
藍川 さき(あいかわ さき)
ケダモノ彼氏(ケダモノかれし)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
母親の再婚で、主人公・ひまりは昔ひまりをいじめていた男子・大賀見と義姉弟&同クラに! 人気者の大賀見と一緒に住んでいるなんてバレたら大賀見の彼女とかに怒られるから、絶対内緒!! でも、彼女に同じ家に入っていくところを見られてしまい…大ピンチ!! 【同時収録】いつも隣に君がいた
簡潔完結感想文
- 同級生たちに同居や告白、変装の現場を ことごとく見られて狭い村社会に息苦しくなる。
- 勝手に自爆して弱みを握られて俺様ヒーローの言いなりになる偽装交際、という既視感。
- トラウマレベルの やられて嫌なことを平気でする ヒロインと元カノ の ダブスタ女対決!
無視されるのは悲しいこと、の 2巻。
『1巻』の感想文で書いた通り、本書はヒーロー・大賀見(おおがみ)の不器用で一途な想いが伝わるまでを描いた作品である。特に序盤は その傾向が強く、好きな人に好きな人がいると分かっても健気に相手を想い続ける姿が読者の共感を得る。
逆に共感を得られないのが、その恋の相手である ひまり だ。今回はラストで大賀見への想いに気づき始めたり ちゃんとヒロインしているのだが、それまでの行動が酷すぎて、大賀見をはじめとした作中の男性陣以外 誰も彼女を好きにならないんじゃないかと思うぐらいだ。
最初に、月2連載で物語を進めなければならないから詰めが甘くなるのは仕方がない、とフォローを前置きにするが、それにしても作者の都合で話が進んでいく。大まかな話の流れは平凡であるものの構成が考えられていると思う。しかし問題は細部だ。


まず何と言っても ひまり の大賀見の盗撮。これに全く理由がない。もし ひまり が家族や友人など第三者を脅迫のネタされて仕方なく、なら分かるのだが、彼女が盗撮をした動機は自分が女子生徒の面倒に巻き込まれたくない、という自分可愛さでしかない。自分の平穏のために犯罪に手を染めるヒロインは、聖女とは正反対に位置する人間だ。
もしこれ男女逆転して考えたら読者はドン引きだろう。同居した高校生男子が高校生女子の生活を全て撮影している。寝顔や着替え、裸体など人に見られたくないと思うプライバシーを撮影するキモイ人間、それがヒロイン様である。
逆から考えれば分かることが分からないのが ひまり の頭の悪さで、自分は男性の前に出られないと思うと目の前で彼らを避け続けるような人間なのに、ラストで その逆で大賀見に避けられると「無視されるのは とても悲しいこと」と被害者ぶる。このダブルスタンダード、ダブスタを振りかざす様子に嫌悪感を覚えた。
作者は女性キャラが嫌いなのか、と思うのが もう一人のダブスタキャラ、大賀見の元カノである。元カノは ひまり に自分が親の離婚で大変だった大賀見を支えた真のヒロインだという面(つら)で ひまり にマウントを取ろうとする。しかし母親の浮気による離婚、という大賀見のトラウマを知りながら、元カノは浮気をして大賀見を捨てる。されたら一番 嫌なことをしてくるのが本書の女性キャラで、最大の被害者は いつも大賀見という名の真のヒロインとなっている。
元カノがダブスタ女なのは彼女が大賀見の最愛の人として選ばれなかった理由になるけれど、結局 ひまり も その元カノの同類となっているから、女性同士の直接的に戦わないライバル対決において、勝敗が分かりづらい。
ヒロインは必ず聖女じゃなければならない、とは思わないけれど盗撮犯でダブスタ女は大きすぎる欠点だ。月2連載に際しては意志を持たない流されるままのヒロインの方が都合が良いのだろうか。
