
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第11巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
両親の不倫で心を閉ざす梓を救おうと、十が取った行動は・・・、まさかのプロポーズ!?!? そして、めごと蒼に別れの時が訪れる・・・?? 奇跡の恋、最終章は超急展開!!1ページも見逃せない!!
簡潔完結感想文
小林を好きになりたいけど、鈴木(元恋人)の影がチラついてしまう 11巻。
やっぱり作者の失敗は2作連続 少女漫画大河ドラマを作った事ではないだろうか。大長編だった『鈴木くん!!』の後は作者の中では短めな作品で一呼吸置くべきだった。さすがに名脚本家でも2年連続 大河ドラマを執筆したら類似した展開など手癖が目立ってしまうだろう。せめて愛(めぐむ)と蒼(あおい)の物語に焦点を絞ってくれれば良かったのに、十(みつる)や梓(あずさ)たちも加入させたことで ただ長いだけで締まりのない作品になってしまったように思う。
特に『11巻』は『鈴木くん!!』との類似点が多くあるように思えた。その一つが真の幸福の後回し。作中の2組のカップルが普通のカップルでいられる時間が極端に短い。正確には愛と蒼に関しては半年以上 普通のカップルとして過ごした時間があるのだけど、作中で その描写をカットしてしまう。作者の中では最後の試練を乗り越えた後の結婚というグランドフィナーレを描きたいから、その前の普通の幸せは割愛してしまおう ということなのだろう。
そうした方が盛り上がる、という作者のプロの選択なのだろうけど、作者が思うような壮大なドラマを期待していない私のような読者からすると、恋愛をドラマティックに演出することが目的になっていて、幸せを描こうという気持ちがないように見える。大仰な展開は感動を強要されているようで、かえって興が削がれ辟易が強くなってしまう。


幸福を後回しにする手段が共通点の二つ目の遠距離恋愛である。これも『鈴木くん!!』で見た展開。またヒロインの遠距離前のヒーローの相手の家族に介入するという展開も似ている。今回は部分的な和解が見られただけだけど、家庭の事情で遠距離になる。そしてヒロインがヒーローの元に帰って来たかと思ったら、新たな男性キャラの襲来で恋の障害が発生する、というのも『鈴木くん!!』と同じ。デビューから10年以上 第一線で活躍し続けると さすがに池山田先生の引き出しも空っぽになってきたのか、と思った。
『10巻』で 散々こきおろした蒼のヒーローとしての未熟さは今回 挽回される展開があって私の読みの甘さが恥ずかしい限りなのだけど、相変わらず「小林(こばやし)家絶対正義」が鼻につく。『鈴木くん!!』でもヒーローの輝(ひかる)が絶対正義だったように思うけど、前作の場合は輝1人で他3人が間違えながら成長していた。しかし今回は双子の小林兄妹が最強で母親も含めて この一家は間違えないことになっている。一家が絶対的に正しくて、絶対に不幸にならず、他者を救う力がある、と思うと一気に緊張感が失われる。駆け出しの作家さんがしてしまうような塩梅の間違え方をしているのが残念。こんなに自分の作品に陶酔するような人じゃないと思っていたのだけど、本書は色々と残念な部分が目立つ。
愛のない結婚をしてW不倫をしていた両親は世間体のために婚姻関係は継続したまま別居という結論を梓に報告する。実は母親の方は父親のことを愛していたのだが、彼に忘れられない女性がいて、自分が愛されないから寂しさで男を求めていた。その忘れられない女性、真田 雪姫(さなだ ゆき)こそ蒼と紫乃(しの)の実母である。彼らの母親が精神的に不安定だったのは本当に好きになった人と結婚することが出来なかったからかもしれない。子供たちを不幸にするのは梓と紫乃の父親と、蒼と紫乃の母親のせいだと言える。
幼い頃から梓は両親の不仲を感じていて、彼らが自分を見ないことに寂しさを覚えていた。だから努力を重ねたが、両親の無関心は変わらなかった。その苛立ちが紫乃を標的にしたイジメになったのだろう。自分が手を尽くしても得られない愛を、紫乃が無条件に得ていることへの苛立ちは理解できる。
そして今回も娘の言い分を聞かずに両親は結論だけを提示する。そんな両親に絶望し自分の努力も否定しそうになる梓の前に十が現れる。自分を否定的に考える梓に対して十は性格の悪さも全部ひっくるめて愛おしいと精一杯の愛情を示し、彼女の荒ぶる心を鎮める。。
十からの愛を実感して、梓は十に異議を唱える父親に対して反論する。愛もそうだったけど、好きな人から愛されている実感が人を強くする。自分が父親が望む相手と結婚すれば また その子供は親の都合の被害者になる。その負の連鎖を断ち切るために梓は十と手を取り合って この家から出ていく。梓は初めて この家の呪縛や、憎しみを含めた負の感情から逃れて自分自身の人生を歩み始める。
子供の将来を否定する親と、その親の呪縛を解いていくヒーローの姿は『鈴木くん!!』の再放送のようにも見えた。ということは、彼らも近々…などと不吉なことが頭をよぎる。
十と梓が駆け落ちしたのは十の実家である小林家。事情を知った小林家の母親は梓を温かく迎える。小林家の人々は作中で絶対正義になっている。
梓が小林家に居候して3日目。母親が異性関係を清算して娘を迎えに来る。もう遅いと母親を突き放そうとする梓だったが、十は彼らが寂しがり屋の似た者母娘であることを見抜いているから、2人に一緒の時間を過ごさせる。またもや小林絶対正義が炸裂している。
それは両想いを確認したばかりの2人の遠距離恋愛の始まりだった。マスコミの追及が収まるまで母子は東京を離れる。
2組のカップルは それぞれ別離を決断する。
触れ合える普通の交際が始まったばかりの蒼も進路を選択し東京と仙台の遠距離恋愛をすることを決断した。躊躇して なかなか自分の進路問題を愛に伝えられなかった蒼だけど、愛の強さに並び立てる自分になるために、蒼は新天地を目指すことを決意する。これまで さしたる成長のなかった蒼だけど、ここで一人前になる努力が見られた。その話を聞いた愛は彼の決断を尊重する。蒼の傷も過去も未来も全肯定するのが お仕事です。
蒼が家を出るのは自分を育ててくれた叔父の結婚を促すためでもあった。双方ともに前向きな別れにすることで未来を明るいものにしている。
そして半年後、蒼は仙台の大学を受験し合格。卒業を迎える。
蒼の出発の日は、愛との別れの日でもあり、出発直前に我慢していた愛の涙は決壊する。新幹線が発車するまでの長いキスを交わし、蒼が渡した2つで一つのペアネックレスが2人の愛の証となる。距離は350キロ。50センチの恋は何万倍にもなってしまう。でも『鈴木くん!!』の1000キロの1/3だよね、などとスケールダウンを感じなくもない。


小林兄妹が高校3年生を間近に控えた春休み、愛は初めて漫画作品を出版社に持ち込む。デビューまでの道のりは遠いけれど着実に最初の一歩を踏み出した。そして十は目標のないまま予備校に通い始めていた。梓とは毎日 連絡を取り合い、彼女が これまで過ごせなかった母との満たされた日々を過ごしていることを知っていた。そして別離から9か月、梓は東京に戻ってくるのだが…。
