金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第10巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★(8点)
高槻湊23歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透に別人「みな」として惚れられてしまいつきあっていたが、真相を話せないまま別れてしまう。ようやく湊自身として透と恋人になった矢先、「みな=湊」とバレちゃったけど、変わらず湊を受け入れる透。そして社会人になった2人は、両親に自分たちのことを話そうとして……!? 世にも奇妙な二重恋愛コメディー、ついについに大団円の完結巻!!
簡潔完結感想文
- 問題解決。交際を報告する最初で最大の難関。緊張ピークからジェットコースター婚。
- 事後報告。自己完結型の結婚なので報告は後回し。それは ちょっと薄情すぎじゃない?
- 原点回帰。新婚旅行は始まりの地へ。生涯たった一人を愛しぬいた嘘のないヒーロー。
2人のため 世界は あるのかな、の 最終10巻。
『10巻』は幸福な巻。
甘ったるくて、甘い以外の感想が出てきません。
『10巻』そのものが後日談やファンサービスとも言える内容です。
収録話数は7話ですが、その内3話はサブキャラの番外編。
そして最初の2話、いや1話で本編は終わっているので、実質1話かも…。
最初に物語のピークが来て、そこからは惰性で動く幸せジェットコースターです。
いや、摩擦ゼロの永遠に幸せ リニアモーターカーかもしれない。
こうして2人は いつまでも幸せに暮らしましたとさ、というお話です。
どこを切り取ってもニヤニヤしちゃう充実の内容だけど
中盤もサークルのサブキャラの話じゃなくて、2人の話にして欲しかったのが正直なところ。
ともあれ、7年以上に亘る連載も これにて終了。
雑誌読者の方は、色々な意味でヤキモキした7年だったのではないでしょうか。
さて、ここのところ巻末に巻き起こる暴露大会。
『7巻』ラストは主人公・湊(みなと)の透への初告白、
『8巻』ラストは湊 = みな の二重恋愛が透にバレる、
そして『9巻』ラストでは2人の母に自分たち姉弟の交際を話した。
だが話を聞いた母の活動を停止してしまい、
それを見かねた湊は母を蘇生させるためにも今回も嘘にしてしまう。
相変わらず湊はカミングアウトが下手だなぁ。
結局、自分から真実を話したこと1回もないのでは?
これを湊の成長の無さと呆れるか、
それとも これが本書における湊の様式美だと考えるか。
少女漫画史上一番 嘘に逃げ込んだ主人公かもしれませんね。
一番 近しい人に交際を認められない事態が巻き起こりそうでしたが、
その事態は あっという間に回避される。
相変わらず、緊張と緩和、間の取り方が上手いですね。
コメディとして問題を真正面から捉えはしないが、
でもちゃんと起こる可能性のある苦悩は刻んでいる。
物事に柔軟に対応する両親の性格は、
湊が見習わなければならないところですね。
ただでさえデリケートな問題である連れ後同士の再婚と、
数年後に姉弟で会話しない難しい時期も乗り越えて、
子供たちがいなくても夫婦で笑い合えてる関係が続いている。
彼らの姿は、30年後の湊たちの姿であってほしい。
この2人の間で愛情たっぷりに育った世界一の子供たちだもの。
なれるさ、君たちなら。
2人の交際を聞いた両親の妄想は、暴走し、
結婚、そして初孫の誕生まで思い描く。
架空の初孫は男の子。
湊に似てますね。
しかも他家の血が一切入らないサラブレッド孫。
この夫婦が祖父母バカになることは確定的ですね。
そうして両親にも認められてトントン拍子に結婚する湊と透。
社会人1年目23歳(透は22歳か)の結婚が遅いも早いも ないんでしょうね(特に透)。
このまま一緒に暮らしていても、
どうせ同じ結婚という結論に行きつくのならば、
いつ結婚しても同じなのだろう。
突然のことであったとはいえ湊は友人・知人には事後報告。
誰にも報告しないなんて薄情じゃないか?
