《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

俺の気持ちをヒロインが勝手に解釈して真剣に取り合ってくれなくてツライっ!!

小林が可愛すぎてツライっ!!(9) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

200万部突破の大人気ラブコメ!! 上杉がめごに惚れて…!?三角関係、勃発!? そして、“こばかわ”最大の秘密、蒼の眼帯の下がついに…!! 十と梓の恋にも進展が…。こばかわファン全員必読の衝撃の9巻。カバーイラストにも注目です!

簡潔完結感想文

  • 蒼の眼帯の下の秘密を話すかどうか逡巡していただけの第2章も ようやく出口が見えてきた。
  • 第2章は愛・蒼メイン。両片想いになった十・梓は おまけ扱い。最終章では主役に戻れるか。
  • 池山田作品は21世紀でも柄の悪い男性たちが定住。彼らのお陰でピンチもヒーロー行動も楽。

視感のある2回目の拉致で1回目と違うところ、の 9巻。

池山田作品のヒーローは輩(やから)をボッコボコにするのが お約束、と思うほど必ず暴力シーンが挿まれる。2025年現在の最新作では どうなっているのか分からないけれど、2020年代のヤンキー文化再燃を見ると、池山田作品は一周まわって新しいのではないかと思ってしまう。読者は自分の内なる暴力性に振り回されるヒーローとか、ヒーローの腕力の強さでヒロインが輩から守られることでキュンキュンするのだろうか。

モブの輩のお陰で主要キャラが良好な関係を保ちつつヒロインのピンチを演出できる

この輩は作品作りで非常に便利な存在で、治安の悪い世界観だと いつだってヒロインのピンチが演出できる。今回も どっから湧いてきたのか分からない輩たちにヒロインの愛(めぐむ)が拉致される。彼女が拉致されるのは『8巻』の知永(ちはる)のに続いて2巻連続2回目。
またか、と思う部分もあるけれど、1回目と違う点が多くある。1回目は愛は自力で脱出し、彼女を助けるかと思われた蒼(あおい)の活躍は無かった。しかし2回目は1回目の犯人である知永が蒼と和解し、そこに愛の双子の兄・十(みつる)も加わり、本書のイケメントップ3がヒロインを助けるという夢のような構図が完成している。蒼はもちろん知永も、そして十も愛のことを本当に大切に思っている。そういう3人がヒロインを助けることで読者の承認欲求を満たしてくれる。きっと蒼の活躍は2回目のために取っておいたのだろう。知永を敵役にせず味方として活躍させるためにも、輩という悪役モブは便利な存在なのだ。

そして1回目の拉致は知永が当て馬として覚醒するのを待つ作業でもあった。ここで知永が愛を大事に思うことで、知永が強くなって蒼の視界に入るためにボコボコにしてきた輩が、愛が知永にとって大切な存在だと勘違いする流れが生まれている。こういう流れを作るのが作者は本当に上手い。本書では演出やモノローグがドラマチックになり過ぎているのが ずっと気になるけれど。

第2章は蒼の眼帯の下の秘密のエピソードがメインになっており、それが明かされるまで随分と長かったが ようやく話が動き出した。知永は蒼に過去をもたらし、そして愛に蒼以外の愛情を見せる存在。蒼以外に自分を好きになってくれる男性が現れても愛の心が揺るがない。その確信が愛の中の蒼への想いを強く成長させる。そうして成長し切った恋心で、蒼の秘密に触れる。知永の拉致から、そして彼の恋心からスルリと逃げたのも愛の成長の一端なのだろう。ここで読むのを止める読者はいないだろうと思うほど衝撃的な描写で終わっている。でも万能なオタクとして描かれる愛なら、きっと斜め上の方向性で蒼を傷ごと救ってみせると信じている。

ただ この頃の作者の中で流行っている章立ては止めて欲しい。お話に連続性が失われる気がするし、各章にボリュームを出すためか間延びしている。本来の作者なら全15巻じゃなく全10巻ぐらいで まとめてくれていたのではないか。長い連載は人気の証にはなるけれど、名作の証明とはならない


