水瀬 藍(みなせ あい)
なみだうさぎ ~制服の片想い~( ~せいふくのかたおもい~)
第10巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
「好きな女は自分が幸せにする」天野から文化祭のバスケ部のステージに呼ばれた桃花。
でもバスケ部のステージって…告白大会!!? それってどういう意味…??
困惑を隠せない桃花の元に北海道から鳴海も帰ってきて、恋模様はますます困惑状態…??
桃花の初恋ストーリー、ついに完結。
簡潔完結感想文
- 天野の告白。最後までなみだうさぎ。泣きたいのは振られた方なんだけど。
- 鳴海の母親初登場。もう恋に何の障害もない桃花。交際は双方の親が了解済み。
- いつだって主役はあたし。誕生日だってセルフプロデュースするんだもん。
前半と違い後半の主人公は泣くとピュアに見えるから泣いている気がする、『なみだうさぎ』最終10巻。
何度も指摘していますが、主人公の桃花(ももか)は正統派の「悲劇のヒロイン」である。
恋の逆風こそ彼女の良さが光る。それでもどんな時も桃花に心変わりがないのが彼女のヒロインとしての強み。
たから物語がハッピーエンドに近づくごとに彼女の良さは失われているとも言える。
この最終巻も好きな人の隣にいる幸せな描写を丁寧に積み重ねていて、作者が構想したラストシーンへ繋がるようエピソードが用意されている。
だからずっと甘美な幸福感に包まれているものの、ただ甘いだけのお菓子という印象も受ける。
前半の「片想い編」の波乱で人気が出てきて、後半の「両想い編」は純愛をこじらせてしまったかなぁという思いです。
恋愛を至高の物とし過ぎて、主人公カップルに人間臭さが消えていってしまった。
主人公カップルに想いを寄せていた人たちが振られた後も変わらずに彼らに優しかったり、周囲の人間まで善人が用意されていて桃源郷のような世界が構築されていく。
恋愛に関しても「広い世界で出会えた」とか「生まれてきてくれありがとう」とか天上界から一つの恋愛を見つめる感じが嫌だ。
お安いラブソングの歌詞じゃないんだから、もっと桃花らしさが表れた恋愛模様を描いて欲しかった。
物語の前半には、どこにでもある、ありふれた恋愛だけど、私は精いっぱい頑張るというスタンスが確かにあった。
その中では、自分に大切な人が出来て「あたしを産んでくれて ありがとう」と親に感謝の言葉を述べる姿勢は好きでした。
恋愛を通して桃花がそういう気付きをする展開がもっとあれば良かったですね。
桃花の成長の描き込みが足りなかったかな。
そう、無条件に愛される桃花だが、桃花には恋愛以外での努力が見受けられない。
だから今巻で桃花に最後の告白する天野(あまの)が好きになった桃花の長所って全部、恋愛絡みの回想なんですよね。天野の告白に対しても桃花は、自分は鈍感だから気が付かなかった、そうやって私は周りの人を傷つけていたんだ、と自分の至らなさを反省して泣く。
これ以前も、恋愛に無関心な友人・皐月(さつき)ちゃんが「ぼっち」になった時と同じ反省ですよね。
桃花は結局、最終巻まで成長しなかったってことかな…?
いつまでも桃花は何かをしてもらう側であって、してあげる側じゃないんですよね。
これはラストの誕生日のお話でも結局そういう構図になってしまっていた。
天野の告白に応えられない場面でも桃花は泣いている。
そっちが先に泣くのズルくない?
