《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

恋の終わりは 夢の始まり。恋の再開は 遠距離恋愛の始まり。今は修行の時!

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小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第8巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「……そりゃそうだよ1週間ってすごく長いもん」 花柚の代わりにフランスに行っていた隼人が帰国。たった1週間だけど、2人にとっては長い時間だった。さらに隼人は、花柚の父からフランスに来るよう誘われ…。 感動の完結巻!

簡潔完結感想文

  • 精神攻撃を得意とする前沢の揺さぶりは花柚にも及ぶ。恋人として自分の醜い心を認める花柚。
  • 恋人として隼人の夢を応援できなければ、知人になればいい。そうして夢のため別れを選ぶ…。
  • 今は亡き自分の心に棲む人が悲しむこと はしたくない。隼人も夢に向かって今 テイクオフ!!

愛が大好きな人の将来を縛るのなら そんなもの要らない 最終8巻。

主人公・花柚(はなゆ)の父によって見いだされた才能、そして開かれた道。
パティシエになりたいという夢を抱えながらも悩んでいた隼人(はやと)に思わぬ転機が訪れる。

本当なら、花柚の弟・なつめ が高校を卒業してからフランスへの出店を目論んでいた花柚父。
現在の なつめ は まだ小学生(10歳ぐらい)なので約8年後の計画だろうか。

だが隼人がパティシエの道を選ぶのなら、それを早めてもいいと言う花柚父。
隼人には、それだけのものがあるから、
一日でも早く本場の空気の中で修行を開始するべきだという。

うーん。『7巻』の感想でも書きましたが、隼人の才能の根拠が薄弱です。
これまでの人生で一度しかケーキを焼いたことのない人に場所だけ用意するというのは過保護じゃないかい?
娘のために考えていたプランを隼人にスライドさせているだけかもしれないが、
もしかしたら隼人にはパティシエとして致命的な欠点がある可能性だってある。
なぜなら花柚父は隼人がケーキを作っている姿すら見ていないのだから。

あらゆる可能性を探り、向き不向きの判断材料を与えてくれるのが、
調理科のある高校の役割だと思うが、
その場面を大幅に割愛して、夢に向かって一直線の展開になってしまったのは つくづく残念だ。

そして隼人の誕生日ために1週間猛烈な修行を重ねた花柚もレベルアップが止まりません。
これほどのクオリティの細工寿司が1週間で出来てしまっていいのでしょうか。

誰も彼もが生き急いでる感じがするなぁ…。


じわるな天使・前沢(まえざわ・花柚の実家のケーキ屋の従業員)は、
花柚の父からの熱烈なオファーを受けてもなお逡巡している隼人から、攻撃対象を花柚に変える。

前沢はこれまで隼人にしていたのとおなじような精神攻撃を花柚にも仕掛ける。

前沢は、花柚の代わりに隼人がフランスに行くことで、隼人がケーキに囲まれること、
前沢の祖母との出会い、それらが彼に何をもたらすか花柚は分かった上で送り出したのだろう、と問い詰める。

そこで隼人の心が大いに揺れ動くことを予想しながら、
そして同時に恋人として隼人が花柚から離れないことも予測していた。
そんな計算が働いてはいなかったか、と花柚の狡猾さを見事に炙り出す。

刑事・前沢に「未必の故意」を追求される犯人・花柚の図ですね。

花柚は悩み続ける人として描かれていますね。
幸せが長続きしない人でもあります。
作者や作品から冷遇されている気もします。

勿論、花柚は隼人にフランスに行ってほしくない。
恋人になって2か月弱、それは当たり前の感覚だ。

花柚の強硬な行動の裏にある、乙女な部分も しっかり読み取らなきゃいけないんでしょうけど、
描かれている表層的な物語の展開では、人の心の動きが上手く把握できない場面も多いですね。


