タアモ
たいようのいえ
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★★(8点)
「今、この家に帰ってこなきゃいけないのが、すごくすごくうれしい--」……子供の頃、むかいの基(ひろ)の家に入りびたっていた真魚(まお)。その家に行くと必ず元気になれたから。数年後……父の再婚で家に居場所がなくなった真魚は、両親を亡くして以来、独りで家を守る基の家に住まわせてもらうことになったけれど……!?年の差幼なじみ2人の、明るく切ないラブストーリー!
簡潔完結感想文
- 理由は違えど育った家庭を失った真魚と基。喪失感を抱えた2人は身を寄せ合うように同居する。
- 昔からよく知っている相手の知らなかった顔。言い争いをしながらも、それが出来ることが嬉しい。
- 母のように兄のように思っていた基への想いは恋⁉ 思わず告白してしまったが、どうなる同居⁉
(加筆修正中です)
基礎工事・基礎設計が しっかりされた丈夫な家。そんな印象の漫画です。
物語が進むにつれ、がらんどう だった家と心が少しずつ満たされていき、幸福感に包まれる。
『1巻』時点では少し暗いお話ですが、それもまた基礎工事の一つ。
その上に『たいようのいえ』という建物は構築されていく。
まずは基本情報。
主人公の本宮 真魚(もとみや まお)は高校2年生の女性。
1話で語られるのは両親に振り回されてきた、これまでの彼女の人生。
共働きの両親は家を空けることが多く、料理も出来合いのもの。
小学生だったある日の夜、家に帰ってきた母親は父とは違う男性との結婚を告げた。
そして真魚は消去法的に父親との暮らしを選んだが会話も少なく、
最近、その父が再婚し、新しい母と妹が増えたことで、家での真魚の居場所は失われた。
温かなご飯、温かな家庭を知らずに育った真魚の中で、その象徴ともいえる家庭が、近所の中村家だった。
そして、もう一人の主人公と言えるのが中村 基(なかむら ひろ)。
男性・23歳・新人プログラマー。
2話で語られるのは温かな家庭、家族を一度に失った基(ひろ)の過去。
仕事場が遠く父親の不在が続いた中村家だったが、
基の要望もあり引っ越した大きな家では家族揃って食事を囲むことが出来るようになった。
その引っ越しで出会ったのが真魚だった。
中村家の大きな家で基たち3兄妹と両親に温かく迎えられる真魚だったが、
数年後に中村家の両親は事故で他界してしまう。
基だけが大きな家に一人で暮らし、弟妹とも別々に暮らすようになった。
そして現在、住んでいた家での居場所を失った真魚と、
住んでいる家から家族を失った基が身を寄せ合って同居を始める…。
基軸となるのは、真魚と基の関係性である。
遠くの親戚より近くの他人という言葉通り、他者の方が手を差し伸べやすいこともある。
ましてや2人の目下の悩みに血縁者が関わってくるのなら なおさらだ。
2人は互いに欠けているものを補填するかのように同居する。
真魚にとって基はお節介な人である。
年齢や性別的に兄かと思えば、基は母のように何かと細かく真魚を注意し、そして家事もこなす。
しかし両親に存在を無視されるように育ってきた真魚にとって、そのお節介は くすぐったくもある。
自分を確かに気にかけてくれている人がいる。
そのことは今後の真魚にとって基盤となる出来事だろう。
これまで真魚は辛い現実に折り合いをつけるシェルターを構築してきた。
子供の頃から落ち込むと神社に駆け込むのも、その一環だろう。
そして父親の再婚の前後から逃げ込んでいるのが、ケータイ小説という架空の空間。
基の家もシェルターの一つだろう。
自分が大丈夫と思えたら立ち上がり帰るべき本当の家に向かうはずだ。
2人にとって、お互いの存在は かりそめの家族なのだ。
一方で、そんな基にとっても真魚との同居は苦労ばかりではない。
