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少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛経験の乏しいアラサーの大人ヒーローは、隙あらばプロポーズみたいな台詞を言いがち。

古屋先生は杏ちゃんのモノ 4 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
香純 裕子(かすみ ゆうこ)
古屋先生は杏ちゃんのモノ(ふるやせんせいはあんちゃんのモノ)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

古屋先生との秘密のお付き合いに新たな壁が… 先生のお姉さんと一緒に食事をすることに! 教師と生徒の恋愛なんてバレたら、さあ大変!! 高校生であることを隠し、OLのフリして会食開始! お姉さんは、弟である先生が大好きみたいで、攻略困難!? 杏は彼女として認めてもらえるの!? ちょっぴり禁断…だけどゆるゆる爽快ラブコメ

簡潔完結感想文

  • 先生の姉と会うことになり 身分を偽るが、唯一 本物なのは彼への確かな愛。
  • ヒロインの浮気を目撃してしまう老眼ヒーロー。更年期障害を乗り越えろ!
  • 連続2話での1話目の種明かしは笑いが満載。ヒロインから中年扱いヒーロー。

ラサーとなった先生の囲い込みがエグい 4巻。

元々 ラブコメ要素が強かった本書ですが『4巻』はコメディ要素が作品中で最高かもしれない。特にヘタレヒーローの古屋(ふるや)先生が彼女である杏(あん)の浮気を疑う連続2話は、すれ違いコメディとして秀逸だった。1話目の冒頭で伏線を張り、この騒動のヒントを読者に提示している構成が良い。そして杏がアラサーの先生を早くも中年扱いしている描写には お腹を抱えて笑った。

自分のショックの大きさは、杏への好意の大きさ。この回のヒロインは間違いなく古屋先生。

もともと結婚願望が強いのか、キスもしていない女性にプロポーズしていた古屋先生。それは杏との交際でも同じで、彼は杏と結婚する未来を確信しているように見える。杏は先生にベタ惚れだから、それを喜んで受け入れているが、客観的に見たら20代半ばの担任教師が、高校1年生の生徒に結婚を ほのめかす言葉を連発しているのは なかなか狂気の沙汰である。

『4巻』では杏の家族に会ったから次は自分の親族とばかりに姉と対面させたり、「一生 お前の担任だ」と またも それっぽいことを言いだす。別の女性への1回目のサプライズプロポーズは失敗したからって、2回目は年端もいかない女性を囲い込んで逃げられないようにしている。万が一、杏が先生のヘタレっぷりに嫌気がさして別れようとしても、絶対に別れてくれないだろうなぁ。キスの責任とってよぉぉぉおおお!と自分が被害者のように振る舞うヘタレ先生が目に浮かぶ(笑)

そう考えると、本書(というか先生)の狂気を中和しているのは杏という絶対の女神の存在のお陰である。彼女が どんな古屋先生も肯定してくれるから、先生の非現実的な発言も許されている。
反対に杏が絶対にブレないことが、彼女を想う君嶋(きみしま)の徒労にもなる。絶対に そちらには傾かないと分かっている三角関係は緊張感に欠けるのも事実である。
かといって君嶋のいない恋愛模様には刺激がなく、ヘタレな古屋先生だけでは物語を支えるのには力不足だろう。作品的には2年生進級時に新キャラを追加することが予想され、まだまだ新展開が用意されている。だが、冷静に10代視点で考えると、恋愛経験豊富な君嶋が何か月~年単位で片想いのままでいいと思っているのはファンタジー過ぎる。おそらく君嶋が本気を出すのはネタ切れした時であろうが、それまでは友達のままでいいかもという優柔不断さを押しつけられるのが可愛そう。

当て馬でありヒロインの唯一の友達であり、恋愛アドバイザーであり物語の柱。さらに杏のツッコミ役から先生のイジリまでしてくれる君嶋が万能すぎる…。


然、古屋先生の姉に会うことになった杏。当然、古屋先生が女子高生と交際していることは秘密。

そこでOLに見えるように大人っぽい格好をするために君嶋に相談。杏が君嶋からの好意に無自覚なのは分かるが、困った時に男を頼ってばっかりに見えてで あまり良くない。折角、作中で我妻(あづま)という女性キャラを出したんだから、こういう時に使えばいい。どうやら女性ライバルとして動きを見せたために謹慎しているようだ。早くちゃんと友達になって、杏を君嶋依存から解放して欲しい。でも そうなると損をするのは君嶋か。そして作品的には君嶋ファンが去ったら人気はガタ落ちだろう。

この回は一種の変身回でもあって、杏は少し未来の自分に変身する。実際、杏が このぐらいの年齢になれば先生との年齢差も気にならなくなるだろう。先生は老化しているかもしれないが…。

少女漫画では親族に会う ≒ 婚約。お姉さんは先生を立派なヘタレに育ててくれた家族の1人。

親族を続々投入するのは、展開に乏しい作品の特徴だ。ほぼ両想いみたいなものだから、新キャラと三角関係の外的要因で話を延命する。

古屋の姉は美人(我妻に似ている。それを気づかせないために我妻が登場しないのか?)。
杏はOLとしては先生を先生と呼ぶことも出来ず、古屋を名前の遼平(りょうへい)くんと呼ぶ。そこに照れが生まれ、ギクシャクする。そして姉は優しそうに見えるが、色々と弟の彼女を試している。この試練を乗り越えることが、古屋家の嫁としての第一歩なのだろう。

