
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第06巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
文化祭での佐伯くんからの公開告白で、公認カップルムードが漂うなか、本当に好きなのは、義弟・圭太だとも言えず、辛い日々を過ごすひまり…。そして、圭太も現状に耐えられず、家を出ると言い出して…!? このまま2人は離れてしまうの?
簡潔完結感想文
- 家を出ることで義姉弟終了になるはずが恋愛感情も終了する。なんで???
- トラウマの原因だった母に事情を与えて、たった1日で同居決定。なんで???
- ここで佐伯に寄りかかると ただのビッチなので第3のルートを開拓。モテモテ!
家族を壊して恋愛も壊れる 6巻。
大賀見(おおがみ)との同居終了と同時に恋愛的な展望も終了してしまった苦しい状況の ひまり を描きたいのは分かるが、作品を延長させるだけの説明には全然 足りていない。
最も疑問なのは大賀見が急に家族愛に目覚めること。中でもトラウマの原因となった母親への歩み寄りは唐突過ぎて理解不能。大賀見が ひまり と住む家を出ることは、どんな理由を用意しても今の家庭の崩壊を意味しているのに、家族を壊したくないから2人は恋愛することが出来ない、という論理は破綻している。
99% 大賀見が家を出る選択をすることで、2人は同居中の、世間から後ろ指をさされる禁忌の関係から解放することを狙っていたはずなのに、なぜか大賀見は家を出るが家族の形態を守りたいという、ひまり と同じ考えに転向する。


こうなると2人が両想いになるには、2人ともが それ以前に掲げていた倫理観を自分たちで壊すしかなくなり、どちらも意思を貫徹できない人間になっていまう。これなら単純に ひまり が大賀見の熱意に ほだされて、2人で両親を説得するという当たり前の展開の方が良かった。作品が延命を優先するあまり、脱出方法が見当たらない泥沼に足を踏み入れてしまったように思う。これでは どんな結末を用意しても納得できないだろう。
大賀見が母親への姿勢を たった1日で変えるのも納得がいかない。あれだけ嫌っていたトラウマの原因である母親を赦すのが早すぎる。母親の浮気のせいで大賀見はトラウマが出来て、その過程で性格は歪み、ひまり は彼のストレスの捌け口になり男性恐怖症になった。2人の人生を狂わせた存在なのに、体調不良という理由で大賀見は母親と一緒に住むと言い出すのは あまりにも心の動きが唐突過ぎる。
『5巻』でも書いた、本書において両親の存在は、2人の恋愛を演出する装置でしかないことが補強されてしまった。大賀見が当時の両親の事情を知って大人になったというには あまりにもエピソードが浅く、そして やはり唐突。月2連載で読者の興味を引き続ける使命があるから難しいのかもしれないが、この辺を丁寧に描いて欲しかった。『6巻』はデートシーンが大半で長すぎると感じるぐらいなのに、心の動きは最低限しか描かれていない。
ひまり との恋愛成就のために大賀見が母親を利用するのであれば、心理的ハードルを越えようとするのも理解できるが、ひまり との関係は終了する意思を見せての同居は理解が追いつかない。
要は大賀見は ひまり に失望したということでしょ? 世間体を理由に自分を絶対に受け入れない彼女に痺れを切らした。しかも ひまり は自分の好意を知りながら、過失とはいえ佐伯(さえき)という男と目の前でイチャイチャしている。頭でっかちで浮気者の ひまり だから大賀見は手を切ろうとした。今回の別離は単純に愛が冷めただけと言える。
煮え切らない人との恋愛に未来はないと思った大賀見の愛が冷めただけ。そうなると ただの破局で大賀見の電車内での「好きだった」の意味は、家族に戻るという意味ではなく、本当に過去形の言葉で「嫌いになった」と同義なのかもしれない。
大賀見が離れてしまったのなら、今度は ひまり が体当たりで頑張るターンになるはずが、逃亡ヒロインに そんな勇気はなく、彼女は問題と向き合わず、新しいイケメンとの交流に向き合い始める。大賀見とは破局、佐伯も お断りしているから、読者の皆さんは第3の男とのアバンチュールを是非 楽しんでください、というヒロインに恋をする男性がいれば それだけで成立する少女漫画の悪い面を体現していく。
大賀見が家を出る際に全てを話し、今の家族が納得する形を模索しました、という全7巻ぐらいが私の考える最適な長さだと思う。全13巻からすると『6巻』は まだ折り返し地点の手前というのが恐ろしい。
