金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第07巻評価:★★★★☆(9点)
総合評価:★★★★(8点)
高槻湊(たかつき・みなと)21歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透(とおる)に別人として惚れられてしまい、つきあうことに…! 透が同じサークルに参加して以来きょうだいとしても仲良くなりつつあるけど、秘密を知る元彼・烏丸(からすま)くんとの別れをきっかけに湊は透に真相を話そうと決意。けれど物語は予想外の方向へ…!? 話題沸騰! 二重恋愛コメディー!
簡潔完結感想文
巧みなミスリーディングで読者を翻弄したベテランの手腕を感じる 7巻。
本書で一番驚いたのは この『7巻』でしたね。
作品内で自分の予想が覆されて、それ以上の事が起こると
人はカタルシスを覚えるのではないでしょうか。
ミステリを読む愉しみは そこにあると思いますが、
本書でも同じ感情が起きました。
そして 本書の主人公 姉弟は、それぞれに イっちゃってる とも思いました。
別人格として義理の弟と恋愛を始めた姉と同様に、
弟の方の独自の論理と生き方を お楽しみ下さいとしか言えません。
また、そんな姉が作り出した人格・みな との別れの巻でもあります。
今回で改めて みな は、本当は透(とおる)に近づきたかった
義理の姉・湊(みなと)の心が生みだした生霊だったんだなぁ、と思った。
そして今回、透が湊のことを深く想っていることが判明したからこそ、
みな は役割を果たし、綺麗さっぱりと消失し、湊に還っていく。
本来なら2年の交際をしてきたカップルの悲しい別れの場面なのに、
悲しい以外の感情が溢れ出ていた名場面となりました。
こんなに後腐れの無い別れも珍しい。
そして この他にも『6巻』の後半から、
嘘がどんどんと消失して、恋愛問題が整理されていってます。
湊を好きな塚口(つかぐち)、烏丸(からすま)との関係、
そして もう一つの人格・みき と塚口も相手の幸福を願って別れます。
本書の失恋は優しいなぁ。
みんな 良い人過ぎるよ。
恋愛問題はオールグリーン。
もう湊の恋路を阻害する物はないと思われていたが…。
冒頭は『6巻』ラストから続く風邪回。
みな とのデートをドタキャンしてまで、姉のことを看病してくれた透の優しい嘘が秀逸です。
この嘘や、みな < 湊という図式が、次の驚愕の展開の布石にもなっていますね。
この前後では、湊を思う男性たちの優しい嘘が心に沁みますね。
3人それぞれ長所と癖があって忘れがたい人たちです。
風邪から復活した湊は、予定通りの透との別れを実行すべく みな として透の家を訪ねる。
だが、そこで展開されたのは、予想外の透からの別れ。
もう、この展開を見て本書をより一層 好きになりました。
1ページ、いや1コマごとに緊張感を はらんでいる。
「最初は好きな人に似てるから みな に惹かれたんだ」
衝撃の告白。
「外見がそっくりとはいえ 初めて 姉以外の人を好きになれたと思った」
もう全てを書き出したいほど重要な告白。
そうか、みな=湊の罪悪感だけしか語られてこなかったが、
透の方も罪悪感を抱えた恋愛だったのか。
湊は他人と偽って、透は自分の気持ちを偽って続けた交際。
お互い間違いなく幸福だったけど、決して満たされることの無かった恋愛なのか…。
別れ話を切り出し、独白する透の言葉を聞いていた みなが机に垂らす液体、その正体には笑った。
透に別れを切り出した時、彼は滂沱の涙をこぼしていたのに、
湊は泣くに泣けないんだね(笑)
そして なぜ最近まで仲の悪い状態であった湊と透が、
自分で進路を選んだであろう高校・大学と同じ学校に進学した理由も明らかに。
「姉が心配の一心で同じとこに進んだ」らしい。激重。
でも「あの人(湊)成績良かったから追いかけるのに苦労した」らしい。努力家。
しかし問題が一つ。
透は湊のことを「この先もなるべく側で見守りたいって思ってるだけ」で、
「おれは姉がいい人と一緒になって幸せになってくれたら言うことない」らしい。
そう透は湊と恋愛関係になるなどという高望みは していないのだ。
でも そう口で言う割には、
それなりに優良物件の湊の初カレ・烏丸に対しては見守るどころじゃなかった気もするが…。
今後も見守り、という名の、妨害が入りそうだなぁ…。
…ということで、詰んだ。詰みました。
我に返った湊は用意していたみなの別れの文句を伝え、透の家を出る。
そうして「みな」という存在は消滅する。
ここ、1話から登場している最重要(架空)人物の みな の消滅場面なんですが、
割とあっさりしていますね。
この場面の本題が別にあるからでしょうが、
みな の人格にも愛着を持っていた者としては少し憐れに思う。
まぁ、お互い泣いて抱き合って最後のキスをして、というのは想像で補完しましょう。
この怒涛の展開を湊が、友人・真樹(まき)ちゃんに相談しないのは、
この問題に評価を付けられたり、急いで解決したくないからだろうか。
物語的にも ここで真樹ちゃんが、真相を洗いざらい言えと
一言 言ったら、すぐ終わっちゃいますからね。
みな と別れたことで愛の巣が不必要になったので、透が実家に戻ってくる。
これは透が部屋を借りてから、ちょうど2年の節目でもあるのかな。
