《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

凝っていない人には何もしないのが マッサージ師の愛。相手のことを思い遣る 愛。

親指からロマンス 9 (花とゆめCOMICS)
椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第09巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

やっと普通の恋人同士として再スタートした千愛と陽介。テスト期間を前に千愛は陽介の部屋で二人きりでテスト勉強をすることに…!? 一方、千愛が一目惚れした陽介の「凝りに凝った」背中のツボーズに、ある異変が!? 千愛のどきどきマッサージLOVE、ついに最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 最終巻にして本格的に恋愛解禁。お勉強回にクリスマス回、ちょっとしたすれ違いもあるよ☆
  • お話も原点回帰。私たちは今も体だけの関係なのか、触れる理由が無くなった体に触れるには?
  • ラストは卒業式&進級。結局カップル成立は2組? 予備軍が4組。5年後の展開も描いて欲しい。

ッサージという呪縛から解き放たれる 最終9巻。

呪縛と書くと負のイメージがありますが、
マッサージを題材にして、マッサージを通して結ばれた主人公カップルが、
それ抜きでも成立することを証明し、晴れて普通のカップルになる様子が描かれる。

これまで数々のハイテンションな展開を見せてきた本書ですが、
最終『9巻』では正統派少女漫画のようなエピソードが続きます。

1冊の中で交際初期のイベントや、倦怠期を迎える交際中期、
そして大きな事件が起きる連載最後のイベントまで駆け足で描かれている。


盤は彼氏の部屋に入る、彼氏に勉強を教えてもらう、
彼氏とクリスマスなどなど、最終巻にして初々しい お話が続く。

主人公の千愛(ちあき)とヒーローの陽介(ようすけ)は『1巻』から交際しているが、
実際には『8巻』のラストでようやく2人の本当の交際が始まったと言っていいので、
2人の中では、まだまだ付き合いたてホヤホヤのアツアツ カップル。

ここは物語の序盤では作者も千愛たちも まだまだ成長過程で、
恋愛描写が おままごと のような すれ違いしか描けなかったところを、
現段階の技術と心境で再構成しようということなのかな。

本書らしからぬ、いかにもな少女漫画が繰り広げられていて、いささか面食らう。
やっぱり多人数でワイワイやってる方が本書らしいのかな。

序盤では幾つかの少女漫画あるあるを織り込んでいる。

まずは勉強会。そしてヒーローの方が優秀という お約束。
薄々勘づいてはいましたが、陽介の方が頭いいんですね。

ただ千愛は何も取り柄がない主人公ではなくて、
マッサージ関連に限定されるが「知識」という面から見れば
他の高校1年生よりもずっと秀でているだろう。

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最終巻にて彼氏の家に初訪問。「えっち」な千愛が勉強のご褒美に望むこととは…⁉

この話はオチも含めて楽しい1編。
陽介の部屋から物が無くなるぐらい勉強すれば、
どんな大学にだって合格できるはず(千愛は大学には進学しないだろうけど)。


続くクリスマス回も、本書らしさを残しながらギャグが詰め込まれている。

演出こそお笑い寄りだけど、彼らなりに しっかりとクリスマスを楽しんでいる。
陽介もプレゼントを用意しているところが抜け目ない。

そういえば、これまでは過去のトラウマから、
千愛だけが陽介の運命の人だった訳だが、
女性不信が無くなったら、陽介にも浮気が可能になってしまうのか⁉


と、考えていたところで始まるのが、
陽介の凝りが無くなっていることで起こる一連の千愛の精神的懊悩。

そのキッカケとなったのが、陽介の凝りの象徴である妖精のような存在・ツボーズが、
陽介の体から見当たらなくなってしまった事件。

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最終巻にて2話目のような あらすじ紹介。話を本線に戻してロマンスをもう一度はじめよう。

通常ならば、彼氏の体が凝っていないことは喜ばしいことのはず。

しかし、陽介にツボーズがいないことは自身の存在理由にかかわること(と思い込んでいる)。
陽介をマッサージ面から支えるという自分の仕事が奪われたように感じる千愛。

ここでは千愛は陽介に他の女がいるのではという不安や、
自分には色気が足りないなどの悩み、
これまた少女漫画のあるある展開を持ち込んだ話です。

この回では、このところずっと見られなかった陽介もモテ男設定が復活してるし(女性に囲まれてる)、
陽介自身もちょっとSっ気のあるキャラになっている。
私には、読者ってのはこういうキャラが好きなんだろ、という作者のSっ気を感じる。

そこで相談相手として千愛が頼ったのが、久々の鍼師・白岩(しらいわ)。

「好色そう」という素敵な理由で彼に話をする千愛。
そういえば白岩は以前、陽介の凝りが精神的なモノと指摘していましたね。

白岩は陽介の凝りが解消されたことを素直に喜ぶが、
かえって増幅されるのが千愛の不安。

なぜならそれによって自分が用済みになり、
陽介が他の女に走るのではないかと不安が湧き上がったから。
千愛は自分が陽介に必要とされるのは、そのマッサージ技術だけだと思っているから…。

