金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第05巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★★(8点)
高槻湊(たかつき・みなと)21歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透(とおる)に別人として惚れられてしまい、つきあうことに…! 次第に姉の自分として透を好きになってしまった湊だけど、あこがれの人・烏丸(からすま)くんに秘密がバレたり、塚口(つかぐち)先輩が自分を好きと知ったりで…!? 話題沸騰! 二重恋愛コメディー!
簡潔完結感想文
- サークル内恋愛。元カレ、私が好きな人、私を好きな人が一堂に会する愉快なサークル。
- クリスマス回。二重恋愛の到達点。別人格プレゼント交換会。最初で最後のクリスマス。
- 神様に願うこと。この恋愛が終わっても彼が幸せでありますように。別れが刻一刻近づく。
これでもう 私が居なくても透は大丈夫だね、の 5巻。
ある早春の日、そう言って彼女は光の粒子となって消えていった…。
そう、みな は俺のことが心配で死んでからも しばらくこの世に留まってくれていたのだ。
…ってな感じのエンディングを迎える作品のような雰囲気が出ている『5巻』です。
主人公・湊(みなと)が演じる もう一つの人格・みな。
義理の弟・透(とおる)の彼女となった みな は幽霊ではないが、実体がないという点は一緒。
もし みなが実在の人物で、このエンディングを迎えるなら、
『2巻』で透と別れ、父の転勤先のエクアドルに向かう際の飛行機や、
現地で事故に巻き込まれてしまい、彼女は霊体となったと予想される。
以後、霊として透の生活を見守っていたが、失恋から廃人同様の生活になった彼を案じる
みな の想いが期間限定で彼女を実体化する奇跡を起こす。
みな が消失する期限は みな が本来、高校を卒業する日。
再び自分と別れることになっても大丈夫なように彼女は 透に自分以外の世界を広げようと努める。
そこにあるのは母性愛のような人間愛。
みな の美しくも悲しい彼への純粋な想いが、涙を誘いますね。
まぁ、霊体になってから1年以上も現世に居続けられるので、ちょっと締まりのない物語になりますが。
…と、冒頭から妄想全開で申し訳ありませんが、実際の みな=湊も同じような心境だろう。
『5巻』は恋愛面では これといって大きな事件は起きませんが、
湊の中では、年が明けて春が来るまでは別れへの助走期間である。
なぜなら湊は来春、みな が架空の高校を卒業する際に透との別れを確定させているから。
ただ、透は みな と別れると廃人になってしまった過去があるので、
湊は再度 失恋しても透の心が軟着陸できるように、心の置き場所の確保に努める。
かつての性依存から恋愛依存症へと依存症の形態を変える病める透。
依存症の克服には、それ以外の生き甲斐や社会的活動が適切だろう。
『5巻』は透の社会復帰していく様子でもあります。
前回の失恋で湊は姉として無力であることを痛感し、
この世から消失させたはずの みな の人格を再び召喚して
彼女を再誕させることでしか透を救えなかった。
2回目は同じ轍を踏まないように、透の中の湊の占める割合を増やすことを目指す。
それが自分の姉として役割だと心に決め、彼の世界を広げる。
それは湊と透の姉弟の立場で接点を増やすことでもあった。
透の世界を広げる手段として用いられるのが大学生活、そしてサークル活動。
『4巻』ラストで大学構内での透の接近禁止の念書を撤回にすることを表明した湊。
お互いに心が軽くなった表情を見せ、
予想以上に透は湊に話しかけてくる日々が やってきた。
過剰な湊への接近の理由を考えると、透に友達がいないことに行きつく。
そして それによって湊たち高槻(たかつき)姓の2人が姉弟だという事実が構内に広がる。
湊が所属するサークル内にも高槻姉弟の話題が持ち込まれ、
同好会の存続を危ぶむ現状に会長が、サークルの看板になり得る透の勧誘を提案。
この場面、自分だけの楽園であるサークルなのに湊が透の勧誘を強く拒絶しないのは、
透は絶対入らないという確信があったからなんですかね。
透の入会は ちょっと不自然な流れだと思う部分もあるが、
サークルの存続を強く望む湊の愛が成せる業か、
そして失恋が確定的な透の受け入れ先として考えているのなら、理解できなくもない。
湊にとっては、透との接点もでき(サークルの部屋なら人目も限られるし)、
サークルの発展にも繋がる一石二鳥の作戦に思えたのだろう。
だが、オタサーの姫である自分にとっては一石二鳥どころか、
弊害の方が多いことを失念している、おバカさんなのです。
この巻は ほぼ全編サークル回ですね。
受験生設定の みなの描写は少なく、湊の大学生活に重きが置かれます。
これは段々と物語自体、主人格が湊に移行する過程なのかな?
