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少女漫画と小説の感想ブログです

「好き」を自覚した途端に悟る、恋愛対象から一番遠い、おれの消えそうな初恋。

ミントな僕ら 2 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
吉住 渉(よしずみ わたる)
ミントな僕ら(みんとなぼくら)
第02巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

まりあを追って女子寮へ女装して転入したのえる。あの手、この手で、まりあの恋をジャマしようとする。ところが、まりあの恋も、意外な方向にすすんでしまい…!?

簡潔完結感想文

  • クラスメイトのあの人と血が繋がっている⁉ 複雑な家系図は作者の得意分野⁉
  • 2つの性別と2つの名前で1人3役。「男の娘」が女の子を好きになると障害多すぎ。
  • ミステリだったら御法度の双子の入れ替えトリック。弟思いの姉は恋の応援団長。

やこしい家系図に ややこしい1人3役の 2巻。

いよいよコメディとしての本領が発揮される『2巻』。
目的に向かって一直線の主人公・のえる(男)が、
その安直な行動から どんどんと自分の首を絞めていく様子が面白い。

振り返ってみれば彼は、何も上手くいっていない。

双子の姉・まりあ の初恋を阻止しようと、女装してまで潜入した学校と寮だったが、
姉の初恋の成就は阻止できたものの、姉は簡単に2度目の恋に落ちてしまった。
思春期を迎え、恋愛バカになった姉を甘く見過ぎていた。

更には、当人は男同士の友情を育んでいたはずのクラスメイト・佐々(ささ)から好意を抱かれてしまった。
性別を偽り、女性として彼に接していたから当然だ。
そうして唇を奪われ、そして親友の初恋を台無しにしてしまった。

なんとも間抜けなスパイである。

そして彼の間抜けっぷりが際立つのが、自分の初恋を自覚したのはいいが、
女装をしている限り、それが絶対に成就しないことも悟った。

中学2年生の年齢のせいか、双子の恋はいつも短期決戦を念頭に置いている。

一刻も早く、初恋の相手・未有(みゆう)と お近づきになりたい のえる は、
性別は一致するが名前が一致しない もう1つの人格を作り上げ…。

物語は、策士策に溺れると嘘に嘘を重ねる結果となる破滅型コメディの様相を呈するのであった。


めて気になりだした異性で、ルームメイト・未有の嘘が気になる のえる。
家族写真に写る父親とは別人の男性と街を歩いているのを目撃し、
後日、それを問うても彼女は その人を「おとーさん」だと答えた。
性別を偽り女生徒として学校に在籍するという本書で最も大きな嘘をついている のえる は、彼女の嘘が気になるのだった…。

親友の佐々(ささ)がこの問題に介入することで、事態は大きく進展した。
そして明かされる未有と佐々の関係性。

この複雑な事情は家系図として説明されているが、ちゃんと考えないと分からない。
ママレード・ボーイ』みたいな夫の交換みたいなことが今回もある。

ここで分からないのが、未有が母に連れていかれたタイミング。
元々、母は未有の育児を放棄気味だったのに、いつの間にか母に同行していることになっている。
2人に記憶がない赤ちゃんの頃には、未有と佐々が同居していた可能性もあるのだろうか。
となると、彼らの関係は いとこ にして幼なじみみたいものだろうか。
一時的でも同じ環境にいたのなら、双子や姉弟に近いものがある。

作者は複雑な家庭の事情がお好きなようだが、
どうせなら未有と佐々の恋愛モノにして、ロミジュリ状態の設定も面白かったかも。
母同士(姉妹)の反発と和解を背景にすれば大人の物語になったのではないか。

そんな未有と佐々と特別な関係を知り、またも胸が痛む のえる なのであった…。


えるが初恋を自覚していく最中、まりあ の恋が大きく動く。

何と彼女は広部(ひろべ)と両想いになり、交際を始めたのだ。

「広部」といっても、彼女が転校するキッカケとなったバスケ部のコーチではなく、
その弟・広部 良陽(よしあき)に告白され、即座にOKをしたのだ。

恋愛バカが その能力を大きく発揮しました。
まりあ の決め手は顔。
自分でも節操がないと思っているらしいが、
最初の3秒で「あり」「なし」を決めているのも事実だから仕方がない。

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双子の内、恋愛が上手くいく担当なのであって、尻軽とか軽薄とかでは絶対にない、はず。

でもこれ、まりあが単独ヒロインだったら、読者から大きな反感を買ったでしょうね。
読者も広部(兄)と結ばれる可能性は低いとは思っていただろうが、
まさか広部(弟)に簡単に乗り換えるとは思わなかっただろう。

