《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

君の行く道は 果てしなく遠い だのに なぜ 歯をくいしばり 君は行くのか そんなにしてまで『若者たち』

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小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第3巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「お父さん!! 話があります」 花柚が寿司職人になりたいと思い始めるきっかけを与えてくれた人は、隼人のお父さんだった! しかも、店で修業することを勧めてくれた! でも夢への一歩の前には大きな壁が…。

簡潔完結感想文

  • 生涯1回きりのお寿司屋で出会っていたのは隼人の父だった。花柚をバイトとして歓迎してくれる。
  • 夢の始まりは、現実の終わり。自分の夢を家族に語る時が来たが、皆を悲しい表情を浮かべていて…。
  • 自分を応援し続けてくれた隼人。自分の夢のためだけじゃなく、お互いの夢のために手を取り合う。

かを選ぶということは 何かを失うということ(マクロス F)の3巻。

寿司職人という自分の選んだ道が拓けても、もし誰も応援してくれなかったら?
中盤まで主人公に優しい言葉を掛けてくれる人が少ない、茨の道を進む、痛みを伴う巻になっています。


人公の花柚(はなゆ)は自分が寿司職人になりたいと思い始めるきっかけを与えてくれた人に巡り合う。

なんとそれは高校の調理科のクラスメイト・隼人(はやと)の父親。
自分に将来の夢を与えてくれ、長年 追い続けてた人が身近にいたことに驚きを隠せない花柚。

更には隼人の父親は寿司職人志望の花柚に店の出入りを許可する。
憧れの寿司屋、それも隼人の家でバイトできることになって欣喜雀躍する花柚。

だが、その前には自分の身辺を綺麗にしなければならないという問題があった。
娘が店を継ぐものだと思っている大事な家族の期待を、花柚は裏切らなければならないのだった…。

ちなみに隼人の父親は33-4歳みたいです。
隼人は18の時の子らしい。

見習いであっただろう18歳で子供を授かって育てるのは経済的に大変だっただろう。
後の巻によると、そのまた父親、つまり隼人の祖父も寿司職人だったらしいので、暮らしていく分には問題なかったのかな。

そして花柚の父親は「もう」38歳。
これも後の巻(『5巻』)の おまけマンガによると、父親が22歳ぐらいの時、
「あなたも いい年齢なんだから身を固めないと」と無理矢理、見合いさせられたらしい。
これまた年齢的に収入も、職人としての成長もこれからという時に身を固めましたね。

実際の職人の世界の結婚時の平均年齢は分かりませんが、
主人公たちの父親が若めなのは、何となく作者の好みのような気もします。
作者の想定するイケオヤジの範疇に収まる年齢に設定されたのではないでしょうか(笑)
実際、親父たちの活躍は嬉々として描いてるみたいですし。

だが、そんな若めの父親は、若さゆえに勝手な期待を背負わせた娘を傷つけてしまうのであった…。


人の実家の寿司屋で修行の一歩を踏み出せることになった花柚。
これで隼人にベタ惚れされて寿司屋に嫁入りするよりは、
至極真っ当な手順である寿司屋で働けることになった花柚。

だが、それは自分の親に隠し続けていた本心を告げることを意味した。

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自分の本当の夢を初めて父親に告げる花柚。だが父親の対応は思った以上に冷たくて…。

本書全体が、将来の夢を実現するために起こる困難を、
やや大袈裟にドラマチックに描いているとはいえ、この父親の反応は唖然とした。

繰り返しになりますが、ドラマ性を演出しているのは分かるんです。
ただ余りにも旧時代的で一方的な態度には不自然さが否めないところがある。

後日の父親の反応も嫌悪感でいっぱいになります。
「お前が継がなかったら この店はどうなる」
「(野球選手を目指す弟の)なつめは」
「ウチを継ぐのが一番いいんだよ!!」
引き合いに出すのが全部、自分や他者の夢。
その犠牲に娘がなっていることを一顧だにしない この態度。

