《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

幼い子を捨てた両親に、重い病気の親友。持てない荷物を持とうとして後に身体を壊す。

一礼して、キス(2) (フラワーコミックス)
加賀 やっこ(かが やっこ)
一礼して、キス(いちれいして、キス)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「あんたは俺が好きなんだよでもまだ足りないもっと俺のことだけ考えてください」年下で新部長の三神曜太に支えられ、高校生活最後の弓道の大会で好成績を収めることができた岸本杏(あん)。弓を射る彼の圧倒的な存在感にドキドキしたことを伝えたくて三神の姿を探すけれど、杏が見つけたのは「ゆき」と呼ぶ相手と電話中の三神だった。急用があると言って弓道部の打ち上げにも参加せず「ゆき」という人の元へと急ぐ三神。その後ろ姿を見送った杏は、いてもたってもいられずに三神のあとをつけてしまい――!?
大長編の番外編「あの日から、僕らは」も同時収録して読み応えバッチリ!
弓道部が舞台でありながら、弓道だけにとどまらない、そればかりか武道のエロスまで表現してしまうほどの、新感覚作家・加賀やっこが描く、ますます目が離せない「してキス」ワールド急展開の第2巻!

簡潔完結感想文

  • 彼が他の女性と話すのを阻止したのに、自分からは自分の好意を認められない強情なヒロイン。
  • 裸を見せるように自分の射形を見せるヒロインは、彼からの視線だけで絶頂に達してしまう。
  • エロだけじゃなくてドラマも描けますという作者の欲張りな意気込みが、空転し始める…。

すぎる愛よりも重すぎる設定に辟易する 2巻。

早くも両想いである。全2巻の話でも良かったのではないか、と後々の展開を考えると思ってしまう。

ここまでなら、ヒロイン・杏(あん)の優柔不断さや、人の言うことに流されてしまう思考力ゼロの感じも許せる。そしてヒーローの曜太(ようた)のグイグイくる積極性と、狂気と紙一重の嫉妬深さ、すぐにスキンシップや愛撫を始めようとするエロさも、その配分が適当な気がする。
そして ここからは上記の彼らの性格的な問題が欠点になっていく。本書で扱われる弓道という競技では心技体が揃って綺麗な射が生まれるのだと思われる。そして そのどれかが欠けたら射から美しさが消えてしまうのだろう。様子のおかしいイケメンだったはずの曜太が、本格的に様子がおかしくなり、恐怖を感じるようになる前に物語が終わった方が、きっと綺麗だっただろう。

ずっと杏を見てきた曜太にとって、杏の気持ちの変化は手に取るように分かる。もしくは洗脳(笑)

おそらく作者の当初の構想では、ここら辺までしか考えていなかったのではないか。ここから作者が物語に深みを持たせようと、ヒーローには定番のトラウマや家族問題を、そしてヒーローの親友には重い病気を用意した。だが それが原因で深みにはまって、本書の雰囲気が陰鬱になっていく。ちょっと これは欲張りすぎたのではないか、と言いたい。
想像にしか過ぎないが、作者の念頭には同じ小学館なら小畑友紀さん の『僕等がいた』ばりの人生ドラマを描く目標があり、そして青木琴美さん の『僕の初恋をキミに捧ぐ』ばりの切ない闘病漫画が完成するはずだったのだろう。
でも初連載の新人作家が そんな難しいテーマを2つも同時に扱える訳もなく、無かった方が物語がスッキリしたのではないか、と思うぐらい不必要な要素になっていく。初めての連載で、読者の反応も悪くないとなれば、誰もが心が震える深みを用意したいと思うのは向上心の表れとも言える。でも連載中に未知のことを初めて、それを自分の型に出来るのなんて一部の天才だけだろう。その意気込みは買うが、これらは連載の呼吸を学んでから次の連載で やるべきだっただろう。

作者も登場人物もバランスを崩してしまったのが残念である。


分の曜太への気持ちを理解した杏だったが、彼は「ゆき」という人を最優先にしていることが分かる。

杏は「ゆき」が気になりつつも自分の引退を労ってくれる部活を優先する。この会に ちゃっかり参加しているのが、弓道で今年のインターハイ1位の沢樹 景伍(さわき けいご)。彼は杏に興味を持って自分の連絡先を渡すが、杏は沢樹のことを眼中にない。それでも杏は ここから弓道スペックの高い男性たちからだけ モテるという謎の現象が始まる。杏は弓道会の女神なのだろうか。杏には男性だけが感じる独特のエロスがあるのかもしれないが、それが作品からは全く伝わらない。この杏の何とも言えないエロスを表現できれば、読者の彼女の受け入れ方も随分 変わったのではないか。
何考えているか分からない曜太だけがマニアックに杏の魅力を知っているという状況が楽しいのに、ただただヒロインが男性を魅了するという普通の漫画になっていくから面白くない。


太の導きによって杏の未来が拓ける。弓道に力を入れている大学への推薦が決まったのだ。
その感謝や気持ちを伝えたくて曜太に会いたいが話せないまま放課後になる。そして曜太が また「ゆき」を優先する気配を見せ、杏は思わず 阻止しようと曜太を押し倒す(曜太が怪我しそうだ)。

押し倒してから曜太を好きだと言ったのだが、それを即座に否定する杏。どこまでも往生際が悪いというか、「負け」を認めたくないプライドの高さが見える。だが曜太は それが杏の気持ちだと断言する。杏マニアだからこそ分かる彼女の気持ちと言えよう。