次は良陽のいる学校に2人揃って転校するのか⁉
まりあが惚れた男を追って学校行脚するのも それはそれで楽しそうだ。

作品として のえる の存在が結果的に、まりあ の防波堤になっているが、
作者としては まりあが単独ヒロインでも同じ行動をさせたでしょう。
時間をかけて育む様な「運命の恋」とか「運命の人」とか、そういう恋愛の描き方はしないだろうし。
それに本書から12年後の作品『ちとせetc.』では、単独ヒロインが同じことをしているもの…。

ただ いっぱい好きになったり、様々なタイプの人と交際してみたりするのは、
色んな価値観に触れることにも近いのかな。

それは少女漫画を読むことと同じこと。
私にとって吉住作品は、「好き」の軽さが私が求めるものとは違うけど、
設定を含めて読者を楽しませるためのサービス精神が好きだ。


える はまだ姉離れが出来ていない。

良陽との交際も邪魔しようと必死。
兄のコーチに続いて、またもやお出掛けデートに随行する。

良陽の方は一目惚れではなく、兄から聞く話で好きを積もらせていったらしい。
これは2人とも実物を見て、即座に好きになったじゃ身も蓋もないから、
僅かでも読者から祝福されるような恋愛のために用意したのかな。

その話を陰で聞いていた のえる は自分勝手な行動を反省する。
そして2人の交際を遂に認めたのだった。

のえる の邪魔が入らない男が、まりあ の正式な恋人なのだろうか。
同性としてマリアの彼氏を見極め、大切な双子の相方として彼女を守ろうとする。
ある意味で、のえる は一番大切な人(まりあ)への終わらない初恋を終わらせなければならないのかもしれない。

姉との新しい関係を築いた時、のえる のモラトリアムは終焉するのだろうか。
もしくは、のえるが初恋を鮮明に自覚して、まりあ のことが二の次になる方が早いだろうか。


うして のえる と まりあ が この学園にいる意味は失われた終わった。

そして まりあ は、弟の自由のためにも転校を提案する。
この辺から、リア充となった まりあ は本来の優しさを取り戻したように見える。
自分を追って、恋の邪魔ばかりする弟を邪険にするだけでなく、彼への気遣いを見せるのだ。


だが、転校話は のえる の初恋によって立ち消えになる。

のえる は、近づく未有と佐々の距離感にヤキモキした自分の気持ちが恋だと気付いたのだ。
そんな彼にアドバイスを送るのが、恋愛バカの姉。

しかし恋だと判明した途端、問題が勃発する。
未有にとってのえるは同性であり、佐々の彼女であるのだ。

好きから一番遠いところにいる自分。
少女漫画の中でも有数の逆境から、のえる の初恋がスタートした。


初の のえる の方針は現状維持。

里帰りしてしまう夏休み中に未有に全く会えなくなるよりも、
友達ポジションでいいから接点があることを望む のえる。
友達と言っても女友達なんだけどね。

帰省中に、男の格好で出歩いていたら未有に会ってしまう。
恵比寿といい渋谷といい大きな街で未有と会うのは運命なのではないか。

絶体絶命のピンチで生み出されたのは、架空の男性・栗原(くりはら)トオル
本当の のえる、女性としての のえる、そしてトオル
彼はこの4か月余りの間で、3つの人格を抱えることになってしまった。

だが のえるは、トオルとしてのアプローチなら未有に近づけるという姉の助言で俄然 前向きになる。
友情を保持したまま、恋愛もする。一挙両得の名案である。

未有と異性として会いたい のえるが提案したデートの約束。
しかし彼女が提案したデートの条件は、トオルと、のえる と佐々を加えた4人での会合だった。

女性の「のえる」が足りないが、その穴を埋めるのは…。

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危機的状況で生み出された人格は、初恋を成就させるための唯一の活路でもあった。

の辺は、スラップスティックですね。
正統派の入れ替わりコメディが成立している。
設定上はイトコ同士が2組いることになるが、全員顔見知りで、本来なら自己紹介すらいらない。

ただ これ以上複雑になると読者がついていけない可能性が出てくる。
未有と佐々の家系図のように、いつも関係図を参照しながら読むことになってしまう。
入れ替わりコメディは始まった途端に限界が露呈してしまっている。

それにしても たった2巻で環境が激変しています。
まりあが かつて恋を阻害してきた弟の恋を応援している姉になるとは…。

弟の恋を応援する まりあは何だかんだで優しい。
自分の恋や興味のある分野は出てくるけど、やはり2人きりの双子の姉弟なのだ。
本書で描かれる「好き」は私の好みではないけど、こういう姉弟の関係性は凄く好きです。

そしていつも双子の事情に巻き込まれる佐々には同情を禁じえない。
彼もまた とんでもなく良い人だということが分かる。

佐々が二度目の恋をした時、のえる は友情を失うことになってしまうのか…⁉