
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第08巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
「おまえじゃないとダメなんだわ」固まった圭太の気持ち。一方、クリスマスが近付き ひまりを2人きりでのデートに誘い 最後の勝負に出る佐伯。決まらないのは、ひまりの心だけ…?
簡潔完結感想文
- 作品の都合で元カノの親は離婚させられたけど恋人を見繕ったから許してね★
- 大賀見警部の執念の捜査で犯人を追い詰める。でも10分前と供述が違うんですが…。
- NEW当て馬・黒田が物語に存在しなければ ここで物語を畳められたのに…。
両想いを喜ぶことが出来ない 8巻。
本書は恋愛の障害とカタルシスのバランスが悪いと思う。恋愛成就を阻む問題を作って、連載を引き延ばしている割に、その解決が呆気ない。今回で達成した両想いも引っ張った割に、問題がヒロイン・ひまり の心の問題でしかなく、周辺事情を含めたボトルネックが解消したから一気に問題が解決するのではなく、ひまり が意地を張るのを止めただけ、という徒労が滲む。これは最終回付近でも同じ。明確に、この問題が解消したから2人に幸福が到来する、というシステマチックな部分が見受けられないから、物語が締まらずダラッとする。
ひまり がした努力と言えば逃げることぐらいで、努力の大半は男ヒロインの大賀見(おおがみ)側が担っている。主に物理的に逃げられないようにすることで大賀見は ひまり に自分の考えを伝えるしかない手段が無かった。
両想い前の ひまり の行動の愚かさも両想いの喜びを低減させるものだと思う。まず数巻分、問題と向き合わず逃げるという姿勢が良くないし、大賀見から期限を設けられ回答を用意しなきゃいけない状況で、バイトで時間を消化して何も考えようとしない。自分側の事情で大賀見からの電話に出る資格がないと言いながら無視を徹底できないし、彼を受け入れることは出来ない状況は変わらないのに よく分からない理由で受け入れる。それでいて両想いになった途端、大賀見のことだけを考えていたい、と自分の意見をコロコロと変える。自分でも現金だと言っているが、この日の小一時間の間の言い分の変化の連続に辟易とした。


佐伯(さえき)の立ち位置の変化も可哀想で見てられない。佐伯の運命が大きく変わったのはNEW当て馬である黒田(くろだ)が登場したからだろう。黒田の登場で佐伯の序列は第三位に落ちており、その時点で勝機は全くないのに、黒田の活動前だから佐伯は当て馬ゾンビとして しつこさを見せなくてはならなくなった気がする。今回の佐伯の(再放送)失恋は、佐伯から黒田への当て馬のバトンタッチイベントと言える。
黒田がいなければ佐伯は、両想いになった2人が最後に乗り越える親の説得でアドバイザーの役目に収まったかもしれない。けれど黒田が登場したことで連載は また延長し、黒田が当て馬として覚醒する前にヒロインをモテモテにする人が必要となり、佐伯が復活したのではないか。当座の当て馬に勝ち目はなく、佐伯の活動も全体的に再放送で必要なターンだとは思えなかった。作品の都合で親を離婚させられた大賀見の元カノみたいに、しれっと恋人を あてがってもらうぐらいしないと割に合わないのだが、当て馬は簡単に幸せになれないだろう。損な役回りばかり させられる人だと同情する。まぁ彼自身も鈍感だったり大賀見に託したり間の悪い部分があると思うが。
黒田というキャラは悪くないが、黒田がいなければ もっと作品がスッキリしたものになっただろう。この後の蛇足の典型のような展開もそうだし、物語的にも初恋の佐伯と大嫌いだった大賀見という2人の男性との三角関係で徹底していた方が美しい構成だったと思う。黒田を出すならば、絶対に ひまり を好きにならないポジションでいて欲しかった。当て馬なのが見え見えで、だからこそ佐伯が用無しになり、それなのに2度 振られる役目を与えられた。佐伯が最も恨むのは黒田だろう。
大賀見が ひまり を諦められないことを知った佐伯は焦る。これまで重要な場面を何度も目撃してきた佐伯だけれど、今回は元々 ひまり と約束していたのは彼で、その場所に大賀見が来て眠る ひまり に話し掛けただけだから今回の目撃は自然な流れか。大賀見の心を知った佐伯は、これ以上 大賀見が ひまり に近づかないように邪魔を繰り返す。
