《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ったく キスするまで何巻 浪費してんだ。こっちは泳がせてたんだよ。そんじゃ 殴らせろ。

L・DK(20) (別冊フレンドコミックス)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第20巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

葵(あおい)と柊聖(しゅうせい)を追いつめた玲苑(れおん)がまさかの超ビックリ行動に! 柊聖の秘めていた感情も爆発!! そのとき葵との関係は!? 玲苑編いよいよクライマックス目前!

簡潔完結感想文

  • 闇堕ちすることも出来ない中途半端な玲苑。キスは物語を動かすための仕組まれたものだった⁉
  • 男らしく拳で語った後、本音で語るのは女々しい本音。『17巻』から4巻分の不満を一気に放出。
  • 友情とカタルシスを得たのは柊聖と玲苑だけ。読者としては長々付き合わされたストレスが残る。

20話 男の戰い、ならぬ、男の こじらせ の20巻。

相変わらずウジウジ悩む玲苑(れおん)の姿が続きます。
そして、その裏でウジウジと嫉妬する男が一人…。


ページを割いた分量が多いからといって、それが葛藤の大きさを表すわけではないのに、
相変わらず、ずーーーっと玲苑の懊悩が描かれている。

特に酷いのが本書収録の1話目だろう。

日常シーンから始まったと思ったら玲苑が見ている夢。そこに19ページ消費。
その後、洗顔から家を出るまでの葵(あおい)との会話に9ページ。
「闇堕ち」した玲苑の計画の全容が明かされるのに13ページ。

そこで1話目終了です。
描かれているのは玲苑の起床と登校シーンの2時間余り。

なんなんでしょう『19巻』辺りから作者は紙面を贅沢に使うことを覚えてしまったのでしょうか。

勿論、全てに意味がないわけではありません。
ここに玲苑のコンプレックスが凝縮されているし、
闇堕ち してでも葵という女性を柊聖(しゅうせい)から奪取してやろうという彼の決意の話とは理解できる。

が、ここのところずっと決断までのウジウジを読ませられたし、
そして闇堕ちをしても尚、育ちの良さなのか、生来の優しさなのか(あるいは臆病なのか)、
なかなか行動に踏ん切りがつかない玲苑。

玲苑の憎めないところが良く出ているが、
玲苑編の悪いところを象徴するのが玲苑自身の こじらせた性格でもある。

ハッキリしない、カタルシスがない、女々しい、
そういう人に焦点を当てることを初期からの読者は望んでいないはずだ。

自分の好きなクラスメイトを手駒にして、
人を陥れようとする辺りもまた玲苑の女々しい計画ですよね。
闇堕ちというよりも(失礼な物言いだが)女子高生化してませんか?

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最初から こうすれば良かったんだ。最後だから こんなことも しちゃうんだ。

んな玲苑が、いよいよ起こした行動が葵へのキス。

そしてそれが柊聖にとっての我慢の限界。
玲苑は柊聖の設けた絶対防衛ラインを無断で越えてしまった。

そこから始まる、男の戰い。
LDK名物、拳の語り合いです。

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拳を交えた者だけが本音で語り合える、という古臭い美学。ってか(左)の柊聖の顔はこれで正解なの?

男同士が揉めた時は、大体拳で解決するのがLDK流。
特に親族間や身内には暴力が多いですね。

葵の父親、葵の弟、そして いとこの玲苑。

作者や柊聖にとって、男の友情・信頼 = 殴られること。
男が拳を出すときは譲れないものがあるということ、なのだろう。


して、拳と共に吐き出す柊聖の不平・不満・愚痴もまた こじらせ ている。

柊聖は男性の怒り方で、とても面倒くさい。

例えば、今回の玲苑との3人暮らしも、
自分から提案してしまったこともあり、最初は心が広いフリをして我慢してる。
けれど、ある時から2人の会話がストレスになって、自分の中で鬱憤が溜まる。

それでも「男らしさ」が邪魔をして、不満を吐き出さないままの柊聖。
そしてどんどん、不満や嫉妬、それらが自家中毒で毒素が体内を駆け巡る。

そして今回、玲苑がようやく行動したことで やっと
彼を非難するという大義名分のもと、鬱憤を晴らすことが出来た。

もしかしたら柊聖は、チキンな玲苑が葵に手を出すまで泳がせていたのかも。
そうしないと自分がただの嫉妬深い 小さい男になってしまうから。
自分のプライドを守るために静観し、多少なりとも葵を犠牲にした。
「闇堕ち」をしたのは柊聖の方かもしれませんね。

あれ? 男の戰い ではなく、なんだか女々しい意地の張り合いにも思えてきた。
殴りあってはいるものの、キャットファイトと呼称した方が適当かも。

殴り合いの後に吐露する心情も、ツンデレの極み みたいだし。
「ホントは私の方が羨ましかったんだからねッ!」
「私にとってはあなたのがヒーローなんだから、覚えておきなさいッ!」
「私はパパの特別になりたいんだからッ!」
「弱いなりに闘ってきた 私は強いんだからッ!」


ちなみに この場面、咲坂伊緒さんの『ストロボ・エッジ』の蓮(れん)くんと安堂(あんどう)の関係に似ていると思った。

同じ子を好きになった三角関係の中、圧倒的優位に立つヒーローが実は、
ライバルの男性のことを誰よりも認め、誰よりも憧れていたという構図がまるで一緒。

私の中で、柊聖と蓮くんが重なる部分が多いので、尚一層、そう思ってしまう。
女性作家が男の友情を描くと、こんな感じに落ち着くんですかね。


にしても、柊聖の悪い方向での我慢強さは怖いですね。

今回は玲苑がその対象だったが、
今後、結婚生活など不満が葵に対するものだったら、どうなるだろう。

葵も殴られちゃう⁉
そして一気に不満をぶつけられるのだ。

その時、今回のように そんなことで怒ってた・悩んでたんだと 柊聖を可愛いと思えるか、
それとも、一方的に不満を言われて葵が逆ギレ し返すか、
その時の夫婦関係によって、対処が変わるだろう。

柊聖が自分の中で思っていたことを一気に吐き出す、というのは『23巻』からの最後の展開と同じです。
誰よりも葵を好きかもしれないが、誰よりも葵の気持ちを無視しているのは彼ですね。

最終回後は柊聖に息抜き・ガス抜きの仕方を学ばせるのも聖母・葵の役目かもしれない。


変わらず、というか20巻でも登場人物たちの顔が安定しませんね。

柊聖って、こんなに目が吊り上がっていたっけというぐらい、
柊聖を表す特徴が吊り目になっている気がする。

逆に葵は玲苑編前後から無垢さを義務付けられてしまったので、
眉がずっと下がっている印象です。

上目づかいで媚びているようにも見えて葵らしさが消失して、別人を見ているような気持ちになる。