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少女漫画と小説の感想ブログです

自分の都合で結婚と離婚を進めるモラハラ夫と、洗脳済のスピリチュアル妻

未成年だけどコドモじゃない(4) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
未成年だけどコドモじゃない(みせいねんだけどコドモじゃない)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

夫婦なのに旦那様の尚先輩に片想い中の香琳だけど、ついに尚先輩と夢にまでみたデート!これって両想いってこと!?…と浮かれたのもつかの間、突然尚先輩から離婚届を渡されて――?? 高校生同士なのに新婚、新婚なのに片想い。一方通行だった香琳と尚の新婚生活に急展開!!!

簡潔完結感想文

  • 少女漫画のゴールである結婚から始まったから、別居と離婚話が折り返し地点。
  • 強引な設定と展開の連続で、どうしてそうなるのかが分からないまま話が進む。
  • 第一部完だけどカンケツじゃない。成立した夫婦2人の成熟は読者の想像に委ねる!?

りそめの夫婦が別居・離婚の危機を乗り越えて本物になる 4巻。

『4巻』は作者の妊娠・出産を前にして一度 物語を畳んだ形になっている。結婚という少女漫画のゴールからスタートした物語は今回の別居・離婚危機がクライマックスになっている。これは一般的な作品でいえば両想い直前の告白、それとも遠距離恋愛危機に相当するものだろうか。2人の関係性の危機を結婚にまつわる別居や離婚という同じ線上のネガティブな方向での縛りが発揮されているのが面白い。

巻き込まれヒロインだから結婚も離婚も相手次第。話を勝手に進める成長しない尚…

これまで愛のない結婚に愛が注がれていき形式だけの夫婦じゃなくなったはずが、相手を大切に思い遣る心が生まれたからこその心理が香琳(かりん)に試練を与えている。ここまでは形式上の結婚だったことが香琳を振り回していたが、尚(なお)の意識が変化したことによって彼は別離を考え始める。大切にしているからこそ離婚する。香琳が尚に自分を好きにさせることを目指して頑張って来たのに、その目標達成の ご褒美が離婚、というのが皮肉だ。
ただ話し合うことなく勝手に相手の幸せを決める尚は いかがなものか。そして彼の場合、香琳に無断で自分の願いを勝手に優先するのが2回目なので罪が深すぎる。

今回 特に作者の描きたいことは分かるけど それを理解しにくいと思った。尚が離婚を望むのも、香琳が離婚に応じようとするのも分かるけど分からない。それは全体についても言えることで、作者が描こうとする意欲的な設定は分かるのだけど、それぞれが利己的で共感しにくい部分が小さくない。作者は合意のない性行為を二度と描かないだろうけど、今度は合意のない結婚で読者の夢を壊しにきたか。

作者の人生の節目によって物語が早回しになってしまったのだろうか。時間をかけるべきエピソードが倍速で進んでしまって読者を更に置いてけぼりにした。


回、作品が演出したいのは別れの危機。だから尚は また身勝手なことをしようとする。それはいい、彼は そういう男だ。

でも私が許せなのは香琳の洗脳と退化。幼なじみで当て馬で黒幕の五十鈴(いすず)によって尚は香琳との離婚を誘導させられる。そして香琳は尚への不信感や将来の不安を煽られて五十鈴と一緒に贅沢三昧の現実逃避をする。そこは何も考えなくていい世界。だから香琳は尚から教えられた勉強法を忘却して、五十鈴の勧めるクリスタルによるスピリチュアルパワーによる身に付かないテスト対策に走ろうとする。

ここの場面、全員 不快。尚のアホさは分かっていたが、五十鈴も「あほぼん」丸出しで、彼の真剣な恋心と真逆の手法を使う人間になっている。当て馬は誠実さや切実さだけはヒーローに勝てる部分なのに、それを放棄している。もしかしたら尚の人格が酷いものだから当て馬も それに合わせざるを得なかったのかもしれないが…。父親に反抗する勇気も実力もなく、彼が恋によって成長した部分が全く見えない展開で、少しも良いところが見えない。五十鈴は小柄な美形というよりも、単純に子供に見える。映画化に際しての『完結ファンブック』で変更された五十鈴が丁度良い。本編は色々と塩梅を間違えている。

そして香琳。以前も書いたけどワガママ娘が故に香琳は最強。そんな香琳の方から尚と離れるためには洗脳ぐらいしかなかったのだろう。作者の頭の中で何度 説得しても誘導しても香琳は「ポジティブ変換」で へこたれない。なら思考そのものを奪おうというのが洗脳状態なのだろう。
でも この洗脳によって香琳の尚への気持ちは そんなに軽いものなのか、という疑義が生まれてしまった。普通、真実の愛なら悪者が「なぜだ、なぜ絶望しない!?」と驚くほどの信念があるはずなのに、演出とはいえ香琳は贅沢に一時的に負けた。この描き方が私は許せない。