これも、フル方とフラれる方、泣きたいのはどっちか思い至らないからじゃない? と本当に底意地の悪い私。
彼氏の鳴海(なるみ)側も具体的な良さが分からなかったですね。
交際後は桃花が喜ぶ鳴海の優しさって独占欲なの?と思う場面ばかりが続いた。
コスプレをすれば他の男に見せるな、桃花ががあげたストラップをずっと付けている天野には速攻ではずせと彼氏の立場で牽制する。
両想いになって久しいですが、恋に深化がないんですよね。
純愛の一つの到達点は結婚という考えなのだろう。
この恋は一生変わらない気持ちで、特別で、結婚こそが正しいという考えの元、最終巻は組み立てられています。
最終巻で鳴海母が初登場。
思えば登場するのは家族は鳴海父か妹の夕凪(ゆうなぎ)ちゃんばかりだったが、鳴海母は海外で仕事をしているので長期不在らしい。
そうすると鳴海家は誰が切り盛りしてるんだろうか。
(多分3人いる)子供たちの中でも、特に鳴海に構ってあげられなかったという母。
だから鳴海は自分の世界を構築して大人びてしまったけど、桃花のお陰で変わったと感謝を述べる母。
いい話のようですが、いやいや、祖母に預けて祖母が亡くなった後も放置していた、今まさに愛情が必要な夕凪ちゃんがいるでしょうと鳴海母に言いたい。
そしてそんな幼稚園児の夕凪ちゃんの前で「エッチしてる?」と桃花に質問する鳴海母。ちょっとアレな人なのかもしれない。
鳴海側に関してはなんだか設定だけで整合性がないこと多いですよね(後述します)。
存在が仄めかされた鳴海兄も結局出てこないし。
桃花と鳴海がそれぞれの両親に挨拶することが最終回のラストに繋がります。
交際まだ半年ちょっと(?)で双方の親に結婚しろと勧められ、高校生カップルたちの退路は塞がれた。
そういえば桃花の数少ない具体的な長所に料理上手がありますが、あまり活かされてません。
鳴海に対してはクッキー作ろうとして焦げたぐらい?
ラストのエピソードは桃花の誕生日のお話。
自分の誕生日のパーティーを自分で計画する桃花。
そしてその席でお返しとして皆に感謝の気持ちを伝える手紙を用意する桃花。
だが、みんな当日の予定は埋まっていて、桃花は「なみだうさぎ」になる…。萌愛(もあ)ちゃんや久遠(くおん)くんなど懐かしい人々も再登場。
ヒロキは今巻の序盤で登場したからか、誕生日回では出番なし。
ヒロキは無自覚の天才でしたから、自意識が生まれた今は絶賛スランプ中でしょうね。
久遠くんに会いに行ったのは寂しかったからで、鳴海の嫉妬などお構いなしの反省しない桃花さんです…。
手紙を用意していない萌愛は途中退場。気まずい思いをさせるところでした。
結局、桃花は「してもらう側」「愛される側」だということがよく分かる誕生会になりました。
実質的なラストシーンが教室だったのは良いですね。やっぱり原点ですから。
そして鳴海のプレゼントは将来の約束。
唐突なようですが、この既定路線に至る伏線はちゃんと張られています。
ラストシーンは桃花と鳴海の結婚式。
久遠くんまで呼んだんですね。
男友達を呼ぶ新婦、って訳アリですね。
そういえば皐月が天野に恋をして3組のカップルが成立するという展開に落ち着かなくて本当に良かった。
そして老けない両親たちと、大きくなった夕凪ちゃん。
ヒロキさんもいますね。そして排除される萌愛ちゃん…。
ラスト1ページでは、かぶが少し大きくなってる、そして母になってます。
にしても鳴海側は残された謎が多いですね。
高校生になった途端、色気づいたのはなぜ?
これは春休み中に萌愛のアドバイスを受けたとか具体的な説明が欲しかった。
そして左耳が聞こえにくいという、桃花の勘違いのためだけに生み出された設定を一生 背負わされてしまいましたね…。
その設定があるならば二人の立ち位置は常に桃花が左とか、そういう気配りが欲しかった。
序盤だけ更新していた桃花のブログは、作中での役割を終えたら放置。
鳴海のソラさん人格もよく分からないままでした。
ブログにコメント残すなんて鳴海からは程遠い行為だと思う。
あと阿久津くんってバスケ部の設定でしたっけ…?
作者が宣伝している本書のヒロイン「桃花から恋するテクを学んじゃお」という『なみだうさぎ 桃花に学ぶ愛され力』怖いもの見たさに買ってみようかな。
彼女がいる人を好きになってもOK。奪っちゃえばいいんだよ。
寂しかったら自分を好きな人に会いに行こう。自尊心が満たされるよ。
いい場面だと直感したら泣いとけ。その涙は好意的に解釈されるよ。
…最後まで桃花にイジワルな私です。