佐伯の前で大賀見のことを考え、大賀見の前では世間体を考える ひまり。そんな ひまり に大賀見は自分たちの間にある問題を解消するために家を出ていくと宣言する。それは今の家族を最優先にしてきた ひまり の願望が叶わないことも意味していた。でも そうやって自分ばっかりな ひまり は大賀見の切実な想いを考えない。
大賀見が浮気して家を出ていくというトラウマを植えつけた母親のもとに行くために、両親の離婚は母親だけに責任があるのではないということが父親の反省の弁によって語られる。そして話を聞いた大賀見にも自分が この家を出ていくことは今の家庭を壊すことになると自覚させる。
そして大賀見は母親の事情も知る。今、母の健康状態は良くなくて仕事中に倒れたことがあると、偶然に母親の知人たちの立ち話を聞く。母親は自分の恋が終わったから息子と接点を持っただけでなく、健康不安を抱えて、自分の大切な存在に会いに来たのではないか、と大賀見も思うようになる。


その日の内に大賀見は家を出て母親と暮らす決断をする。トラウマ級の母親という存在を たった1日で許してしまう大賀見に違和感がある。ひまり をはじめとして母親の話題を出す者に怒鳴りつけていたのに、逡巡なく その人と暮らす、というのが ご都合主義に見える。そもそも向こうから打診された話とはいえ、正式に母親の同意を得る前に こちらの家庭で話を進めている。大賀見は結局、母親に甘えていて、彼女は絶対に自分を受け入れるという自信があるように見える。でも なぜ そこまで あの母親を信じられるのかが全く分からない。
結局、母親は大賀見が家を出る時の受け皿でしかなく、そこにあるはずの愛憎なんて関係ないようだ。父親も今の家族を大事にしていたはずなのに、大賀見の提案を即座に受け入れる。ここにも逡巡や熟考はない。
大賀見は ひまり に最後のデートを提案する。そこで自分の気持ちに けり をつけると言う。この最後のデートは、これからの離別期間を前に、読者のためにも恋愛成分を補給しようという目論見なのだろう。ひまり は その提案を受け、この時、初めて2人は互いの連絡先を交換する。これは物理的に離れる未来が確定しているから起きるイベントだ。
大賀見が決めた行き先は、小学校の時の遠足で行った場所。ひまり をイジメていた愚かな自分を上書きするために彼女と一緒に行きたかった場所のようだ。デートなので2人は恋人つなぎをして一緒に並んで歩く。途中で ひまり は家族旅行中に お揃いで買ったストラップを落としていることに気づく。捜索しようとする ひまり と、今日という日を大事にしたい大賀見。ここでも2人が何を大事にするかで意見が分かれ、捜索も別々で行うことになる。こうして ひまり は どうしてこうなっちゃったの、と悲劇のヒロインぶったところに大賀見が代わりの お揃いのストラップを買い与えることで彼女の落胆を救う。
その後、ひまり の提案で観覧車に乗るが大賀見は高所恐怖症。それを からかう大賀見に負けず劣らずイジメっ子の ひまり に対して大賀見はイチャラブして ひまり を困らせることで主導権を奪い返す。ここで最初で最後の一緒に収まった写真を撮影する。
大賀見は最後に ひまり と意見を擦り合わせる。ずっと自分の恋愛を優先し、ひまり の家族の形態を尊重する姿勢に疑問を抱いていた大神だが、自分勝手に それを壊したいと思わなくなった。だから大賀見の方も、別々の暮らしをすることで気持ちを封印する。今の彼は それが出来る気がする。
帰りの電車内で2人は徐々に「家族」に戻っていく。最後に大賀見が好きだったというのは残酷な仕打ちにも見える。これは2人で決めた未来。
こうして大賀見は家を出ていく。ひまり が学校内で大賀見の隣に立つ女子生徒に対して「もう あそこは あたしの場所じゃない」と言っているが、最後のデート以外、そうなることを拒んでいたのは お前だろ、と見当違いの感傷に浸っているのが腹立つ。何がしたいんだよ、と ひまり の方向性が見えないことに苛立つ。
ヒロイン気取りの ひまり の表情で佐伯は何かを察し、大賀見を問い質し、彼が家を出たことを知る。そして ひまり に元気になってもらおうとグル-プでの遊びに誘い出す。当て馬は2人の隙を見つけるのが上手い。
佐伯を受け入れず、大賀見には去られた ひまり にイケメンが補充される。出会いは、多忙で頭を空っぽにしたい ひまり が夏休みにバイトをしていたファミレスで再度 働き始めることで起こる。
男性恐怖症という もはや忘れ去られた ひまり の特性を引っ張り出し、彼女を お荷物にすることで新キャラ・黒田 拡樹(くろだ ひろき)に役立たずと認定され、彼が ひまり の事情を知って謝罪することで彼との接点が出来る。
