渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第23巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
ますます盛り上がる最終章♪ 別居生活でも葵と柊聖はラブいっぱい! つき合ってから初めて迎えるクリスマス! 遊園地でラブラブXmasデートを楽しむ2人の気持ちは最高潮☆ でも、2人でずっと一緒にいるために、柊聖はある決断をして…?? 大人気、ひとつ屋根の下青春ラブストーリー23巻!! ラストまで見逃せません!
簡潔完結感想文
柊聖(しゅうせい)が(勝手に)アメリカに行くことを決意して決意して決意するだけの 23巻。
これは『19巻』が丸ごと、玲苑(れおん)が葵(あおい)への告白を決意するのに使われたのと似ています。
そして非常にガッカリすることに、その結末まで似ている。
『24巻』のネタバレにもなってしまいますが、
玲苑が結局 葵に告白しなかったように、柊聖もまた…という展開まで同じ。
何のための前振りだったんだよ、と久我山家の男どもには幻滅する。
なので完結『24巻』まで読むと『23巻』の大半が意味を無くしてしまいます。
柊聖の思い描く将来像・自分像が見事に軌道修正されるからです。
結論的には、アメリカ行きのお話は、ただクライマックスを演出したかったという作者の作為、
そして、遠ざかることを意識することで2人の距離を最接近させるための お膳立てに過ぎません。
『19巻』は私の中でLDK史上最低だと思っていますが、
まさか完結の1冊前の『23巻』も結末を知った上で読むと無意味になるとは思いませんでした。
というか、そもそもが唐突な柊聖のアメリカ行きの決断。
柊聖としては、ここ最近ずっと悩んでいたことらしいが、
読者にとっては葵と同じタイミングで話を告げられるも同然で、呆気にとられてしまう。
玲苑の誘い、そしてその父親を断って全ては一件落着したはず。
それが自分から連絡してアメリカ行きを望む展開になるとは夢にも思わなかった。
『22巻』の感想で、柊聖がそこまで仲の良くない兄・草樹(そうじゅ)の家に行くための
巧妙な伏線について書き連ねましたが、
なぜ、柊聖の一番丁寧に描かなくてはいけなかったアメリカ行きについての伏線を
もっと丹念に、そして理解できるように張っていかないのか。
最終回に向けて大きなクライマックスを作りたかったのは理解できる。
それに使い古された外国行きを持ち出すのも、仕方ないと思える。
だけど、これだけ続けてきた物語に何の予兆もなくその話を持ち出すのは反則技ではないか。
これまで柊聖が経営に興味があることを示したコマはありましたか。
これまで柊聖が 具体的に一人前になるために進路に悩んでいたコマはありましたか。
何もない。でも行くことを決めた。最終回が近いから。
そもそもアメリカに行くことが、絶対に「俺自身が変わ」ることになるのだろうか。
柊聖の中でしか、その方程式が完成されていないのが気になる。
簡単に言えば武者修行なんだろう。
アメリカという異国で高い教育とリアルなビジネスを学べる。
でも柊聖にとってアメリカはかつて住んだ場所、
それに伯父さんの庇護の元でしょ?
「伯父さんのところで いろいろ学びたい」って何?
そういう漠然とした話を12月末にしないで、と担任の先生から指導されそうだ。
例え異国であっても用意された環境で学び働くことが自分自身を変えることなのだろうか。
それならば、葵の協力もあったが、自分で住む場所を決めて、学んで働いた
高校生のこの期間だって十分に自分私心を変える出来事であったはずだ。
葵に日々の料理や文化祭といったキッカケがあったように、
柊聖にも具体的なエピソードの一つでも用意するのが筋じゃないでしょうか。
これは本当に作者の至らないところで、
プロット以上にお話を作り上げること、登場人物の心情を丹念に紡ぎあげることが不得手すぎる。
一連の心情を滑らかに繋げることが出来ないから、
登場人物たちの心の動きが時折スキップしたように思え、全体がぎこちなく見えてしまう。
柊聖の勝手な決断や遠距離恋愛という問題を、家族や将来の話にすり替えることで、
本来、葵が感じる寂しさや苦しさを無視しているのも気になる。
確かに柊聖は物語の中盤から「家族」を意識し始めていたが、
葵には具体的な家族像や将来像はないはずだ。
それを「家族」になるためにアメリカに行くと言われても…。
これまでも一方的に嫉妬したり、我慢したり、不機嫌になったりと、
耐えることを美学にしてきた節のある柊聖だが、
今回も自分の出した結論を言い分を決定事項のように伝えているのが気になる。
家族って、その構成員たちが協力して作っていくものでしょ?
