《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

卒業式で答辞を読んで、数年後に母校の教師になって帰ってくる『天使なんかじゃない』爽子。

君に届け リマスター版 29 (マーガレットコミックスDIGITAL)
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第29巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

受験本番。爽子達がセンター試験を終えて次に進む中、あやねは一足先に合格発表を迎えます──。合否報告をしにピンのもとへ行くあやねですが…。

簡潔完結感想文

  • バレンタイン。3年連続ピンに渡している矢野ちん。今年は意識しすぎて…。
  • 大学受験。全力を出し切った後は、風早と二人、夜の校舎 忍び込む18の夜。
  • 卒業式。どんな私も受け入れてくれた人たちに私からの心ばかりの感謝と言葉。


思い出深いクラスメイトたちや校舎ともお別れの29巻。完結まであと1巻です。

てっきり卒業式の模様で物語が完結すると思っていましたが、爽子たちの大学の合格発表は卒業式後ということもあり、先に卒業式の場面がやってきました。
合格発表の前に卒業式という宙ぶらりんの状況は卒業式も上の空になりそう。


…とその前に、矢野ちんの初恋の完結編。

自分の成績では合否ライン上にいた大学には無事合格したものの、その報告を担任であるピンにした際に絶対に自分の好意が漏れることを自覚した矢野ちんは、ピンの待つ教官室の前から逃亡してしまう。
駅構内で逡巡し続ける矢野ちんの背中を押したのは、元交際相手の健人。
初詣でピンの前での矢野ちんの表情から彼女の恋を知った健人は、自分は矢野ちんの初恋の相手になれなかったにもかかわらず、矢野ちんの初恋を素直に祝福する。
健人、ナイス当て馬。君の役割は徹頭徹尾そこにあったようだ…。


ピンのもとに走って向かいながら、爽子と千鶴の応援も受ける矢野ちん。
奇しくもその日はバレンタインデー、これまで結果的にとはいえピンに2年連続でチョコを渡している矢野ちんは気持ちを込めたチョコも購入する。
どんな結果でも、「最初にふられるなら ピンがいいわ」という覚悟を決めて、ピンの自宅のチャイムを鳴らす。

矢野ちんが初めて届いて欲しいと願う、この想い。

いやー、ふられましたね。
物語の序盤から結構フラグとしては立っていたので、五分五分かなとは思っていたのですが、ピンは容赦なくふってくれました。
いつものように茶化すでもなく、時折見せる真面目モードの顔でちゃんとふってくれた。
可能性を1ミリも残さずふったのは、新たな生活に送る矢野ちんを思ってのピンの配慮でしょう。
本当に稀にみる良い教師なんですよね。自分の気持ちがたとえどこにあっても分別も忘れないし。

初恋が破れたのは千鶴やくるみ(多分)に続いて3人目かな。
初恋は実らないというジンクスのなか、爽子は珍しく実り、貫いているんだなぁ。
でも10年後は誰にも分からない。ピンが髪で女性を威嚇し続ける限り、矢野ちんには無限の可能性がある。


爽子の大学受験が終わった日、爽子と風早は一足早く二人だけで校舎に別れを告げに行く。
品行方正な本書の中で、最大級の悪事でしょうか。

初めてあった日、初めて隣の席になった日、学校の中には思い出の場所がいっぱいある。
そして現実世界ではその間11年以上もの年月が流れている。
1巻発売当時、中高生だったとしても読者はもうアラサー。
自分たちの思い出も相乗効果として重なって、胸には多くの光景が駆け巡っていくはずだ。
そしてそんな感謝の思いも込めながら、両想いになれた同じ場所で口づけを交わす二人。


校舎と別れたあとは続いてはクラスメイト、同級生たちとお別れする卒業式。

自己評価だけは高かった爽子の「画伯」っぷりが卒業文集で白日のもとになってしまいましたね。
そしてクラスメイト全員に爽子からの心ばかりの意趣返しのような(笑)贈り物。
貞子と呼ばれ続けた怨念が入ってそうで入っていない。
爽子と貞子、2つの自分から、ありがとうの気持ち。

答辞は爽子。あの爽子が準備した内容から外れるとは意外だった。
学校によって答辞を読む人の選び方は成績主席とは限らないのだろうけど、爽子の場合、成績と考えるのが妥当か。
その爽子と同じ大学に行くなんて相当くるみは努力しなきゃならないんだな、とここにきてその学力を心配する。
もう試験は終わってしまったのであとは合格発表のみ。
主要メンバーでは爽子とくるみ、そして風早だけ。
爽子たちは国公立っぽいけれど、風早の大学入試のスケジュールはちょっと変わってる気がする。

少女漫画あるある。答辞で個人的なことを話しがち。
今巻の陰のMVPは高橋さんでしょうか。
矢野ちんにピンとのツーショット写真を渡したり、爽子を主役にした同人誌を渡したり。
彼女が情報収集をしている設定は、ここに活きていたんですね。
貴方もまた爽子の最大の理解者の一人である。
じゃないと、80ページの長編漫画なんて描けないよ…。描けないよ(泣)

クラスメイトたちとはここでお別れ。
卒業式のあとがラストの登場の人もいっぱいいるだろう。
健人もその一人かな。元カレだけど矢野ちんとも良好な関係で(適度に距離を置かれてない?)、ケントガールズも健在。
実はまともに恋人いたことないんじゃない説が覆されたないままですね…。
その前の彼、矢野ちんの身体目当てのサイテー男子・茂木くんも登場。矢野ちんは心が広い。
ピンも最後ですかね。また来年度も生徒たちを精いっぱい愛してください(泣)
初登場は、くるみ母ですかね。梅!と彼女を呼ぶ姿はなかなか厳しそうなお人である。

そういえば爽子の受験の帰り道に「貞子」の名付け親の爽子の幼なじみ的存在の女性が『2巻』以来久々の登場してましたね。
彼女もまた、くるみと同じようにちゃんと話して謝りたかった一人なのかな。
爽子の答辞に影響する話だし、誰にも悔いがないし、いいタイミングでの登場でしたね。