甲斐甲斐しく世話をするのも、それが何も全て優しさに由来する訳ではない。
真魚との同居を提案する直前まで基は、離れて暮らす実の妹との再会と同居に浮かれていた。
だが妹から同居の延期を告げられ、精神的に落ち込んでいた時に真魚に居場所がなくなった。
基にとっても疑似であっても真魚の存在は家族や他者を実感できる確かな存在なのだ。
真魚との暮らしは家族にこうしてあげたい、こんなことがしたい というエネルギーを発散できる場なのだ。
高校生の真魚から見れば基は社会人で、年齢差も感じるだろうが、
詳細な年齢は分からないが、基は高校生の頃(推測)に両親を亡くして、
それからずっと一人で家を守る使命に駆られて生きてきた。
穏やかで優しく母性まで感じさせてくれる人だが、
その裏でこの数年間、どんな思いで闘ってきたのか、
そこに想いを馳せるだけで、この人のことを好きになってしまう。
外見も格好いい人だが、一番惹かれるのは内面だろう。
また、本当の家族・兄妹ではないから関係性が恋愛に発展することも可能だ。
『1巻』では真魚がその感情に気づいて、思わず基に告白してしまうところで終わる。
これまで不器用に距離を近づけてきた2人。
そこに恋という要素が入ることで、また新たな登場人物が入ることで、
どう話が展開していくのか、本書の構築する家の姿が楽しみである。
冒頭でも書いた通り、本書は基礎設計が入念にされているように思う。
全13巻の割には登場人物が多くなく、そして『1巻』の段階で、
ほぼ全ての人物の顔見せは完了しているのではないか。
連載の少女漫画には珍しく作者が書きたい作品を過不足なく描かせてくれている気がする。
同じ掲載誌『デザート』のアサダニッキさんの『星上くんはどうかしている』でもそんな印象を受けたので、『デザート』は私の好みの雑誌かもしれない。
こうやって次も『デザート』の漫画を読んでみようと思うのは良い連鎖ですね。
人気が出たから連載続行で、新キャラや新展開など増築に増築を重ねた構造の、全体として いびつな家より、
土台に見合った建造物を建ててくれた方が好ましく思います。
本書の場合は土台は大きさは基の家そのまんまだろう。
これまでは がらんどうだった基の家が温かな空気で充満すること、それが作者の目標ではないか。
なので作品の評価も全巻を通してして欲しい。
確かに『1巻』は、あまり気持ちのいい巻とは言えない。
なぜなら可愛らしい絵柄と裏腹に
真魚と基、2人の土台には不幸があるからだ。
基の両親の事故死という過酷な出来事も同じなのだが、
精神的には真魚の存在を無視するかのように生きる彼女の両親の存在が重い。
真魚に陰気さがないのは救いだ。
父や家庭に対して臆病にはなっているものの、基本的に明朗な人である。
勉学の面では頭は良さそうだが、基本的生活力はなく、不器用である。
そんな不器用さが愛おしくなり応援したくなる。
そんな点も本書は絶妙なバランスで構成されている。
本書の基幹となるのは人の優しさだ。
是非、そこが描かれるところまで読んでみてほしい。
また登場人物が増えるたびに面白さも掛け算式に増えていく。
真魚たちの恋路、真魚の家庭の事情、基の家庭の事情、
それぞれがどう変化していくのか、読み応えは十分だ。
全体的にはTBS系列で火曜10時でテレビドラマ化しそうな内容だと思った。
ドラマに興味ないんで見ないと思うが、
キャストと脚本に恵まれて、人気ドラマになって作品が注目されたりしたら嬉しい。
そのぐらいには作品が大好きなのだ。
余談ですが、女子高生(中学生)がケータイ小説を書いているという設定は『わたしに××しなさい!』を連想した。
出版時期(本書が2010年~2015年、『わた×』が2009年~2015年)も同じぐらい。
部門は違えど両者とも講談社漫画賞を受賞しているのも同じ。
主人公が不器用にラブを探すのも似てなくはない、か。