家出や親子断絶があっても おかしくはありません。
言っている内容が、明治時代に職業婦人を目指す娘に対して、
将来の安定だけは確かな 好きでもない人との結婚を勧める父親といった感じですね。

物語の後半で、この父親がパティシエとして超一流であることが語られますが、
人として、親としては三流以下であることに私は幻滅しました。

花柚が寿司職人になるには嫁入りしかないと思ったのも、
こんな父親の底の浅さを感じていたかもしれませんね…。
思い込んだら一直線という意味では、似た物親子なのかもしれませんが。


性陣は、花柚が家業を継がないことに過剰な反応をしますね。
これによって花柚が無駄に傷つけられます。

というのも野球選手を目指す花柚の大好きな弟も、姉が寿司職人を目指すことを告げると悲しそうな表情をした。
このことがまた花柚を苦しめるのだが、彼の場合は父親と違って理由があった。

聡明な子だから、自分の野球選手を目指すという夢が誰か(姉)を苦しめていたことに思い当たったのだ。
それは姉が、家族に夢を告げられなかったのと同じ理由。
幸せそうな花柚一家が何だか夢という言葉で雁字搦めになった息苦しい家庭のように思えます。


一の同性で、味方になってくれそうな雰囲気のある天真爛漫な母親には花柚は助けを求めないんですね。
これは親子の情に訴えるのではなく職人として父親に向き合うという姿勢なのだろうか。

もしくは弟・父と好きな順に報告して、母は二の次・三の次なのか。
まぁ母の方も花柚をフォローしていないから、お互い様か。

ベタな展開だけど、騒動中に母が花柚の部屋に来て、支えて上げる展開があったも良かったのではないか。
でないと夫婦として娘の人生を縛っていることになってしまうではないか。


方塞がりになった花柚をずっと支えてくれたのは、母ではなく隼人。
落ち込む花柚の姿を見て、けしかけた張本人としての責任を感じて、
花柚の家に花柚が初めて作った寿司を持って出向く隼人。

この場面は隼人の父もナイスアシストですよね。
花柚の父との格の違いを見せつけております。
ただ、近い将来、実の息子が寿司屋を継がないといった時の父の反応が怖いですけどね。
結局、花柚父と同じ対応をしたら、これまた幻滅です。

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花柚のために差し出がましいとは思っていながらも口を出す隼人。そこにあるのは共感? 好意?

隼人は自分の父親には言えない自分のパティシエという夢を花柚の父に告げる。
自分と同じ境遇の花柚の夢が叶うことを誰よりも望んでいる隼人。
そして、花柚の父は隼人が置いていった花柚のお寿司を食べ、涙を落とす…。

職への思いを、食で伝えるのが料理漫画ならではの手法ですね。
例え見栄えが悪くても、味は一流でなくても、込めた思いが伝わる料理がそこにあった。

花柚を縛るものはなくなり、彼女は夢への第一歩を踏み出した。


方で、足踏み状態が強いられるのは恋愛面。
今回の騒動を通して、花柚は隼人への想いを一層 明確にしていく。
そして隼人も落ち込んでいた花柚に手を差し伸べるが、一定の距離から近づかない。

なぜなら彼らは目的のための交際を止めて、関係性が「ゼロ」に戻ったから。
恋人でもないのに優しくできない。
今更 好きになっても、利用していた過去は変わらない。

夢のために利用していた関係が、彼らを縛り苦しめる。
一つの鎖が解かれたと思ったら、また別の鎖が生まれていた。

この辺は偽装交際から始まった恋愛漫画との共通点が多いですね。

偽装交際をするのは、女性除けだったり、本命の人を焦らせたりなど目的があって始めるが、
長く同じ時間を共にすることで段々とお互いの良さを理解し、本気の恋になっていく。
だけど一定以上は踏み込まないのが暗黙のルール。

お互い想い合っているのに、なかなか進展しない関係性。
このシチュエーションが好きな人は結構多いのではないだろうか。
かく言う私もそうなのだが、隼人には早めに男を見せて欲しいとも同時に思うのです。