《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

さくらいさんちの白い犬。会いたい人がいるのなら わたしが仲介しますよ。

プリンシパル 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
いくえみ 綾(いくえみ りょう)
プリンシパル
第1巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

東京の学校でハブられ3人目の継父とはうまくいかず、札幌の実父のもとへ引っ越した糸真。そこで出会ったのは、和央と弦。2人に近づくとハブられるらしいけど、恋に落ちてしまったら仕方ありませんね。

簡潔完結感想文

  • 編入した学校初日に知り合った二人の男子は、性格も経済格差も違うけど親友同士。
  • 家が近所で、犬が端緒になって男子たちと関わる。父と一緒のスーパーでは…⁉
  • この恋は監視されている。友達の目、女子生徒の目、そして過保護な彼の親友の目。


敬愛する いくえみさんの高校生女子が主人公の恋愛漫画
王道展開かと思いきや人間関係の意外な方向への変化で読者の目を釘付けにし、いくえみさんの技量によって彼らの悲喜こもごもが満遍なく描かれる。
最終的な着地点があってからの逆算の第1巻が始まります。


主人公の糸真(しま)は、再婚を繰り返す母によって現れた3人目の継父との生活や、東京の女子高の中で人間関係に躓いて、しばらく家に引きこもり、それを心配した母によって札幌に住む実父と10年ぶりの生活を始めることになった高校1年生。
緊張感と不安を抱えて始まった新しい高校での生活だが以外にも札幌のクラスメイトは寛容で幸先の良いスタートを切れた。
その放課後には新しく住むことになった父の家に遊びに来る犬・すみれをきっかけに近所のクラスメイトの男子たち、和央(わお)と弦(げん)とも知り合う。
だが和央と弦にはファンが多く、彼らに近づく女生徒は女子全員に無視される運命にあるという。
女子生徒とのトラブルは避けたい糸真は彼らと適切な距離を保つよう心がけるのだが…。

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右か左か 黒か白か それが問題だ。
…んん。こうやって設定だけ書き出すと本当に王道の少女漫画ということが一層強く際立ちますね。
学校で人気の2人の男子生徒はみんなのものとか、彼らに手を出すと女子全員に無視されるとか、いくえみさんが今更描くとは思わなかった設定が多い。
だけど、そこはベテラン作家の いくえみさん、凡庸な物語との格の違いを見せつけます。
(いくえみ作品の感想は、いくえみさん好きが嵩じて贔屓が過ぎるかもしれません。あしからず)

いくえみさんの描く登場人物たちはそれぞれにちゃんと生きている感じがしますね。特に男子。
「いくえみ男子」という造語がつくられたけれど、格好つけないのに格好いいと思わせるのはどういう魔法でしょうか。
スキンシップや壁ドン、甘い言葉がなくても、ちゃんと彼らを好きになっちゃうんですよね。
私にとっては人工的な王子様よりもずっと身近な王子様の方が好感高いです。

私はどちら派かと「選択」を迫られたら和央ですね。
柔らかくも芯の強い感じが、いくえみ男子の代表格ではないでしょうか。
さらに和央は母の苦労を見てるし、自分の体調のこともあるので、きっと精神年齢は高めだろう。
少女漫画の正ヒーローとして相応しい。んん、相応しい。

少女漫画で男子生徒に、それも王子様役に経済的困窮という背景を付けるのも珍しいですかね。
これが主人公ならキャラ付けとして大いにあり得る設定だ。
主人公が男女どちらであってもバイト三昧だけど、それが生命力にも繋がっていてその人の魅力に映り、恋に落ちるというのはあるだろう。
けれど主人公がいて、その相手役が経済的に困窮している、端的に言えば貧乏というのは思い浮かばないなぁ。
しかもギャグでもシリアスでもなく、和央の家には触れずらいリアルに余裕のない感じがします。

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相手が手のひらを見せてきたら生命線の話題をしましょう。
一方で粗野な感じのする弦こそがお坊ちゃまというのも虚を突かれる設定だ。
ピアノを習いヴァイオリンを習い、豪邸住まいの末っ子長男。
短気だけれど真っ直ぐ育った分、屈託がない。ある意味で彼の方が天然王子かもしれない。
そして学校生活で気を遣って暮らす糸真と正反対の人かもしれない。


一番分かりにくいのは主人公の糸真ですかね。
波風立てないことを第一目的とする学校生活だけれど、親の都合の再婚から端を発した負の連鎖で行き場のない怒りが蓄積していたのか、弦との初対面時には声を荒げている。
そのお陰でクラスメイトとの距離が一気に近づいた訳だが、それは結果論でその逆もありえた話。

噂の張本人たちを前にしてハブになる恐怖を語ろうとして「バカらしい」と我に返って踏ん切りがついたのもあるとは思うが、和央に好意を持ってからというもの、その距離感が近すぎるのも気になる。
その距離感を間違えるというのも青春・恋愛漫画の一要素であるんでしょうけど。
今巻でも糸真は和央に手痛い失敗をしている。

ただこの前まで一緒に暮らしていた実母にも気を遣っている様子が描かれる糸真は本当に私には想像も付かない苦労もあったのだろう。
そして久しぶりに一緒に暮らし始めたのも束の間、今度は実父が恋に一直線になる兆しが…。
苦労余りありますね。でも和央に一層近づけるチャンスでもある⁉


恋愛に奔放なイメージが先行する糸真母ですが、彼女の身を案じて別れた元夫に連絡を取り、その後も娘や元夫に近況を聞き続けているということは、彼女はダメ母のようで決してそうではないみたいですね。


総じて(初めての)恋に不器用な人たちの物語ですね。
不器用というと初心(うぶ)な感じで可愛らしいイメージがあるけれど、そこには偽善や悪意や計算が働いている。

悪意といえば第三者から性格が悪いと告発があった国重晴歌(くにしげはるか)の本性も気になるところ。
糸真はどう進んでもいばらの道しかないように思われる…。
ただ、物語全体が暗くならないのは糸真 独特の強靭さや、丁々発止の会話があるからだろう。

初めての恋の割には男子と気兼ねなく話せているのは糸真の継父との暮らしから獲得した距離感のお陰ですかね。
糸真は最初に格好悪い所や本性を見られているせいか、和央と弦には気兼ねがないのが二人にとっても心地よいのでしょうね。


ちなみに、お犬様のすみれは『いくえみさんちの白い犬』が迷い込んできたわけではありませんよね。