大賀見と同じ家に出入りしている場面を見られて ひまり は女子生徒たちに囲まれ詰問される。『1巻』ラストで大賀見が登場し偽装交際を宣言したのかと思ったのに、彼は普通に自分の家の事情を話す。急な路線変更のように思えたが、俺様ヒーローとの偽装交際なんて始まったら、いよいよ八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』みたいだから撤回したのだろうか。それにしても少女漫画では同居がバレるにしても最終盤だと思っていたけれど、本書は簡単にバレるようだ。大賀見がモテるから監視カメラに見張られたような状態、ということなのか。絶対にバレないのは、2人きりの秘密の同居の時だけか。
俺様ヒーローというのは頭の回転が速くなければ務まらない仕事で、大賀見の暴露によって女子生徒たちのガス抜きが出来て、ひまり は彼女たちから義姉だから安全と認定されて面倒事から解放される。ただ頭の回転が鈍いヒロインは自分のことしか考えられず佐伯に同居がバレたことにショックを受けるだけで大賀見の機転で救われたことが分からない。
佐伯に弁明する際に ひまり は彼が恋人と別れたことを知る。そこに恋の隙間に乗じて ひまり は佐伯に告白する。ただ佐伯は振られたばかりで誰かと付き合う気が無い、という理由で ひまり の気持ちに応えない。ひまり はタイミングが悪かったが、佐伯の方も この告白を受けなかったことは痛恨のミスになる。
こうして大賀見の願い通り ひまり は振られた。ただ大賀見的には佐伯は ひまり を こっぴどく振って欲しい。中途半端な優しさの振り方だったから ひまり は告白をして充実感を覚えている。しかも佐伯は青天の霹靂の ひまり の告白を受けて、彼女を異性として考えるようになってしまう。
告白以降も佐伯は、それ以前と変わらず ひまり に接してくれる。大賀見との同居の噂が広まったことも それだけで忘れられる。この時点では完全に ひまり の比重は大賀見 < 佐伯である。
しかし本書には どこにでも目撃者がいるようで ひまり の佐伯への告白と失恋が誰かに目撃されていた。しかも佐伯のいる前で その目撃情報を公にされた ひまり はショックで動けなくなる。そこを救うのも頭の回転の速い俺様ヒーロー。ひまり をパシリにして彼女が この場から離れられるようにする。今回の大賀見の気遣いは ちゃんと ひまり にも伝わる。
そうして『1巻』とは逆で眠る大賀見に ひまり は感謝の言葉を述べるが、そこで寝ぼけた大賀見にキスをされてしまう。事故チューに近いものだが、このハプニングに ひまり は異性との同居への危機感を再度 募らせる。こうして ひまり は大賀見を避け続ける日々に戻る。
また、この寝ぼけた大賀見に接した際に、ひまり は大賀見と彼の母親の間に何か確執があることを予感する。少女漫画あるある の「俺様ヒーロー 母の愛を浴びていない説」が適用され、どこまでもテンプレ展開でしかない。
客観的に見て大賀見は横暴で幼稚で良いところがないのだが、作品内の女子生徒たちは彼に夢中。どうにか このヘタレな男性をヒーローにしようと躍起である。
大賀見に憧れる女子生徒は同居する ひまり に彼のプライベート写真を要求。それに何の理由もなく応じる ひまりさん。しかし盗撮が大賀見にバレて ひまり は窮地に陥る。これまで ひまり は俺様ヒーローに弱みを握られたことが無かったのに、そうなってしまい、彼との関係に上下関係が成立してしまう。
こうして ひまり は拒否権のないなんでも言うことを聞く1日を命じられる。大賀見の要求は彼女を演じること。結局、冒頭の偽装交際と変わらない展開が待っていた。
中学時代の元カノが寄りを戻したいと何度も連絡をしてくることに辟易しており、大賀見は元カノを黙らせるために ひまり に彼女を演じることを要求する。
この偽装交際は家を出て2人が姉弟ではなく男女として行動することに意味があるのだろうか。デートのように駅前で待ち合わせしたり、一緒に手を繋いで並び歩いたり、大賀見が したかったことが成就する。この後のキスも立場を利用した切実なセクハラと言える。
対面した元カノは大賀見の事情を知っても諦めない。そして今カノである ひまり に対して自分たちには積み重ねた歴史があり、私が彼の大変な時期を支えたと古参アピールをしてマウントを取ろうとする。しかし この元カノは二股の末、大賀見を捨てた ただのビッチ。二股相手との交際がダメになったから良い男だった大賀見に再度 粉をかけているだけ。