その後の香琳が離婚に同意するという流れも いまいち理解できない。ラストで説明されているものの、香琳なら絶対に諦めないと思う。それなのに危機を演出するために香琳の性格は歪められている気がした。

与えられる試練も不自然だし、その反応も変。一般的な金銭感覚から離れていることが上流階級の恋愛の面白いところだと思うけど、本書は一般的な恋愛感覚からも離れているように思う。読者が どこをどう楽しめばいいのか、それを上手く提示させられていない作品だと思う。描き方によって もっと面白く出来たのではないか、という疑念が最後まで拭えない。


デートの後に離婚を突きつけられた香琳。デート中に尚は香琳と偽りの夫婦ではなく永遠を誓いあえる関係になったはずだ、と考えた香琳は それでも前向きでアパートに戻ることを決意。シャワーが壊れていても不便でも尚の側にいたい、それが香琳の願い。

しかし香琳の意向を知った五十鈴は自宅に香琳と尚を集め、改めて尚に離婚を提案させる。それでもデートの記憶がある限り、香琳は無敵。だから やはりアパートに戻る。しかし そのアパートの尚の部屋は もぬけの殻となっていた。シャワーも壊れておらず、尚が自分に嘘をついていたことが発覚。こうして香琳は絶望に突き落とされる。

結婚の後に愛のない結婚宣言をされ、両想いの後に離婚を突きつけられる。やっぱり尚はモラハラ夫である。ただし今回は少女漫画のクライマックスにありがちな彼女のためを思ってのヒーローの独り善がりな行動そのもの、という両想いが前提ではあるけれど。


去、香琳は自分が一番というプライドの高さで、小学校時代の悩める五十鈴を救った。香琳本人は救ったつもりではないけど確かに五十鈴は救われ、それから ずっと五十鈴は香琳のことが好きだった。
だから尚を離婚に誘導し、香琳に精神攻撃を仕掛け どうにか離婚届に署名させようとする。しかし香琳は やっぱり無敵だから自分の納得できないことには とことん抵抗する。それは小学校時代から変わらない香琳の長所。五十鈴は告白することで香琳を引き留めようとするが、香琳に男性扱いされても、恋人候補になり得る異性としては扱われない。

そこからの逆転をするために五十鈴は金に物を言わせて香琳を喜ばせるツアーを実施。貧乏とは無縁の贅沢三昧で彼女の気を引こうとしているが、香琳が尚に惹かれたのは人格。そこを理解していない五十鈴の戦法は根本から間違っている。しかも これは五十鈴の親の金。勘違い御曹司の行動そのものである。
なのに物語の展開のために香琳は洗脳され始める。夏休みという期間と物理的な距離によって夫婦の2人は別居期間となる。洗脳の証拠としてパワーストーンに頼るようになっているが、ここまでの香琳を否定するような浅はかな行動で好きじゃない。ワガママだけど最強ヒロインだから物語(作者)が香琳に苦難を与えるのが難しいのに、一気に骨抜きにしていることに違和感がある。

洗脳により香琳の思考や成長をリセット。全キャラ好感度が低そうな作品だ…

一方、尚は離婚を提案して実家に出戻る。しかし母親は錯乱し、そこから両親の喧嘩が始まる地獄の日々となる。けれど今の尚は、香琳の言葉によってトラウマに囚われたりしない。


校日、尚の姿を確認して心が動きそうになる前に香琳を五十鈴がキスをすることで周囲に自分たちの関係を匂わせる。香琳は好きな人の前で違う男とのキスをされショックで逃亡。しかし尚は香琳を追いかける理由を五十鈴に奪われている。
尚が自分のために動くことはない、その事実が香琳を苦しめる。だから人目に付かない場所に隠れる香琳の前に尚が現れて離婚の真意を伝えようとしても、香琳は人目を忍ぶ時にしか本音を言わない尚に堂々と出来ない男の話は聞かない、と高飛車に しかし正論をぶつけ、彼のもとを去る。

尚は真剣なので学校の生徒がいる前で初めて香琳に接触。自分なりの誠意を見せを見せてからは、結局コソコソ2人で話すのだけど。ここで香琳に明かしてこなかった香琳への好感度や好意を含めた尚側の気持ちが全て語られる。そして尚は、五十鈴の気持ちに触れ香琳が生活水準を落とすことなく暮らせる理想を考えた。だから戸籍から結婚の事実を消せるなら、香琳のための離婚を実行しようとした。そうでなければ尚は「一生を捧げて 香琳をだいじにしていくつもりだった」。その言葉を引き出せただけで香琳にとって結婚に意味が生まれたのだろう。だから香琳は離婚に応じる。ちょっと謎の行動に見えるが、香琳の真意は後に語られる。


