
水波 風南(みなみ かなん)
未成年だけどコドモじゃない(みせいねんだけどコドモじゃない)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
片想いのまま、結婚から始まってしまった香琳の恋だけど、最近、尚先輩も優しくなってきて、なんだかいい感じ…? なのにそんなタイミングで、絶対ヒミツのこの結婚が、幼なじみにリンリンにバレてしまって…?? 「今日、恋をはじめます」の水波風南が贈るNo.1ピュア恋ストーリー!「今日、恋をはじめます」特別描きおろし番外編も同時収録!!
簡潔完結感想文
- 秘密の結婚がバレて脅迫。これまでの水波作品なら ここで凌辱?(遠い目…)
- 父親の権力を行使しようとする御曹司 VS. 自力の苦学生ヒーロー。勝負は明白。
- トラウマを完全克服したヒーローは恋愛解禁状態だけど、まさかの結婚終了宣言!?
本書は『今日、恋』のオマケじゃない、の 3巻。
出版社の予想以上に(以下に?)売れないのか、大ヒット作『今日、恋をはじめます』の七光りを利用して読者を獲得しようとする悪あがきが痛々しい。ここまで作者の矜持をバッキバキに折ってくるのは出版社側のデリカシーがないように見える。
作者が可哀想なのは、この出版社の分かりやすい救済策だけでなく、現在の連載(『未成年~』)が そこそこ面白いのに売れないという現実だと思う。『今日、恋』のヒットを不思議に思う私は、本書がヒットしないことも不思議。悪くない作品を生み出しているのに、力量不足のような無力感に苛まれるのはストレスだろう。これは大ヒットした作家・歌手などの次回作の宿命なのかもしれない。でもサポートする側が、漫画家生活に苦しいことが多いように見受けられる作者の やる気をポッキリ折るようなことをしないで欲しいものだ。
なぜ売れないのか ≒ 読者に何が受け入れられなかったのか、ここまでも色々考察してきたけれど、『3巻』で思ったのは香琳が作者の想像以上に強い存在だったのではないか、ということ。既読の水波作品の長編4作の中で、何をされても凹まなそうなのである。そして作風が丸くなったことで直接的な被害が何もない、という点も挙げられるだろう。
1,2作目のヒロインは性的な凌辱を加えられていたし、3作目も その危機やイジメがあった。4作目である本書では特に3作目の『今日、恋』と同じことを繰り返さないことに注意していたからか、学校内で敵が多いであろうヒロイン・香琳(かりん)がイジメられる描写が全くない。香琳がサッカー部のエース・尚(なお)のファンに締められるとか、奔放な発言でクラス内で浮くとかのエピソードがあれば感化されやすいリアル読者は彼女を応援したい気持ちが生まれたかもしれない。しかし今回の作者は その同情票を利用しなかった。
だから ずっと香琳の幸せ・不幸せは大好きな尚が握っている。徹頭徹尾、2人の話なのは正しいけれど話が広がらない弊害がある。そして香琳は尚のことを大好きだから彼に何を言われても、彼が自分に対して言葉を発してくれているだけで嬉しい。幸せな結婚が何度リセットされても、何度も立ち上がる不死身の存在、それが香琳だ。だから あまり切実さを感じられない。


暴力・性暴力に関わらず過激さを求めてきた水波作品ファンが物足りなさを感じてしまうのは無理もない。過激な作風で売ってきた作者が急にキャラ変して清純派路線への転換が失敗したということなのだろうか。
無敵の香琳にとってはヒーローの尚の悩みなんて次のページで解決できるような内容。少女漫画ではヒーローの家庭の問題にヒロインが介入することでトラウマを解消、それが恋愛の解禁の合図となり、相手方の家族に一目置かれることで結婚への道筋がつく、という展開のが一般的。しかし本書の場合、最初から結婚しているから相手の両親に存在を認知されている。既に義理の親になっているため今更 彼らの根性を叩き直すと嫌われてしまう。だから家族問題にノータッチになり、トラウマなんて心の持ちよう、という究極の解決法を提示して終了する。
これまでは苦難のヒロインを描いてきたから、そこを回避した物語となると香琳の無双状態が続いてしまうのか。テンポは良いし面白い部分も ちゃんとあるけれど、読者が物足りなく感じる部分があることも理解できる。
香琳の異変に気づいた五十鈴は彼女を尾行して、彼女の新居であるボロアパートを突き止める。五十鈴の執拗な追及にも香琳は口を割らず、五十鈴を帰宅させるが彼が玄関から出ていく場面を尚が目撃。自分の「嫁」に異性の影がチラつくことに尚は衝撃を受ける。しかも香琳も五十鈴のことを幼なじみではなく男性と認識していることに尚の心は揺れる。自分の中で香琳への独占欲が芽生えていることに尚は驚き、そんな自分を隠すために香琳と距離を置こうとする。香琳は尚の行動に違和感を覚え、彼との距離を縮めるために必死。その香琳の必死さは伝わり満たされる。
