何事も右から左に受け流す、それが彼の信念なのかもしれない。
タフな精神力の持ち主です。


んな気まずい状況の中で開催されるサークルのスキー合宿。

今回の日程は年またぎ。
そして部屋割りは またもや湊たち高槻(たかつき)姉弟で1室。

精神的不調がスキーに影響するのも同じな姉弟
血は繋がってないのに、魂の双子。ソウルメイトなの?
湊は透、透は湊、と考えれば本書は一気に分かりやすいのかもしれない。


そんな一室で巻き起こる姉弟の対話。

部屋から出て行こうとする透に対して、湊は訳を問いただす。
そこで語られるのは ありたい自分たちの関係性。
今度こそ、嘘偽りなく想いを伝える…。

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彼の手を通して、あの日から彼が自分をどれだけ大切に想ってくれていたかが伝わる。

2人の想いが通じる場面、すごい好きだなぁ。

『1巻』や回想の中にあった、あの2人での最初の思い出に繋がるのかぁ。
それを覚えていてくれた湊がいて、
それを嬉しく思う透がいて、確かに気持ちが重なるのを感じられる。

どんな愛の言葉を囁かれるよりも ずっと確かなものが伝わる、
この2人らしい幸福な場面だな。

あの日の、あの日からの透が救われる感じもして涙が出てきます。


透が湊の気持ちを無視してまで強引にしてしまいそうになること、したいこと、には笑った。
これは後半の清い関係の伏線でもありますね。

きっと透の中では少年だった あの日の想いが変質することなく保管されていたのだろう。
湊は その手一つで、自分を満たしてくれる大切な人だから。


うして新たな関係性が構築されて始まる3回目の新年。

今年は湊と透だけで、そして両想いの2人として初詣に向かう。
同じシチュエーションを何度も描くことによって、
立場や流れた歳月を感じられるのが長期連載ならではの楽しみですね。

冬はイベントごとが多い。
続いてはバレンタインデー。

なのだが、年明けから1か月強経過しても何の進展もない2人。

どうやら透にとっての湊は不可侵の聖域らしい。
長年の思慕が、彼女を神格化させてしまったみたいだ。

透は彼女を 見守れれば それでいいらしい。
心が通うことが透のゴールで、もはや煩悩も湧かない様子。

ここで湊の心に湧き上がるのが、透の元カノ問題。

元カノとラブラブでイチャイチャだったことを身をもって知っている湊だけに
元カノ・みな に強い羨望を抱く。

少女漫画のお約束、元カノ問題が噴出するのだが、
それが亡霊との闘いだという構図は面白いですね。

みな もまた自分なのだが、透と恋人としての距離が近かった。
自分であって自分でない、相手に出来て自分に出来ない恋愛体験が彼女を悩ませる。

ここもまた、冒頭の告白と同じように、
嘘をついてきた分の報いを湊は受けているのでしょうか。


そんな悩みを抱えながら眠った湊の重大なミスを残して物語は終わる…。


巻末にはタアモさん『たいようのいえ』とのコラボ企画
「たいよう×ライアー」が収録。
掲載内容は『たいようのいえ 13巻』のものと全く一緒ですね。

アサダニッキさん『星上くんはどうかしている』といい、
2015年前後の雑誌「デザート」は私好みの作品が多いなぁ。

ライアー×ライアー(8) (KC デザート)

ライアー×ライアー(8) (KC デザート)