小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第6巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
「花… 結婚…っ しよう…っ」 夢に向かって寿司屋で修業中の花柚。なのに、お店を辞めることに!? 必死に引きとめようとする隼人の選んだ方法はプロポーズ! そんなとき、花柚の前にもう1人の男が…!!
簡潔完結感想文
- テストで赤点を取らない約束をしていた花柚だが、人助けをした結果ではあるが赤点に。
- 寿司屋で働けないと八方塞がりの花柚に父が助言。良い父親だけど過去の所業は許さん。
- 花柚の実家のケーキ屋で働く前沢が隼人の心を波立たせる。闇落ちするの、隼人?
熱演と暑苦しい演技のあいだに、の 6巻。
あばたもえくぼ、という言葉があるように欠点だって美点に見えることがある。
それとは逆で、気づいてしまったが故に、どうしても見逃せなくなってしまう点もあるはずだ。
あばた なり ほくろ なり、その一点だけで全ての価値基準が逆転する訳ではないけれど、
気づいてしまうと、どうしても気になってしまう箇所。
私にとって本書の あばた は、一事が万事 大袈裟な感じがするところ だと気づいてしまった。
どうも『5巻』辺りから その傾向が強くなっている。
冒頭は『5巻』の後半から続く、学業と修行(バイト)の両立問題から。
その方針を出した寿司屋の女将に、赤点を一つでも取ったら店に出入りしないと、
自分から更なる条件を重ねてしまった主人公の花柚(はなゆ)。
だが順調に進んでいたテストの最終日前夜、
花柚の家のケーキ屋に急な依頼が舞い込んできた。
人手が足りない中でも引き受けるパティシエの父の姿に花柚は手伝いを申し出る。
ぶっつけ本番で臨んだテストの結果は1教科のみ赤点。
よんどころない事情ではあるが、約束を違えた花柚。
その結果が出た日のバイトが最後だと思って寿司屋・日向の一日を過ごす花柚。
花柚が日向で働けなくなったことを知った3人の男たちの反応は三者三様であった。
1人目はもちろん恋人である隼人(はやと)。
花柚を助けようと、彼女が日向に出続けられる方法として結婚を申し出る。
まだ15-6歳の自分たちに出来るはずのない結婚を持ち出しても、彼は彼女を救いたかったのだ。
これもまた大袈裟な反応ですね。
結婚こそが隼人なりの精一杯の解決方法で、若さゆえの過ちが甘酸っぱさすら感じさせます。
ただ、どうしても他の2人と比べると非現実的さが際立って、彼の青さばかりが目立ちます。
またもや作品に文句をつけるようで申し訳ないが、
作者の中で大人組(特に父親たち)を描きたい欲が強すぎて、
彼らを絶対正義に祭り上げているような節があり、
結果的に主役である高校生たちが矮小化されているような気がする。
高校生たちを小さなことで悩ませているのに、
大人たちが見守るのではなく、色々と口出しするから、自力での解決というカタルシスが奪われてしまっている。
だから花柚たちの大袈裟な反応も、お釈迦様の手のひらの上で、孫悟空の滑稽さのようになってしまっているのではないか。
実は、このプロポーズ『1巻』時点の花柚が待ち望んでいたもの。
隼人が自分を寿司職人にしてくれる、そう願っていた言葉が今、発せられたのだ。
しかし『1巻』とは状況が違う。
花柚は家族の許可を得て、一人の職人としての第一歩を踏み出していた。
寿司屋の息子という隼人の立場にお膳立てしてもらう時期は既に過ぎていたのだ。
この場面は、あんなに欲しかった言葉が今はもう色褪せて思えるという時間の経過と、
花柚の立場の違いを明確に表す場面となりましたね。
寿司屋を辞めそうな花柚に言葉を掛ける2人目が新キャラ・前沢(まえざわ)。
花柚の実家のケーキ屋で6年以上働く24-5歳の男性。
フランスの血が流れ、瞳の色はグリーン。
彼は花柚が寿司屋から遠のいた理由を聞き出す。
本来なら、自分が盲腸になったせいで、花柚がテスト直前に店の手伝いをしたことを詫びる場面だが、
彼はそんなことをしない。そういう性格の人なんです。
そして前沢は花柚に、寿司屋ではなくケーキ屋でオレと一緒に働こうと誘う…。
新キャラの前沢は、差別的かもしれませんが、ハッキリ言って胡散臭い見た目です。
そして分かりやすい当て馬役としての登場場面ですね。
読了すると ↑ の「オレにしなよ」は、次号への引きでしかないのですが、
隼人のライバル役としての役割を明確に表した場面になっています。
ただでさえ厄介な大人組に、一層厄介な人物が現れました。
彼の登場せいで嫉妬や焦燥に駆られる隼人が闇落ち寸前です。
花柚が少し楽に呼吸ができると思ったら、今度は隼人の息苦しさが始まります。
こんなに胸がキュンキュンよりも、動悸がしそうな少女漫画も珍しいですね。
前沢の登場によって花柚がケーキ屋に戻る可能性が少し出てきました。
そしてフランスに連れて行くという遠距離の予感も匂わせます。
2人の前に用意される恋のハードルはどんどん高くなるばかりで心配です。
そして花柚にアドバイスを送る3人目の男性は花柚の父親。
自分に似て意固地な性格の娘を理解して、
そして娘に欠けている視点を的確にアドバイスする。
この場面で、父が娘に寿司屋から足を洗えと言わないのが いいですね。
父に未練があるならば千載一遇のチャンスであったはずだ。
花柚は柔軟性に欠ける思考の持ち主なので、
大人組として彼女に恣意的な、救いを差し伸べてる振りをして、ある方向性に導く助言だって出来たはずだ。
しかし彼はそれをしなかった。
娘が寿司屋に戻れる道を、彼女の性格を理解したうえで示してくれた。
ケーキ屋を継がないといった際の父親の反応は忘れられないほど身勝手なものでしたが、
寿司職人見習いとしての娘の悩みに誠実に答えた彼の姿はまた忘れられないものになりました。
ただ、この一連の場面でも目立つのは花柚の木を見て森を見ない視野の狭さですよね。
花柚の頭はいつも目の前の自分の問題だけ。
寿司職人になるために、人を利用することだって平気でやってきたのに、
一つの小さな問題に躓(つまづ)いて、逃げかえっている様子には先が思いやられます。
漫画としても将来という高校生にとって大きな問題を先に片付けてしまったので、
どうしても その後に起こる問題が小さく見えてしまいます。
そしてだからこそ 大きな道を見ずに小さな分岐点に悩むことへの疑問も生まれてしまいます。
恋愛問題も同じで、両想いになった後に現れるライバル・邪魔者の存在は、物語の存続のための道具にしか思えません。
花柚たちが真剣だということは分かりますが、大仰な演出や顔芸が続くのは疲れてしまいます。
ただ、本書には大きな問題が一つ残されていることが通常の恋愛漫画とは違う。
それが隼人の進むべき道。
事実上、棚上げされている問題ですが、これが残っている限り蛇足や無理矢理な連載継続という感じはしません。