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少女漫画と小説の感想ブログです

長い間 揉めていた事案に歴史的決着が付きそうだったのに ゴールポストを動かす

ケダモノ彼氏 9 (マーガレットコミックスDIGITAL)
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「大賀見くんが好き」もう逃げない。ようやく自分の気持ちを認め、圭太に伝えたひまりに新たな試練。両親が転勤!? 離ればなれになると思いきや、衝撃展開!! 圭太とひまり、2人きりの生活がスタート!??

簡潔完結感想文

  • 家族4人から恋人2人の同居にステージ移行。ただし性交渉禁止と(義)母の監視付き。
  • 当て馬は、学校の人気者との秘密の交際の隠れ蓑。バトンタッチで正式に佐伯は用済み。
  • 家族を壊したくなくなかった保守的ヒロインは、親に内緒で交際し、人に嘘をつく悪女。

に振り回される子供たちは 親を平気で利用する、の 9巻。

学校一(という設定だが性格の幼稚さから実感が出来ない)のモテモテ男・大賀見(おおがみ)との秘密の関係は両想い後の交際中もトラブルが絶えない。

まず義父の転勤が発表され、ひまり と大賀見は離れ離れにならないために、今の離れ離れを解消する。
この恋人同士となった男女2人きりの同居生活は、連載の継続目的では正しい判断だと思うし、分かりやすくステージが変わったことを示している。しかし これによって大賀見が欲望に負けた気がした。ここまで大賀見は別居を選ぶなど大局を見て動いていたはずなのに、その動機となった問題が解決しないまま目先の利益で自分の行動を決めてしまった。読者へのドキドキ供給を優先して、大賀見の品位を落としたことは果たして正解だったのか疑問が残る。

大賀見が男ヒロインだとバレてから いまいちだったケダモノ感を復活させる

そして これによって大賀見が自分の都合だけで母親を利用した人間になってしまって、母親のことを思うと複雑な気持ちが残る。大賀見は、浮気して家を出ていった母を恨んでいるはずなのに大した逡巡もなく母との同居を選び、そして自分の都合で同居を願っていた母親を裏切る。色恋に走って家族を期待を裏切る、という状況は ほぼ母親の再現じゃないのか。結局、親の事情に巻き込まれた側の子供たちも恋愛脳で自分たちのことしか考えていないように見えるのが本書の底の浅さだと思う。母親に このことを告げる場面がないのも、本書が子供たちにとって都合のいい部分だけ切り取っている証拠のように見える。

年頃の男女である子供たちを2人残すことに少しも疑問を持たない母親や、彼らの面倒を子供を捨てた過去のある大賀見の母親に面倒を見てもらおうとすることなど、やはり親を装置として利用する展開が続く。ひまり はずっと割り切れていないのに、親たちは新しい家族の形態や一つ前の家庭の遺恨をアッサリと割り切り過ぎている。これは大人たちの年齢による経験の差、という見方も出来るが、本書は子供にとって都合の悪いことを ご都合主義で片づけているとしか思えない。


して ひまり の初恋の人である佐伯(さえき)からNEW当て馬・黒田(くろだ)に正式なバトンタッチが もう一つの転換点となる。しかも今回は ひまり には黒田が、そして大賀見には女性ライバルが あてがわれ、男女のライバルが同時襲来というドキドキを二乗させる企みがあり、それにより読者の興味を引こうとしている。

女性ライバルが提案するWデートを なぜ ひまり が呑み込まなければならないのか甚だ疑問だが、物語の鮮度を落とさないために困った事態が継続的に必要なのだろう。ただ いつまでも物語が少しも落ち着かないから両想いの余韻が消失してしまっている。

ひまり は自力で問題を解決できる度量がないからライバルや黒田の意図に乗っかるしかなく、不必要なWデートへと話が進んでいく。親に自分たちの関係を打ち明けることも出来ないが、両想いは享受しようとする姿勢も含めて、ひまり の行動は流されるままに決まり、そこに彼女の意志を感じない。

男女2人の同居生活で渡辺あゆ さん『L♥DK』を連想したが、その後半の玲苑(レオン)編と同様、読まなくても何の問題なく結末を迎えられる蛇足かつ作品の質を落とす展開に感じられた。空前のヒットという訳ないが、簡単に連載を終わらせられないぐらいのヒットで、それで全体の評価が落ちては本末転倒である。

ここまで逃げ続けたことで佐伯を傷つけた ひまり だが、結局 交際に至っても彼女の性格に何も変わりがない。嘘を重ねて誰かを傷つける加害者であることに無自覚なヒロイン、という厄介な存在になりつつある。もし両親が この頃から交際している事実を知れば同居は認めなかったはずで、いつかカミングアウトした時に両親を酷く動揺させる案件だと思うのだが、きっと作品は そういう部分を巧みに隠蔽してしまうのだろう。ひまり様は ずっと困惑されているが、結局 彼女に都合の悪いことは何も起きない