こうして2人は両想いになる。そして読者には「ゆき」が男性であることが明かされ、これで2人に問題はなくなる。早くも めでたしめでたしである。


んな「ゆき」は点滴を受けていて、どうやら病院にいるらしいことが分かる。

曜太にとって「ゆき」が大切な人と分かると杏は会いたくなる。だが曜太は「先輩には関係ないでしょ」と彼女の自分の世界への侵入を拒む。それでも杏は曜太を尾行し、「ゆき」の正体を知ろうとする。高校3年生なのに子供っぽいというか、本人に直接 踏み込む勇気はないが、周辺を探ろうとする小狡さを感じる。曜太なら性格的欠点を知っても杏を溺愛するのだろうけど、それでも読者は置いてけぼりになる。

しかし曜太を尾行していたはずの杏が、なぜ曜太が居場所を知っている「ゆき」に先に会うのだろうか。謎過ぎる。曜太が奈智(なち)に会って時間を食ったのだろうが、それでも杏の方が最短ルートを取っているのが謎である。

そうして杏だけで病院の隣にある弓道場で1人の男性を見かけ、そして彼が咳込んで倒れるところに声を掛ける。彼が病院に帰るのを手伝うことで杏は その男性=「ゆき」との接点を持つ。
彼の名前は由木直潔(ゆぎ なおゆき)。杏は高1の時に中学生の大会を見ていて彼のことを覚えていたので警戒心を持たない。綺麗な射を見た=杏の安心感なのだろうか。そこへ曜太から連絡が入り、杏は由木が「ゆき」だということを知る。


の後も曜太は かなりの時間、由木との合流まで時間がかかる。由木と杏が ひとしきり話した後で ようやく曜太が登場する。

この時の会話で曜太の性格をよく知る由木は、自分が男だからこそ曜太は杏を会わせないようにしていたと言う。杏の世界の男は自分1人でいいと彼は思っているのだろう。その動機は嫉妬深さ というのが由木の分析。でも曜太は他の男性全員に そうではないから、由木の魅力を理解し、負けるかもしれないという危機感があるのだろう。それは2人の確かな友情を意味する。

由木ぐらい曜太への理解があったら杏は悩まないだろう。それじゃあ 物語が始まらないけど。

そして由木と杏が親し気に話しているのを見て、すぐに彼らを引き離す。そこで曜太は自分の嫉妬を隠しながら、杏が自分のテリトリーに入ってきたことを責める。その態度に杏は曜太の秘密主義や自分にも曜太を知りたい欲求があるという嫉妬を見せる。そんな彼女の反応に曜太は満足し、エクスタシーを感じる。


神的に興奮したからか曜太は杏を今夜は誰もいない家に呼ぶ。行動が早い。男性宅に ほいほい上がる杏も問題だ。杏は危険を感じつつも、曜太に流される。もう何をされても文句は言えないだろう。ここから彼女が他の男とのピンチが続いて、それを曜太が助けるという展開の連続だったら嫌だなぁ。

曜太は彼女を家に上げるなり、鍵を閉め、そして息が出来ないほどのキスをする。

それが終わると(なぜか出してある)アルバムを杏が見て、彼が5歳の時に この叔父夫婦と娘が住む家に来たことを聞く。どうやら彼の両親は仕事で息子を預けたという。この辺は巻末の中編に詳しい。ちなみに元々住んでいた家もあるらしく、曜太は二重生活をしているような状況でもあるらしい。その部屋も杏に見せたいと言う曜太は、自分の全てを知って欲しいのだろう。あわよくば性的な関係も と性欲を隠しきれていないのが曜太という人である。


屋の中で2人きり、曜太は正直に自分の気持ちを話す。出会いは杏が由木の射を見た2年前の大会であったこと、そこから杏を追って部活をしたこと。
そして曜太は杏の射が見たいと願う。電気を消して まるで裸を見せる時のように彼のためだけに動作を始める杏。だがエロティックな視線で見られているという刺激で杏は まるで絶頂を迎えたかのように身体に力が入らず倒れてしまう。そしてベッドに倒れ込む2人。身体の接触が多いなぁ。

そこへ杏の同級生で、曜太にとっては弓道部の先輩男性からの電話が入り、そこで曜太は衝撃の発言をする…。

「あの日から、僕らは」…
本編の番外編で、曜太が杏に出会うまでの半生を描く。曜太の両親は、仕事に かこつけて入院中の高熱の息子を放置する母親と、男の子が泣くなと色々な意味でハラスメントをする父親。時間の管理が出来ない人間に優秀な人はいない、と言ってやりたい。

この入院で出会ったのが由木だった。由木は陽太よりも病気は重いが、家族の愛があるので曜太は彼の仲良くなりたいという気持ちを受け入れられない。
そして退院が近付くが、曜太の両親は わざわざ病院の近くに来ていながら彼に挨拶なしで、彼を叔父一家に預ける、という謎の行動を見せる。雪の中、両親を追いかけようとした曜太は再び病院のお世話になる。そして今度は由木と仲良くなろうとする。ちなみに由木は20歳まで生きられるか分からないらしい。

そして由木は中学から弓道を始めるが彼の競技人生は長期入院で途切れようとしていた。由木が その苦悩の中にいた ある日、曜太が いたずらに弓を引き、彼はセンスだけで矢を的に当てる。それを見た由木から自分が試合に出られなくなったら曜太に代わりに大会に出てもらうことを望む。自分にとって唯一できるスポーツを取り上げられる無念を親友に託したい。これが曜太にとって弓道を始める契機であり動機となった。

由木が倒れた大会中に曜太が すれ違ったのが杏だった。幼い頃の経験から執着を失くした曜太が唯一執着するもの、それが杏である。

男性2人の過去が用意された中編である。曜太は ちょっと変態な後輩男子ぐらいでよかったのに、重い背景が設定されてしまった。