《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

空から降る一億の星。君が結べば 100万の星座。名前は たけお座1 ~ たけお座100万 だお。

俺物語!! 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
作画/アルコ 原作/河原 和音(かわはら かずね)
俺物語!!(おれものがたり)
第2巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

霊長類最強の呼び声高い高校1年生・猛男は、生まれて初めて出来た彼女・大和と、ラブラブな毎日を満喫中。そんなある日、大和が友達から合コン開催を頼まれる。猛男も男友達を集めて合コンに初参加することに! もちろんイケメンの砂川も参加。ところが! 合コン会場で、思わぬ大事件が発生!! 絶体絶命の大ピンチに、猛男の底力が大爆発…!?

簡潔完結感想文

  • 大和の誕生日回。盛大に祝いたい猛男は砂川とプランを練る。
  • 第二子の誕生はいつかい。まさかの猛男母妊娠。男たち優しい。
  • 砂川、大丈夫かい。彼の性格形成にはこういう背景があるのね。


物語の密度が濃いなぁ、毎回が最終回のようだと思った2巻。

作中に漂う、お菓子と恋の甘い香りを堪能しながらも相変わらず大笑いして、その直後に薄っすら涙を浮かべるぐらいしんみりしてしまう素晴らしい一冊。
もう感情が大忙しだ。
少女漫画は両想いになってからの展開が定型的で低調だという先入観を払拭してくれる。
この辺はコメディーの強みですね。
序盤のあまりの人気に長期連載を意識したのか、猛男に弟妹どちらかが生まれる瞠目の設定が発表される。
コメディー漫画だけど作中時間は確実に進んでおり、高1の春や誕生日が2回来るということはない、という宣言だろうか。
二度はない青春の日々、彼らはどう過ごすのだろうか。


最終回クラスの大事件は収録1話目から起こる。
この話は飲食店で彼氏の猛男をクラスメイトの女友達に紹介する大和という、とても平和な内容だったはずなのに終盤はパニック映画になる、この漫画でしか許されない展開になっている。

顔を赤らめて彼氏・猛男を紹介する大和に対し、猛男の存在感に圧倒される友達。
猛男の超人的な身体能力に驚きつつ、猛男たちのいない所で「ギリギリ人類」と猛男への中傷ともとれる発言をする女友達たち。
それを聞いて大和はショックを受けるが、そんな中、突然、本当に突然、店が火に包まれる。

火事は怖い。
だけどこの全く前触れのない、確実に作者のマッチポンプな火事の描写に、どうしてもブラックな笑いが湧き上がってしまう。

f:id:best_lilium222:20200607030822p:plain
原作者が 火事だー と書けば 発火するのです。
燃えたね、いや、また派手に燃やしたね一気に、というメタな笑いにまた笑ってしまう不思議な構造だ。
危険を冒して現場に残された人を助ける猛男の姿はやはりヒーローそのものだ。
だが友達を助けた後、一人火中に残されてしまった猛男。
帰らぬ猛男を思う大和の慟哭、携帯電話で最後の会話をする砂川、そこに零れる彼の本音、物言わなくなった猛男の携帯の待ち受け画面。
全てが泣けるね、でも次のページをめくって笑うよね。
どうしてこういう漫画なんだろう。思わず言っちゃうよね、好きだ!

猛男が自力で脱出した後の、文字通り燃えてる猛男、冷静に背中の火を消している砂川、猛男にすがって泣き崩れる大和、この一コマだけでも情報量の多さに感情が追い付かない。
今後も何度も言及しそうな気がするけど、このような冷静な砂川の対処の一コマ一コマが笑える。
猛男たちの横で何をしているのか、それが気になって彼の描写に思わず注目してしまう。
外見ももちろんだけど、笑顔一つで読者の目を奪ってしまう罪な男です。

f:id:best_lilium222:20200607030959p:plain
珍しい大和と砂川2人きりの会話。噛み合って、ないね…。
後半は少しシリアスな話。
人が生まれる剛田家と、16年前に生まれた大和の誕生日。

実はその話と並行して砂川の押しつぶされそうな日々があった、という構成。
出来過ぎた人間には裏があると思う不完全な私ですが、今回の件は砂川の背景として深く納得できるものだった。
彼の俯瞰的な視点はこういう人生経験があって生まれたのですね。

自分から自分の話はしない砂川だが、具体的な事情を知らない時点で、猛男が砂川の変化に気づいているのが良いですね。
あんなに勘の鈍そうな猛男が砂川の事だけは分かる。
猛男と砂川の10年が伊達じゃないエピソードです。

そして砂川の隣で、砂川の独白を聞いてあげて、そしてその間違いをちゃんと正してくれる猛男。
本当に猛男という存在が砂川にとってどれだけありがたいのかよく分かる回です。
でも二人っきりじゃないと本音を言わないみたい。
何だかんだ家族に対してさえ見栄っ張りですね、砂川くん。

f:id:best_lilium222:20200607031126p:plain
砂川もまた笑っていないと 幸せとは言えない。
大和もまた自分のことよりも優先させてくれる。
もう読者はカップルというよりも、この3人組のファンですよね。
特別な日以外は一緒にいて欲しいものだ。

病院を出ようとする場面は一つ一つが胸に迫る。
緊張から解放されたというのもあるけれど、大和の気遣い、千羽鶴を肩にかける砂川、ここでも思わず零れる砂川の本心からの言葉、そして猛男と大和の余計なおせっかい、全てが優しさで包まれた場面だ。