元カップルの修羅場に ひまり は席を立って逃亡しようとするが大賀見に阻止される。しかも2人の様子を見た元カノから交際が疑わしいと言われる始末。そこで ひまり は大賀見の良いところ発表するのだが、その発表に大賀見のニヤニヤが止まらない。それでも疑う彼女に対し、大賀見は目の前でキスをして彼女を一蹴。
だが その行動が ひまり を泣かせてしまう。大賀見は見せつける目的以外にも願望の入ったキスだったが ひまり には不本意なキス。彼女がまだ自分を全然 好きではないことを知った大賀見は、佐伯を忘れられない ひまり に嫌味と苛立ちを ぶつけてしまう。こうして2人の関係は またもやリセットされる。少女漫画あるある では偽装交際が そのまま本物に移行するのだけど、大賀見に そのルールが適用されるのは まだ随分先のこととなる。
またも重要な場面には目撃者がいて、この日の偽装交際を佐伯に目撃されたと知って ひまり は佐伯を避け続ける。本当に自己本位な人間である。
しかも元カノが自宅前で ひまり(今カノ)を待ち構えていた。元カノが この住所を知っているということは大賀見家は引っ越していないということなのだろうか。もしかしたら持ち家で仕方がないのかもしれないが、2回の結婚生活を同じ家でする、というのは今の妻(ひまり の母)に対してデリカシーがないようにも思える。
元カノは変装なし の ひまり を見破り、大賀見の嘘が雪崩式に露見してしまう。そこで義姉弟間のキスを疑問に思う元カノに対し、ひまり は大賀見の横暴さの表れだと彼を悪く言う。それに対して元カノは怒りの反論をして、そこで大賀見の過去を勝手にバラす。大賀見家は母親の浮気によって家族が崩壊したのだった。中学時代の親の離婚によって大賀見は変わった。元カノは複雑な事情を抱える大賀見の全てが好きだというが、自分は その浮気した最低な母親と同じことをして大賀見のトラウマを増幅させたことを無視しているのが滑稽だ。
そこに大賀見が現れ、元カノの裏切りを指摘しダメージを与えるが、元カノも ひまり が大賀見に恋愛感情なんて持っていないと指摘し繊細な大賀見の心にダメージを与える。大賀見は ひまり がナイーブな自分の過去(両親の離婚)を知って しおらしくして同情されたことが気に食わず、彼女に八つ当たりをしてしまう。
おそらく大賀見は そんな自分を恥じて、今度は彼が ひまり を避ける。これまでずっと何かと ひまり に ちょっかいを出したり助けてくれた大賀見は もういない。避けられて初めて、避けられる側の気持ちを分かったはずの ひまり だが、自分はまた誰かを避け続けるという愚かしい行動をするから同情できない。
同居から2か月以上が経過して初めて、大賀見から避けられる。それが ひまり の心に穴を空け帰宅拒否を引き起こす。近所で事件があって それによって「くそっ」とか言いながらヒーローが行動するのは少女漫画あるある。
大賀見は ひまり を公園で発見し、心配かけたことを叱りつける。そんな大賀見に ひまり は、今の彼には自分を含めて「大賀見を大切な大切な家族で特別な人だって思っている」から同情しないと反論する。自分で無視することは悲しいこと、と言っているが、同じ巻で同じことをしている自分は棚に上げる。大賀見は強気な ひまり が戻って、彼女からと大切で特別と言われたことに嬉しくなり彼女を抱きしめると…。


「いつも隣に君がいた」…
龍之介と菜月は幼なじみの高校生。龍之介は菜月のことが好きだが関係性の崩壊を恐れて告白しない。だが菜月が先輩男性から告白されて交際を始めたことで龍之介は菜月との関係全てを失う。
作者は男性の報われない想いが好きなのか男ヒロインを描くのが上手い。次の長編作品も似たような要素があるのだろうか。少女漫画では主人公の失恋は短編でしか描かれることのない特殊な現象と言える。
