椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
過去のトラウマを克服し、初めて千愛にキスをした陽介。改めて付き合い始めた二人だが、今度はお互いを意識しすぎて進展せず。そんな中、不陶花&山茶花高校が合同で文化祭を開くことに。準備でなかなか陽介にあえない千愛は…!?
簡潔完結感想文
学校も性別も超えて、お祭り騒ぎが繰り広げられる情報過多の 8巻。
『8巻』は冒頭の1話を除き、ほぼ文化祭回となっております。
しかも今年に限っては ただの文化祭ではない。
主人公・千愛(ちあき)が通う私立・不陶花(ふとうか)高校と、
そこから徒歩20分の距離にある公立・山茶花(さざんか)高校の、
2校が合同文化祭を開催することになったのだ。
まぁ、色々と不自然なような気もしますが、そこは無視しましょう。
不陶花だけでなく山茶花高校のキャラも続々と登場している本書ですから、
お祭りは全員参加で実施した方が盛り上がるに違いない。
正直言えば、読者としては目が疲れました。
というのも、各校にそれぞれペアになるドッペルゲンガーのような似た人物がいるからである。
その代表格が不陶花の武(たけし・千愛の兄)と山茶花の黒松(くろまつ)。
文化祭の準備で、黒松と千愛が ほのぼの会話している場面なんて、
「なんで兄妹でこんなに和やかな会話してるの」と本気で思った。
(ちなみに関西弁が判別方法です。喋らないと分かりません)
武は本来、ヒーローの陽介(ようすけ)との違いを出すために
後頭部で髪を結ぶようになったのだが、それが後発キャラの黒松とダダ被り。
そして不陶花の夏江(なつえ)と山茶花の生徒会長・早苗(さなえ)の
綺麗系の顔の人たちは同じに見える。
キャラもどことなく似ているので、注意深く観察しないと混同します。
(右目に泣きボクロがあるのが夏江。あとは髪の長短。)
そして人の判別問題では、文化祭回ならではの困りごとが発生。
合同マッサージ部での出し物は「メイドさんとマッサージ」。
しかし女子生徒がメイド服でマッサージをすると不届き者の餌食になる可能性があるから。
男女逆転して女子生徒が執事に、男子生徒がメイドになることに。
ただでさえ判別が付かない人物が性別逆転したら、もはやカオスです…。
文脈以外で女装・桜ノ宮(さくらのみや)と夏江の判別が付く人がいたら教えてほしい。
しかし なんで少女漫画の文化祭はメイドや執事が多いんでしょうね。
登場人物たちにコスプレ出来るからでしょうか。
「また このネタか」なんて辟易せずに、
出てきたら「待ってました!」と伝統芸能のように楽しむ方がストレスはなさそうですね。
…と、いうように文化祭回自体は大いに盛り上がっており、
各校の登場人物たちを総動員させて、
各所で恋の一歩手前のカップルたちが一定の距離を保ちながらイチャついている。
カップル予備軍ばかりが増えていきますね。
今回、カップル成立を予感させるのが不陶花の綾芽(あやめ)と山茶花の三姫(みひめ)。
もしかしたら この合同文化祭は彼らの出会いのための壮大な装置なのかも。
文化祭の期間中に出会った2人。
この機会がなければ出会わなかったかもしれません。
…といっても、マッサージに関しては文化祭以前から2校の交流が盛んだし、
2人ともマッサージ部員だから、これまでも出会ってても不思議ではないんですけどね…。
目つきが悪いことで周囲と自分を傷つけることを回避するために常にサングラスを着用している三姫。
そんな彼が、綾芽のクラスの出し物である お化け屋敷で、
綾芽をお化けだと勘違いし、悪霊退散の意味でサングラスを外したことから恋が始まった。
なぜなら綾芽の趣味はおかしく、皆が恐れる三姫の目が大変 魅力的に映ったらしい。
人によっては凶器となる三姫の目を恐れなかったのは、千愛に続いて2人目ですね。
そういえば三姫のもう一つの武器「低音美声(ボイス)」に関しては、とんと出てきませんね。
三姫が意識して声を使わなければ無害なのでしょうか。
そんな出会いから交流をすることになった2人。
三姫の恋は綾芽にシフトしていきましたね。
これは陽介のトラウマ克服で、千愛との間に付け入る隙が全く無くなってしまった
三姫の(将来的な)救済措置なんでしょうか。
あれだけ「ちーちゃん(千愛)」と連呼していた三姫が、
恋心を簡単にリセットして、別の恋にいってしまうのは寂しいものがある。
(綾芽の方からのアプローチの方が多いが)
しかし綾芽は、名ばかりではあるが数か月後には婚約者がある身になってしまうという…。
三姫もまた、夏江の計画が遂行される5年後までお預け状態なのか⁉
また、千愛と陽介の恋愛面も上手にリセットされた感じですね。
「手が出せない」という心理的ストッパーはなくなったものの、結局「手が出せない」陽介。
これまでの「おままごと恋愛」と何が違うのかといえば上手く答えられません。
これは少女漫画でよくある、
本当に好きになったから、簡単に手を出せない男の純情ですね。
過去のトラウマを克服して、千愛に触れられると思い、
徐々に身体を慣らさないといけない状態であるにもかかわらず、
それを一気に通り越してキスをしてしまったことで動揺しているのは陽介かもしれない。
そして千愛にとって大事件であるキスが、
「百戦錬磨」の陽介にとっては何でもないことかもしれないと思い悩む千愛と、
現実は陽介にとっても大事件であるというギャップが微笑ましい。
結局、2人の関係はこのぐらいで丁度良いんです。
文化祭という目の前に集中しなければならないことがあって、
千愛は(陽介も)無駄に煩悶しなくて済んで良かったですね。
マッサージ部とクラスの出し物とで会う機会も減ったことでストレスも減ったでしょう。
文化祭という一大イベントを通して、
緊張していた2人の関係が徐々に ほぐされていくという構成も良いですね。
ここからが本当の陽介と千愛の関係性の構築と、真の恋人としての交際になるわけですね。
残るはあと1巻。どんなお話になるでしょうか。