渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第18巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
「葵(あおい)のこと 今のおまえの中じゃ何点なんだ?」柊聖(しゅうせい)が突きつける問いに、玲苑(れおん)の答えは…? 柊聖vs.玲苑の対決は、文化祭のラストスパートへ。ぜったい負けられないこの勝負のゆくえは─!? 3人同居はますますハラハラ☆大嵐の予感!!! ドキドキが止まらない、ひとつ屋根の下、青春ラブストーリー。
簡潔完結感想文
- 文化祭決戦。互いに負けたくないし負けてない玲苑と柊聖。もし優勝してたら告白してたのかな。
- 台風の接近により気になるのは瞬間最大風速と進路。俺の人を好きになる気持ちと、私の将来の夢。
- 玲苑編は「家族編」に続き「仕事・将来編」。好きな人を通してなりたい自分像が確立していく。
何百万部も売れているとの評判の拡散力に比べて、顧客満足度が低い 18巻。
業績改善もお手の物の玲苑(れおん)くんに問題点を列挙してもらえばいいのに。
本書は、小説でいう「行間を読む」という行為の余地がない作品だ。
起きたことはそのまま描いてあり、登場人物たちの心情も一から十まで説明してくれている。
物語に引き算がない。そして余韻がない。
だから、ただ事実が羅列されているだけの日記のような印象を受けてしまう。
人の心の ひだに触れるような言動や場面が少ない。
主人公カップル、そして2人の間に流れる空気、それらが立体的に浮かび上がってこないのだ。
そして通常1ページで済むところを2ページ使っている気がする(特に玲苑編)。
膨大な構想から読者に与える情報を取捨選択しているのではなく、
どうにかページを埋めることを第一目的としているかのようだ。
たまに新人作家さんで、描きたい情報が多すぎて絵面がうるさくなっていることがあるが本書はその逆。
だからといって、本書が枯淡の域に達しているかというと、そうではない。
ただただ、コマが大きいだけなのである。
子供の頃からずっと自分にとって いとこ であり親友であり劣等感の源であった柊聖(しゅうせい)。
そんな彼との関係性に恋のライバルという新たな構図が生まれてきたことに自分でも戸惑いを隠せない玲苑(れおん)。
恋の相手は柊聖の彼女にしては地味な、評価するならば「70点」の女・葵(あおい)。
憧ればかりが募り、ずっと勝てなかった柊聖に勝つにはどうすればいいか、
学校の文化祭の模擬店ランキングで1位を奪取するために玲苑は奮闘する。
そんな文化祭2日目の、長ーい1日が描かれているのが『18巻』です。
初日、そして2日目の中間発表の時点でのランキング1位は玲苑が率いる女装喫茶。
柊聖や葵のクラスのホスト喫茶は2位。
昨年は、途中から柊聖がホストを務めたことで柊聖のクラスが総合1位に輝いたが、
今年は柊聖は着ぐるみだけしか着ない様子。
だが葵の1位とりたいね、という言葉に柊聖の負けん気に火が付く。
自分がホスト役を務めれば逆転が可能だということは柊聖も理解しているはずだが…。
柊聖が、ずっとホストを遠回しに拒否していた理由がいいですね。
ちょうど1年前の『7巻』の時点とは状況が違いますから。
胸キュン決めゼリフ的には、
「もう俺はホスト廃業だ。だって一番口説きたい女を落としてしまったから」
という感じでしょうか。
そういえば柊聖との距離感に悩んでいた姉・絵里(えり)は、
なんだかんだで柊聖の良きアドバイザーですよね。
まぁ、主にコスプレ専門家としての需要なんですが…。
『14巻』の「まちポリ」に引き続き、柊聖のコスプレを高い完成度で仕上げてくれます。
柊聖は この文化祭中、学校で ずっと葵と気軽に話せる玲苑に嫉妬していたというのに、
なんて出来た男なんでしょうか。