起こる事件と千愛の思考過程は本書ならではですが、
構図としては交際中期によく見られる、好きなんだけど不安になる、という流れですね。

この展開を陽介の凝り(=トラウマ)がなくなった『7巻』の直後ではなく、
文化祭回である『8巻』で一呼吸置いてから持ってくるところが上手いですよね。

その間も千愛はツボーズを見ていなかった。
でもお祭り騒ぎで目まぐるしく、そして交際がリスタートした幸福で
陽介の凝りなんて関係なかった。

まぁ、これが答えなんですけどね。
凝りに固執していた自分を解放するのが千愛の心の革命でしょう。

そして考えてみれば、そもそも陽介は千愛のマッサージから逃げてたという話もあるんだから、
マッサージ抜きでも関係は成立するんだけど。


じことは陽介にも起こる。

ツボーズという客観的な証拠はないが、自分の体のことなので、
自分の体が凝っていないことに主観的に気づく陽介。

そして陽介もまた凝っている体目当てで始まった恋だから、
凝っていない自分に存在理由がない(と思い込む)。

とにかくお互い、どんな自分であれ相手に好かれているという自信がない2人。
似た者同士ですね。初交際だし、仕方がない。

『8巻』では作者が意図的に陽介の凝りやツボーズたちの話題を描かなかった。
そして原点に戻るといった感じですね。

良い意味でマッサージから脱却して真実の愛を見つけることが出来た最終回イヴ。
2人の関係としては、これで結末を迎えます。

作者によると、この回を最終回にするプランもあったらしい。
ただ編集側の意向もあり、最終回となったのは卒業式の場面。

確かに恋愛面だけでみると普通のカップルになった最終回イヴがラストのようだけど、
上述の通り、本書の面白さを引き出したのは多彩な登場人物たちなので、
彼らが総登場するラストの方が相応しいかな。

描き切れなかった部分も多そうだが、
ちゃんと お別れが言える回になっている。

一つの季節が終わって3年生も送り出せたし、
そして新しい季節が巡って、新しい代にマッサージ部のバトンが渡り、
次の季節を迎えたところで終わるのも、終わらない物語のようで楽しい。

それに作者は3年生組が好きっぽいですね。

『9巻』にある作者自身が好きなキャラとして(千愛・陽介は別格)、
1位の夏江(なつえ)や2位の三姫(みひめ・2年ですが)となっているので、
描きたい人を最後まで描き切れてよかったのではないか。

このランキングを知らなくても、本編からそれが伝わってきてますもん。


そんな最終回では三姫の恋心が、まだ千愛にあって一安心。
今更、千愛を攻略できるはずもないけれど、
三姫には5年後に幸せが待っている、はず。

三姫の恋は夏江の頑張りに掛かっていることを彼はまだ知らない。


また、別プランとして作者が最終回に考えていた「明佳(さやか)編」はどんな感じだったのでしょうか。

多分、『2巻』以降、影も形もなくなった、千愛の双子の姉・明佳。
最終回に再登場させるために伏線も張っておいたらしいけど、どこなんでしょう…?
本気で分からないぐらいの伏せすぎた伏線ですね。

私は明佳のことはなかったことにして欲しい人ですが、
作者がどういうお話を用意していたかは気になりますね。

裏設定としては「息苦しい日々がとある人物との出会いで終わる」らしい。
それが恋愛だとすると誰でしょう。

高校生たちは大体カップルに収まっているので、
本命はマッサージ学校経営者・大貫(おおぬき)、
『9巻』で出てきた鍼の白岩。
大穴としては同じくマッサージ学校で出会った伏見(ふしみ)あたりか。

心の持ちようが似ているのは伏見かな。
大貫に憧れている彼は、彼の弟子的存在・東宮 武(とうぐう たけし・千愛の兄)を恨むあまり、
マッサージの本質が見えないほどに目が濁ってしまった。

これは実は千愛にコンプレックスを抱える明佳に似ているような気がする。
伏見が克服した自分の失敗が明佳にも応用されたりするのかなぁ…。

ちなみに明佳は「家を出て現在1人暮らし中」らしい。
大貫の弟子的存在になった兄の武も、かなり広めのマンションに住んでいるし、
(『9巻』のクリスマス回のケーキ作りは武の部屋のキッチンを借りた)
東宮家は、その名前に負けないぐらいの名家なのでしょうか。

千愛からは全く想像できませんが。

明佳を倒す際には、バトル漫画に変容して、
不陶花と山茶花、2つの高校が協力して、それぞれの固有の技を使って明佳を倒すのも面白そう。

「くらえっ、悪魔のイリュージョン」
「続けていくぞっ! 薔薇の舞DXバージョン!!」


または『7巻』の陽介トラウマ編みたいに、
明佳の精神に入り込むお話だったかもしれませんね。

でもそうなると暗くなりそうだし、やっぱり編集側が言う通り、
読者のほとんどは明佳に興味ないので、止めて正解だったでしょう。


そういえばアシスタントが豪華だったんですね。
ぽちゃまに』の平間要さんに、『それでも世界は美しい』の椎名橙さん。
この数年後、同じ雑誌に彼ら3人の連載が載ったりしたのかな。