色々なことが起きて、何も起きなかった家ですね。
透としては欲求不満御殿となったのかなぁ…。
久々の家族4人での暮らしで、透は姉の監視者の役割を果たせる絶好の環境であろうが、
湊は自分を「愛してる」透と顔を合わせることに限界を感じる。
なので家を出ようと画策するが、
就職活動の内々定も出て、家から脱出する準備が整った湊が母に相談する。
しかし一人暮らしによって湊が潔癖症ライフを完成させ、
寄り付く虫一匹も侵入しない家になってしまうと危惧する母。
(その直前に烏丸と別れたことも報告済み)
湊自身が「一人暮らししたら ガチで 無菌室みないな部屋にする」と
言っていることから、母の心配は妥当だろう。
そこで母が提案する共同生活の同居人は、なんと透。
姉を見守り隊の隊長である透は、渡りに船とばかりに母の提案に全乗っかり。
ということで姉弟でのルームシェアとなりました。
大学3年生になる頃に、透を社会復帰させるために湊がサークルに誘ったが、
今回は透が湊を孤立させないように役割を果たしているとも言えますね。
初登場時は犬猿の仲に描かれていた2人が2年半ほどでルームシェアする関係になるとは、
友人・桂(かつら)くんじゃなくても驚きの展開である。
そして この2人は似た者同士であることが判明する。
お互い相手のことを好きなのに、好きとは言わないところまで似ている。
姉弟でありながら、交際直前の男女のような、
ドキドキ胸キュン同居生活なのだ。
少女漫画の一つの典型「同居モノ」が始まりましたね。
この2人だけの生活が新婚家庭っぽい、という湊の感想は、
似た者・透の感想でもあるだろう。
透は「焦った時とか狼狽してる時に(頭を)ぶつけ」るらしい。
そして新居ではそれを連発。
ということは…。
こういう嬉しい謎解きも少女漫画ならではですね。キュンキュンです。
もう一つ 似た者同士と考えると楽しいのは、
時間は遡りますが、まだ湊に内々定が出る前の実家ぐらいの時の一場面。
卒なく就職活動を終えた透から、面接の練習を提案される湊。
透も みな と別れて、想いを吐露したからか、これまでにない積極性を見せています。
ここで、互いにスーツを着て面接の練習をするのだが、
湊が透のスーツ姿に萌えているのなら、逆もまた然りだろう。
だって似た者同士だから。
もしかして透が湊を1回部屋から退出させたのは、
彼の方も心を整えるためだったのではないだろうか(笑)
そして湊も あれだけ嫌悪していた透の部屋にもすんなり入れるようになっている。
「透が好きだ!! この世の誰よりも幸せになってくれ……!!」
これもまた姉弟の同じ願い。
だからこそ、2人での恋愛が遠のくのだが…。
どうやら透の将来設計では絶対に結婚しない気らしい。
姉以上に好きになる人は いないって、20歳そこそこで悟ったんでしょうね。
彼こそ、老後は ヤドカリと桂くんがいればそれでいいのだろう…。
マジで世界の狭い世界の中で生きそうだな。
しかし みな との恋愛を終えた透は以前のように女性の誘いを断らない人間になってしまった。
大学構内でその様を見せつけられた湊は焦燥に駆られて遂に…。
気になるところで、また次巻。
次も絶対に楽しいに違いない!
作中では新年度を迎え、湊たちの大学生活も最後の1年となる。
新入生の入学でサークルにも新メンバーが加入する。
以前から交流のあった烏丸の妹と その友人も サークル入り。
こうして、湊は烏丸兄妹を同時に間近に見る機会が増えたけれど、
以前聞いていた烏丸兄妹の淡白さとは違う仲の良さに疑問を持ったりしないのだろうか。
烏丸が利己的な嘘つき野郎だということが判明する場面なのになぁ。
そして会長のメタモルフォーゼ。
化粧をしたら別人、痩せたら別人。
そういう世界です。
しかも会長の痩せた理由が、留年を繰り返す自身の悩みなどではなく、
サークルの存続を案じて というのが いいですね。
どれだけサークル愛に溢れているんだ。
サークルの いつもの飲み会 会場の階段付近は烏丸と透の逢引き場所(笑)
やはり透にとって烏丸は湊のお相手として悪くなかった様子。
どう見ても 敵愾心の方が勝っていた気がするが…。
サークル関係者では、社会人となった塚口先輩が登場。
そして、彼の前だけ現れる湊の別人格・みきの成仏回です。
同時に塚口先輩の みき への恋慕も成仏します。
つくづく不憫な人だなぁ、塚口先輩。
これによって3人格を操っていた湊が湊オンリーに戻ります。
この別れたちが、このところ湊は透の前で髪を下ろして恋愛モードの湊に勇気を与えんことを。
今回、一つだけ注文を付けるとすれば、
湊と透の、義理という特殊な関係と世間体をもう少し描き込んだ方が良かったかもしれない。
少女漫画読者としては、血が繋がっていない兄弟ならば
何をしてもOKと短絡的に考えてしまうが、現実はそう簡単にいかないだろう。
彼ら姉弟が義理であることを知らない人たちも多いのだからナイーブな問題となる。
その袋小路を もう少し丁寧に描いていれば、
両想いだけど逡巡する湊の思考の助けになったのではないか。
「風邪の日のふたり」…
透が みな とのデートの約束をドタキャンしたのは、幼き日の決意があるから、という話。
透には こういう決意が何個もありそうで怖いなぁ。
一途な頑固者には長短どちらの面もある。
- 作者:金田一 蓮十郎
- 発売日: 2015/05/13
- メディア: コミック