んな葛藤が生まれている頃、花柚にも北海道へ修行へ行ってみないかという隼人父からの提案があった。

勿論、これには隼人が反発。
冬休みなど学校の合間にという意図で発言した隼人父とは違い、
今すぐ居なくなると思った隼人は必至に引き留める。

だが、それを見た花柚は、自分の存在が隼人を寿司屋に繋ぎとめていることを痛感してしまう。

そして、自分が寿司屋を辞めることで隼人を自由にさせてあげようとするのだが…。

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周囲の人の気持ちに 自分の気持ちを沿わせてしまう隼人のために花柚は とある決意する。

また、この人は…。
『5巻』『6巻』での失敗が何の教訓にもなっていません。

そして、前回と違い今回は大人たちも甘やかしすぎです。
修行の身でありながら自分から店を遠ざけたのは2回目ですよ。
なんだか今回は、戻り方も雑です。
職人の厳しい世界を描きたいのか、家族経営の温かさを描きたいのかブレブレです。

隼人に対して誠実にあろうとするならば自分の土台を蹴り倒すようなことがどれだけ失礼なことかわかってませんね。

続いて花柚は、
「あたしが いることが 寿司屋にいる理由なら 別れよう隼人」
「そんな想いで 寿司にさわらないで そんなの 寿司に失礼だよ」

…お前もな、と言いたくなる花柚の勝手な理論です。


つては自分の夢のためだけに利用しようとしていた相手だが、
今は相手の夢を支えたい、そして相手の負担になりたくない。

2人の間を流れる感情は、
利己的なものから利他的な思いへ変化している。

隼人の中で 寿司屋とパティシエ、ちょうど2つに分かれる気持ち。
それをパティシエに傾くように努力するのは、彼女ではなく友人としての自分だと思う花柚。

んー、ここも理解できるような、できないような微妙な心情ですね。
でも、自分の応援の仕方が間違っていると分かっている花柚の応援は嫌いじゃないです。
もう滑稽すぎて面白い場面になっています。

花柚の応援方法は、自分のありったけのパティシエールとしての技術を隼人に見せつけること。
多分、かつての自分が、長年 培われた隼人の寿司職人としての技術に嫉妬したように、
隼人が自分の技術に嫉妬の炎を燃やすことで、パティシエへの夢を再燃させようとしたのだろう。
間違ってるけど…。

しかも、これだと寿司屋を休んでパティシエになってるのは花柚だしね。
間違ってるよね。


んなわけで、花柚が休んでいることで、てんてこ舞いになる寿司屋・日向(ひゅうが)。
決して広くはないお店を従業員4人でも回せないのは何か問題があるような気がしなくもない。

母親に花柚を店に連れ戻すよう命令された隼人は、玄関先で花柚父に出会う。

かつて花柚の気持ちを考えずにパティシエールの道しか認めないような発言をした
『3巻』での所業を、花柚父は反省しているみたいですね。
『3巻』以外では本当に良い父親なので、ここだけ性格的に一貫性を感じない場面ではありますが、
最後の最後の隼人が意を決する場面で活きてきたから良しとしましょう。

隼人は花柚の父が、娘の将来を縛るような言動をしてきたことを悔いていることを知る。
そして、その姿が、かつて隼人が寿司職人になることを願っていた亡き祖父と重なった。

亡き祖父は”自分のせいで”孫が我慢しているなんて思いたくないだろう。
そう思った隼人は、自分の心のままに行動することを決意する。

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亡き人の言葉に従うことで、その人を悲しませているかもしれない。そう思った隼人は…。

そのことに気づいた隼人は花柚の父と秘密の特訓を重ねていた。
わずか2-3日で、かなりのクオリティのケーキ作りをマスターしてしまう隼人。

これは食べてもらいたい人を本当に思って作ったケーキですね。
それを前にして、もうすぐ2人が海を隔てること、そして遠距離恋愛になることを話し合う。

恋愛再開ですね。
元々、花柚が隼人の夢を後押しするための お別れでしたから、
進路が決定すれば、元に戻るのが道理でしょう。

ただし遠距離恋愛。それも長期にわたって。ほろ苦いケーキとなりました。

まさか最終巻で別れて、元に戻るとは思いませんでした。
勿論、時間じゃないんだけど、別れたのも2週間ぐらいでしょ、と冷淡なワタシがいます。

しかし「人生で一番おいしいケーキに もう出会ってしまった もったいなかったかな」
というセリフは、ちょっと陳腐すぎませんか?


