《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

そんな猛男、修正してやる! 感情を抑制できない男と感情の表出に乏しい男。2つの拳の物語。

俺物語!! 13 (マーガレットコミックスDIGITAL)
作画/アルコ 原作/河原 和音(かわはら かずね)
俺物語!!(おれものがたり)
第13巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

大和のお父さんがスペインへ転勤することが決まった。最初は家族についてスペインに行くと言っていた大和だけど、猛男への想いが募るあまり、家出をしてしまう…。連れ戻すため、家出に一緒についていった猛男だが!? みんなの想いがぶつかりあう堂々の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 最終巻!! 好きだ! 猛男も大和も砂川も作品の全てが好きだ!
  • 再集結!! 猛男と大和の一大事。砂川一世一代の大立ち回り。
  • 最終回!! 猛男、君は少女漫画で一番格好いいぞ。またな!


引き続き、沖縄からお送りする13巻。泣いても笑っても泣いて笑える最終巻。ありがとう!!


序盤で大和と猛男の逃避行が終わる。
いや、二人できちんと終わらせた。
自分が子供である事も、家族や環境に恵まれている事も、友人が励ましてくれる事も、恋人が優しい事も知った二人だけの旅。
腹を割って話し、感情を曝け出して猛男の胸で大いに泣く大和。
大和は実はしっかり者なので、作中でもこんなにボロボロ泣く姿も珍しい。
猛男のニアデス体験の時ぐらいか@『2巻』
そうして大和は父親に謝罪し、親元に帰る事を約束する。

そして交わされる二人だけの秘密。
見よ、この律義さ。
二人っきりの旅行の初日ではないんです。
ちゃんと問題が解決した後でのことなんです。
これが猛男の言う「大和とは胸はって一緒にい」る事でもあるのだろう。


旅行先での出来事といえば猛男と砂川の男二人旅が続きます。
大和がスペインに出発してから猛男に受験に向けた勉強を勧める砂川。
そんな折、福引で旅行ツアーが当たった砂川は珍しく前のめりで猛男を誘う。
1泊2日のツアーの夜、一つ屋根の下で眠る二人に遂にその時が訪れる。

彼の正真正銘の初キスです。キャー。今回はラップ無し。キャー。
野太い絶叫が星空に響き渡る。ウォォォォォ。
そして朝チュン(笑)

砂川は猛男に対してだけは饒舌がデフォルトですが、そんな彼が言葉が少なになった時は感情が動かされている場合が多い。
昨夜の事に言及する猛男に砂川の返答は「いや べつに」。
さて彼の胸中やいかに。この段、読み飛ばし可。

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浮気ではない。一夜の過ちである。
大和がスペインに出発してからの砂川は沈み込む猛男を笑わすという目標のため彼らしくない努力をしている。
最終的にくすぐって笑わそうとする不器用な男でもある。
確かに猛男の言動に砂川が大笑いしているという描写は何度も見たけど、砂川の隣で笑ってる猛男というのはあまり見ない。
そもそも猛男って笑ってましたっけ。
思い出そうにも大和の横で好きだ!という顔しか浮かばない。
猛男の進化によって自分の意図すら見透かされてきた砂川。
でももう赤面はしても逃亡はしない。
そこは経験済みだ。
ただ正直に自分の気持ちを言えない彼は、猛男に感謝されても言葉少なにこう応えるだけである「あ そう」と。


砂川ティーチャーのお陰で成績も急上昇の猛男だったが、大和の方は新天地になかなか適応できずにいた。

思わず電話で猛男が隣にいない事ばかり考えてしまい「さみしい」と告げると、猛男は「オレたち1回離れねぇか?」と告げる。
まず、えっ猛男から⁉と驚いた。
自信喪失してるのは大和であって猛男じゃないのに。
理解できない。
ただ一つ理解できるのは猛男の性格。
役に立たない自分なら大和の横にいる資格はないと彼が考えるのはもう知っている(『9巻』)。

成績も上がり充実した生活の自分が浮かれていた分、大和の状況を考えもしなかった自分を恥じているのだ。
そういう仁義に対する猛男なりの決着がこの言葉なのだろう。間違ってるけど。


そう間違っているのだ。
猛男が大和と別れた事を知った面々が猛男宅に集合するシーンは名場面。
皆、集合するぐらいこのカップルに関わってきた。
一人一人と自分の全存在で向き合ってきた猛男という人物がいるからこその説得力がこの漫画にはある。

そして砂川の行動。
もう大好きだよ、君たち。
思わぬ箇所が伏線になっていたが、私としては猛男こそ約束覚えてたのかよー、と驚いた。
「完璧な人間」猛男の記憶力を見くびってましたね。
そういえば本書は猛男の怒りの鉄拳から物語が始まって、砂川の修正の拳で終わっているのですね。
親友との約束があったとはいえ砂川が感情表現として拳を使うとは…。

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「バカなことを言うな この男のクズ!!!」と1巻で殴った猛男のセリフがよく はまる。
海を渡った猛男は脊髄反射で人助け@海外を続け、どうにか大和の元に辿り着く。
この時の二人の会話もいいですね。
どちらもまず相手にそんな言動を取らせた自分が悪いと告げているのだ。
そして互いに要望を伝え合う。
指輪もパスポートもこの日、この場面のためにあったんですね。

そんな二人をテレビ中継で見て破顔する砂川姉弟の幸せそうな顔。
もうここだけで涙腺が大活躍しちゃうよ。

にしてもアルコさん外国人描くの上手ですね。
クロッキーと言うのでしょうか、外国人がちゃんと外国人に見える。
スペイン感に溢れてる。
濃い顔が得意なのかしら。
ただ今巻の砂川の顔は転校生・田中にやや引っ張られてる気はしましたが。


そして最終ページ見開きの3人。
「またな!」の言葉は自分にも言われているようで涙が溢れてきちゃう。
ラストの大和は奥様感ありますね。やっぱり3人揃ってこその『俺物語!!』だよね、初回からそうだったもの。
彼らにまた会いたい!と泣きながら本を閉じる…。