《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

決められた役割は全うするよ。君を応援すると決めたから 君が一番大切だから。

ストロボ・エッジ 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
ストロボ・エッジ
第8巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★☆(9点)

蓮が自分と変わらなく接してくれるのは、恋愛対象外の「友達」だからなんだ――。でも蓮の仁菜子への態度が、仁菜子の心を揺らす。誰かと恋する蓮を見るくらいなら「カノジョ」になれるようがんばる。そう決意した矢先に――。安堂の中学時代の元カノ・真央が入学してきていた。真央は中学時代、特別な友達だった蓮と安堂の仲をはなれさせた原因をつくった。真央の言葉をきいた仁菜子の選んだ道は――。

簡潔完結感想文

  • 蓮と安堂が特別な友達と知った仁菜子。彼らの中を取り持つ為には。
  • 応援リーダー仁菜子。人のお手本になる努力のできる子なんです。
  • 想い人に近づく異性には嫉妬するものです。さゆりだって蓮だって。


仁菜子の気持ちが分かるような、分からないような8巻。

安堂の元カノ・真央によって、蓮と安堂が仁菜子に名を伏せて語っていた、仲がこじれてしまった特別な友達が、安堂であり蓮だと知った仁菜子。
「自分が一番好きな人の 一番大事な友達との関係を 私が壊しちゃった」と語る真央の言葉は、真央の位置に仁菜子がいる今の状況と全く同じ構図である。

ここで重要なのは、仁菜子はこれまでの話から蓮と安堂のそれぞれの傷や後悔を知っているから、自分の気持ち一つで均衡を崩すリスク、自分の行動が二人の関係を壊す契機になることを理解している点だ。
一足早くカップルになったさゆりが仁菜子の未来の姿ならば、真央は過去の教訓、または現在の戒めの象徴だろうか
。ああなってはならないという存在、真央。不憫だ。

仁菜子の中で男の友情の保守と蓮への想いの綱引きが始まった。
仁菜子と蓮が感性の似た者同士と捉えるならば、仁菜子も自分の想いよりも、自分の好きな人の気持ちを優先するタイプなのかなぁ、と考えられる。
蓮の幸せ、不幸の回避のためならば自分の気持ちに蓋をすることも厭わない。
身辺整理してからようやく行動する石橋を叩いて渡る彼ら。
叩いても埃も出なくなった清浄な空気が最終回に待っているだろう。
叩きすぎて生地がダメにならない事を祈る。

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胸キュン ならぬ 鎖骨ムズ 連発の蓮
読者としては正直、直前で「告白する」と息巻いていた仁菜子が、朝令暮改ともいえる撤回をして、男の友情を見守るというスタンスになってしまい肩透かしをくらった。
しかも読者には仁菜子と蓮の両想いが自明だからじれったい。
もうこれは告白するする詐欺に、両想いなるなる詐欺である。
もちろん、クライマックスに向けて高く遠く飛ぶための助走だとは理解しているのですが、前巻といいちょっと冗長さや中だるみを感じる。


そんな仁菜子の内心を知らず、蓮は仁菜子に自分の気持ちの高ぶりを少しずつ伝えていく。
いちいち顔を赤らめて、いちいち素敵な表情で、いちいち胸に刺さる言葉を投げかける蓮。
ほんと蓮くん、この巻だけで鎖骨を何回触ったよ。
でもね蓮くん、君は自分で言うほど大人じゃないしクールでもない、そしてタイミングが悪い人だ。

それが最大に発揮されるのが次巻なのだが、仁菜子の懊悩などいざ知らず、彼にしてはグイグイ来る。
蓮の言葉を理性でしか返せない状況が続く仁菜子にとっては、それは嬉しくも切ないもので、どうしても自分のスタンスを言い聞かせるように「友達」という言葉を多用してしまう。

この仁菜子の葛藤、それこそ胃が痛くなるほどの心理的負担を読者にはちゃんと理解できるのだが、立場を変えて考えてみれば、蓮には「友達」という絶対不可侵領域の予防線を張りまくられた発言にしか聞こえないのか。
お互い、なかなか報われない恋をしてるね、仁菜子さんたち…。

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少しずつ気持ちを添わせてくれる蓮
前巻あたりから夕方のドラマの再放送を気にしていた仁菜子。
今回その録画を気にするあまり体育祭の応援リーダーの役職に就いてしまう。
望まぬ任命に苦労も多い仁菜子だったが、そのお陰で蓮からの役得もある。

8巻からの新たに3年生男子の応援団長が登場する。
キャラが濃くとっても騒がしい彼だが、仁菜子は接触の機会の多い彼に今の自分の気持ちを相談する
。その急接近に、応援団長、仁菜子をすきになるんじゃねーぞ、と誰もが威嚇の声を発したとかしないとか。

けれど他人の団長さんとは適切な「距離」は保たれたままで一安心。
むしろ蓮の方が心に波風が立って、内心穏やかじゃなかったかもしれない。
意外に嫉妬深いのね、と本気になった蓮の赤い頬にまた口元を緩ませる読者たちであった。

ここにきて仁菜子の友達5人組でこれまで目立たなかったA(名は環ちゃん)が、次巻ではB(のんちゃん)が少しフィーチャーされている。
ラストに向けての作者の愛だろうか。
作者なら彼女たちの番外短編も作れるはず。誰も望んでいないかもだけど。