永が正式に愛への好意を口にする。蒼は愛(めぐむ)への愛も、愛(めぐむ)からの愛も信じているけれど、自分が彼女に触れられない特性が弱みになっている。その弱みを突いた上に、知永は蒼には出来ないキスを目の前でしてみせる。蒼は我を忘れて知永に殴りかかる。それは知永が引き出したかった蒼の実力。
その戦いの最中、知永は蒼との来歴を回想する。知永は蒼と中学で出会い、彼の強さに憧れ彼と行動を共にした。けれど生まれつき心臓の弱い知永は蒼と同じように身体を使えなかった。自分の存在が知永の身体や彼の両親の心を痛めていることを悟った蒼は知永を避けるようになる。これは愛を自分の事情に巻き込まないようにした時と同じ優しさだろう。

しかし事情を言わない蒼に対し、知永は強くなって暴れることで蒼の関心を引こうとした。そうして蒼のライバルになって戦ったことで知永は蒼の眼帯の下の真実を知った。
蒼が拒絶されたことで傷ついたのは知永で2回目だった。1回目は実母。何らかの事故があり目に傷を負った長男の蒼、そして耳に障害がある紫乃(しの)という現実を受け入れられなくなった母親は子供たちを否定する。耳に障害がある紫乃は その言葉が届かなかったが、蒼は否定され拒絶されることで女性に触れることが出来なくなった。だからこそ蒼は愛に拒絶される可能性が怖い。そうなれば自分の存在を完全に否定され心に穴を空けると確信できる。


は2人の男性の戦いに割って入る。なぜなら仁は彼らが本気で戦いを望んでいないことを知っているから。知永が蒼を気に掛けていること、開戦の火蓋となったキスもフリだったことを愛は知っている。知永が暴力的になったのは蒼に振り向いて欲しいから。こうして愛による仲裁は成功し、2人のすれ違いに幕が下り、蒼は知永に自分の態度を謝罪する。

知永は愛の芯の強さを知り、自分と違って愛なら眼帯の下を見ても蒼を拒絶したりしないと信じていた。知永が蒼を執拗に追いかけたのは、自分が蒼を拒絶し傷つけた意識があったから。彼に謝ることで前に進みたかったのだ。そんな知永の心情を理解してくれた愛に本気で惹かれるけれど、蒼たちが想い合っていることを知っている知永は身を引く。


年の誤解が解けたのは十も同じ。梓からキスをされ、この1年余りの彼女の態度を思い返した時、そこに好意があったことを理解する。そして梓も十の前で素直になり、いつか十から紫乃たち他の女性よりも梓が魅力的だと認めさせるように自分を高めることを宣言する。十は そんな梓に完敗しているけれど、それは言わない。


3回目の入れ替わりが終了して日常が戻ってきたはずだったのに、蒼はナーバスになっており、予期せぬ雨で濡れたシャツで透けた右肩の傷を愛に見られて動揺する。

蒼の態度が豹変したことで愛はショックを受けて傷心の愛に知永が接近。ここで愛は知永が本気で自分を奪う隙を窺っていることを理解する。知永に好意を持たれて分かったのは蒼の存在が特別であること。自分が蒼だけを求めていることを愛は再確認する。そして知永が好きになった自分は、蒼を好きになったことで強くなれた自分だと知永の好意は幻想に近いとする。有無を言わさず知永の好意を分析し、納得させるのは なかなか自分勝手な気がする。彼の自分への好意は蒼へのものだとすり替えるのも、知永の恋心に失礼な気がする。

自分のナーバスさで愛を傷つけてしまった蒼だが彼女を失いたくなくて、彼なりの精一杯の愛情表現でめぐみを繋ぎ止める。

「3人の王子さま」は三つ子でしたっけ? と思うぐらい同じ顔が並んでいる…

かし知永との接近を目撃した輩(やから)から、愛は知永の大事な人と認識されてしまいトラブルに巻き込まれる。愛のトラブルを知ったのは同じ男子校にいる蒼・十・知永の3人。彼らは愛姫を助け出すために奮闘する。
作中で最強の3人がタッグを組んで負けるはずがない。愛を助け出した蒼だったが輩との乱闘の中で、愛の前で眼帯が ほどけてしまう…。