《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

蹴りたくないけど 押したい背中。グーググーググーググー 親指から ラブ注入。

親指からロマンス (1) (花とゆめCOMICS)
椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第01巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

マッサージ研究会の期待の星・千愛(ちあき)は、普段は大人しい女子高生。毎朝バスで見る男の子のステキな(=揉み甲斐のありそうな)背中に一目惚れするが、その背中の持ち主は学校一のモテ男・陽介で…!? 究極の癒し系LOVEコメディ。

簡潔完結感想文

  • 登校中のバスで見かける背中に一目惚れ。顔も名前も知らない素敵な人。欲しいのはその体だけ…。
  • マッサージラブロマンス少女漫画、は最初の3話だけ、以降はマッサージ研究会の活動日誌に⁉
  • 黒歴史には退場いただき、次々とマッサージ関係者を投入。親指からコメディ、完成目前!

読めば 胸キュン もしくは 笑い のツボを押してくれるかもしれない 1巻。

書は多分、本邦初のマッサージを題材とした少女漫画 かもしれない。

青年誌などではマッサージ漫画はあるかもしれないが、
女子高生の主人公がマッサージを愛し、自らも施術し、
そしてその延長線上に恋愛がある少女漫画は なかなかないだろう。
(ミステリ小説では 近藤史恵さんが「整体師」を主人公にしたシリーズを書いてましたね)


といっても恋愛がメインになるのは最初とクライマックスだけ。
割と早く登場キャラクタが入り乱れるコメディに変容します。

これがマッサージ 一本では連載が苦しくなってきたからなのか、
それとも作者の脳内でキャラたちが大暴れして楽しくなっちゃったのかは分からないけれど。

なので純粋な恋愛漫画としては中途半端な立ち位置になっているし、
テンション高めのギャグ展開も読み手を選びそう。

初単行本に初の長期連載で、試行錯誤しているところもあって、
万人にお薦めできる漫画ではないけれど、
この漫画が好みのツボを突いてくる人も絶対にいることは確かです。


何といっても『親指からロマンス』という題名が良いですよね。
気になる書名だし、内容にも即している。
シンプルながらとても洗練された題名ではないでしょうか。


人公の女子高生・東宮 千愛(とうぐう ちあき)は毎朝バスで見かける男子生徒に興味を持つ。

といっても本書は普通の少女漫画ではない。
正確には、「マッサージしがいの ありそうな体」に興味を持った。
肩も首も背中も凝っている彼のことが知りたくてたまらない…、というのが物語の始まり。

その背中の主を探している最中に出会ったのが、同級生の森泉 陽介(もりいずみ ようすけ)という男子生徒。
友人に聞くと「学校で一番モテる」「百戦錬磨で今まで落ちなかった女はいない」という噂の持ち主。

f:id:best_lilium222:20201011211821p:plainf:id:best_lilium222:20201011211241p:plain
学校内で偶然、運命の背中に出会った千愛。彼の体に触れたくてたまらない千愛は声を掛ける。

「俺を本気にさせたら」「俺を惚れさせたら」マッサージをしてもいいと条件を提示する陽介。
全てはマッサージのために、陽介と同じ時間を過ごすことになった千愛だった…。

恋愛要素の基本構造は、学校一の男子生徒と(マッサージ以外は)冴えない女子生徒の恋愛という定番のもの。
ただし初めに興味を持ったのが彼の体で、彼の体に触れたいという欲望から物語が始まる。

恋愛に興味のない千愛がどんどんと陽介に惹かれて、
誤解や失敗を重ねながらも、距離を縮めていく。
最後には美味しいところを陽介が全てを さらっていくという水戸黄門的も少女漫画の基本構造だ。

まぁ、そんな基本に忠実だったのは最初の3話だけ。
この後、ちゃんとした恋愛漫画になるのは最終9巻の前あたりでしょうか…。


『1巻』は3話までが短期連載、そして更にその前の読切短編を挟んで、
4話からが長期連載という構成になっている。

なので(恋愛)漫画としては3話で一区切りがついている。
そこで一旦、リセットできるものはリセット。

陽介の対 女性の「百戦錬磨」設定も影を潜めます。
少なくとも3話までのように、いつも周囲に女性をはべらせている、という描写はなくなりました。
相変わらず女性たちには人気みたいですが。
更に後半では陽介の意外な女性遍歴が明らかになって…。

4話目からは純情な男女の不器用な交際編がスタートしています。

ちょっとした一言で嬉しくなって舞い上がったり、
悲しくなって落ち込んだり、
一風変わったキャラクタ同士の ままならない恋模様が各話のスパイスとして用いられます。

ただ、これが『3巻』あたりになると、マッサージ少年漫画に変容していくから不思議ですね…。

そして題材は恋愛からマッサージ研究会の本体へ移行していく。
部長や会計さんをはじめ登場人物も続々と増え、
研究会の活動に陽介も半ば強制的に参加させられるという模様になっている。