ては五十鈴の思い通りに行くように見えたが、彼自身が父親から香琳との結婚を認められていないことが判明する。香琳の家は この10余年で生活が豊かになっただけ。五十鈴の家は そんな由緒のない家柄との結婚を許さず、家が決めた人間と お見合いするように命じられていた。五十鈴が強引なように父親も強引。強権的な態度の父親に五十鈴は全く歯が立たない。そこから彼の目論見は次々に瓦解し始める。

夏休み最後の日、香琳は離婚をすると決めていた。しかし香琳が別れを決めてからもずっと独りでアパート暮らしを続けていたことを尚は知る。香琳は五十鈴とキスをしたからこそ、彼と一緒にいれないと思った。五十鈴と一緒にいて楽しかったのは飽くまで友達として。夫婦や恋人になりたいと思えなかったのだろう。五十鈴という比較対象を得て香琳の尚への愛情は一層 強固になった。自分がアパートで待っていたいのは尚だけなのだ。

でも離婚届の提出は約束されたもの。だから香琳は号泣しながら署名する。それを見守る尚は我慢の限界を超え、バックハグからのキスをして香琳を押し倒す。五十鈴の存在、離婚への道筋を通して尚もまた香琳への気持ちを明確にしていた。そして尚は香琳に対して心からのプロポーズを申し込む。香琳は仕方なく、という体裁のまま尚の愛情を受け入れる。


婚届を提出しないまま2学期が始まる。約束を反故にされた形の五十鈴は激昂するが、婚姻状態の継続は2人で出した結論。部外者が口を挟む隙間はない。そして香琳は五十鈴が父親に願う離婚歴の抹消を父親が実現しないことを知っていた。これは権力の問題ではなく、五十鈴たち父子の関係性の問題。不仲の2人は互いの願いなんて聞かないようだ。

それを知りながら香琳が離婚話を受け入れていたのは、そうすることで尚の本音に触れたかったから。離婚歴の抹消など損得ではなく尚の気持ちを知って動きたかった。しかも離婚を提案した時の尚の表情は、自分の目的のために結婚に前向きだった序盤のような偽りの表情だったことも香琳には お見通しだった。五十鈴の暴走に対する罰は香琳からの平手打ちと お断り。完全に敗者になることで五十鈴は撤退し、彼なりに2人のことを祝福する。


居期間は終わり、2人は真の夫婦として改めて同居する。そのことに香琳は緊張。しかし尚は これまで通りの家庭内別居を準備する。これは飽くまで同棲で、結婚から始まった関係を ちゃんと恋人としてステップアップさせる準備としたい。夫婦だから、同居だから何でもするのではなく10代カップルとして我慢すべきところはする、ということが尚の誠実さの表れらしい。

変わったことは尚が結婚式で用意されていて未使用にした結婚指輪の交換をしたこと。結婚から3か月。変わり始めた2人の気持ちの表れとしてペアリングの装着となる。これは紛れもない愛の象徴。婚姻届より結婚式よりもペアリングが至高ということか。

登校日に尚が香琳に個人的接触したことが2学期に問題となるが、吊るし上げ状態になった2人は相手を「身内」と表現する。それを周囲が勝手に親戚と判断したようだが、実際には夫婦。2人は他の生徒の見えない所で手を繋ぎ、その手には結婚指輪が輝いている。ってか学校で指輪してるのか。気づいて欲しい匂わせは敵を作るよ…。

「弱虫迷宮」…
読切短編。河内 衣純(かわち いずみ)は大橋 虎彦(おおはし とらひこ)に、彼と同じ中学出身のバスケ部の鴨居(かもい)情報のネタ元として利用していた。しかし それは口実。衣純が本当に知りたいのは虎彦のこと。彼と接触がしたくて図書室に通いつめ、彼の心を引きたくて他の男をダシにする。自分は虎彦に好かれているはず、という状況もまた衣純の自尊心を満たす。

恋愛の駆け引きを楽しんでいるはずのヒロインが いつの間にかに悪役令嬢になっていた、という読切短編でしか描けない内容。失敗して反省した衣純は もしかしたら この世界の真ヒロインと仲良くなる友達ポジションに収まることが出来るかもしれない。全体的に幸田もも子さん『ヒロイン失格』っぽい。掲載された2012年だと『ヒロイン』連載中だけど、色々と言われなかったのだろうか。