五十鈴は香琳の恋する表情に我慢がならず、香琳の身辺調査の結果、彼女が結婚したことを突き止めていることを伝える。香琳が話さなくても五十鈴は これまでの経緯を全て把握した。そして自分の大切な香琳が他の男と結婚している現実に歯噛みする。
香琳は五十鈴に口止めを願うが、五十鈴は その条件として離婚を提示。離婚すると口止めの必要もないのだが、結婚した脅迫材料が五十鈴の手元には残っている。お嬢様で女王様の香琳が頭を下げてまで秘密の厳守を願っていることに五十鈴は彼女の真剣さを実感する。そこで五十鈴が次に提示したのが別居と、自分の家に住めという同居だった。
この日、香琳は家に帰らず、彼女と連絡が取れないまま尚は久々に孤食となる。味気ない食事に尚は香琳の存在の大きさを知る。尚は香琳の実家に様子を見に行き、香琳の父親の電話で連絡。そこで尚は香琳の不安や恐怖を上手に除去して彼女の居場所を聞き出す。
香琳が五十鈴の家にいると知り、尚は向かう。すると玄関前に五十鈴が待ち受けていた(なぜ尚の訪問が分かるのか…)。初めての男性たちの直接対決。ただし個人として五十鈴が勝てるところが一つも見当たらない勝負であるが。尚は五十鈴が どれだけ香琳を想っているか分かっているようで、脅迫はブラフに過ぎないことを理解している。


尚にも また離婚の意思がないことを確認した五十鈴だが、同時に尚には また結婚し続ける必要性がないことを知っている。だから父親の権力を使った戸籍から離婚歴を抹消することを提案する。これは尚が自分の身勝手によって香琳(の戸籍)を傷つけた事実が消滅するということ。若気の至りともいえる愛のない結婚が無かったことになるのは双方にとってメリットがある。戸籍の改変は一応、五十鈴の家が日本トップのグループだから、という理由があるが、常識的な尚には そんなことが出来ないことは理解できると思うのだけど…。
尚は五十鈴と話を付け、香琳を実家に送る手配をつける。尚は離婚する方向で話を呑んだようで、尚は周辺整理の時間を貰う。期限は1学期の終業式まで。
こうして結婚後、初めて別々の場所で夜を迎える2人。香琳の誕生日の6/6の結婚から1か月半だと思われるが2人は相手がいる生活が当たり前に感じられた。だから香琳は すぐにもアパートに戻ろうとするが、尚は五十鈴との協定により別居が義務付けられていた。なのでシャワーの故障を理由に別居を提案。香琳に内緒で離婚への道のりが始まっている。そうとは知らず香琳は再び尚と気持ちが重なったことを喜ぶ。ただ尚が少しセンチメンタルに香琳との生活を振り返っていることが気にかかる。
一方で別居を決断するが尚も香琳のことが気にかかり、学校で それとなく様子を探る。これまでの塩対応が嘘のようだ。
香琳はシャワーの不便さを乗り越えてアパートで暮らそうとするが、尚は香琳の体調を気遣うふりして家に帰らせる。不満を覚えるだろう香琳の先手を打って尚はデートの約束をする。彼にとっては最後のデートという位置づけだろう。
五十鈴との約束の終業式前日、尚は香琳の実家に彼女を迎えに行く。父親は尚の決断に勘付いているようだが、若い夫婦の決断を尊重して口を出さない。
行き先は香琳の両親の思い出の地でもある江の島。別れるつもりの尚は縁結びの絵馬を やんわりと拒否。そんな尚の態度、結婚しているけど遠い距離に香琳は胸を痛める。だから必死で尚の腕を掴み、離さないように しがみつく。
デート中で入った店で尚の食器の割れる音へのトラウマが再度 語られる。『2巻』でも そんな描写があったし、香琳の「ポジティブ変換」でトラウマを克服したものだと思っていたのに再設定されている。今回、改めて重い話を聞いても自分の話に持っていく香琳の性格に尚が救われる。そして今の尚にとって一番の親族は配偶者である香琳。その香琳が尚を必要としていることで尚は存在理由を与えられた。
だから尚は恋人たちの聖地で愛が永遠になる鐘を鳴らすことに同意する。同情や形式ではなく自発的な尚の行動。でも そうであっても尚は香琳に告げなくてはいけない一言がある。結婚と同様 それは青天の霹靂となる。
「今日、恋をはじめます Who is the couple ring for ?」…
妊娠中の つばき は身体のむくみによってペアリングと結婚指輪を外すことに。そこから京汰(きょうた)がペアリングを買うに至るまでの心境が回想される。
作品ファンなら絶対に楽しめるんじゃないでしょうか。