オタサーの姫になった湊が、雰囲気を悪くしないよう右往左往 立ち回る様子が おかしい。
ただでさえ自分を好いている烏丸(からすま)、塚口(つかぐち)のいるサークルに
弟で、自分が好きな透を投入するなんて、良い性格してるよ…。
にしても塚口先輩、良い人だな。
粗野に見えて、基本的に面倒見が良い人なんだろうなぁ。
同性からモテるタイプかもしれない。
報われない恋愛が似合うのが悲しいところ。
そして烏丸は相変わらず暗躍しています。
湊に対しては良い人の仮面を被りつつ、チクリと胸に刺さることを言う。
でも粘着質な男と思われたくないから、自分の気持ちは隠して、
相手の後ろめたさを引き出す狡猾な作戦が続きます。
烏丸は完全に透は湊が好きという前提でライバル視している様子。
そして みな が湊に そっくりなことが偶然か必然か思考を巡らす。
その事実で透を揺さぶり、精神攻撃を仕掛ける。
RPGの登場人物なら間接魔法・補助魔法が得意なタイプですね。
今のところ全知の烏丸が探偵になって、透と湊の嘘を暴くという展開もあり得るのかな?
作中は2回目の年末年始を迎える。
クリスマス回は、二重生活の極致。
サークルのクリスマス会の準備と片づけをしてから、
みな に変身して仕込んでおいた料理を持って透の家に行くというハードスケジュール。
昨年のクリスマスの時期は、お別れしていた透と みな。
そして みなには来年のクリスマスはない。
みな にとって透と過ごす最初で最後だから思い出を残したい。
そして このスケジュールが 湊に何をもたらすのか…?
サークルのクリスマス回はメンバー全員参加。
デートの予定など高槻姉弟(主に弟)以外に全くない様子。
こんな様子だから、今までは恋愛のゴタゴタもなく平和だったんでしょうね。
クリスマスではサークルのプレゼント交換で 湊は透に、
透の部屋では透が みな(湊)にプレゼントを贈る。
この日は一応、物理面ではプレゼントの遣り取りはしてるんですよね…。
クリスマスの夜、湊は みなとして透の部屋を訪問し、
聖なる夜は明け、朝チュン状態で朝を迎える…。
が、未遂どころか爆睡。
ハードスケジュールが祟りましたね。
二兎を追うものは一兎をも得ず、でしょうか。
この時の湊は みな として一線を越える覚悟を持っていた。
もしここで、一線を越えていたら「みな」の人生は大きく変わっていただろうと思う。
至上の喜びを知ってしまったら透と別れ難くなったのではないか。
そして みな としてなら可能な肉体関係も、湊としては可能性が限りなく低い。
湊も、現状では姉弟としての関係の確立を優先している。
いよいよ、湊は みな に敗北宣言を出してしまっていたかもしれない。
それによって心が折れてしまったかもしれない。
湊にとっては 折角の覚悟を無駄にする過失かもしれないが、
長い目で見れば、自分で自分を救ったファインプレーに変わるのではないか。
冬はイベントが目白押し。
年が変わって初詣回。
みな は透と2年連続、湊は透と2日連続の初詣となる。
みな の願い事は「春になって あたしがいなくなっても 透が元気で過ごせますように」。
冒頭の幽霊ストーリーに繋がるような願い事だ。
そしてサークル巻らしく、サークルでのスキー合宿へと続く。
雪の山荘で起きる恋愛事件簿。
クローズドサークルで どこにも逃げ場がない湊が袋小路に迷います。
いかにも事件が起きそうな状況で紙面が尽きる。
架空のミステリを創作するサークルメンバー、中津(なかつ)くん。
犯人役に悪人・烏丸を設定しているのが面白い。
彼は見る目があるかもしれない。
また本書はブラックな変身少女モノにも読めますね。
望みの無い恋愛に苦しむ女性が、魔法を使って好きな人の彼女に成りすます物語。
一番羨ましい立場になって、自分の暗い欲望を満たしていく偏執的な女性。
本書の場合、みな は架空の人物で、湊と同一人物で、
プラトニックな関係だから許容範囲ですが、
これがもう本来は彼に見向きもされない欲望のままに動いていたら、なかなか嫌悪感が満載だ。
人を騙すことは やはり本質的に気持ちのいいものではないと思わされる。
- 作者:金田一 蓮十郎
- 発売日: 2013/12/13
- メディア: コミック