想いになり、自分たちの関係を両親に打ち明け 認めてもらおうとした矢先、父親の転勤によって ひまり が転校の危機を迎える。昨日まで大賀見を全力で拒絶していた ひまり だけど今日は もう離れられない理由がある。だから両親に大切な大賀見という存在のことを伝えようとしたのだが、両親は2人が仲の良い義姉弟になれたと勘違いして納得する。それでも娘に1人暮らしをさせる訳にはいかないと渋る母親に、大賀見は自分が一緒に暮らして支え合うと言い、未成年の男女の2人暮らしを両親は あっさり認める。なぜ こうも両親は能天気なのか。

こうして年明けから2人きりの生活が始まる。ひまり の言いたかったことは何も母親に伝わっていない。勿論、あの場で自分たちの関係を発表すれば交際や同居に反対意見を言われただろうけど、家族を大事にする ひまりさん は、その家族に嘘をついてドキドキの同棲生活を始める。言うと決めるまでが長いのに、決めてからも長い。問題を先送りにしていて、その反面、既成事実を積み上げる姿勢が宜しくない。

母親の置き手紙が ひまり の倫理観を刺激し、同居するけど性交渉禁止状態という『L♥DK』方式が取られる。可能な限りプラトニックな恋愛を楽しむ、というのは少女漫画読者の好きな展開なのだろうか。
監視役として大賀見の母親が派遣される。彼女は ひまり の母親から頭を下げられ、2人を支えてほしいと言われたらしい。この2人の妻が どういう表情で どういう会話をしたのかは描かれない。将来的に親族になる2人の母親だから いがみ合いや複雑な心境などは描き込まず、綺麗な部分だけを抽出しているような気がする。


学期に佐伯が無事に登場し、彼の方から これまで通りの良好な関係を構築してくれる。結局 ひまり は何の言葉も発さなくても佐伯が処理してくれる彼女に都合の良い世界が広がっている。
ただし これまでは佐伯が大賀見との関係の隠れ蓑になっていたけれど、佐伯の失恋がオープンになり それが不可能な状況となったため、次は黒田の出番となる。佐伯にとって残酷なバトンタッチだなぁ…。

それもこれも学校で絶大な人気を誇る(という設定だけで いまいち伝わらない)大賀見との噂と やっかみ という実害から ひまり を守るため。自分で何もしなくても男性が色々と施してくれる姫ヒロインなのである。黒田がいることで大賀見との交際は疑われない。そして黒田がいることで大賀見は自分に夢中でい続けてくれる。当て馬が作品にい続けることでヒロインは愛を注がれる。


レンタインデーは片想いの人には告白の機会で、両想いの人には彼が自分だけのチョコを貰ってくれることで愛を再確認する日となる。

そしてバレンタインデーは男性キャラのモテ演出の絶好の機会。大賀見は勿論、黒田もモテることを再認定させて、彼から(いずれ)愛される ひまり の価値を高める。この日、人の良い ひまりさん は『2巻』の盗撮の時と同じく、女子生徒に大賀見が受け取らないチョコを渡して欲しいと懇願され、その要求を呑む。大賀見が本命以外を受け取らない、という姿勢を見せているのに、恋する人の気持ちが分かるから、という自分側の理由を押し付ける。ひまり が大賀見の意思を尊重する場面は、この作品で皆無じゃないか…。


レンタインでの大賀見の言動により、彼に特定の人を好きなことが広まり、大賀見のことが好きで彼の周辺で機会を窺っていた女子生徒が ひまり のバイト先に事情を聞きに来る。ひまり との関係を疑っている この女子生徒は何もないことを証明するために、ひまり と その彼氏、自分と大賀見のWデートという謎の提案をしてくる。

盗撮・チョコ渡し・Wデート、頼まれれば何でもやってくれる意思ゼロ ヒロイン

ひまり が答えに窮していると大賀見が登場。ひまり のバイト先に大賀見が登場すること自体が怪しいと女子生徒は思うのだが、そこに黒田も現れ、ひまり の潔白を証明するためにWデートの提案を呑むと言い出す。意味不明な、少女漫画的な展開だ。そして この潔白証明という嘘をついたことでヒロイン様は悪女となる。
大賀見の元カノが、親を離婚させられて恋愛戦線に復帰したように、この女子生徒を奮闘させるのに親に不幸が起きそうなのが怖い。少女漫画にとって親は都合のいい家庭環境生成装置なのだ…。

「番外編」…
小学6年生以降の大賀見と佐伯の話。小学校時代は基本的に再放送なのだけど、中学校時代からは初めての内容となる。軽薄な女性への男性側からの復讐を描いていたのに、彼らもまた人の心のない加害者になっているという構造が面白かった。表面上、悪ガキの大賀見と優等生の佐伯は どちらもモテるけれど女性への空虚な思いを抱えている という共通点が炙り出される。その点が2人の奇妙な友情を成立させている。
そして2人が本気で好きになった ひまり こそ至高という お話でもある。