表面上(だけ)は玲苑に敵対心を見せないし、排他的な行動も取らない。
ただ、くぎを刺すことは忘れないし、キスだってさせやしない。
柊聖の嫉妬が少し進化したような気がしますね。
でもホストを拒否する柊聖の気遣いに葵は気づかないんだろうなぁ…。
この文化祭の模擬店ランキング、
玲苑が勝っていたら彼の大きな自信になり、
今すぐ経営者を目指したり、葵にさっさと想いを告げたりしてくれたのかな。
物語が間延びするぐらいなら、勝利して早々に退場して頂きたかったかも(苦笑)
以前も書きましたが、玲苑が葵を好きになる過程や葛藤は、
翻って柊聖が葵を想い始めた時には割愛された心情の補完になるのだろう。
柊聖の、もう人を好きになる資格はないと思っていた自分が惹かれる葛藤と苦悩、
玲苑の、親友の彼女で、自分には良さが分からないと思っていた女性に惹かれる様子、
この2つをダブらせて読めば、物語は倍 面白くなるかもしれない。
(もしかしたら柊聖の彼女を好きになった兄・草樹(そうじゅ)の気持ちも似てるかも)
ただ、そのようにして読まないと、それほど面白くないのも事実。
玲苑が葵に惹かれるのは既定路線であり、意外性はない。
今更、葵を無垢で可愛らしい少女に仕立てても無理がある。
瞬間最大風速で葵に惹かれている玲苑にはそう見えるかもしれないが、
読者にとっては自然体の葵に慣れ親しんでしまって違和感が生じる。
そして多くの読者にとって男性側からの女性の萌えポイントなんて興味がないのではないか。
台風の接近によって家に帰れなくなった葵が、
日本での玲苑の部屋(3人で住むワンルームより豪華。こっちに3人で住みなよ)に行く場面も、
今更、葵が柊聖を裏切って悪者になる訳がないというメタ視線で展開を予想してしまう。
交際前や交際中の好きな男の子の家に上がるのとは訳が違う。
危険な空気を醸し出しても、結局は噛ませ犬の玲苑が より深く懊悩するだけ。
そして負け犬でもあるようで、なにも出来ない状態が、無駄に長く続く。
玲苑ファン以外には、あんまり読み応えがない。
私も素直になれない玲苑は嫌いではないが、物語の追加キャラという枠 以上には見れない。
長ーい玲苑編は、玲苑登場の前までの数巻が「家族編」だったのに続いて、
「将来編」の役割もあるのだろう。
父親が経営者ということもあり、経営の勉強をしてきた玲苑。
この文化祭編でも、彼の経営者としての視点が盛り込まれることで、総合2位までクラス順位を上げられた。
だが玲苑は父親が後継者に望む柊聖に後を継いでほしいと思い、説得のために日本に来た。
玲苑の来日は、柊聖が将来の選択をすることも意味している。
そして柊聖が経営者の道に進むということはアメリカの大学への進学でもある。
玲苑に穏便に帰ってもらわないと、玲苑一族(と柊聖の兄)から勧誘が止まないだろう。
一方で、この文化祭で葵も将来のことを改めて考えている様子。
作中が9月か11月か分からないが、土壇場での進路変更。
この台風の進路は予測が付かないぜ。
葵よりも料理に凝っていて、資質のありそうな三条が選ばなかった道を、
葵が選ぶというのが、ちょっと安易かなぁと思わざるを得ない。
好きな人に作る料理と、調理人としての料理には大きな壁がありそうだ。
そういえば文化祭の模擬店ランキング速報を見て三条が、
「鉄板ネタで2位とか もう マンネリじゃん?」と言っていますが、
これは、作者の作品に対しての思いでしょうか。
もしくは作者が実際に言われた心無い言葉でしょうか。
このセリフには不自然さを感じました。
あと後半、背景の時計に針が描かれてないのは意図的なもの? それともミス?
駅のホームと、玲苑の家の時計の2箇所で描かれていなかった。
玲苑が長風呂から上がった時は描かれてます(深夜1時20分?)。
私が読んだのは第1刷なので、後の版では直ってたりするのかな?