しかし以前も書いたけれど、ひまり の恋心が佐伯 → 大賀見 → 佐伯と戻ると ひまり がビッチに見えかねないので、佐伯に想われつつも ひまり は絶対に佐伯に甘えないという姿勢が貫かれる。むしろ佐伯よりも黒田(くろだ)の方に勝機はあると言えよう。佐伯は三番手なのだ。
ひまり は大賀見を拒絶することで一方的に距離を置き、そのせいで彼女情報が誤解だと知らないままの ある日、ひまり はバイト中に大賀見の彼女だと思っている元カノが他の男性と一緒にいるのを目撃する。咎めるように話し掛けると元カノから同じ家から出てきた真相が語られる。そして逆に我慢をしてばかりの ひまり の態度を咎めて元カノは立ち去る。この時、元カノに彼氏っぽい人がいるのは彼女を幸せにしようという作者の優しさか。ってか作品の都合で降って湧いた親の離婚は どうなったのか。
大賀見は久々に元の家に顔を出し、逃げてばかりの ひまり を追い詰め、自分の意見を話す。大賀見の考えは、戸籍が同じになっている現状を、大賀見が父親の籍から出ることで変えようというもの。これは ひまり が守りたかった「家族」の形態が変わるということ。だから大賀見の行動を保留してもらう。現状維持を最優先にする保守的ヒロインは答えを出さない。そんな ひまり の当座の姿勢を見破ったのか、大賀見はクリスマスに答えを聞くと、ひまり に今の自分の家に来るように指示する。
クリスマスイブ。バイト後、佐伯たちとグループで遊んでいる ひまり に大賀見から連絡が入り、それを察知した佐伯が大賀見からの連絡を切る。電話越しに佐伯の声を聞いた大賀見は ひまり のもとに駆けるが、ひまり の居場所を知らないために足で探すしかなかった。
佐伯がラストチャンスとばかりに再度 告白するが ひまり の答えは同じ。というか多少 状況が違うとはいえ『5巻』で出ている答えを もう一度 繰り返しているだけに過ぎない。同じ所を ぐるぐる回っているだけに思えてならない。
自分を好きだと言ってくれる女性が いつの間にかに自分を好きじゃなくなる、この佐伯の恋愛ジンクスは今回も適用された。しかも今回は佐伯にとって初恋とも言える自分から好きになった女性だけど、その想いは通じない。『4巻』で言及した佐伯の恋愛のトラウマは見事に再発したが、これで完全に恋愛不信になった佐伯が立ち直るような素敵な恋物語をスピンオフで全3巻ぐらいで描いてくれないだろうか。


大賀見の電話に出れないよ、と言いながら次のページで出る秒で意見の変わる女は、自分の気持ちの整理がつかないからと大賀見と会う約束を反故にしようとする。彼にとっては別件なのに自分の都合と混同する ひまり の愚かさが際立つ。
この時の電話口の音で ひまり が公園にいると推理した大賀見は ひまり と合流する。大賀見に会っても自分の事情ばかりのヒロイン。だが いつものように逃げようとする ひまり を大賀見が引き止め、彼女の中にある自分への気持ちを認めさせようとする。ようやく大賀見も2人で問題をクリアしようと提案し ひまり は気持ちを動かされる。
自分が中途半端だからこそ佐伯を傷つけた。そう思う ひまり は初めて大賀見に気持ちを伝える。…のだが、佐伯への拒絶が両想いの助走に使われている気がしてならない。
秒で意見が変わる女は、大賀見の今の家に移動し、す大賀見のことを考える余地がないと言っていた15ページ前の自分の意見を180°変えて、今は大賀見のことだけを考えていたいと現状の幸せに浸る。
初めて両想いのキスを交わした2人。あっという間に次の展開に流されそうな雰囲気が漂うが、そこに帰ってこないはずの大賀見の母親が帰宅する。もしかして これからは性行為「するする詐欺」の連続になるのだろうか。そういうところで大賀見のケダモノ感が出るのは嫌だなぁ。
ひまり は大賀見の母親とは初対面。最悪の形になった上に自分たちが義姉弟であるという関係なのだが、この日は挨拶だけ終え、ひまり は大賀見に送られて家に帰る。
自分の気持ちを認めたことで、ひまり の中の勇気も動き出し、両親に自分たちの関係を告げようと提案する。だが そこに新たな親の都合が発生する…。