あれだけサークル活動を楽しく描いておいて ここで通達しないのは、
いくら湊が控えめな性格であるとはいえ違和感がある。
透の方は最愛の人・桂(かつら)くんに証人になってもらった模様。
両家の両親は自分の両親、証人は共通の友人。
親戚も増えないし、何も変わらない狭い世界の結婚だなぁ。
しかし苗字も住まいも生活スタイルも変わらないから便利そうである。
結婚生活に題があるとしたら、結婚後 しばらく経つのに夫婦の営みがないこと。
順番をしっかり守る2人だが、結婚しても清い関係のまま。
湊と両想いになった時点で、それまでの性体験が全てリセットされ、
その精神まで出会った頃にまで幼児退行してしまった透。
小学生並みの男女交際の知識から徐々にステップアップしていったが、
本番を迎える前に、結婚という大イベントが発生したために
上手く成熟できなかった ご様子。
透にとって結婚生活とは完全に余生、らしい。
精神的に満たされてしまって、
これ以上 望んだら「幸せ死」すると思っているらしい。
これ、湊だから理解できるし、我慢できたことだけど、
もし 湊の作り上げた人格・みな が実在して、透と結婚しても 同じ経緯を たどったのだろうか。
その場合は間違いなく離婚ですね。
若気の至りで勢いで結婚してみたものの、夫婦生活はないし、
意味の分からない論理を繰り出すしで、価値観や思考も違う。
女子高生というブランドが好きだったのか、
はたまた完全に偽装結婚だったのか(本命は桂くん(笑))疑念ばかり膨らむ。
まだ、しばらく このままかな、と思ったら、いきなり始まる結婚何か月か後の初夜。
クリスマスやら誕生日やら旅行やら、
特別な日は たくさん過ごしてきましたが、
何でもない日に始まりました。
しかし今度は湊が性行為による死を予感する。
それが「串刺死(くしざし)」。
この場面、2コマの湊の視線の動きだけで彼女が何に怯えていたのかが分かる。
下品になり過ぎない笑いですね。
どちらも死なずに事を終えた2人。
透は実践では手加減できなくなる、と言っていたが どうだったのだろう。
あと、少し下品になるかもしれないが、この場面、透の感想も聞きたかったですね。
だって経験豊富な透にとっても初めて好きな人が相手のセックスだったわけで。
中学生に悟った「すごく普通だったな なにもかもが想像の範囲内」
という感想とは今回は違ったはずだから。
季節は冬になり大学時代のサークル恒例のスキー合宿。
前回は1年以上前の年末年始の合宿で、晴れて恋人同士になった(『8巻』)。
今回は夫婦での参加となり、そしてサプライズまで用意されていた。
うーん、この展開を用意するなら、
湊を報告を一切しない薄情者にしなくても 良かったのではないか。
恨みごとや友情を疑ったりもせず、ただただ祝福する様子は ご都合主義かな。
何気に『1巻』から登場しているメンバーたちなので、
最後に一堂に集まって、さよなら公演という意味合いもあるんだろうけど。
しかし本書の男性陣は見事に女性の影が ありませんでしたね。
透も含めて純情っ子の集まりだったし。
桂くんには幸せになって欲しいものだ。
まぁ 本題ではないので、無理矢理カップリングさせなくて良かった。
主人公が振った罪滅ぼし的に全員 恋人が出来る展開もウンザリですからね。
最終話は新婚旅行の話。行き先は どっか野 動物園。
それは まだ姉弟ではなかった子供の2人が初めて会った場所。
そうか、これは透の初恋が成就する物語でもあるのか、と深く納得する。
「また湊ちゃんと一緒にペンギン見たいな」という、
あの日の彼が救われる話。
約15年 経って果たされた約束。
再びペンギンの前で繋いだ その手の薬指には生涯の約束が光っている…。
番外編の烏丸(からすま)の話ではないが、
これは たくさんの if のなかで、たった一つの世界ルートの話なのかもしれない。
あの日、湊が女子高生に成りすまさなければ、
透に発見された時、羞恥から逃げるために嘘をつかなければ、
今の2人の形には ならなかっただろう。
湊は別の好きな人を見つけ、
透はその姉の姿を遠くから見つめるだろう。
でもハニートラップのように透の懐に潜り込んだことから、
彼の別の一面が見えてきた。
嘘がなければ近づかなかった2人の距離。
2人の距離が初接近した あの幼き日を透は忘れない。
2人の距離が最大に開いてしまった あの中学生の夏の日を湊は乗り越えた。
これは嘘が招いた幸福な話。
振り返って見ると、湊は恋愛観察ドッキリバラエティの仕掛け人だったのに、
まんまと恋に落ちてしまった人にも思えますね。
そう考えると湊の透への最初の気持ちは、
加害者と被害者が奇妙な連帯感を覚える「ストックホルム症候群」にも思える。
特殊な環境ゆえに彼の長所ばかりが見えるようになっていたのではないか。
まぁ、それもこれも透にとってみれば結果オーライなのですが。
「番外編1 塚口兄弟の場合」…
どうやら塚口(つかぐち)先輩は会社社長(それも高層ビルの中に構える会社)のご子息らしい。
「優しくて聡明で美形 ついでに背も高い」兄が失踪し、弟の自宅に上がり込む。
常に自分の憧れだった兄。
その兄は常に余力を残して器用に生きる弟の才能を見抜いていた。
『6巻』巻末の おまけ漫画では「あんまり喋らねー」と言っていた割に、
仲の良い兄弟である。
塚口先輩の本気の人生の幕開けです。
「番外編2 ナカさんと周先輩の場合」…
失礼ながら、これぞ興味のないサブキャラの話という感じです。
湊の結婚報告が本体なのではないか。
遂に実在のゲームを出してきましたね。
熱の入れようから言って、作者が好きなのかな。
結婚して数か月、ここで初めて結婚を報告する湊。
透が義理の弟だということも初告白。
じゃあ サークルの人たちには どんな姉弟だと思っていたのだろうか、と疑問に思う。
4月生まれと3月生まれの同級生だけど姉弟って訳でもないし
(湊が生まれたの数か月 早いだけ。まぁサークルの人は誕生日など気にしないだろうが)
二卵性双生児と思われてたら、もっと双子である驚きの1コマがあるだろうし。
湊が浪人していて、1つ下の現役入学の透と同級生と思っていたか。
なんにせよ、透がサークルに加入した時点で、あれやこれやと聞かなきゃ不自然だ。
まぁ、趣味のサークルだから他者への興味が薄い、という万能の逃げ道が使えるか。
「番外編3 烏丸真士の場合」…
烏丸くんは真士(しんじ)って名前だったんですね。
過去と、過去の自分の選択の検証に引きずられないように、眠りに引き込まれる。
みな と透が出会う前に湊と出会わない限り烏丸はバッドエンドルートしかないかな…。
いや、その前に出会っていても透が何かしらの牽制を仕掛けてきただろう。
彼の言う「見守り」は直接的な武力行使も厭わなそうだから。
- 作者:金田一 蓮十郎
- 発売日: 2017/09/13
- メディア: コミック