《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

見慣れぬ彼から「下心」や「欲望」のにおいがしたので 吠えてみました。

プリンシパル 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
いくえみ 綾(いくえみ りょう)
プリンシパル
第6巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

糸真は晴歌の中学時代の同級生・金沢を紹介される。YESかNOかの分かれ道。糸真が選んだ答えは吉と出るか凶と出るか。住友家主催のキャンプで、糸真を取り巻く人物相関図に変化あり…!?

簡潔完結感想文

  • 家族・友だち・恋人でキャンプ。誰が恋人で、誰が好きな相手か複雑な相関図。
  • 交際後に気が付いたこと弦編。相手は何となく思っていたらしく「リセット」。
  • 交際前から気が付いてたこと糸真編。相手は全く思っていなかったらしく豹変。


『5巻』『6巻』『7巻』は順に俺のキス、あたしのキス、僕のキス。なので、あたしのキスの6巻。


義理の親子や義理の姉弟など複雑な人間関係の男女8人が集まった夏のキャンプ。
でも義理なのは血縁関係だけじゃなく、恋愛関係にまで及んでおり、色々とギリギリな関係。

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6巻の巻末では、この相関図がどう変化してるでしょうか?
そんな関係だから、糸真(しま)の交際相手・金沢雄大(かなざわたけひろ)、通称・金やん(かなやん)がキャンプ中に作成した相関図は、その後いろいろと修正が必要になる。
にしても金やんは随分ポップな字を書きますね。まるで いくえみさんの字だ。


本書のアイドル、犬のすみれが初めて吠えた相手は金やん。
金やん、悪霊扱いですね。
子供や動物の反応でその人を判別させるのはよくある手法。
この頃の糸真も、すみれに後ずさられてるから、この交際は親はともかく すみれさんに快く思われておりませんね。


金やんなら好きになれるかも、という大雑把な好意、そして恋への好奇心を果たしてくれそうという期待は確かにある。
しかし同時に、ちょっとずつ読者にもアレっ?と思わせる描写も確かにあるのだ。
この、好青年だし、際立った欠点もない金やんの、ちょっとずつ嫌な所の描写が絶妙です。
癖とか発言、口が軽い所とか、節々に彼の嫌な自意識が出ています。
身体は大きいが、虚勢も大きい。
そして適度に男の子なんです。
でも、それは弦(げん)も和央(わお)も糸真には見せなかった雄のにおい。
雄が大きいとかいて、たけひろくん。


前述のとおり、巻数『5』『6』『7』は三者三様のキスがテーマですかね。
どちらかが顔を近づけるか、それが問題だ。
恋に前のめりの人の方から、相手に前のめりに顔を近づける。
その姿勢が露わになるのがキス。
気持ちが通じるか、それとも一方通行か、それが露わになるのがキス。
安室ちゃんも、やっぱりキスは大切なシグナルなの、と歌ってくれてます。


弦と糸真は似た者同士で、似たような恋愛の姿勢、そして似たような失敗。
先んじて弦が失敗すれば、糸真の失敗もまた必定なのです。


キスを交わして男女の仲が深まれば当然、というのが「前のめり組」の願い、または欲望。

改めて晴歌(はるか)の口からから弦と別れを告げられた時、糸真の表情は真顔だった。
もしかしたら糸真は弦と晴歌が関係を結んだうえで、友達に戻ろうとする身勝手に怒っているのか。

そして次は、さして好きでもない相手とそういう関係になりそうな自分の番。

金やんは王子さまではなく、普通の男の子。
キスだってしたい、ムードなんて関係ない。
もっとしたい、女の子と部屋に二人きりになったらそれは青信号。
それは糸真も共通の見解だったはずだが…。


事ここに及んで「この人と無理だ」と悟る、恋愛ビギナー糸真。
だが、付き合うのは簡単だけど、お別れするのは難しい。
晴歌と弦とは違い、戻るような関係性もないから。

金やんくんは、身体は大きいけど、虚勢も大きい。
別れ話の時も、本当は好きな人がいて、その人を選ぶというのなら許せる。
でも、その人も自分も選ばないのは許せない。
どちらにしても自分は彼女に選ばれないのは分かっていても固執してしまうのは男の沽券の問題かもしれない。

そして全てを清算できなかったから和央の周辺を嗅ぎまわる女生徒に続いて、糸真ストーカーが爆誕してしまう。
自分の気持ちを見ない振りしたら痛い目 見ちゃいましたね。

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恋に落ちようと努力して自分を貶めた糸真
本書ではあからさまに外様の金やんですが、これは『1巻』の時点での糸真と二重写しの構図でもありますね。
途中参加の自分がその世界に放り込まれた時には、実はもう既に関係性が決まっていて、彼らの築いた歴史や関係に容易には入り込めなかった。
だから無意識に物事を掻きまわして、平穏な日々に波風を立てる闖入者となってしまう。


もちろんそれが悪いことではない。
今巻の後半で和央が言うように、糸真が入って来てくれたおかげで嬉しいことだっていっぱいあった。
その存在が感謝されることだってあるんだ。

糸真と和央は本当に双子のように仲の良い姉弟になりました。
まさか『1巻』を読んだ頃はこんな関係性に落ち着くとは思わなんだ。

そういえば糸真のケータイの登録は基本フルネームで、和央は住友和央なんですね。
まぁ和央がケータイ持った時には再婚してたし、当然と言えば当然ですが、


今巻でも弦ぼっちゃんのストレートな発言が炸裂しています。
でも単純だからこそ思ったことがすぐに言える。
弓(ゆみ)ちゃんへの暴言は撤回したし、晴歌とも友だちには戻った(晴歌が偉い)。
ただ、あっさり引き下がったとはいえ、弦に糸真に対しての予防線を張るのは晴歌最後の抵抗か。


そういえばマンションの苦情の件は、和央に好意を持つ同級生の嫌がらせなのかと思っていましたが、弓ちゃんの自業自得なんですね。
体型を変えるためDVD見ながらいろんな運動してたら、そのドタバタで苦情がきちゃった。
今まで豪邸に住んでいたから、壁や床の厚みや迷惑をあまり気にしたことなかったんでしょうね。
これは現実、2020年コロナ禍の情勢で多発してる問題みたいです。


そして二度目の闖入の糸真母。
四度目の結婚も終わった糸真母。
これで糸真にも帰れるところが出来た。出来てしまった。

一人ぼっちの娘と、一人だった父だから始まった同居生活。
けれど今度は母が一人ぼっち。

本当にクマやキツネがいるようなところにまで入り込んできた北海道における糸真ちゃんの生活。
でもそんな北海道ももう役目を終えるのか?
母が一人になっても、そばにいるのは、血のつながったのが、糸真なのですから。

ちなみに恋をするのがヘタなのかもしれない似た者親子の母が選ぶ3人の中から彼氏候補は弦でしたね☆


初読時は楽観的に読んでましたが、ラストで和央が倒れてそのまま帰らぬ人になるって展開もあり得たんですかね。


プリンシパル 番外編 すみれの花咲く丘」…
『いくえみさんちの白い犬』のシロと、本書のすみれが初対面。
これはシロが いくえみさんち に来る前のお話ですかね。
大丈夫、あなたは心優しい飼い主と にぎやかな猫たちに囲まれて天寿を全うしますよ…。