れよあれよと隼人はフランス行きが即決定し、11月いっぱいで学校も辞める。
夢への道をどう開くかという物語かもしれないが、展開が急だなぁ。

お話は見事に『とりかえばや物語』ですよね。
まぁ、この2人の場合は本来の立場でも才能を発揮したかもしれませんが。
確かに親にとってみれば、職人として申し分ない資質を惜しむ気持ちも分かります。

隼人が修行する店は花柚父が現地で開く店とは別みたいだ。直接は面倒見ないんだ。

花柚の弟・なつめ はフランスで知り合った好きな子と同じ学校になれるが、
彼の将来の夢である野球の環境は日本よりかは悪くなる。

なんだか なつめ は犠牲になっている気がしなくもない。

かつては弟を野球に専念させるためにも、
自分の本心を隠して表向きはパティシエを目指していた花柚。

その弟から野球での活躍を奪いかねない渡仏。
何だか、あちらが立てば こちらが立たずといった感じです。
本書は しっくりとした解決など ほとんどありませんね。


また意地悪だけど祖母想い、というギャップ萌えで読者を虜にしている感じのある前沢だが、
どうもこの人は、自分の欲望を叶えるために邁進していたに過ぎないとも言える。

前沢の個人的な願い、祖母に花柚父のケーキをいつでも食べさせる環境作りは、ちゃっかり成功。
この渡仏騒動で一番ダメージの少なかった人はこの人かもしれない。

しかし前沢も、超一流パティシエの花柚父を心底 尊敬しているとはいえ、
自分もパティシエなのに、花柚父を輸出しようとするのが疑問ですね。

自分がフランスで猛烈に修行に励んで、祖母を満足させるケーキを作るという気概はないのか。


最終回の後半は8年後。
花柚は北海道での修行から戻り、寿司屋・日向で正式に働き出した。
そして隼人は日本に戻って、花柚の実家のケーキ屋の場所でお店をオープン。
24歳の店長です。

一緒に住んでいるのか、隼人の実家にいるのか、帰る家は一緒みたいです。

高校生の時は1週間でも恋人と離れるのを嫌がっていた花柚が、
結果的に8年間の遠距離恋愛となりました。

頑張りましたね。
花柚が独り立ちする時は、フランスに出店するって可能性もありますね。
各国の魚介類をお寿司に、食材をケーキにする『ミックスベジタブル 世界編』の始まりです(笑)


っぱり少年漫画みたいな展開だなぁという感想です。

動きのある描写といい、試練続きの展開といい少年漫画の料理漫画という印象が強く残る。
色々な方向から、色々な姿勢の人物を描く画力と、チャレンジ精神が好きです。

作品としては、感情面・論理面でついていけない部分が多かったですね。
インパクト重視なんだろうけど、寿司屋になるために隼人に近づく花柚の論理は訳が分かりません。

そして多分、作者は少女漫画の主人公になるような10代の少女を描くことを得意としてませんよね。
ウジウジさせまいと快活な性格にしているが、思いのまま行動しすぎて作品に情緒まで消えてしまった気がする。

格好いい大人、イケてるオヤジなど、
本来の自分の描きたいもの、得意な分野に、
主人公たちの活躍の機会が奪われた部分が多いなぁと思います。

高校入学から8か月弱。
一足飛びに将来の夢へ向かう彼らの姿は爽快だが、同時に性急さも感じました。