『23巻』が『24巻』のどんでん返しのための伏線だとしても、
柊聖のやっていることは、恩着せがましい一人相撲だ。
一度は柊聖の勝手な決断と、事後報告に怒った葵。
混乱した葵が、柊聖とは一緒に居られないと家出して実家に帰るのは自然な成り行き。
だが、実家に帰った葵が自分の家庭のあたりまえの温かさに気づき、
そして迎えに来た柊聖との帰路で柊聖から彼の冷たい家庭の話を聞かされた葵が、
「……わかってなくて ごめんね もっと知ろうとすれば よかった
そしたら柊聖が悩んでる時に もっと支えられたかもしれないのに」
というのは、やはり問題が家庭環境に すり替わってるし、
柊聖の身勝手さを責めずに、葵が謝罪するという不思議な構図に差し替わっている。
この辺は葵を柊聖の良き理解者・聖母にし過ぎだと思う。
暗い過去やトラウマがある人が偉いの?
恵まれて育った人は、そうでない人のために奉仕しないといけないの?
まだこれが20代半ばでの結婚に際しての出来事なら分かる。
結婚する前に暫く遠距離恋愛になるけど許して、というのなら
お互いの理想とする家族像を思い描いて当然だろう。
本書がその内容から大人になるまで描けないのも分かるし、
結婚も踏まえての内容だというのは重々 承知している。
だが、彼らは交際1年余の高校生で、青春も恋愛も真っただ中なのだ。
ここで柊聖の意見に異を唱えないことが聖母の条件のようになっていて嫌だ。
葵は聖母なんかじゃない。
本心を押し殺すようなことをしてまで、
主人公を良い人に見せることに何の意味があるのだろうか。
(追記:葵の言動に関しては最終巻『24巻』への前振りであるところが大きいですが。)
良い人、といえば兄・草樹の善人化も気になるところ。
『22巻』のラストで本当は誰よりも柊聖、そして葵との2人のことを心配し続けていたということが発覚した草樹。
今回、葵のファーストキスを奪った時のように(『3巻』)、
葵を自分の車に乗せる草樹(葵は警戒して後部座席に)。
そこで草樹はこれまでの誤解させる言動の謝罪と、
「柊聖の手を離さないでほしい」と願望を葵に伝える。
手を離さない、と葵が柊聖に誓ったことを知っているかのような草樹の言動も気になります。
そしてこの言葉の本当の意味は、これからあなたにとって理不尽なことが起こりますが、
「なにがあっても離れない」と言った あなたですから、
当然 耐えられますよね、不満など漏らしませんよね、という牽制にも思えてしまう。
草樹が葵に語ること全てが、作者読者への言い訳にもなっている。
しかし草樹の言い分は、言い訳くさい。
私がここに感じるのは、ミステリにおいて真犯人が、自分を容疑の外に置くために披露する、
一見 誤謬(ごびゅう)がないように思われる嘘の供述に思えるのだ。
なるほど、と納得しかける反面、実は薄氷を踏むようなギリギリの発言の連続ではないか。
当初、作者にはそんな構想はなかったが、
柊聖の家族問題まで踏み込むことになったために、
草樹との関係も修復しなければならなくなった。
そのために、これまでの草樹の冷酷ともいえる言動を反転させる一手が、この草樹の言い分なのだろう。
ここも登場人物たち全員を聖なるものへ転じようとする、
最終回間際の お掃除活動が見え隠れします。
また、悪の親玉になるはずの玲苑の父=柊聖の伯父も、
柊聖自身がアメリカ行きを申し出たことで悪事を働かずに済んでいる。
こんな身勝手な柊聖になるぐらいなら、
伯父さんと全面対決して、絶縁してでも葵を守り切って欲しかったものだ。
柊聖自身が葵を傷つけてどうする…。
同居から別居、そしてその1か月ほど後では遠距離恋愛(日本 ⇔ アメリカ)と世界が広がろうとしているLDKワールド。
いよいよ次巻でその世界も終わりを迎えます。
その驚愕の結末をお見逃しなく。
柊聖が再度 試みる軌道修正が見どころです。