ちなみに4話5話は不穏な拉致の場面で終わり、次の話に続きます。


半のコミカルな内容と整合性が取れなくなってくるのが、千愛側の家庭の問題。

男に金目の物を貢がせた後に男を捨てることを繰り返し、
その罪や恨みを全て千愛に着せる 千愛の双子の姉・明佳(さやか)の存在や、
猫を被る明佳の言い分を信じ、千愛に厳しい言葉を投げかける母の存在は不要でしたね。

いつの間にかにいなくなった胸糞の悪い姉・明佳は退場するなら退場を明示して欲しかった。
(最終『9巻』での裏話によると姉は一人暮らしをしているらしい(作者の頭の中で))
千愛がどんなに幸せになろうとも、家庭ではほの暗い瞳になっているかと想像すると、
物語をちゃんと楽しむことが出来ませんでした。

特に中盤以降はコメディなので、千愛の笑顔の裏での彼女の葛藤があると思わせる設定は非常に邪魔でしたね。
家庭環境の不遇さと作品の方向性とのミスマッチが、鈍痛として体内に残ります。
黒歴史」として闇に葬ったのは正解かもしれません。

f:id:best_lilium222:20201011213044p:plainf:id:best_lilium222:20201011213039p:plain
シンデレラを いじめる義姉と継母のような双子の姉と実の母。いつの間にかに追放されますが。

書は椿いづみ先生の初単行本作品。
なみに私の椿作品の読書歴は『俺様ティーチャー』と『月刊少女野崎くん』を数巻ずつ。

後年の作品と比べると よく分かるのが、作者の たゆまぬ努力と持ち前のセンス。

作画面は本当に垢抜けたことが一目瞭然。
まぁ、それだけ本書の作画が稚拙だということでもあるんですが…。

描き続けて、確かに上達していく様を見られるのは読者としても嬉しい限り。
逆に何年間も同じ絵を描いていても上達を(それほど)感じられない人も いますから。
漫画家になって締め切りに追われながらも作画技術が伸びるのは、
どれほどの努力を重ねたのかと頭が下がります。

f:id:best_lilium222:20201011211259p:plain
ところどころ作画がおかしい。(左上)陽介、君はゴリラなのか⁉

後年の作品と変わらないのが、ギャグと登場人物の大きさでしょうか。

良い意味でネジのぶっ飛んだ人を描かせると上手いなぁ、と感心します。
勿論、全てが同じではありませんが『月刊少女』のキャラたちに繋がる系譜が見受けられるのも楽しいところ。

本書で少女漫画と全力で格闘したからこそ、
そんな少女漫画のあるある や 暗黙のルールを斜に見た作品が生まれたのかな。

作者は背中が大きい男が好きなのでしょうか。
本書のヒーロー・陽介など椿作品のヒーローたちは大きい。
背が高く、背中が大きい、ゴツい男たち。
いわゆるイケメンとは一線を画す、ちょっと大人びた イイ男たちです。


だし、作品の欠点も共通するところがある。
実は私は『俺様』は登場人物が誰が誰だか判別が付かなくなって挫折している。

本書でも、陽介と東宮(とうぐう)先輩、そして後に登場する他校の了(りょう)は、
黒髪で長身であるから見た目からは判別が出来ない(色々と差別化の努力は見え隠れするが)。

いたずらに登場人物を増やし続けてしまうという点は
(『俺様』では目つきの悪い似たような人たちが増えていくのは)
集中力や没入力などの問題から読み手を選ぶかなと思います。


場人物の多さの他にも基本的な感想は、『悩殺ジャンキー』で書いたことと重複する部分が多い。

初読時に強く思ったのは、(私の中の)典型的な白泉社の漫画だなぁ、ということ。

1.基本的に、多めの登場人物と物語のハイテンション。
2.(漫画の)線が細め。
3.作者の字が読み辛い。

と、私の中の白泉社漫画への偏見が見事に詰まっている作品でした。

同じ白泉社の漫画である本書にも3番以外は当てはまる。
(椿先生の字は非常に読み易い)

また作者が作品に注ぐ愛が無限大だと分かるところも似ていますね。

デビュー間もない作者が自分の持てる全てを注ぎ込んでいることが紙面から伝わり、
くすぐったくもあり、そして素直に嬉しくも感じられる。

漫画が好きなんだなぁ、あれもこれも描きたいことが溢れてるんだなぁということが実感できます。


「教えてプリンス」…
プリンスと称され、その名に恥じない恵まれた容姿を持ちながらも、彼女が一向に出来ない東宮(とうぐう)先輩。
マッサージ研究会の後輩・相沢 優奈(あいざわ ゆうな)は彼に女性の口説き方を享受することに…。

本書の中では一番 雑誌掲載が古い作品。
舞台となる高校や世界観は同じですが、妹の千愛(ちあき)も陽介も出てきません。

残念な先輩としっかり者の後輩の不器用な恋は上手く描けているが、
彼女が出来たらそれを踏み台にして、次の恋に進もうとする東宮先輩。
人でなしですか⁉

結末まで面白く一気呵成に読めるが、本末転倒な論理にはモヤモヤする。