ただ多くの嘘の中で、真実であるのは杏が先生を想う心。先生も姉に緊張する中で、杏に 少し自分を良く見せようとしていることを知り杏は表情が緩む。それこそが恋する乙女の顔であることは姉にも見て取れた。

だが杏の鞄の中から生徒手帳が出てきて身元が判明し、お姉さんは鬼女になる。その事態を知った古屋は杏を庇うが、姉に一喝され、撤退。そんな情けない古屋先生だが、杏は そこも含めて大好きであることを訴える。姉は2人の絆を見せつけられ泣く。古屋先生が少々情けなく育ったのは、この お姉さんが古屋先生を悪いことから守っていたからなのだろう。


嶋は古屋先生から見ても完璧。年下だけど尊敬する部分がある。だからこそ強力なライバルで油断が出来ない。

ある日、杏が君嶋と街を歩いているのを目撃してしまう古屋。浮気疑惑回である。ヒロインが、ヒーローの浮気を疑い空回りするのは定番だが、逆は なかなかない。しかも古屋先生は年上である。これも「情けなさ」を打ち出せる先生の特権と言えよう。

正面から聞くような勇気はないから、杏に間接的に探りを入れる情けない先生。だが杏は君嶋と会っていたことを隠し、そして不自然な態度を取る。古屋は不安から怒鳴ってしまう。この情緒不安定さもヒロインっぽいなぁ。

だが杏は そんな先生が疲労の蓄積だと診断し、そのストレスを軽減するためにハグする。先生に元気になって欲しい、先生のことばかり考えているから怒鳴られても寛容でいられる。それは杏が聖女である証だろう。そんな「恋人」の大きさに古屋先生は癒される。


が古屋は杏が君嶋といるところを再度 目撃してしまう。古屋は一瞬、自分が身を引いて、高校生らしい健全な交際が出来ることが杏の幸せではないか、と考える。これは杏が『2巻』で、もし古屋先生が我妻に傾くならしょうがないと思ったのと ほぼ同じだろう。彼らが相手の幸せを考えられる人たちなのが とても好き。

それでも古屋先生は、杏と君嶋の間に割って入り、自分だけを見ろと杏に伝える。

ここから君嶋との接触の真実が明かされる。この騒動は杏が先生の誕生日祝いを計画していたからだった。少女漫画において誕生日サプライズは、すれ違いの始まりである。

この回で上手いのは、最初に伏線を張っている点。お姉さんから先生が「25歳」と言われているところに違和感があったが、それが後に ちゃんと回収される。2話連続の話の1話目は先生視点、2話目は杏視点での真相が語られるのも、答え合わせのような快感がある。

ちなみに杏はアホの子だから、誕生日プレゼントも見当違いなものを考える。
先生の君嶋への嫉妬の視線が、杏には先生の老眼の始まりに見えるのは笑った。確かに高校1年生の時に25歳の実態を想像するのは難しいだろう。そして杏に少し当たったのは更年期障害によるイライラだと勘違いする。先生が色々と病気を抱えだした。

杏は君嶋に頼れば簡単な所を、きちんと杏がやるべきことは自分でやろうとする描写も良かった。こうやって努力や他者を頼らない線引きがあるのは良い。

最後には君嶋の助言もあり、杏にも先生がヤキモチを焼いていたことが分かる。それに対し精一杯 虚勢を張ろうとするが それが杏には筒抜けになるのも先生らしい人間の小ささである。先生が分かりやすい人間だと誤解も少なくて済む。


休みに入り、先生と会えない1週間に震えていた頃、先生から連絡が入る。呼び出され、デートだと思った杏だが、待ち合わせ場所は学校前。

先生は学年末の成績がヤバかった杏に勉強をさせるために呼び出したのだった。しかし杏が私服で登場したため、先生の家で2人きりの勉強回となる。『3巻』冒頭でも勉強回してたし、早くもネタが被っている。そして杏は進級が危ういほどアホなのか。先生の お弁当やお菓子作りをしているから こりゃ少女漫画ヒロインらしく食べ物系の進路に進むのだろうなぁと予想する(結果はいかに)。

だが国語以外は先生は教えられないことが判明し、現役の優秀な生徒・君嶋が召喚される。勉強面は頼られる君嶋だったが、恋愛面は少しも杏に気持ちが伝わっていない。2年生に進級することでクラスが別になるかもしれない上、杏から「お友達」認定されたことで君嶋は苛立つ。

そんな君嶋を気遣うのは天然ヒロインではなく、古屋。君嶋は まだまだ寝首を掻くことを宣言し、先生のライバルであり続ける。彼らの密かな戦いも長期戦になってきた。

杏は先生と担任が外れることを恐れていた。だが そんな杏に「一生 お前の担任」だとプロポーズみたいな言葉を囁く。気を抜くとすぐ結婚しようとするヒーローだなぁ(笑)25歳のアラサーになったことで更に焦っているのだろうか。

ここで良い雰囲気になりキスの流れになるが、先生は自制。なぜなら ここは学校以上に誰もいない密室で、すぐそばにはベッドもあるから。自分を律さないと大変なことになる。やや不自然に先生の家が舞台となったのは、キスをした その先の関係を匂わすためだろう。そういう匂いに読者は敏感ですからね。

杏は帰り道、先生の家に入るのは注意すよう君嶋から忠告される。だが その会話を同じ学校の男性生徒に聞かれてしまい…。進級は、新キャラ登場の絶好の機会。何やら危険な人が登場することを予感させる。


「番外編 先生はサンタクロース」…
君嶋はいつも不審者扱い、というオチが笑える。